魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第八十九石:シャクヤクは正義の味方?

「絶対ワナなんですっ!!」

 

 ファミレスの前まで来たとき、コロ美がそんなことを言って俺の手を引っ張った。

 

「……なんでぇい。まァた勝手に俺様の心ン中を読みやがったなぁ?」

「だってだって、パパさんずっと怖い顔して黙ってたんです。コロナが話しかけても無視するのです……」

「だからって、お前さんよォ」

 

 そこまで言って、俺はポリポリと頭をかいた。

 両手で俺の手を掴み、ジッと不安そうな顔で見上げてくるそいつに、これ以上無視を決め込む自信が無かった。

 

「チッ。悪かったよ。こちとら、いささかに切羽詰っていてねェ」

 

 とりあえず。

 手紙について簡単に説明すると、チビチビは「うぐぐぅ」と唸って顔をしかめた。

 

「ん。腹でも痛いのか? ここいらにトイレあったっけかなァ。さいあく草むらでも――」

 

 ひょいっと抱きあげてみると、

 

「く、草むら!? 否定なのです! コロナは霊鳴石壱式のことについて考えていただけなんですっ」

「わわっ」

 

 短い手足をパタパタ動かして暴れるもんだから、たまらず放り投げちまった。

 だが器用なもので、くるりんと空中で一回転すると背中から緑色に光り輝く羽を生み出すコロナ。

 今度は手足の代わりに羽をパタパタとはためかせて、

 

「……うーん、なんかおかしいんです」

 

 と。俺の肩に着地し、またまた唸るチビチビ。

 

「何がおかしいんでぇい。てか、そんな眩しい羽を出しちまったら他の人にバレるだろ。早く仕舞っておくれ」

「こ、肯定」

 

 羽を仕舞ったところで、俺は『おかしい』ことについて訊いてみることにした。

 すると、コロ美は神妙な声色で、

 

「これはお姉ちゃまから聞いた話なんですけど、霊鳴石は全部で四個あるみたいなんです」

 

 あの宝石が四個……。

 するってぇと、俺の試作型弐式ちゃんにゆりなの零式。

 それと、シャオが見つけたという壱式に――

 

「その三つと、正式採用型霊鳴石・参式という石で全部のハズなんです。ただ……」

「ただ……どうしたんだ? その参式に何かあるのかィ?」

「いえ、今は参式のことよりも壱式のことなんです」

 

 しばらくコロナを肩車して歩きつつ、その壱式(どうやら読み方は、いっしきで当たっていたらしい)について話を聞いていたのだけれども。

 そいつが言うには、霊鳴石はそれぞれある場所で眠っているらしい。

 俺の弐式が海の底で眠っていたように、壱式も森の奥底で眠っているのだという。

 

 だったら東福森で見つかったのは壱式で確定だなと思いきや、それはありえないと首を振るチビチビ助。

 

「いつか、お姉ちゃまがピース様のお膝の上で眠っていたときに、『シロが壱式を持ち出して壊してしまった』とぼやいていたみたいなのです」

「シロ……?」

「シロツキという白い狐さんなんです。お姉ちゃまととても仲良しな幼馴染さんで、顔を合わせるたびにいつも殴る蹴るのケンカをしてました。コロナはお兄ちゃまと呼んでいたんです」

 

 ……どこらへんが仲良しなのか理解に苦しむところだけれども。

 

「んで、そのお兄ちゃまはどうして壱式を壊しちまったんでぇい」

「それが分からないんです――といいますか、そもそも壊せるハズがないんです」

 

 壊せないとは、またえらく丈夫な石なんだねェ。

 そう感心していると、俺のアホ毛を掴んでいたチビチビが小さな声で、

 

「……だって、お兄ちゃまはその時とっくに亡くなっていたんです」

「な、亡くなっていた? じゃあ、どうやって持ち出して壊したんだァ?」

 

 驚いて立ち止まった、そのときだ。

 

「おい、コロ助、余計なことをベラベラと喋るんじゃねぇ!」

 

 空から黒猫が降ってきて、俺の頭の上に着地しやがった。

 そいつは、

 

「おめぇなあ、ピースのヤロウに聞かれたらどうするつもりなんだよっ! いくらおめぇに甘いピースだって、限度ってモンがあるんだぞ、わーってんのかよ!」

 

 怒涛の勢いでコロナにまくしたてる。

 しかしながら、対するチビチビ助は、

 

「……肯定。でも、今日は『眠ってる日』だから大丈夫なんです」

 

 意外にも冷静な口調で答えた。

 

「そうは言っても、最近のあいつは眠りがかなり浅くなってんだ。それに加えて、ツン子が監視してるってのに……」

「否定。お姉ちゃまは、いささかに怖がり屋さんなんです。ちょっとくらい平気なのです」

「かっー! これだから、成ったばかりのガキんちょは手に負えねぇ」

 

 ……つーかよォ。

 いつまで俺様の頭の上でピーチクパーチク言い合いしてるつもりなんでぇい。

 

「ほれ、着いたからとっとと降りねェ」

 

 コロナとクロエの首根っこを掴んでポイッと放り投げ、俺は地図をスカートのポケットに仕舞った。

 ここより東福森。関係者以外立ち入り禁ず、といったご親切丁寧な看板と長ったらしい石階段を交互に眺めていると、

 

「シラガ娘。おめぇ、本当に行くつもりなのか? ツン子のヤロウだ、絶対に何か仕掛けてくるぜ」

「そりゃま恐ろしいこって。ともかく、ここまで来たんだから腹据えて行くしかねーって。五時までには戻らないといけねェし……あれ、なんでお前さん手紙のこと知ってんだァ?」

 

 あの手紙の内容は俺とコロ美しか知らないハズだぜ。

 首を傾げてると、そいつはあからさまに慌てた様子で、

 

「そ、そりゃ、オレくらいの霊獣になるとそれくらいまるっとお見通しだぜっ」

「……ふーん?」

「いやっ、まあそれは置いといて、今日は中々可愛らしい格好してるじゃねーか! ただでさえ美少女なのに、一段と輝いて見えるぜ」

「まーた、ウソくせェお世辞を」

「ホントだってホントホント! もしオレが男だったら放っておかねーぜ。学校に行ったら男子たちの憧れのアイドルになるかもな、にっしし!」

「うぇえ。勘弁してくれよ……。俺は至ってノーマルな男だぜ」

 

 ゲンナリと答えたところで、俺は改めて自分の格好を見てみた。

 そうなんだよなァ。お姉さんからコートとマフラーを借りたはいいが、これからのことを考えると着たまんまってーのは、さすがにねェ。

 俺は石段を途中まで早足で駆け上がると、脇の茂みの中に入って、辺りを見回した。

 

「よし、ここなら誰も見てねーな」

 

 なにやら。

 コソコソ隠れて変身しようとするなんざ、アニメヒーローのお決まりな行動みたいで、いささかに抵抗を感じてしまう。

 とはいえ、一般人に見つかったら面倒なことになるし、このまま森の中を歩いて服を汚したらお姉さんに悪いしな。

 それに、相手は模魔じゃなく、シャオなんだ。あいつの性格を考えると、変身を邪魔される可能性もあるっつーワケで……。

 

「ま、待ってパパさんっ」

「おっ。丁度良いタイミングで」

 

 おぼつかない足取りで俺のあとをついてきたコロナを抱き上げると、

 

「急に走ってくから、コロナはびっくりしたんです」

 

 園児の足ではいささかにキツイ階段だったのか、ハァハァと息が上がってしまっているチビチビ助。

 それでもクール顔を保ってるんだからさすがだぜ。

 

「わりィ、わりィ。変身するならなるべく見つかりにくいところでって思ってねェ」

 

 と。コロ美の背中をポンポン叩いてると、

 

「あのシラガ娘がマジメになったもんだなぁ。最初はどーなることかと思ったけど、ちゃんと正義の味方のヒーローしてるじゃねぇか。くーっ、オレは嬉しいぜ」

 

 いつの間にいたのか、俺の左肩の上で腕を組みながらしみじみと頷いている黒猫。

 正義――ねェ。

 いささかに俺とは程遠く、ぞっとしない言葉に鳥肌が立つ。

 ……なにを勘違いしているのか知らねェが、俺はくだらない正義なんざの味方になった覚えは微塵も無い。

 そう、クロエの満足そうなツラを横目で見ていると、

 

「パパさん、ほんとに変身するです?」

 

 腕の中のコロナが心配そうな声で訊ねてきた。


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