魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第六十九石:急げ!

「……で、いつになったら出られるんでしょうね、こりゃあ」

 

 あれから三分ほど経ったが、まったくもって終着点が見えてこねェ。

 周りの景色は真っ暗なままだし、ダッシュの姿は見当たらないしで……いよいよ不安になってきたぞ。

 うーむ。このまま闇の中で野垂れ死にとか、さすがにイヤ過ぎるぜ。

 てか。考えてみりゃあ、あのシャオが召喚したシャドーの中を通るだなんて、フツーに自殺行為のような……。

 

「ハハハ。ま、まさかな。いくら性格がアレでも、さすがにそんな非道なことはしねェって。うんうん、俺はハッピーレッドちゃんを信じてるぜ」

 

 なんて額に脂汗をかきつつ一人で頷いてると、

 

「うっぷ!?」

 

 突然、顔にムニュっとした柔らかい感触が飛び込んできたではないか。

 なんだなんだと、その物体を両手でグイグイ押し戻そうとすると、

 

「ひゃうっ……! お、おまえさん、あなな、あななだし!」

「なんでぇい、だし子だったのか。驚かせやがってからに」

 

 どうやらダッシュのケツに顔を突っ込んでしまっていたみたいだ。

 そいつは変身したときのような輝きを全身に纏うと、食い込んだブルマを直しつつ、

 

「んーとね。あなな、ちょっとここでおまえさん待ってたし。このまま落ちてくより、あななに乗ったほうが速いと思うの」

「乗ったほうがって速いって言われましても。なに、おんぶでもしてくれるワケ?」 

「ちっちっちー! 違うんだなー、これが」

 

 言うと同時に、巨大な黄金の鮫へと姿を変えるダッシュ。

 おおーっ、そういや元の姿は鮫だったっけか。でも、以前より一回り小さいような気もするな。

 そんなことを考えていると、そいつは胸ビレを曲げて自分の背中をちょいちょいと指した。

 

「まさか乗れって、そういう意味……? い、いささかに恐いのだけれども」

 

 おそるおそる乗ってみると、エンジン音よろしく喉を鳴らして――急発進。

 

「ひいいっ!」

 

 なんてスピードでぇい! 目を開けてられねぇぜ、こいつは。

 必死に背ビレに掴まること数十秒。闇が晴れてきたかと思うと、あっという間に空を割って飛び出す俺たち。

 

「うっひょー、すっげぇ速ぇええ! 気ん持ち良いぜぇ!」

 

 って。ダメだダメだ。

 こんなに浮かれてちゃあ、ダメだってぇの。

 時園で見た映像を思い出し、俺は気を引き締める。

 あんな惨劇、二度と見たくねぇ……!

 

「ダッシュ、どんなタイミングで帰ってきたのか分からないけれども、とりあえず俺の体を探してくれっ」

 

 たしか、俺が気を失ったと同時に魂が持って行かれちまったんだよな。

 するってぇと、つまるところその直後の世界に戻ってきたと考えるのがベターだろう。

 時園に居た時間がカウントされていたら絶望的だが、だとしたらそもそもネムは俺をこの世界に帰そうとしないワケで――

 

「あー、ごちゃごちゃ考えるのクソめんどくせぇ!」

 

 キーッと頭をかきむしったそのときだ。

 暴風雪とともに、俺たちの横を飛び抜けていく巨大な蝶。

 あれは、まさしくコロナ……!

 脚には大事そうに俺の体を抱えている。やっぱり、ここは俺が気絶した直後の世界だな。

 あいつがコピーに向かっていく前に、なんとかして止めねーと。

 

「いたぞ、コロ美を追ってくれ! このままじゃ、あいつはコピーと戦って死んでしまうっ」

 

 モノアイを光らせ、さらに加速するダッシュ。

 俺はそいつの背中を撫でながら、霊鳴を呼びつけた。

 体に戻った際、いち早く変身してゆりなのもとへ駆けつけるように……これからは時間との勝負だ。

 

「弐式、ちょっちハードな戦いになるかもしれねぇけれども、そこんとこヨロシクってなもんで」

 

 俺の周りを浮遊する蒼の宝石にそう言うと、二つほど元気にフラッシュして答える。

 やがてコロ美のもとへとたどり着いたダッシュは、強引に体当たりをかました。

 とはいえ、今は一回り小さい鮫だ、巨大モードのコロナとは雲泥の差。

 蚊に刺された程度だろう、不思議そうに触覚をピンと立たせたそいつは、ゆっくりと振り向いて――

 

「パ、パパさんっ!」

 

 と。俺を見るなり園児の姿に戻ってしまったではないか。

 

「あっ、バカ!!」

 

 叫んでしまうのも無理はねェって。

 そいつが脚に抱えていた俺の体が、急速落下していくんだからな。

 慌てた俺はとっさに、

 

「やばいっ! 霊鳴ちゃん、なんとかしてくれぇいっ」

 

 叫ぶと、合点承知の助とばかりに俺の下に飛び込み、バカデカいしゃぼん玉を生み出す弐式。

 その反動からか、トランポリンのようにこちらへと跳ねてきた体に、

 

「今だッ」

 

 と、勢い良く飛び込んだ。

 いやはや。いちかばちかの賭けだったが、なんとかなったようで……。

 

「くーっ、久々の生身だぜっ! ちょっと腰と膝と肩と腕と首が痛いけれども、まあなんとかなるっしょ」

 

 果たして自分の体と無事再開となった俺は、追ってきたダッシュに飛び乗り、唖然としてるコロナの額をつつく。

 

「おーい、なにを呆けてやがんでぇい。コロ美ちゃんよォ」

「うっ、パパさんだ。パパさんだぁあっ……!」

 

 くしゃくしゃの顔で俺の胸に抱きつくコロナ。

 俺の体を落としやがってと悪態をつきたかったところだけれども、こんな泣き顔を見せられちゃあ何も言えねェぜ……。

 いや――その前に助けてもらった礼がまだだったな。

 

「俺のこと拾い上げてくれたんだよな。ありがとよ、チビチビ」

 

 そう頭を撫でたら、ますます泣き出したから手に負えない。

 うーむむ。

 

「悪ィけれども、あまり泣くと魔力が無くなっちまうぜ。これから一仕事残ってるんだからさァ」

 

 すると、そいつは鼻水を垂らしながら、

 

「……一仕事って、なんです?」

 

 見上げたそいつの頭にポンっと手を乗せる。

 

「決まってるじゃんか。変身して、カブト虫ヤロウをぎったんぎったんにブッ倒すんでぇい」

「ひ、否定。コピーは強すぎるのです……パパさんは逃げるんです。あとは旧魔法少女さんがなんとかしてくれるです」

「――否定を否定する。俺は、もう逃げない」

 

 ふざけた調子は一旦やめにして、俺は真面目なトーンでチビチビの目を見つめた。

 

「ゆりなにも、お前にも、ダッシュにも、俺は守られ続けた。守られ……過ぎてしまったんだ。もう逃げるのはイヤなんだよ。チビたちが頑張ってる中、男の俺が背中を見せて逃げるなんざ、いささかに格好がつかねェ。体は女になっちまっても、中身は男のままであり続けたいんだ。だから、頼む。力を貸してくれ」


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