魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第七石:魔法少女になんて絶対になりたくない!

 今晩はゆりなの家に泊めてもらうことになった。

 っつーか、帰る家はあれども帰り方がわからねェからな。

 しばらくは厄介になるしかあるめェ……チビ助の家の人が承諾してくれればの話だけれども。

 

「ふぁー……。もうお日様沈んじゃいそうだね。今日はいっぱい歩き回って疲れちゃった」

「へへ。甘いぜ、ポニ子。これからは、もっと動き回ってもらうことになるからな。覚悟しておくんだぜ」

「おっけー。どーんとこーい! だよっ」

 

 なんていう話をしている黒猫とゆりなの後ろに、両手を後ろ頭に組んでの俺。

 そして、その後ろには、

 

「パパさん。コロナも何かパパさんとお話したいのです」

「…………」

「あ、あんなところにUFOが! パパさん、UFOっ。未確認飛行物体なのです。パパさん知ってましたか、UFOの略は『うっそー!? フライング……お盆?』なんです」

「…………」

「間違えたです。さっき飛んでたのはぺヤングのほうでした。かやくを麺の下にしてお湯を入れると、かやくが蓋につかなくて美味しいアレです」

 

 よちよち着いてきながら一人盛り上がってる園児。

 やれやれだな。

 このガキんちょと俺様が契約ねェ……子守の間違いじゃあねぇのか。

 ほとほと頭がイテェぜ。 

 

「否定。まだ正式な契約は結ばれてないので、パパさんはただいま不完全な魔法少女です。

 でも、簡単なんです。ちょっと呪文を唱えて頂ければ、すぐにでもコロナはパパさんのものなのです。

 あ、どうせなら今歩きながら済ませちゃうです。えっと――」

 

 なんだ、こいつと契約を結ばない限り、俺は魔法使いじゃあないってことか。

 ……そいつはァ、良いことをきいたぜ。

 ごそごそとポケットから何か(きっと呪文が書かれたメモだろう)を取り出そうとしたそいつに、

 

「ざけんなっ、魔法少女なんて誰がやるかってんでぇい! 耳の穴かっぽじって良く聞きなァ。

 はっきり言うぜ、俺はおめぇさんと契約する気なんざ微塵もありゃしねぇ! そこんところ宜しくってなもんで一つ、よしなにィ!」

 

 すごんだ俺に、コロナはしゅんと肩を落としてしまった。

 とぼとぼついてくる姿に若干だが言い過ぎた感が否めないが、いやはや。

 だって、やりたくねーものはやりたくないんだからさ。

 

 ……しょうがねぇじゃん。

 しばらく歩くと、やがてゆりなの家の前に到着した。

 

「えへへ。ほいじゃあ、しゃっちゃん、アイスウォーターちゃん。ちょっち待っててね。

 お姉ちゃんに、お泊り会しても大丈夫か訊いてみるから……うわーいっ!」

 

 そう言って元気に家の中へ突撃していくチビ助。

 お泊り会っつーか、一日だけじゃあいささかに困るんだが。

 明日にでも元の世界に戻れる方法が見つかれば話は別だけれどもよォ……。

 俺だって別に好きで居候したいワケじゃねェし。

 

 ――ん?

 

 お姉ちゃんって、フツーこういう事は母親か父親に了承を得るもんじゃないのか?

 首をかしげていると、急に扉がバンッと開いて、

 

 

「あらあら、まぁまぁ! なんて可愛らしいお友達なのでしょう……っ! 天使さんたちなのですっ、欣喜雀躍ですっ!」

 

 何とも大げさな人が出てきた。

 

 セーラー服の上にエプロン、片手にはお玉といった姿の女性。

 背格好や服を見るに、おそらく高校生くらいだろう。

 ゆりなと同じ長い黒髪を後ろで縛っており、目はパッチリとしていて大きい。

 大きいといえば、胸がすさまじいド迫力だ。

 ははは……俺らとは雲泥の差だねェ、こりゃ。

 

「お姉ちゃん、この子がシャクヤクちゃん。ボクはしゃっちゃんって呼んでるのっ。今日泊まってもいーよね」

「えーと、はじめまして、シャクヤクといいます。恐縮ですが今日一日どうか……」

 

 言いかけたところで、ゆりなのお姉さんが俺に抱きついてきて、

 

「あらあらっ! 白くて小っちゃくて、ふわふわな柔らかい髪が可愛らしいですっ! もちろん、承知なのですっ」

 

 頭を撫でながら言った。

 了承はまことに有難い話だが、ちょいとばかり苦しいぜ旦那ァ……息ができねェ。

 

「わーい! でね、この子がコロナちゃん。小っちゃいけどとってもしっかりしたお利口さんなのっ。今日泊まってもいーよね」

「あ。コ、コロナと申しますのです。よよよ、よろし……」

 

 お姉さんは、パッと俺から離れると、

 

「まあまあっ! もっと小っちゃくて、ぽよぽよな柔らかほっぺが可愛らしいですっ! もちろん、承諾なのですっ」

 

 今度はコロ美に抱きついて、頬を指でつんつん突きまくりはじめた。

 

「わーい! あ、あとついでに。この猫ちゃんは段ボールで捨てられてたから拾ったの。今日から飼ってもいーよね」

 

 おいおい、おめェさん捨て猫扱いされてんぜェ?

 俺がクロエに耳打ちをすると、一瞬だがこちらを睨みつけ、

 

「にゃ、にゃぁーん」

 

 ただの猫に徹した。

 お姉さんの足にすり寄りながら、必死にゴロゴロと喉を鳴らしている。

 ああ、そうか。彼女は一般人だから喋って姿をバラしたらまずいってワケか。

 だが、いくらなんでも。友達を泊まらせるのと、猫を飼うのとでは話が別だろうに。

 

 そう簡単に了承なんて――

 

「承允なのですっ!」

 

 って、オイィィ!

 彼女はそれだけ言うと、クロエを抱き上げ、子供をあやすかのようにゆらゆらと揺らし始めた。

 

「ねーんねーん、ころーりーよ。おこーろーりーよー」

 

 なんとも、まぁ……なぜ早々に寝かしつける作業に入ったのか。

 よくわからんが、一つ言えることは、この姉にしてこの妹ありってところだな。

 肩をすくめて、ついコロナと顔を見合わせてしまった。

 

「パ、パパさん。コロナはびっくりなんです。ほっぺがへっこんで戻ってこないのです」

 

 うるうると涙目のコロナに、

 

「……俺も。自慢の髪が世紀末だぜ」

 

 何故かモヒカンヘアーになっている髪を戻しながらの俺。

 しかたあるめぇ、これも宿代と思いねェ。

 

「にゃはは、やったね二人ともっ! ささ、ボクの部屋に直行っ」

 

 ゆりなが、げんなり表情の俺たちを家に押し込みつつ、

 

「うっわーい! お姉ちゃんありがとう、だーい好きっ!」

 

 と、言った。

 そしてそのすぐ後に、

 

「お姉ちゃんもなのですよーっ。あ、ゆっちゃん。お部屋に行く前にちゃんと手を洗ってくださいねー」

 

 そう、のんびり口調で返ってきた。

 

+ + +

 

「だーっ、疲れたぁ」

「だーっ、疲れたんですぅ」

 

 部屋に着くなり、ベッドに寄りかかって俺とコロナが盛大なため息をついた。

 もちろん、手はちゃんと洗ってきたぜ。

 よくわからんゴシゴシの歌なんてもんを歌わされながらな。

 

「ふぇ? しゃっちゃん達、さっきまで元気だったのに、どーしたの?」

「さっきまでは、な」

 

 ゆりなの頭上に浮かんだハテナマークを手でかき消しつつ、

 

「いいのかよ、こんな簡単に承諾して。俺たちもそうだけど、クロエの件とかさ。お姉さんお人好しすぎやしねェか?」

「でも、あの方のおかげでコロナたちは屋根のあるお家でグッスリ眠れるのです。感謝感謝なんです」

 

 そりゃあ、そーだけれどもよォ……。

 いつもあんな調子なのかい?

 

「うん、お姉ちゃんはいつでも誰にでもあんな感じで、とーっても優しいの。ボクの自慢のお姉ちゃんなんだよぅ。はうー」

 

 なんて周りに花を咲かしている。

 

「ふぅん、羨ましいこって。俺は一人っ子だからよォ。あ、一応お父さんやお母さんに改めて了承を得たほうがいいかもな。

 やっぱり一家の長が知らねェってのはマズイと思うしさァ」

 

 そう言うと、一拍置いてゆりなが力なく笑った。

 

「……にゃはは。ウチ、お父さんもお母さんもいないの。

 今はボクとお姉ちゃんの二人暮らしなんだ。だから二人とも伸び伸び過ごしてもらってヘーキだよっ」

「あ……。す、すまねぇ。余計なこと言っちまって」

 

 頭を下げると、

 

「う、ううん! いないって言っても、お仕事の都合で海外に行ってるだけだからっ。

 ごめんね、しゃっちゃん。ヘンな心配させちゃって。あはははっ」

 

 とは言うけれども、寂しいのには変わりないだろうに。

 どちらか片方ではなく、両親そろって海外なんてな。いったい、どんな仕事なのだろうか。

 だが、ゆりながあまりにもカラカラと笑うモンだから、

 

「そっか。わりい、わりい」

 

 俺もつられて一緒に笑ってしまった。

 すると、コロナが笑いあう俺たちを不思議そうに交互に見て、

 

「二人とも、何を謝ってるのですか。楽しそうです、コロナもごめんねゴッコしたいのです」

 

 なんて言うもんだから、またおかしくなって二人で笑ってしまった。

 

+ + +

 

「……おめぇら、楽しそうだな。オレがひどい目に合ってるっつーのによぉ。ったく、あの嬢ちゃん加減ってもんを知らねーのか」

 

 部屋に転がり込んでくるや否や、開口一番グチを放つ黒猫。

 

「加減って、何かあったのですか。お姉ちゃま」

 

 コロナが訊くと、クロエは気だるそうに肉球で自分の肩をポンポンと叩きながら、

 

「おぅ、コロ助。よくぞきいてくれた。あの後、何十もの子守唄を歌いやがったんだぜ。

 それも近所に聞こえるバカデカい声でよぉ……恥ずかしいったらありゃしねー。

 こちとら睡眠通り越して永眠する寸前だったってーのに、おめぇらときたら――」

 

 俺とゆりなの驚愕顔に気づいたのかクロエはびくっと毛を逆立てて、

 

「あ、あんだよ、そのツラは」

「だって、ねぇ。しゃっちゃん聞いたよね?」

 

 ゆりながひきつった顔で俺に振る。

 

「……あぁ、聞いたぜェ。しかと聞いたぜェ~」

 

 そう。

 コロ美は先ほど確かにコイツのことを『お姉ちゃま』と呼んだ。

 腕を組み、うんうんと頷いて俺はこう言った。

 

「クロエ、おめぇさんって野郎は……まさかメス猫だったとはなァ! へそが茶を沸かすとは、まさにこの事よォ」

 

 続いてゆりなも、

 

「クーちゃん、かわいーっ! メスだったんだぁ。わーい、メス猫メス猫ー! メス猫クーちゃんっ」

 

 そうはしゃぐ俺らに、

 

「にゃあぁあ! メス猫って言うなぁああ! 侮辱の言葉だぞ、てめーら無邪気にもコノヤロー」

 

 いやはや、言動があまりにも荒々しいもんで。

 まさか、メスだったとはな……いささかに信じられねェぜ。

 

「だから、確かめる必要があるってなもんで」

 

 言って、グイッとばっかしクロエの足を広げた俺に、

 

「ば、バカっ! あにすんだよっ!」

 

 すかさず肉球フックが飛んできた。

 

「いっひっひ。てめぇだって、さんざん俺の事からかってくれただろ。そのお返しってだけの話さ」

 

 頬をさすりながら言ってやったが、どうやらマジらしいな。

 この反応――ま、別に本心としちゃあどっちでもいいことなんだが。

 

「うん、どっちでもクーちゃんはクーちゃんだもんね。あはは、でもなんだか可愛いかも。女の子なのに『オレ』だなんてっ」

 

 ゆりながクロエを高い高いしながら言い、

 

「可愛いかぁ? 女ならせめて女らしく。もっと、可愛げのある言葉づかいにした方がいいぜ、いささかによォ」

 

 持ち上げられた黒猫の喉をポリポリかきながら俺が続ける。

 対して黒猫は、『けっ!』と尻尾をおったてて、

 

「おめーらだけには、ぜってぇえええ言われたくねぇセリフ!」

 

 と、怒鳴った。

 ……そりゃまぁ、ごもっともで。


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