魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第七十二石:決着!黒白の魔法少女vs黒白の模魔・完

 それは――

 

「しゃっちゃん!」

 

 突然、どこからか聞こえてくるゆりなの声。

 

「おおう。チビ助ェ? どこにいるんでぇい」

 

 なんて周りを見渡していると、

 

「ボクはさっきのとこにいるよっ」

 

 あー。そういや、魔力を持つ者同士は遠く離れてても会話出来るんだっけか。

 すっかり忘れてたぜ。

 

「あとはボクに任せて、そこから逃げてっ!」

「……逃げて、か。チビ助、お前さん大丈夫なのかい? さっきフラフラだったじゃねーか」

 

 念のため少しだけ声を張り上げてみる。

 多分、普通に話していても聞こえるとは思うけれども。

 

「だいじょーぶ。しゃっちゃんが戦ってたとき少し休んでたもん。もう平気だよっ!」

「ふーん……」

 

 戦ってたつってもたった数分だぞ。そんな短い時間で魔力が回復するワケねぇのに。

 

「あのさァ。ひょっとすると、なんだけれども」

「ふえ?」

 

 俺は髪の毛をクルクルと指先で弄りつつ、

 

「アレだろ。霊冥を突き刺して育てたプラズマドームをコピーに振り下ろそう……とか思っちゃったりしてない?」

「えっ! どーしてクーちゃんの作戦をしゃっちゃんが知ってるの!?」

 

 やっぱりな。

 そいつの問いには答えず、

 

「でも、あの雷玉は相当デカくなってるハズ。ちょっと休んだだけで――いや、もし魔力が全回復していたとしても、チビ助にあれを振り下ろすほどの力は無いと思うのだけれども」

「そ、それは……えっと。にゃ、にゃはは」

 

 なんて曖昧な笑いでごまかすチビ助。

 

「…………」

 

 考えるまでもない。また集束を試すつもりだな。

 再点火やら裏束だか、よく分からん名称のそれらを使ってパワーアップするのだろう。ドームをぶん投げるには眼を使うしかない。

 しかしながらと、俺は思う。

 クロエが前に言っていた『霊獣は自在に集束出来るが、本来の発動とは異なるからやればやるほど体に障る』ってな言葉や、

 シャオやコロ美の集束に対する反応を見るに、あの眼の光ばかりに頼るのはいささかに……いや、かなりヤバイ気がする。

 

 多分。あいつはそれでも大丈夫だと言い張って、俺たちを守ろうとするだろう。

 無理をすんなって言っても聞かないのは、ダッシュだけじゃない。チビ助も。そしてコロ美だってそうだ。

 

「あーあ。ったく、どいつもこいつもよォ」

 

 時園に行く前の俺なら、それじゃあ頼んだぜと、そそくさとこの場から退避していたかもしれないが――

 

「試作型ちゃん、飛ぶぞっ!」

 

 俺はすぐさま杖に跨るとゆりなのもとへと翔けた。

 夜景を眺めながら全身に風を感じている俺の耳に、

 

『あれれ、羽で飛ばないんです?』

 

 と、コロ美。

 

「んー。俺自身の魔力の温存のため。霊鳴の霊薬が少し余ってるし、移動は杖でいいかなっと」

『むむっ? パパさんの言ってることが、さっきからちょくちょく分からないんです。時園に行ってからなんか変なのです』

「それは……」

 

 フラッシュバックのように脳裏に描かれるコロナの死体。そして、腕を潰され、顔の半分を噛み砕かれたゆりな。

 それらを振り払うかのように首をぶんぶん振って、俺は呟く。 

 

「なあ、チビチビ」

『な、なんです?』

「……帰ったら、ご褒美にいっぱい高い高いしてやんよ。だぁら最後まで頑張っとくれ。おそらく、あいつを倒すには俺とチビチビの魔力を全部使わなきゃいけなくなるからさァ」

『やたっ! 肯定なんですっ! コロナ、ご褒美のためにいっぱいいっぱい頑張るのです!!』

「いっひっひ。頼りにしてるぜ」

 

 やがて、ゆりなのもとへ帰ってきたのだけれども。

 そいつは目を閉じて何かをしようとしているところだった。

 いや。この浮き上がる髪の毛に、舞う火の粉といったこれは、おそらく裏集束とやらか。

 ……これ以上、眼の力を使わせてたまるかってんだ。

 

「よっ。ゆーりなちゃん何してんの」

 

 俺はなるべく軽い調子でそいつの肩をポンっと叩いた。

 

「なぁってば。おーい」

「…………」

 

 ほっぺたをうにゅーって引っ張ってみたり。

 

「無視すんなよォ」

「…………」

 

 今度はスカートをバサバサとめくったりしてみるが、どうにもこうにも無反応。

 よっぽど集中しているのだろう。

 むむむ……こうなったら。

 

「ほーら、たかいたかーい」

 

 さっき言っていたコロ美のご褒美である高い高いの練習がてら、チビ助を持ち上げてみる。

 これにはさすがのゆりなも気付いたようで、

 

「きゃっ!? わ、わわっ」

 

 と。ビックリ声をあげて目を開けた。

 

「あれれ。しゃっちゃん、いつの間に?」

「いっひっひ。俺を無視した罪は重いぜェ」

 

 俺は呆然としているゆりなを抱え上げたまま、

 

「ほれほれほれーい」

 

 クルクルとその場で勢い良く回してやる。

 いやはや。コスチュームの力のおかげか、いささかに軽いもんだぜ。ま、コスを脱いでも軽そうだけどな。

 

「ふにゃあああ!? 目、目が回るぅううう! じゃっぢゃん、どめでぇええ」

「あい、わかりましたんで」

 

 言われたとおりにピタリと止めてゆりなを下ろすと、そいつは目をグルグル回しながら、

 

「ふぇえぇ、お月様がいっぱい見えるよぉお」

「あんれま、なんてこった。やっぱりまだフラフラじゃねーか! まったく、テキトーなことばっかり言いやがってからによォ」

「ひ、ひどいよぉ。ボク、テキトーなことなんて言ってないもん。フラフラなのはしゃっちゃんのせいだよっ」

 

 やっとこさ落ちついたのか、むくれ面で俺を見つめるチビ助。

 俺はそいつの頬をつんつん突きつつ、

 

「怒んな怒んなって。おっと。すでに投げるスタンバイは完了していらっしゃるみたいだねェ」

 

 と。手元の分銅を見る。

 分銅つっても霊冥の宝石部分だけれども。

 

「そんじゃま。それを引っ張ってコピーにぶちかまそうぜ。今なら脱皮中で雷玉にも気付かないだろうし」

 

 そう言うと、そいつは困ったような表情になって、

 

「ダメだよっ、危ないからしゃっちゃんは遠くへ離れてて」

「へ? 危ないって、なんでまた?」

「だって、クーちゃんがもし変に投げちゃったら、しゃっちゃんにぶつかるかもって……ボク、ちゃんと投げられるか不安だし」

 

 なんて俯いてしまった。

 やれやれと俺は肩をすくめて、その頭に手を乗せる。

 

「いちいちめんどくせぇヤツ。だったら一緒に投げればいい話だろ。そうしたらぶつからねーし」

「で、でもっ、もしボクらの上に落ちてきたら……」

「でももすももねぇっての。言っただろ、俺はもう逃げねーの。それに、二人で力を合わせれば絶対にコピーの方までブッ飛ばせるって」

「しゃっちゃん……」

 

 でもなぁ。二人で投げるにしても……こうも宝石が小さいとねェ。掴む場所が無いっつうか。

 と、ゆりなの手に握られている分銅をジッと見ていると、俺の周りを浮遊していた霊鳴がピカッと反応した。

 

「ん、どうしたんでぇい?」

『パパさん、弐式は二人で掴みやすいように零式と合体するつもりなんです』

「おお。なんてお利口さんなんでしょ! てか、コロ美ってば霊鳴の言葉が分かるんだな」

『否定。言葉というか、やりたいことがなんとなく解るだけなんです。でも、多分当たってるのです……ほら』

 

 チビチビ助の言葉どおり、霊鳴と霊冥がピッタリくっついたかと思うと、分銅部分が長く伸びたではないか。

 オブシディアンの黒色とサファイアの蒼色が螺旋を描くように絡み合っている。

 鎖の部分に流れていた黒い雷の周りに俺の翠色の雪がふよふよと漂い始めたところで、ゆりなが感嘆の声をもらす。

 

「ふわぁ……とってもキレイ」

「目がチカチカするけど、まあキレイっちゃキレイかもな」

「もーっ、しゃっちゃんってば素直じゃないんだから」

「ばーろぉ。お前さんが素直すぎんの」

 

 そうお互い笑いつつ、俺たちは宝石を掴んだ。

 

「そんじゃま、そろそろケリをつけようぜ」

「うんっ」

 

 目を閉じ、手元へと全魔力を注ぐ。

 

『おっけ。コロナの力は全部パパさんの手にいったんです』

「さんきゅ。こっちはもう準備出来てるぜ。チビ助はどうでェい」

「あっ。クーちゃんがもうちょっとかかるって」

「わかりましたんで」

 

 ……ちょっとだけ暇だな。

 何気なく隣のゆりなに視線が行ってしまう。目を閉じたまま、一生懸命に手元へと魔力を送っているチビ助。

 そいつの顔を見ていると、また時園のあの光景が頭に浮かんでしまった。

 

「ゆりな……」

「ん、なあに?」

 

 そいつが目を開けるのと、俺の目から涙が零れるのはほぼ同時だった。

 

「しゃ、しゃっちゃん、どーして泣いてるの?」

「しまっ……! いや。あの、なんつーか、その、待ち時間が長いもんだから、いささかにあくびが出ちまってさ」

 

 くそっ。涙を拭こうにも今手を離したらまた一から魔力を注がなきゃいけねぇ。

 

「にはは、待たせてごめんね」

 

 そう言って、スカートからハンケチを取り出し、俺の涙を拭うチビ助。

 

「わ、わりィな」

「いーの、いーのっ。さっきボクの涙拭いてくれたお返しだよ」

「なんじゃそりゃ……」

「えへへっ」

 

 って。ちょっと待て!

 

「あーっ、手を離したらもっかい溜めなきゃなんねーんだぞ!」

「ふえーん、今おんなじことクーちゃんにも言われちゃったよお」

 

 なんて涙目でもう一度魔力を溜め始めるゆりな。

 おいおい。今度はお前が泣くのかィ、なんて思ってると、

 

「なんかさー。今日、ボクたち泣いてばっかりだよね」

「た、確かにそうだな」

『うっ。コロナもいっぱい泣いた気がするんです」

 

 言われてみれば今日一日でどんだけ泣いちまったことやら。

 だし子もすげェ泣いてたし。ランクBのコピー一匹の襲来でこれだもんなぁ。ランクAの模魔が来たらどうなっちまうんだろう。

 

「明日はいっぱい笑えるといいなぁ……」

 

 不意にゆりながそんなことをぼそりと呟く。

 明日、か。

 コピーを倒さなければ、明日は来ない。たとえあいつを倒したとしても、次々に現れる模魔、そして大魔を全て倒して捕獲しないと――ゆりなに明日はない。

 

 あんな目には、もう……。

 

 俺はトホホと唇を尖らせているチビ助を見つめて、小さくこう呟いた。

 

「……笑えるさ、きっと」

 

 すると、ゆりなは俺のほうを向いて、

 

「うんっ、しゃっちゃんと一緒にお風呂入る約束があるもんねっ。とっても楽しみだよぉ」

 

 と。八重歯を見せての満面の笑み。

 

「そ、そんな約束したっけ……」

「したもん! 破ったら雷千発だよって言ったもんっ。あ、でも入るのって今日だったっけ。まいいや、毎日一緒に入れば同じだもんね」

「ははは……毎日は勘弁してくれ」

 

 相変わらずっつうか、なんつーか。

 まあ、チビ助らしいけれども。

 

「あっ。クーちゃんが準備出来たって」

「オーケイ」

 

 さて、そんじゃま。風呂の約束もあるし、いい加減コピーさんには退場してもらいますかねェ。

 

「んじゃ、行くぜゆりな」

「うんっ、しゃっちゃん」

 

 目配せをして、二人同時に頷く。

 そして。

 

「よっこらっ……」

「いっせーの……」

 

 分銅を大きく持ち上げ――

 

「せっ!!!」

 

 掛け声とともに振り下ろす。

 途端、轟音とともに俺たちの頭上にとてつもなくデカい雷玉が舞った。

 

「どえええ、あんなに大きかったのかよ!?」

「ふわぁあ。本当だぁ。わーい! すっごいすっごいっ」

『か、簡易変身なのにこれだけの魔法作っちゃうだなんて……。パパさんと同じ新魔法少女さんになったらどうなっちゃうんですか、これ……』

 

 弧を描いてコピーに向かっていく大玉を見ながらそれぞれ感想をもらしていると、突然目の前がグラっと揺らいだ。

 そしてすぐさま襲ってきた凄まじい眠気に、俺はその場に倒れこんでしまった。

 

「しゃ、しゃっちゃん大丈夫!?」

「へ、平気平気……。魔法使い過ぎちまって少し眠いだけだから。それより、コピーを捕獲しに行ってくれ。このチャンスを逃したら、もう二度と捕まえられる気がしねェ」

「……うんっ、わかった。すぐ戻ってくるからね!」

 

 真剣な顔で頷き、大跳躍で飛び去っていくそいつの頼もしい後ろ姿に、俺はふうっと息をついた。

 道路に大の字で寝っ転がり、満天の星空を見上げる。

 

「いっひっひ……やった、ぞ……。なぁにが、最強のランクBだ……」

 

 感動の言葉を並べまくりたいところだけれども、いささかに眠くてそれどころじゃねェ。

 これで実は倒せてませんでした、なんてオチだけは勘弁してもらいたいぜ。

 ブイサインをしながら帰ってくるゆりなの笑顔を期待しつつ、少しだけ眠ろうとしたそのとき。

 なにか足音が近づいてきたかと思うと、俺を見下ろす黒い影が現れた。

 

「しゃ、シャオ……か?」

「…………」

 

 黒いバイザーに黒いマント。肩には黒猫――いや、クロエが乗っかっていた。

 

「え……?」

 

 複雑な表情で俺を見下ろす黒猫に、

 

「な、なんで、クロが、そんなところ、に……」

 

 訊ねてみようとするが、あまりの眠気に言葉が途切れ途切れになってしまう。

 やがて眠りに落ちる寸前。シャオはバイザーを脱いで唇に微笑をたたえた。

 そして、

 

「長い永い三日目の終焉。次は三十日後……でも、今はゆっくりとおやすみなさい」

 

 そう呟くと、黒い指輪にそっと口づけをした。

 

+ + +

 

 vs第十四番模造魔宝石コピー・ザ・ヨムリエル編 完


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