魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第七十九石:霊瞳

「はあ? 知らないわよ。あんた、寝ぼけてたんじゃないの?」

 

 機嫌の悪さマックスといった、むくれ面で棒付きキャンディをぺろぺろ舐めているシャオメイ。

 街灯にもたれかかっているそいつは続けざまに、

 

「大体さー。どうしてあたしが猫憑きの使い魔なんかと一緒にいなきゃなんないのよ。そんでもってバカてふの顔を見て、三日目なんちゃらって言ったんでしょ? 意味が分からないわよ」

 

 ど、どうしてって言われてもよォ。

 意味が分からないのはこっちの方なんだけれども……。

 

「じゃあ、あの装着してたバイザーはなんなんでぇい。あれも知らないのか?」

「バイザーって、霊瞳のこと? なんであんたが霊瞳のこと知ってんのよ」

「れ、レイドウ?」

 

 レイメイに続いて、今度はレイドウかよ。

 これ以上変な造語が増えるのは勘弁してもらいたいところだけれども――あの黒いバイザーについては少しだけ気になるな。

 

「うーん……。アレを被るとさー、はっきりくっきり見えるのよね」

「はっきりくっきり見えるってなんでェい。霊でも見えるのかィ? それとも服が透けて見えるとか」

 

 そう言うと、シャオは少しだけ頬を赤くして、

 

「バ、バッカバカじゃん! そーじゃなくて、ランクとかレベルとか相手の魔気力の数値が分かるようになるのよ。あと、例えばあんたとか魔力のある者が建物の中に隠れても、纏ってる魔気が建物越しに映ったりして丸見えとかさ」

「それは中々に便利そうだけれども……そんなの使わなくてもジュゲムなんたらの能力で相手の場所とか模魔の居場所が分かるんじゃなかったか?」

「あら、あんた結構物覚え良いわね。そうよ、あたしは夜紅様だからねぇ。あんな機械に頼らなくても平気なのよ……ていうか、アレを装着すると頭が痛くなるから逆に集中出来ないのよね。ピース様から貰ったときに一回だけ被ったくらいだわ」

 

 食べ終えたキャンディの白い棒を振りながら唇を尖らせる赤いツインテールの少女――シャオメイ。

 面倒だからジュゲムと言ってるが、本当は紗華夢 夜紅とかいうピースの片腕的存在らしく、相当な魔力を持っている第三の魔法少女。

 

 第三とは言っても、俺とゆりなをかなり嫌っているらしく、一人で石集めをしている……のかは知らねェ。

 だって、七大霊獣も憑いてなければ、霊鳴の封印も解いてないんだからな。

 

 じゃあ何をしているのかって言えば、ただ俺たちにちょっかいを出してるだけだったりする。

 杖も厄災の力も持っていないし、本来ならそこまで強くは無いハズなんだが……。

 

 俺はチラっとシャオの中指にはめている黒い指輪と、クネクネと動いてる尻尾を盗み見た。

 何故か持っているランクAの模魔シャドーと縦横無尽に動き回る悪魔みたいな黒い尻尾――この二つが凄まじく厄介なんだよなァ。

 

 これで霊獣と契約、杖まで使えるとなったら……もはや手が付けられねーぞ。

 かと言って、俺たちと手を組んでくれそうにないし。つーか、俺もこんな性悪なんかと手を組みたくねェし。

 こいつのファンであるチビ助だったら喜んで手を組むかもしれないけれども。

 いや、あいつの場合たとえファンじゃなくても仲間に誘いそうだな……。

 

「おい、ツン子。本当にブラックでいいのか?」

 

 そうシャオにコーヒーを差し出すクロエ。

 そいつはどっかりと俺の隣に座ると、今までの俺たちの会話を聞いてたらしく、

 

「だとしたら、やっぱりシラガ娘の前に現れたのはオレたちじゃない別人だな。そもそもオレは最後までずっとポニ子の中に居たワケだし」

 

 言って、再び髪の毛を弄りだした。

 

「そりゃ、そうだよなぁ。うーむ、じゃああいつらは一体……」

「だから寝ぼけてたんでしょ。あたしは途中で帰ってご飯の仕度をしてたもの。わざわざバカてふの寝顔なんて見に行くワケないじゃん」

 

 と。毒づきながら缶コーヒーを開けようとしているシャオメイだが、どうにもこうにも力が無いらしく一向に開く気配が無い。

 カチッカチッと爪を入れて「うぐぐぅ」と格闘しているそいつの手から、ひょいっとコーヒーを奪い取って、

 

「ったく。ほら」

 

 片手で開けてやると、そいつはムスーッとしたツラで受け取った。

 

「別に一人で出来たのに……礼なんか言わないわよ」

「うるへー。てめぇの心のこもってない礼なんざ微塵もいらねーよ。いいから黙って飲みねェ」

「……ふん!」

 

 ぷいっとそっぽを向いて一口飲んだかと思うと、

 

「に、にがッ」

 

 眉根を寄せて舌を出すシャオメイに、

 

「にっしし。ほらな、言っただろ? だぁらミルクコーヒーにしとけって言ったのに」

 

 けらけら笑いながら言う黒猫。

 

「う、うるさいわねっ! だってそこにある黄色くて長細いコーヒーって凄く甘いのよ。それよりは断然マシだわッ」

「じゃあ紅茶にすればいいのに……見栄張ってコーヒーがイイなんて言うからさあ。はーあ、ポニ子の可愛げを半分くらい分けてやりてーぜ」

「ふーん。貰えるモンなら貰いたいところね。でも、あたしが可愛げを貰ったら、猫憑きはどーなんのよ」

「……うっ。やっぱしツン子はそのままが一番ツン子らしくて良いと思うぜ。にゃ、にゃはは……」

「ちょっと、それどーゆう意味よっ」

 

 そんな二人のやり取りを見つつ、俺は少し不思議に思った。

 なんなのだろうか、このゆったりとした光景は。

 つい数時間前までシャオとクロエは戦っていたハズなのに……。

 

「ごちそーさま。そろそろピース様も起きるようだし、あたしは帰って寝ることにするわ」

 

 ゴミ箱に缶を入れて、シャドーを呼び出したそいつの後ろ姿に、

 

「毎週毎週オレの監視ご苦労さんだな。にしし。ま、ただの徒労だと思うケドねえ」

 

 イヤな笑みを飛ばすクロエ。

 

「どういうこってい? 監視って……」

「にっしっし。ピースが起きているときはピースがオレの動きを監視している。寝ているときはツン子がシャドーの中で監視している……ってね」

 

 監視だなんて、なんとも大げさな言葉にいささかに驚いていると、シャオは黒いマントを脱ぎながら、

 

「……ピース様に命令されたからしているだけよ。徒労だろうがそんなの関係ないわ」

「いやはや。いささかにキツそうな仕事だと思うのだけれども」

「週に一回だけだから、別に大変じゃないわよ。どーして監視するのか、意味がよく分かんないケド……。まあ、やれって言うからね」

 

 ツインテールを維持していた髪留めを外したかと思うと、マントと一緒にシャドーの中へ放り込むシャオメイ。

 尻尾もスカートの中に仕舞い込んだし……こりゃあ、本当に寝る準備に入ってるのかもしれないな。

 そんでもって、ワンピースの姿にロングストレートの髪型になったそいつはブラックホールの縁に手をかけた。

 

「あ……」

 

 マントを脱いだその姿を――まるで普通の子どものようなその小さな後ろ姿を見て、俺は思わず声を掛けてしまった。

 

「な、なあシャオ!」

「……なによ」

 

 こちらを振り向くともせず、気だるげに答えるシャオメイ。

 やっぱりあの厳かなマントとヘンテコな尻尾が無いだけで大分印象が変わるな。

 これで目の下の濃いクマも消えれば……。

 なんてボーっと見ていると、

 

「だから、なあに?」

 

 イライラした口調のそいつに、俺は慌てて、

 

「い、いやァ。週に一回でも、その……こんな朝まで毎回姿を消してたら親御さんとか心配するんじゃないのかなーって」

 

 テキトーにそんなことを言ってしまった。

 どうせ、バッカバカじゃんとかなんとか、いつもの罵倒で返されるのかと思いきや、

 

「いないわよ、そんなもの……」

 

 シャオはそれだけ小さく呟くと、闇の中へと消えてしまった。


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