魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第八十四石:小さな一歩、大きな勇気

 

 とはいえ、関係者イコール魔法使いをやると決まったワケじゃないが――

 

「……なずなさんは、その二人のキャラをご自分で考えたですか?」

 

 いつの間にかアイスを平らげたコロナが、カードの説明書を見ながらそんなことを訊ねた。

 直球過ぎるその質問に、固唾を呑む俺とチビ助。

 すると、なずなはコロ美の頬についたクリームを紙ナプキンで拭きつつ、

 

「うーん。一応わたしが考えたことになるの、かなぁ……」

 

 と。言葉を濁した。

 

「んん? どういうこってェい?」

「えと、本当はどっちのキャラも夢の中で出会ったのです」

 

 ゆ、夢の中で出会ったあ?

 

「はい……。一年ぐらい前から、わたしの夢の中に二人が出て来るようになったんです。不安なことがあったときに出てきてくれて、素敵な魔法でいっつもわたしを励ましてくれるんです。だから、魔法少女というものにすっごく憧れちゃって。えへへっ、その勢いで魔女モンにもハマっちゃいました」

 

 スラスラと言ったのち、そいつはハッと気付いたように、慌てて野球帽を被った。

 

「ご、ごめんなさい。わたし、ヘンですよね……。お兄ちゃんにも昨日バカにされたばっかりなのに……ふゆっ」

「お兄ちゃんって……」

 

 訊こうとしたとき、ゆりなが笑って言った。

 

「ほら、さっきしゃっちゃんが怖いって言ってたマンガあったじゃん。それ貸してくれたのなずなずのお兄ちゃんのトラジ君なんだよ」

「へー。でもあれって一応少女マンガじゃなかったっけか?」

 

 そう疑問符を掲げたそのときだ。

 頭を垂れているなずなが、ジッとゆりなを見ているのに気付いた。

 

 いや。見ている、というよりも――睨んでいる、というような。

 野球帽で目が半分隠れているからそう見えちまったのかねェ……。

 

「トラジ君は男子のものとか女子のものとかそういうの気にしないタイプかも。なんかねー、雰囲気がしゃっちゃんにちょっと似てるかもっ」

「ふーん。俺に似てる、ねェ……。ははっ、一度会ってみたいもんだぜ」

 

 なんてテキトーな相槌を打ったつもりなのだが、

 

「じゃあ今度みんなで一緒に遊ぼうよっ!」

 

 わーいと両手をあげて一人ではしゃぐゆりな。

 

「いやいや、そんないきなり遊ぶって言われましても……相手さんも困るだろうよ」

「えーっ、どうして?」

「だって見ず知らずの相手と遊ぶなんて、フツー気が進まねェもんだぜ」

「にゃはは。トラジ君はフツーじゃないから大丈夫だよぉ」

 

 いささかに失礼なことを言ってのけるチビ助に、

 

「あのっ!」

 

 ガタンと音をたてて、前のめりになるなずな。

 

「わ、わたしもそれに混ぜてください……っ!」

「うんっ、もちろんなずなずも一緒だよ」

「ぐぬぅう……!」

 

 な、なんだろう、この妙な空気は。

 なずなが怒り顔で頬を膨らませているのに対し、ニコニコ笑顔でそのほっぺをつんつんしているチビ助。

 うーん、この二人の関係性がイマイチわからねーぜ。

 

「あらあら、まぁまぁ。みなさんもうお食事は大丈夫ですか?」

 

 やがて、お姉さんが小走りでやってきた。

 

「肯定。ママお姉ちゃまのおトイレ結構長かったです」

「まァた、失礼なことを……」

「うふふ。実はこれをしてきたのですよーっ」

 

 じゃっじゃじゃーんと言ってミニバッグから取り出されたのは五枚のカードだった。

 

「わっ、お姉ちゃんこれって魔女モンカード?」

「はい! さっきなずっちゃんのお話を聞いて、ついやりたくなってしまいました」

 

 てへへと頭をかくと、一枚ずつ俺たちに配った。

 ゆりなには黒いカード、コロ美には緑色のカード。なずなには桃色のカード。そして、俺には白いカード。

 

「このカードを持ってると、みんな仲良しさんになるのですっ」

「……魔女モンっつうのにはそんなオカルト要素もあるのかィ?」

 

 訊くと、なずなは首をぶんぶん振って、

 

「な、ないハズですけど……でも、あったらいいなって思います」

 

 と。大切そうに自分のカードを両手で握った。

 

「ふふっ、私がそうなるように念じながらカードを出しましたので、効果絶大ですよーっ」

「……ママお姉ちゃま、魔法使いさんみたいなんです」

「あははーっ、バレちゃいました?」

 

 なんて、青いカードを口元に当ててウインクするお姉さんに、俺たちはクスッと笑った。

 いやはや。なんとなくだけれども、お姉さんがそう言うならそんな気がしてきたぜ。

 

 さて、そんじゃまそろそろ会計でもしようかと席を立ったときだ。

 斜め奥の席から同じくして立ち上がった客が、ドンッと俺の背中にぶつかりやがった。

 

「……なんでぇい?」

 

 と、眉をひそめたのも一瞬。

 すぐに俺のカードが無くなっていたことに気がついた。

 も、もしかして……今ぶつかったヤツか!?

 

「ちょ、ちょっと待ちやがれっ!」

 

 慌てて追いかけると、そいつは外のベンチにどっかりと座っていた。

 だぼっとした黒いパーカーに、フードを被っているといった怪しさ満載の姿に、いささか訝しんでいると、

 

「ははン。相も変わらず、隙だらけなバカてふ。そんなんじゃ、コピーの石もあたしに盗られちゃうわよぉ?」

 

 イヤミな笑みを浮かべてフードを脱ぐパーカー少女――シャオメイ。

 赤く長い髪を片手でかき上げ、そいつは俺から盗んだ白いカードをしげしげと眺めた。

 

「……ふうん。このカードゲームって今すっごい流行ってるのよね。しかもこの『スノウプリズム』って結構なレアものよ。たしか、雪の結晶の盾で味方全体を護るカードだったハズ」

 

 そういえば、さっきなずなが出したカードよりも更に派手だった気がするな。

 キラキラした輝きは同じだが、傾けると立体化した星とかハートやらが浮かびあがるという具合で――というか、やけに詳しいじゃねェか。

 

「もしかしてお前さんもコレをやってんのかィ? 口は達者でも、所詮は子どもなんだねェ」

 

 いっひっひと笑いつつ、そいつの手からカードを奪い返すと、

 

「はっ、バッカバカじゃん。こんなくだらないゲームなんかに、このあたしがハマるワケないじゃん」

 

 やれやれと首を振って、

 

「それのCMをずっとあたし達が担当してたからね。知りたくなくても勝手に情報が入ってくるのよ」

「CM……? ああ。そうか、そういえばお前さん、ハッピーラピッドだかのアイドルグループに入ってたんだっけか」

 

 ハッピーラピッド。略してハピラピ。

 ゆりな曰く、小学生たちにとってカリスマ的な存在の七人組のアイドルで、こいつはその中の一人……だった。

 

「入ってたっつーか、あたしがリーダーだったんだケド」

 

 指先で右側のツインテールをクルクル弄りながら言い足すシャオメイ。

 

「そのリーダーさんがなんで辞めちまったんだァ? 超人気アイドルだったのによォ」

 

 続けてりゃあ、大金持ち街道まっしぐらだったろうに。

 それを放棄するなんざ……いささかに理解出来ないぜ。

 

「決まってるでしょ。散らばった七つの厄災の宝石を集めるためよ。そのためには忙しいアイドルなんてやってらんないの」

 

 ため息混じりに言うと、スクッと立ち上がって背を向けちまった。

 

「……もともとハピラピは五人組で、あたしは一番最後に入ったメンバーなの。だから、あんまり思い入れは無いのよね。それはきっと、ファンも他のメンバーも同じだと思うわ」

「そうかァ? たしかお前さんって一番人気だったような。他の面子はともかく、ファンは思い入れあるだろうよ」

 

 すると、シャオは鼻で笑い、

 

「そりゃ最初は注目されて当たり前よ。ラストメンバーだからって周りの大人たちが色々と動いてくれてたみたいだしさ。でも、それも長くは続かないわ」

 

 パーカーの腹ポケットに手を突っ込んで、そいつは隣のビルを見上げた。

 

「……ほら、もうあたしの代わりが出来たみたい」

 

 つられて俺も見上げたのだけれども――そのビルを見て俺は驚いた。

 いや。ビルそのものではなく、そこの大型液晶に映し出された人物――

 

「ネ、ネム!?」

 

 先日、時園で出会った少女。

 先程、公園で見かけた少女。

 そのどちらにも似ている紫髪のショートカット娘が画面に映っていた。

 俺が思わず声をあげてしまうと、

 

「ネムぅ? 誰よそれ。あの子は『ぼたん』よ?」

 

 と、眉根を寄せてこちらを振り向くシャオメイ。

 

「あいつ、名前あったのか」

「トーゼンでしょ。苗字ももちろんあるわよ。深柳っていうの」

「へぇ。ミヤナギとはまた珍しい苗字だな……」

「……気の無い返事ねぇ」

 

 そりゃあ空返事にもなってしまうさ。

 なんせ、画面の中のネム――もとい、ぼたんとやらがマイクを握り締めて観客の前で歌ってるんだからな。

 あの能面ヅラのあいつが、紫色のフリフリドレスを着てるってだけでも驚きモンなのによォ。

 とはいえ……格好はアイドルしてるが、表情はやはり無いに等しい。

 

「なんつーか、まるでマネキンみたいだな。歌ってて楽しいのか、あいつは」

 

 ぼそりと呟いた俺に、

 

「……ふうん」

 

 と。シャオメイが、まじまじと俺のツラを覗き込んできやがった。

 

「な、なんでぇい?」

「ぶぇっつに~。……ま、あたしも結構前から同じこと思ってたのよね」

「結構、前からって……お前さん、あいつと知り合いなのかィ?」

 

 すると、シャオは呆れた顔でビルを指差した。

 再度そのビルに顔を向けたのだけれども――

 

「えっ! ハピラピのメンバーなのか!?」

「……知らなかったの?」

 

 そう。ビルのてっぺんのボードにデカデカと『ハピラピ・ツートップシングル発売間近!』と広告が掲げられていた。

 それにはシャオとネムの二人が背中合わせで映っている写真が貼ってあったのだが……待てよ。シャオの顔だけ妙に色鮮やかなような。

 

「あたしのせいで発売が無しになったからね。あの子のファンの嫌がらせでしょ」

「嫌がらせって……わざわざビルに登ってか?」

「そーよ。わざわざ登って、ご丁寧にあたしの顔だけスプレーでグチャグチャにしたのよ。ご苦労様ってカンジ」

 

 言って、そいつが背を向けたそのときだ。

 

「シャオちゃん!」

 

 ハァハァと息を切らしてゆりなが飛び出してきた。

 

「あれ、会計済んだのかィ?」

「ううん。もうちょっとかかるから、お姉ちゃんが先帰ってていいですよって」

 

 店の中を見ると、お姉さんがなずなと談笑していた。

 カードを見せ合いながら何やら楽しそうに話している二人を一瞥して、

 

「……猫憑き。あんたも魔法使いの端くれなら、とっくに気付いているハズよね」

 

 背を向けたままシャオが低い声で言う。

 

「えっ。気付いてるって、なあに……?」

「とぼけたって無駄よ。それとも、気付きたくないだけかしら」

 

 なにを言いたいのかよくわからねーぜ。

 俺がアホ毛をハテナマークに変えて腕を組んでいると、

 

「……ピース様がクロエ・ザ・マンデイに、こう伝えろってさ。『あの子がダメなら、またあの子を使うしかない』ってね」

「ど、どういうこってェい?」

「さあね。あたしはただの伝言役だから。それじゃ」

 

 さて自分の役目は終わったとばかりにフードを被ろうとしたそいつに、

 

「ま、待って!!」

 

 チビ助がズイッと俺の前へ歩み出て叫んだ。


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