魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第八十六石:一緒にお風呂!

 もしもこいつがクロエと合体して新魔法少女の格好になってたら、おそらく凄まじい勢いで尻尾が振られているんだろうなァ。

 と。俺の蝶羽みたいに猫耳に尻尾が生えた姿のゆりなを想像したのだが――

 

「……む?」

 

 ちょっと待てよ。

 そういえば、なんでこいつはいつまでも旧魔法少女っつう簡易型変身の格好で戦ってるんだ?

 コロナが言うには、あの格好は昔のやり方で、変身自体は速いが力はあまり強くないハズだぜ。

 

 だったら、余裕のあるときは新式の変身にした方が良くねーか?

 大体にして。今までの模魔との戦いを思い返してみても、変身途中で邪魔されたことなんて一回もねェぞ。

 ううーむ。旧式にこだわる理由が何かあるのかねェ……。

 顎に手をあてつつ、そんなことを考えていると、

 

「ほらほらっ、しゃっちゃんも早く脱ごうよっ」

「ひえっ、な、なにしやがるんでぇい!」

 

 ぐいぐいと俺のパンツを脱がそうとしてきたチビ助に、慌てて一歩下がる。

 いつの間にか素っ裸になっていたそいつは、ぷくーっと頬を膨らませて、

 

「もーっ! なにしやがるんでーいって、お風呂入るんだよっ」

 

 ビシッと洗面所のすぐ隣――風呂場を指差した。

 

「とは言いますけれどもよォ……。まだ湯も張ってねェのに、いささかに気が早すぎるんじゃねえのか?」

 

 そりゃ楽しみにしてらっしゃるのは分かるのだけれども、溜まる前から脱いでたら風邪をひいちまうぜ。

 なんて言おうと思ったとき、ゆりながペタペタと小走りで風呂の引き戸の前まで行くと、ガラッと勢い良く開けた。

 途端、白い湯気が俺の視界を覆う。

 

「ふっふー。実はこんなこともあろーかと思って、出かける前にお湯を入れといたのっ!」

 

 素っ裸のまま自慢げにエッヘンポーズをかますそいつに、

 

「……ははっ。そりゃまなんとも、準備のおよろしいこって。わーったよ、んじゃ早速入らせて頂きますかねェ」

 

 観念してスカートのファスナーを下げたとき。

 すとん、と。それが落ちたと同時に、

 

「ほよぉ?」

 

 ゆりなが不思議そうな声をあげて、俺のスカートの前にしゃがみ込んだではないか。

 

「なにしてんの……?」

 

 ポケット部分に手を突っ込んで、何やらごそごそとしているチビ助に怪訝な視線をぶつけていると、

 

「ほらっ、これ!」

 

 と。一枚の小さな手紙を取り出して俺に見せた。

 なんだ、なんだ? そんな手紙知らねーぞ。

 

 飯を食いに行く前には無かったハズだぜ。ポケットに手を突っ込んで歩いていたからな。

 もし、そんときに入ってたらすぐに気付くだろうし。

 だったら、飯を食い終わった後っつうことに――

 

「えっと、『バカてふ達へ』って書いてあるよ。これ、もしかしてシャオちゃん?」

「あっ! まさかカードを盗ったときに、入れやがったのか」

 

 な、なんつー早業でぇい。やっこさん、アイドルよりマジシャンのほうが向いてるんじゃねーのか……。

 というか。油断しているとマジで模魔石を盗まれちまうかもしれねぇな。

 

「あぶねーから、指輪は肌身離さずつけといたほうがいいぜ。特にコピーの石はシャオが狙ってるかもしれねェし」

 

 脱いだ服の上に置いたダッシュリングをもう一度小指にはめ直しつつ言うと、

 

「う、うん……」

 

 ゆりなも俺に続いて指輪をはめ直した。

 しょんぼりと肩を落としているそいつに、一つ思う。

 ……自分の好きな人に拒絶された挙句、指輪を盗まれないように気をつけなければいけない。

 ましてや、もしあいつが霊鳴を手にしたら今度は『どちらがピース様に相応しいか』なんて理不尽な理由で殺されるかもしれない。

 そんなの――あまりに酷い話だ。

 

「しゃちゃん、このお手紙どうしよ? お風呂あとにしてお部屋で読もっか。大事なお話かもしんないし……」

 

 スッと手紙を俺に向けて差し出すチビ助。

 にははと笑いながらも、残念そうなのは見え見えだった。

 自分の『わがまま』よりも、他のことを優先……ってか。

 まったくもって、めんどくせェ性格してやがるぜ。

 

「いささかに恐縮だけれども。そんな手紙なんざ風呂でも読めるんだから、とっとと入るぞ」

 

 俺はそいつから手紙をひょいっと受け取ると、ぺちぺちとゆりなのケツを叩いて風呂場へ促した。

 

「ひゃっ!? で、でもいいの?」

「いーよ別に。あいつの手紙なんざどうせロクなこと書いてねぇって。そんなのより、お前さんとの約束のほうが大事でェい」

 

+ + +

 

「えへへーっ。しゃっちゃん見て見て! クラゲさんっ」

 

 凄いっしょーっと言いながら、タオルで作った風船のようなクラゲで遊んでいるチビ助に、俺は盛大なあくびで答えた。

 

「もーっ! ちゃんと見ててよぉ。せっかく一番おっきく出来てたのにぃ」

「もーっ! ちゃんと見ててよォ。せっかく一番でかいあくびしたのにィ」

 

 ゆりなの声真似でテキトーに返しておく。

 

「むむっ。ボクの真似っこしたな~っ!」

 

 と。タオルクラゲよろしく頬を膨らませたところで、

 

「つーか。お前さんよォ。そろそろ髪を洗ったらどうなんでぇい。さっきから遊んでばっかりじゃねーか」

 

 風呂場に散乱した数多のおもちゃを見つつ、呆れ声で言ってやる。

 湯船に入ってから何十分経ったことやら。

 いい加減、足を伸ばしたいから髪を洗う作業へ移行してもらいたいぜ。

 

「えー……。しゃっちゃんともっと遊びたいぃ」

「んな、うるうるな眼差しをされてもよォ。風呂は遊び場じゃねーんだぞ」

 

 瞳からおねだり星マシンガンを連射しているところ申し訳ないのだけれども、いささかに眠くなってきてしまったぜ。

 

「ふえ? しゃっちゃん、もう、おねむなの?」

「おねむって。中学生から小学生まで退化したっつうのに、今度は赤ん坊にまで戻っちまったのかィ」

「にっしっし。どんどん若返るねっ! しょうがないにゃー。赤ちゃんしゃっちゃんに、子守唄でも歌ってあげようっ」

 

 なんて、大口を開けた隙に、

 

「……すいすい、口からアイスブレス」

「ふえあっ!?」

 

 ふぅーっとちょっとした吹雪をぶち込んでやった。

 

「ぺっぺ! ま、魔法でツッコむの禁止だよぅ……」

「いいじゃねぇか。せっかく使えるんだし、ドンドン使っていかねーともったいねーぜ」

 

 言いながら俺は人差し指をチビ助の目の前に出した。くるくる小さく回すと、一瞬で雪を纏う。

 いっひっひ。こんなおもしろいもの、石集めだけに使うなんてねェ。

 

「まあ、俺様はお前さんほど良い子さんじゃないんで。遊びに魔法をガンガン使っていくつもりだぜ」

 

 もちろん一般人にバレない程度にだけれども。

 

「……いいもん。じゃあボクだって使うからっ!」

 

 と、ゆりなが親指と人差し指をこすり合わせる。

 その度に電気を帯びていく指先を見て、俺は慌てて立ち上がった。

 

「おいおい! 待てっ、風呂でお前さんの魔法はマズイって!」

「あっ、そーだった!」

 

 パッと両手を上げて電気を解くチビ助。

 ……うう。いささかに危ないところだった。

 こんな風呂場で二人感電死なんてオチだけは勘弁してもらいたいぜ。

 いや、チビ助の場合耐性あるだろうから、きっと無事なのだろうが――俺はおもいっきし弱点だから即昇天しちまうだろうな。

 

「にゃはは……ちっぱい、ちっぱい」

 

 ポリポリと頭をかきながら言うゆりなに、俺は首を傾げる。

 

「ちっぱい?」

 

 おそらく失敗のことを言ってるのだろうけれども。

 しかしながら。ここは一つ、お返しがてらちょいとからかってやるのが粋ってもんでさァ。

 

「うんっ、ちっぱいしちった」

 

 いやーまいったまいった、と。

 なおも笑顔で上半身を仰け反らせているそいつの胸を指差して、

 

「なるほど。ちっぱい、だな」

 

 ニヤリと、意地悪く笑ってやる。

 

「ふえ? ボクのお胸がちっぱいってなーに?」

「い、いや。小さいおっぱいだから、ちっぱいっつう意味でだなァ……」

 

 冗談の説明ほど恥ずかしいことはないぜ……。

 そう顔を赤くしていると、ゆりなも俺と同じく顔を真っ赤にしていた。

 

「しゃ、しゃっちゃんなんか、しゃっちゃんなんか……」

 

 心なしか、ふるふると手が震えてらっしゃるような―― 

 あっ、これマジでヤバイ。

 

「うわわっ」

 

 俺の危険センサーが瞬く間に反応し、慌てて湯船から飛び降りる。

 だが、このままだと多少なりとも電撃を喰らっちまう可能性が――

 そうだ、お姉さんから貰ったあのカードに書いてあった魔法を真似してみるしかねぇ!

 

「ぷ、ぷ~ゆゆんぷゆん! ぷいぷい、ぷぅ! すいすい、『スノウプリズム』!」

「しゃっちゃんなんか……知らないもーんっ!!」

 

 かざした手の平から透明な水晶のような小さい防御壁が出たと同時に、ゆりなの放電が始まった。

 勢い良く放たれた電撃がプリズムに当たった瞬間、まるでブレーカーが落ちたときのようなバチンッという音とともに激しい水音が聞こえた。

 

「……?」

 

 なんの音だろうか。もう怒りの放電は収まったようで、電撃は飛び交っていない。

 手の平の雪を払いつつ、そーっと顔を上げてみると、

 

「ふにゃああ……」

 

 そこには湯船に浮かぶチビ助の姿があった。

 おそらく俺のプリズムではね返された電撃を浴びてしまったんだろう。

 

「あっちゃー、まさかスノプリが反射魔法だったなんて……そんな想像で創ってねェハズなんだけれども」

 

 グルグルと目を回しているそいつを抱き上げたとき、

 

「あらあら、まあまあ。しゃっちゃんちゃんとゆっちゃんったら。仲良くお風呂で遊ぶのもいいですが、程ほどにしないと風邪ひいちゃいますよーっ。ここにお着替え置いておきますねっ」

 

 洗面台からなんともおっとりとした声が聞こえてきた。

 仲良くどころか、わりとガチな魔法合戦をしていたワケで……。

 とにもかくにも。俺は腕の中で未だに「ほへぇ~」っと目を回しているチビ助を抱え直して、

 

「なるべく水の多い場所では怒らせないようにしよう……」

 

 トホホとため息をついて、そう強く心に決めた。


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