魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第七十一石:脱皮

 

「うっ」

 

 あまりの眩しさに、とっさに目を閉じる。

 ダッシュが融合したときのように、俺のコスチュームがどんどんと脱がされていくのを感じた。

 すぐに新しいコスチュームが装着されていってるみたいだが――やけにスースーするぞ。こいつは、もしかして……。

 チラッとだけ確認。

 

「げげっ、あの衣装かィ……」

 

 さっきまでの新魔法少女と似たような白を基調とした色だが、やはりというべきか、ダッシュのコスとデザインはまったく同じだった。

 うむむむ。スカート丈は短いし、胸元はガバっと見せてるしで、なんつーかその……か、かなり恥ずかしい格好だぜ。

 

 ダッシュを取り込んだからパワーアップはしているのだろうけれども。こんなに色々と露出が増えると、いささかに防御面が不安になってきたぞ。

 目をつむりながらそんなことを考えていると、光輪が俺の髪をセットし終えたらしく、ピカッとフラッシュした。

 その光は変身終了の合図。そっと目を開けて、改めて自分の格好を確認してみる。

 ううっ、やっぱりあの衣装だ……。

 

「このスカートと胸元よォ……どうにかならねェもんかね、チビチビ」

 

 と。コロ美の意見を聞いてみようとすると、

 

『そんなことを言ってる暇ないんです、その力は長くはもたないのですっ!』

「えっ! そ、そうなのかィ」

 

 パワーアップと言っても、少しの間だけなのか。

 まあ。長時間この格好でいるのもアレだし、むしろ良かったのかもな……。

 とりあえず、とばかりに俺は杖を持ち直すと、

 

「オーケイ。そんじゃま……とっとと、やりますかってなもんで! ぷゆゆんぷゆん、ぷいぷいぷうっ、すいすい『エメラルドダスト』!」

 

 俺様、一番の大魔法をぶっ放してみる。杖から水蒸気が飛び出し、やがて無数の細氷がコピーの全身へと降り注ぐ。

 さてさて、威力はどんなもんかねェ。穴ボコだらけになって一瞬で倒れちまったりして。

 

「ありゃ? そこまで強くないような……」

 

 コピーの羽や脚は若干凍っているし、動きもまあまあ鈍っている。でも、ダメージはそれほどでもないみたいだった。

 これじゃあ、今まで撃ってたダストと変わらねーじゃねぇか。

 

『おまえさん、その呪文だとあななの力が入らないし』

「うおっ、だし子!? お前さんどこから喋ってんだァ」

 

 キョロキョロと周りを見ていると、

 

『あなな、おまえさんの中に今いるしっ。ふかふかぽかぽかで暖かいの!』

『パパさん、ダッシュとの融合魔法の場合『エメラルド』じゃダメなんですっ』

 

 なんて、左右から聞こえてくるからたまったもんじゃねェ。

 

「どわわ、わーったからステレオで喋るな、チビども!」

『チビじゃないしっ、今はご主人様よりデッカいし!』

『コロナだって、元の姿になったらパパさんの百倍はおっきいんですっ』

「だ、だぁら、うるせぇえっての!」

 

 ったく。一人でもアレなのに、だし子まで俺の中に入ってるから、なおさら騒がしいぜ……。

 とにかく。今は漫才をしている場合じゃない。

 このパワーアップモードが終わっちまう前に、なんでもいいから魔法を撃っちまわねぇと。

 

「んで、コロ美さんよォ。エメラルドじゃダメなら何がいいんでぇい」

『エメラルドだと、コロナの分しかプラスされないんです。なので……』

『あななの金色の力、『ゴールデン』を使うの!』

 

 なーるほどね。

 

「オーケイ、翠じゃなくて金で行けってことね。じゃあ早速やってみますんで……すいすい『ゴールデンダスト』ッ!」

 

 と。物は試しと、エメラルドダストと同じ要領で杖を振ってみたのだが――これがまた凄いのなんの。

 霊鳴が金ピカオーラに包まれたかと思うと、エメラルドのときより素早く水蒸気が昇り、即座に大量の飴ちゃんがコピーの体を貫いちまった。

 

「うっわ……」

 

 そりゃ引きもするって。

 一瞬でカブト虫の巨体が金色の氷の中に埋まってしまったんだからな。

 

『パパさん! 今なんですっ』

「お、おうっ!」

 

 続けざまに、羽を開いてコピーへと近づこうとしたのだけれども。

 

「ちょちょ、ちょっと、速すぎるって! ひぇええ」

 

 羽も強化されているのか、速すぎてコントロールが上手くいかねえぞ!

 手前で止まってアクアサーベルで斬りつけようと思っていたのに、あれよあれよとコピーの腹へと突っ込んで行ってしまう。

 

「ブレーキ、ブレーキ! あれ、いつもどうやって止めてたっけ!? コロ美、ちょっと運転代わってくれぇえ」

 

 半ばパニックになってると、

 

『コロナも止めてるですが、言うこと聞かないんですっ』

『うーっ、あななもやってみてるけど……ダメっ、全然この羽止まらないし!』

 

 二人も大パニック。

 

「ふんぎゅっ!」

 

 あのスピードを制御出来るハズもなく、氷塊に大激突してしまった。

 

「あいててて。しこたま鼻を打っちまったぜ……。無い胸もさらにヘコんじまったような」

 

 と。鼻と胸をさすってると、ぽむっという乾いた音とともに、胸の宝石からダッシュの石が飛び出してきたではないか。

 

「うわ、とっと」

 

 慌ててキャッチしたはいいが……まさかこれって。

 ちょっち自分の姿を確認してみると――げげっ、新魔法少女の格好に戻っちまってるじゃねーか!

 

『じ、時間切れなんです……』

「えーっ!? もうパワーアップモードお終いかよ!」

 

 いくらなんでも早すぎるぞ。五分ももたなかった気がするぜ。

 そうガックリ肩を落としていたそのとき、目の前の氷が急に輝き出したではないか。

 おおっ、ゴールデンダストはまだ効いたままなんだな。

 もしかして、この光は追加攻撃でもしようとしているのか?

 

 と、期待していたのだけれども……俺はコピーの頭上を見上げて愕然とした。

 なぜなら、赤黒い光輪が急速回転を始めていたからだ。

 次の瞬間。光輪から強力な赤い光が発せられる。

 これは、ホバーが精神干渉波を繰り出したときの発狂モードと似ているような――

 

「この光……う、嘘だろ、おい」

 

 俺がシャオの言っていた『脱皮』というワードを思い出したのと同時に、

 

『肯定。ついに脱皮が始まってしまったんです……』

 

 コロナが静かに、しかしハッキリと呟いた。

 

 脱皮――

 その場合、かなり厄介なことになるとあいつは言っていた。

 おそらくハチマキ娘と融合したさっきの俺みたいに強化されるのだろう。

 

「くっ……」

 

 ゴールデンダストの氷を穴だらけの羽で払いつつ、巨大な体躯をモゾモゾと動かすコピー。

 それにともない、黒の外殻が鈍い音を響かせて一つ二つと剥がれ落ちていく。

 そして中から顔を覗かせたのは、白く濁った色をした柔らかそうな殻だった。

 

「これはこれは。ノンキに脱皮タイムかィ。いやはや、いささかに舐められたもんだねェ。だがね、こちとら指を咥えて見ている程お人好しじゃなくってねぇッ!」

 

 言って、俺は再びダッシュの宝石を胸に押し込んだ。

 もう一度。少しの間だけでもいい。だし子の力とコロ美の力を融合させてあの姿に、『スノウシャイン』に変身することが出来たら――こんな無防備なヤツなんて一瞬で!

 

『あっ、ダメなんです、パパさんっ!』

 

 コロナの止めようとする声と同時に、胸からダッシュの宝石が凄まじい勢いで飛び出す。

 

「!?」

 

 それはすぐそばの電柱へぶつかると、二、三度ほどコンクリートの上を跳ねてドブの中に落ちてしまった。

 

「だ、だし子!」

 

 慌ててそれを拾い上げ、スカートの裾でゴシゴシ汚れを拭いてる俺に、

 

『ダッシュの力を借りるのは一日に一回が限度だと思うんです。普通に召喚するよりも、格段に魔力の消費が激しいのです』

「そうだったのか……ごめんな」

 

 考えてみれば、今日一日だけで何回も召喚してるし、融合変身なんてのもやってるんだよな。

 いくら、こき使ってもいいって言われても――さすがにこれ以上無理させるワケにはいかねェ。

 

 そう思いながら拭き続けていると、石がするっと俺の手から抜け出して光り輝いた。

 その光の中から現れたのは、ショートカットの金髪に赤いハチマキ、そして体操服といった元の姿に戻ったダッシュだった。

 フラフラのそいつは、ぺたんとその場に座り込むと、なんとも申し訳なさそうな顔でメモ帳の切れ端を俺に見せる。

 それには、『あなな、へーき、よゆう。だから、もいちど石になる。無理やり、おまえさんが入れれば、たぶん、変身、また出来るし』と書かれていた。

 

「無理やりって……言われてもよォ」

『模魔なのに、どうしてそこまでパパさんのことを……』

 

 唇を噛んでいる俺に、ニコっと微笑むハチマキ娘。 

 

「……わかりましたんで。あいつを倒すには脱皮してる今しかないもんな。確実な方法は融合変身による魔法――そうだよな、だし子?」

 

 俺の言葉に、コクリと頷く。

 そいつの汗に濡れた金髪をグシグシ撫でて、俺は言葉を続けた。  

 

「それしか方法が無いってんなら仕方がねェ。よし、さっそく石になってくれ」

『パパさん!? 無理やり押し込んだら今度こそ本当にダッシュが死んじゃうかもしれないんですっ! ダメなのです、他に方法があるかもなのですっ』

「……いっひっひ。だし子、お前さんには聞こえねぇかもしれないが、コロ美がかなり心配してるぜ。壊れちまうかもしれねーからダメだ、他の方法を探せってさ」

 

 そう言うと、チビ鮫は少しだけ驚いた顔をした。

 だがすぐに照れくさそうな笑顔に変えて、

 

『大魔宝石様は、あななみたいな模造魔宝石のことなんか、心配しなくていいし。そのぶん、ご主人様のことを、いっぱい、いっぱい、心配して欲しいなって、守って欲しいなって、あななは思うの』

『ダッシュ……』

 

 たどたどしく言った後、宝石へと姿を変えるダッシュ。

 熱くなっているその石をひょいっと掴んだ俺に、

 

『否定。ダッシュは、死ぬ気なんです! 全ての魔力を使ってパパさんと融合するつもりなんですっ』

「あっちっち。いやー、石風邪ひいたコロ美レベルの熱さだねぇ。ま、俺様の手はひんやりしているからすぐに冷やしてやんよ」

『否定、否定否定、ひていっ! パパさん、ダメなのです!』

「だあぁあ! うるせーなァ、ちったぁ落ち着けよバカチビ。誰がせっかく直ったダッシュを壊すような真似なんてするかよ」

 

 と、俺は宝石をスカートのポッケに押し込んでポムポム叩く。そんでもって、『ふへ? 意味がわからんのですっ』なんて言ってるコロ美に、

 

「無理しなくていいから宝石に戻れって言っても素直に聞くヤツじゃねーからな。だからああ言って手っ取り早く宝石になってもらったワケ。あとはそのままポッケに入れて休ませるだけ。お分かり?」

『……むーっ! パパさんの言い方がとっても紛らわしかったんですっ!』

 

 ぷんすこ怒ってるコロナに俺は少しだけ笑った後、

 

「わりィわりィ。でもよ、あいつの真っ直ぐな優しさを、他の模魔とは違うってところを……チビチビに知っておいて欲しかったんだ。いささかに良い機会だと思ってね」

『あ、う……』

「さーてさてと」

 

 言葉を紡げずにいるそいつを尻目に、俺は未だに脱皮に夢中なコピーを見上げる。

 もしこの場にシャオがいたら、またふざけやがってと罵倒されるかもしれないけれども――俺には一つ、策があった。


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