魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

84 / 104
第八十三石:どうして!? なずなの不思議なスケッチブック

 

「す、すみませんです……」

 

 野球帽を目深にかぶったその少年は、とてもすまなそうに頭を下げた。

 チビ助の隣に座っているのだけれども(なんかイヤがってた気がするが、ゆりなが強引に隣へ呼んだ)……なんというか、ちょっとおどおどしすぎじゃねェか?

 

 俺とコロ美が二人してメロンジュースをチューっと吸いながら訝しげな視線をぶつける。

 ガンガンと乱射されるその視線を避けるように、ますます帽子のつばを掴んで顔を隠したそいつに、

 

「とっても怪しいんですっ」

 

 コロナが言い放った。

 それに続いて俺も、

 

「そーだ、そーだ。なんで顔を隠すんでェい?」

 

 そう言った瞬間、手に持っていたスケッチブックで完全に自分の顔をガードしてしまいやがった。

 こいつはァ、やっぱり怪しいぜ。

 あの寒気だ。もしかしたらこの子に模魔が憑いてるのかもしれねェ……いや、むしろこいつ自身が模魔であるという可能性も――

 

「……す、すみません」

 

 その少年が完全に萎縮したところで、

 

「こらこら。二人ともなずっちゃんをイジメちゃ、めっですよ」

 

 お姉さんに、つんつんと頬をつつかれる俺たち。

 

「だってぇ……」

 

 と抗議の声を一緒に上げると、いきなりゆりながその少年をギュッと抱きしめたではないか。

 

「にゃはは。なずなずーっ! 今日もなずなず、明日もなずなずだねっ」

「やっ、やめてください……っ」

 

 そのやりとりに、ピクっとこめかみと眉が同時に動く俺。

 な、なんなんでェい。こいつ、チビ助と随分と仲が良さそうじゃねーか……。

 

「……ケッ!」

 

 イラつきながらストローに息を入れてぶくぶくしてると、

 

「わ。パパさんお行儀悪いんです。いつもとなんか違うのです」

「うるへー、俺様はいつもこんなんでェい」

 

 そっぽを向いてチェリーを口に入れたそのとき、

 

「や、やっぱり、わたしお邪魔ですよね……」

 

 ブフッと、むせてしまった。

 

「しゃ、しゃっちゃんちゃん大丈夫ですか?」

「げほっ、ごほっ! す、すみません、大丈夫ですっ」

 

 お姉さんから差し出された水を一気に飲み干して、俺はもう一度野球帽をかぶった少年を見た。

 心配そうに俺の顔を見るその顔は――

 

「もしかして、お前さん女かァ!?」

「えっ! あ、はい……。一応、多分、そうですけど」

 

 そう言って頭を垂れて俯く少年……じゃなくて少女は、俺のことをチラリと上目遣いで見上げたあと、観念したように帽子を脱いだ。

 途端、ふわっと舞う髪の毛。それとともに甘ったるいシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。

 

「……た、宝樹なずなといいますです。えっとえっと、お二人のことは今日の学校でゆりり先輩からたくさん聞かされました」

 

 たからぎ、なずな?

 なんだろうか、この感じは。

 この子、どこかで見たことがあるような――

 

「なずなずはね、とっても人見知り屋さんなのっ。だから二人とも優しくしてあげてね」

「……ふゆぅ。ずみまぜん」

 

 冬じゃなくて今は春だぞとツッコみたくなるところだけれども、人見知りと聞いちゃあ、おいそれとツッコめねーな。

 というか。いささかに暗そうなヤツだけど、顔立ち自体はかなり整ってる気がするぜ。

 

 少しだけ明るめの茶髪にミニツインテールといった髪型なのだが――ももはと違い、独特な結び方をしている。

 長さはあいつよりはちょっとだけ長いかもしれないが……いかんせん、独特な髪型だからよくわからねェぜ。

 

 にしても、綺麗な青い瞳だな。こういうのサファイアブルーって言うんだっけか。

 ま、さすがに目の中に花は咲いてないようだけれども。

 

「あ、あのあの……」

 

 ジーッと、メンチを切るようにコロ美と一緒に凝視していたのがマズかったのか、

 

「やっぱり、わたし……お、お先に失礼しますです!」

 

 泣きそうな顔でなずなが立ち上がったとき、手に持っていたスケッチブックがスルッとテーブルの上に落ちた。

 

「あっ、違う違う! 怒ってるとかそういうんじゃなくって、ごめんっ!」

「ふえーんっ! なずなずぅ、行かないでえっ」

 

 慌ててそれを拾い上げようとしたのだけれども。

 開かれたその中身を見て、俺たちは固まってしまった。

 

「えっ! これって……。なんで、なずなずが……」

「……あ、ありえないんです」

 

 信じられないといった様子で二人が口々に言う。

 もちろん――俺だって、信じられなかったさ。

 

 だって、そのスケッチブックには俺たちが描かれていたワケで。

 いや。正確には、俺とゆりなの変身した姿が――魔法少女となった姿が寸分違わずに描かれていたのだ。

 髪型も、髪色も、胸の宝石の色も、コスチュームのデザインもまったく一緒……。

 

「しゃっちゃん、こ、ここ見て!」

 

 チビ助の指差したところには、その魔法使いの名称らしきものが書かれていた。

 黒の魔法少女と赤ペンで書かれた文字の下には、『ラヴスパーク』と。

 その隣で腕を組んでいる白の魔法少女の下には、『ラヴスノウ』……。

 そして。その一番下には強調するような太文字で――こう書かれていた。

 

「魔法少女サクラヴィッツ……」

 

 俺とゆりなが同時にそれを読み上げ、目を合わせる。

 

「しゃっちゃん……」

「ああ、わかってる」

 

 さすがにここまで一致していると、偶然として片付けられるものじゃない。

 一体これは、どうなってやがるんだ……。

 なずなを見ると、そいつは恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「あの、わ、笑わないでくださいね……。実は、これに応募しようかなと思って」

 

 と。オーバーオールのポケットから取り出されたのは、ピンク色の小さな箱だった。

 可愛らしいパンダさんの色んな表情が印刷されているそれをパカッと開くと、

 

「わあっ、それ知ってますぅ!」

 

 お姉さんが声をあげて目を輝かせた。

 

「えっ! ふーお姉ちゃん、知ってるの!?」

 

 続けて、さらに爛々と目を輝かせるなずな。

 あまりの興奮からか、敬語をすっかり忘れたそいつは、

 

「これねこれねっ、さっきここのお店のカードダスから出たんだけど……」

 

 鼻息荒くして箱から一枚のキラキラしたカードを出すと、自慢げにお姉さんへ見せた。

 

「やーっ、このカード懐かしいですねっ。私がやってた頃にもおんなじカードがありましたよっ」

「えへへ~。それ、今月出たばっかの復刻版なのっ。なんか、第一弾のリメイクとかなんとかで」

「リメイクなのですかあ。あははーっ、私にはまったく同じに見えてしまいました。そういえばこれはキラカードじゃなかった気がしますね」

「そうそう、レア度も上がってるんだよ~! あとね、スキルも強化されてるのっ」

 

 な、なんのこっちゃ。

 う-む。話についていけないぜ……。

 そう、盛り上がる二人を見ながら、ゆりなと俺が目をパチクリさせていると、

 

「あっ。す、すみません! わたしったら魔女モンのことになると、つい……」

 

 俺たちに気付いたなずなが、ペコリと頭を下げた。

 そのとき、チビ助が両手をぱちんと合わせて、

 

「わかった! それが、なずなずがハマってるっていう魔女モンだったんだねっ!」

 

 そっかそっかと頷いて、テーブルの上に広げられたカードを楽しげに見る久樹上姉妹。

 いよいよ分かっていないのは俺だけになってしまったようで……。(コロ美は興味無さげにアイスと格闘しているから除いておくぜ)

 さすがに気になった俺は、

 

「ま、魔女モンってなんなんでぇい」

 

 と。なずなに訊いた。

 すると、そいつは興味を持った俺に心底嬉しそうな顔をして、

 

「えっとですね、これは『魔女っ娘モンスター』ってカードゲームでして――」

 

 それから嬉々としてそのカードゲームの説明を延々と語り出すなずな。

 何十分くらい聞かされたんだろう……。いや、一時間くらい経ってるのかもしれねェな。

 要は、よくある対戦型カードゲームみたいなヤツで、モンスターを進化させて戦わせるゲームのようだ。

 

 最初は思いっきり化け物の姿をしている低レベルのモンスターを、敵と戦わせて、勝ったらそいつを喰らう。

 それでストーンが溜まったら、魔法少女の姿へとレベルアップさせる。

 最終的には、場にある敵を全て倒したり、捕まえたら、中央でふんぞりかえってる『魔女』(プレイヤーの分身)を倒すっつうゲームらしい。

 

 なんか敵のモンスターを捕まえたらこっちが使えるとかいう将棋みたいなシステムもあったような気がするが……まあ、別にやらねーし、どうでもいいか。

 長ったらしい説明をし終えて、満足気にホットコーヒーをすするそいつに、

 

「ねーね。なずなずぅ、応募ってどーゆうこと?」

 

 なずなのツインテールをぴょこぴょこ弄りながら訊ねるチビ助。

 すると、なずなはそれを気にする様子もなく、

 

「生誕十周年を記念して、プレイヤーのみんなが考えた魔法少女をカード化するみたいなんです」

 

 ぺらりとデッキホルダーの中から一枚の紙切れを掴んで俺たちに見せた。

 なるほどねェ……だからスケッチブックに魔法使いを描いていたのか。

 ラヴスパークやらスノウとやらも、このカードゲームのイラストコンテストに応募するためになずなが考えたオリジナルの魔法少女――

 

「……恐縮だけれども、もっかいスケッチブックを見せてくれ」

 

 お姉さんがお手洗いに行ってる隙に、俺たちはもう一度イラストを見せてもらうことにした。

 やはり自分の描いた絵を見られるのは恥ずかしいのか、真っ赤な顔でモジモジしているそいつに気付かれないよう、小声で俺たちは確認しあう。

 

「しゃっちゃん、何度見てもボクらにそっくりだよぅ……」

「だよなァ。ここまで一致してるとなると、俺たちを見て描いたとしか思えねェぜ」

「じゃあ、やっぱりなずなずって――」

 

 困ったような表情でなずなをチラリと見るゆりな。

 そう。もし、俺らのことを見て描いたとするならば、こいつは『魔法関係者』となる。

 変身したら一般人の視界には映らなくなるワケだからな……。見えるのは関係者だけだ。

 

「あ、でも。変身しないで杖に乗って飛んでたりしてたから、それを見られちゃったのかも」

「いや。杖だけなら説明はつくが、それなら変身後のコスチュームをこんなに細かく描けるわけないじゃんか」

「でも、でも……」

 

 ゆりなの動揺を見るに、なずなにはどうしても関わって欲しくなさそうだな。

 ま、そりゃそーか。

 あんな危険な石集めに関わったらロクな目に遭わないだろうし。

 

 才能あるゆりなに、数多ある世界から選ばれた俺っつうコンビだからまだなんとか凌いでいるけれども。

 ……こんな臆病そうなガキんちょにはいささかに厳しい世界だよなァ。

 可愛がってる後輩みたいだし、なおさら巻き込むワケにはいかない、か。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。