魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第六石:雷と氷、どっちが強い?

「よーし! 『アイスウォーター』ちゃん、かかってきなさい!」

 

 ふよふよと滞空しながら、

 

「クロエが魂よ、我に漆黒の雷を宿せっ」

 

 ゆりなが叫ぶと同時に、杖に黒い電流が走った。

 何か攻撃を繰り出すのか?

 期待をしつつ待ってみるが、

 

「えーと……しゃっちゃん。それから、なんて言うんだっけ」

「あ、あのなァ……」

 

 ったく、俺に訊くなって。

 さっきは少しばかり凛々しい顔つきになったなと思ったのだが、いやはや。

 

「イカズチ? 憑いてるのはお姉ちゃまなのに。あ、そっか。今回は……」

 

 目は眠そうなままだが、怪訝そうに眉をピクっと動かして、

 

「分が悪いかもです。だったら、」

 

 自分の手の平に息を吹きかける。

 こりゃあ、なにしてんだ?

 

「ふぅーっ」

 

 おお。見る見るうちに小さな氷のつぶてが生まれていくではないか。

 中々に便利そうな魔法ではあるな。夏場とか特にもってこいだ。

 

 いやいや。それよりも。

 ゆりなはさっき『アイスウォーター』とコロ美を呼んでいたな。

 多分、察するにクロエから教わった異名とかだろう。

 氷と水の使い手らしいからな。

 氷に、水か……一体どんなエグい攻撃をするんだろうねェ?

 

「でけた」

 

 やがて完成した氷の塊を握りしめると、コロナが跳躍――いやコレは飛翔と言ったほうが正しいか。

 煌めく羽を羽ばたかせて、ぐんぐんゆりなに接近し、

 

「ほよ?」

 

 ぼけっと見上げたゆりなの服、胸元を引っ張ると、

 

「ポイ捨てごめんです」

 

 氷を入れた。

 

「ひやぁあああ! つめたーいっ!」

 

 ……そして墜落するゆりな。

 

「こ、今度は背中のほうに移動してる! ひーん、一張羅がビショビショだよぅ」

 

 なんて落ちたあともドレスをばっさばっさやりながら氷を取り出そうと格闘している。

 あー……。

 すまないが、ちぃっとばっかし言わせてくれ。

 

「って、なんなんだァ! この拍子抜けするようなバトルは! チビ助、お前それでも魔法少女のプロかっ」

「どぅわってー、魔法出すときの呪文忘れちゃったんだもん。それにプロじゃないしぃ」

 

 ぷーっと頬をふくらますそいつに、

 

「……旧魔法少女さん。呪文は、『ぽよよん、ぽいぽい、ぽん』なのです。

 ちゃんと取り扱い説明書の十三ページに載ってるです。予習しとかないと、めっですよ」

 

 若干、呆れた口調のコロナが言った。

 つーか取説なんてモンがあるのかい。

 

「あ。そうそう、それそれ! ありがとうアイスウォーターちゃん」

「お礼はいいので。呪文でコロナに攻撃お願いします。ちょっと旧魔法少女さんがどれくらい魔力あるのか確かめてみたいので」

「うん、いーよ。でもちょっと、休憩ね。疲れちゃった」

「……肯定するです。コロナも久々に羽を伸ばして背中が痛いのです」

「にゃはは、霊獣さんも大変なんだねー。その羽かっくいーけど、肩こっちゃいそうかも」

「それもあるですけど、鱗粉が多い日はかゆくてたまらないのが大変です」

「ふぇ~、そうなんだぁ」

 

 なんてほのぼのと談笑し始めたではないか。

 こ、こいつらには緊迫感ってモンが足りねェ。

 っかぁああ! 魔法少女ってヤツァ、こんなんでいいのかよ……。

 

+  +  +

 

 数分後。

 

「あのよぉ、おめぇさん方、いつまでダベってるつもりだィ?」

 

 痺れを切らし、ため息がてら言ってみる。

 すると、コロナがハッとした様子で、

 

「し、しまったです。危うく懐柔されちゃうところでした。旧魔法少女さんおそるべし。

 さぁ、休憩終わりです。はやく魔法どーんと来いです!」

 

 立ち上がり、憤然と両手を広げるチビチビ助に、

 

「え……うん」

 

 立ち上がり、悄然と杖を構えるチビ助。

 足元に小さめの黒い魔法陣が浮かび上がった。

 いよいよ、マトモな魔法が間近で見られるな。

 彼女は一つ深呼吸をした後、

 

「ぽぉ~よよん、ぽいぽいー、ぽんっ! らいらい、『ライトニング』!」

 

 振った杖から、やる気のかけらも感じられない電撃がちょろっと出た。

 そいつはコロナを避けるように身をくねらせると、はるか空の向こうに消えてしまった。

 なんなんスか今の。

 

「なーんでィなんでィ、登場は派手なクセに魔法はからっきし、」

 

 俺が言い終えるよりも前に、

 

「……否定。それ、本気なのですか?」

 

 苛立ちの混じった声に遮られた。

 コロナは両手を広げたまま、キッとゆりなを睨みつけている。

 あのトロンとした目ではない。

 なんか知らんが、口を出せる雰囲気じゃなさそうだ。

 

「にゃはは。ごめんね、あれがボクの本気なんだよぅ。まだこういうの全然慣れてなくって」

 

 笑いながら頭をかくゆりなに、

 

「そんなウソで騙されないです。貴女の素質からして、あんな魔法――。コロナをバカにしているとしか思えません」

「……ううん、バカにしてなんかないよ。きっとキミは霊獣さんだから、ボクが本気で雷を出してもへっちゃらだったと思う」

 

 でもさ、と付け足してゆりなは微笑んだ。

 

「痛いよね。いくら霊獣さんは丈夫だって言っても」

「……え?」

 

 コロナの服についた砂埃を優しくポンポンと手で落としながら、

 

「さっきね、お話してて思ったんだ。どうして戦わなきゃいけないんだろう、こんなに楽しくお喋りが出来るんだもん、きっとすぐに仲良くなれるのになぁって。

 クーちゃんからは、霊獣さんはとっても怖いモノだって教わったんだけど……。そうは思えなかったの、少なくともキミはね」

 

 それじゃあ、あのカミナリは傷つけないためにワザと外したってわけだったのか。

 

「旧魔法少女さん……」

 

 そう呟くと、俯いてしまった。

 おやおや――仕方ねぇな。

 ようやく腰も落ち着いた俺は立ち上がって、

 

「ま。ま。霊獣だの厄災だのっつっても、姿が姿だからなァ。俺様だって、こんなちんちくりんに魔法ぶっ放したくねーし。気が引けるってそりゃ」

 

 コロナの頭をペシペシ叩きながら言ってやる。

 

「ぱ、パパさん……」 

「えへへ。しゃっちゃんの言うとおり、ちっちゃいからっていうのもあるかも。あと……それとなんだか、キミが無理をしてるような気がしたの」

 

 無理って、どういうこった?

 俺が訊くと、ゆりなはうーんと考える素振りをみせて、

 

「なんていうのかなぁ。上手く言えないけど、ほんとにアイスウォーターちゃんはボクと戦いたいのかなぁって」

 

 ふぅむ。

 確かに、なんとなくモヤモヤするから、で宣戦布告はオカシイよな。

 それに死んじゃってくださいって言ったワリには、戦わずによくわからん行動ばかりとっていたし。

 

「ひ、否定です。考えすぎなのです。……コロナは、ただ旧魔法少女さんの力がどれだけあるのか確かめたかったのです。

 確かめたらすぐにでも貴女を倒すです」

 

 だとよ。

 さて、どうするチビ助。

 

「そっか。でも、ボクはキミに魔法うちたくないし……。じゃ、こうしよーよ!

 これからボクが石を集めるときに一緒についてくるの。近くで魔法を見ればボクの力を確かめられるんじゃないかな」 

「それって、旧魔法少女さんと契約しろってことですか? ……否定です。ヤ、なのです」

 

 と、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 だが、ゆりなはニッコリ笑顔で首を振って、

 

「んーん。ボクじゃなくって新魔法少女さんの、しゃっちゃんと、だよっ」

 

 杖で俺を指した。

 

「おいおい、人を杖で指してくれるなよ。お行儀が悪い……って、えええっ!?」

 

 どどどどどういう意味だ、そいつァ!

 俺が困惑していると、コロナがこちらに振り返って、

 

「それなら肯定です。パパさんとなら喜んでするです。ふつつかものですが、ヨロシクお願い致しますのです」

 

 丁寧なお辞儀をぶちかましやがった。

 いやいやいや、待て待て。

 俺にだって選ぶ権利っつーもんが……いや、そうじゃなくてだな。

 むしろ、それ以前に魔法使いをやりたくねーんだってェの。

 

「わーいっ、しゃっちゃん、わーい! これで杖も霊獣さんもバッチリだね、ぶいっ!」

 

 だね、って言われましても。

 

「だからよォ、俺は……」

「パパさん。旧魔法少女さんに負けないように、コロナと力を合わせて頑張るです。えいえいおー、ぶいぶいっ」

 

 こ、こいつら、人の話を聞きやしねェ。

 しかも二人してVサインをかましやがって。

 それ、この世界で流行ってるのかよ。

 

 ……いやはや。しかしながらに。

 いよいよマズいかもしれないな、このままだと……。


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