魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第九十石:あの子って誰?動揺するクロエ

「ああ。ワナだろうが何だろうが知ったこっちゃねェ。売られたケンカは買うのが礼儀ってモンだぜ」

「わ。なんだかパパさん自信まんまんなんです」

「いっひっひ、弐式ちゃんの充電から、だし子の指輪、それにお前さんがた霊獣二匹っつう万全な状態なんだ。すぐに壱式を奪ってやんぜ」

 

 それに、チビ助の腹に蹴りを入れた礼もしなきゃな。頭にゲンコツの一発でもかましてやらァ。

 

「……肯定なのです!」

 

 俺の言葉に決意したのか、頷いて小さな蝶の姿へと戻るコロナ。

 そいつが俺の周りをクルクル回り出したところで、

 

「来やがれっ、霊鳴!」

 

 飛来した青い宝石をパシッと掴む。

 

「うっし、霊薬はほとんど満タンまで回復してるな」

 

 いつでも行けますぜ旦那とばかりに蒸気を出しているそいつを空に掲げて、俺は一つ深呼吸をした。

 ……さすがにもう慣れなきゃいけないとは思うのだけれども、どうも緊張しちまうぜ。

 

「し、試作型霊鳴石弐式、起動っ! イグリネィション!」

 

 途端、四方八方から青い光が飛んできて、瞬く間に俺の手元を包み込む。

 じんわりと暖かいそれを握りなおしたとき、すでにそれは蒼い杖へと変化していた。

 

「変身……っ!」

 

 その声を合図に、今まで周りを回っていたそいつがピタリと俺の胸の前で止まり、すぐさまエメラルド宝石へと姿を変える。

 やけに早鐘を打つ心臓を左手で押さえて、

 

「――アイシクルパワー!」

 

 もう片方の手で杖を掲げた。

 

「くっ!」

 

 さ、さっきから、なんだこの威圧感は……。

 シャオのせいなのか、壱式とやらのせいなのか知らないが、どうも気分が優れねェ。

 ……しかしながら、今更引き下がるワケにはいかねェってなもんで!

 

 俺は胸の前で浮いていた宝石を乱暴に掴むと、空へと放り投げ、

 

「チェンジ、エメラルド! ビースト……インッ!!」

 

 タイミングよく杖で叩き割った。

 砕かれたエメラルドの破片がキラキラと舞い、俺の足元に緑色の魔法陣が浮かび上がる。

 裸になった俺は、コスチュームを着せてくれる水流と雪に身を委ねるべく、拳をギュッと握る。

 

 いつものタイミングで暖かいエメラルド色の水が俺の全身を包み、緑の縞パンツをはかせる。

 下着が終わったら今度はドレスの番だとばかりに、水色の雪が慌ただしくコスチュームを生成し、着せていく。

 黄色いラインの入った青いスカートに、ヘソ部分が丸出しの白いノースリーブなレオタード。

 ちゃぽんっと。水溜りに足を突っ込んだときのような音を立てて次々に現れるそれらに、

 

「なんつーか、あらためて見ると中々に恥ずかしい格好だぜ。まあ、だし子の融合コスに比べればマシだけれども……」

 

 少しだけ頬が熱くなってしまう。

 コスチュームの力のおかげか、さっきまでの不快感がウソのように晴れちまったワケで。

 いささかに余裕の出来た俺は、自分の変身をマジマジと見物してみることにした。

 

 腰部分には薄い青紫の大きなリボン。スカート横には花のアップリケがついたピンクのポシェット。腕には白いアームカバー。

 そして、青く明滅している蝶の形をしたリボンが胸に装着され、最後にそのリボンの中心からコロ美の宝石であろうハートマークのエメラルドが顔を出す。

 さあ、服は終わった、今度は水滴型のイヤリングを作って髪形をセットして――なんて忙しそうに雪が舞っている様に、俺は小さく溜め息をついた。

 

「ごちゃごちゃとまあ、よくやるぜ。やっぱりコレって、一分くらいかかってるよなァ」

 

 うーむむ。時と場合によっちゃ、俺もゆりなのように旧型変身にしたほうがいいのかもしれねェな。

 そんなことを考えていると、俺の背中から緑色に光り輝く蝶の羽が生まれた。

 ――やっと終わったか。

 

「そういや髪形ってどうなってんだろ」

 

 ちょいちょいと頭を触ってみていると、

 

「ポニ子が言うにはそれはワンサイドアップってヤツらしいな。シラガ娘によく似合ってるぜ」

「げっ!?」

 

 やべぇ、クロエが居ることすっかり忘れてた……。

 

「あんで、そんな恥ずかしそうな顔してんだよ? おめー、もう何回も変身やってんべ」

 

 何を今更と言わんばかりに首を傾げる黒猫。

 いやあ、だってそりゃあお前さんよォ……。

 と。そこで俺は唐突にシャオからの伝言を思い出した。

 

「あ。そうだそうだ、なんかシャオからお前さんにって伝言があったぞ」

「へ? ツン子から?」

「っつーか、正確にはピースからの伝言か」

 

 ええと。なんだっけか。

 

「たしか、『あの子がダメなら、またあの子を使うしかない』とかなんとか」

 

 イマイチ意味が分からないけれども、と笑って言うと、

 

「…………」

 

 今までの気の抜けたツラから一転。

 ギリッと歯を食いしばり、険しい表情で地面へと視線を落とすクロエ。

 

「あっ、それと。言い忘れてたが、シャオに呼び出されたことはチビ助には言わないでおくれよ。今日はなるべくゆっくり休ませてやりたいんで」

「……ああ」

 

 と、なんとも気の無い返事。

 一体どうしたんだァ? なんて、思っていたときだ。

 

『パパさん、あっちのほうから強い魔気がムンムン出てるんですっ』

 

 頭の中にコロ美の声が響いた。

 ――するってぇと、そこにシャオが居るっつーことだな。

 なるべく気付かれないようにと、こっそり茂みの中を進んでいくと、やがて古めかしい建物が見えてきた。

 

『あそこなんです』

「オーケイ、わかりましたんで」

 

 草木をかきわけて顔だけ出してみる。

 どうやらその建物はお寺らしく、なかなか年季の入った佇まいをしている。

 

「……見つけたぜ」

 

 賽銭箱の前に座って、暇そうに足をブラブラさせている少女を見て、俺は霊鳴を強く握り締めた。

 ツインテールを下ろしてストレートの髪型になってはいるが、あの赤髪に黒いマントはどう見てもシャオメイだ。


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