魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
「了解だし……!」
力強く頷き、目を閉じる。
そして過去の自分から呪文を聞き終えたのだろう、そいつは一つ深呼吸をしてから、
「我は欲す。汝が纏う忌むべき力を! お願い、過去のあなな……力を貸して!」
自分の小指にはめている金色の指輪にキスをするダッシュ。
ふーん……呪文つっても、模魔の完全召喚のときと似たようなもんか。
と。思っていたのだが、そいつは続けてこう叫んだ。
「サクラヴィ! デュアル――アゲイン!」
「へっ? さ、さくら海老ジュワッと揚げ……?」
どうしていきなり海老の揚げモンを叫ぶんだ? もしかしてコイツ、腹でも減ってんのかね。
そう首をひねっていると、突然ハチマキ娘の背後に過去のダッシュが現れたではないか。
黄金色に輝く過去の少女は目を閉じたままのハチマキ娘に優しく微笑みかけると、そっと頬にキスをして抱きしめる。
その瞬間、少女は一つの大きな光の輪になったかと思うと、緩慢な動きでダッシュの頭を包み込んだ。
次に、輪が頭から足先にかけて移動していき、どんどんとハチマキ娘の服が脱がされていく。
「あんれま、こりゃまた大胆なこって」
やがて真っ裸になったとき、今度は輪が足先から胸まで駆け上がっていき――それとともに黄色のコスチュームが装着されていった。
って、待てよ。なんだこのコスチュームは……。
フリフリのスカートは旧魔法少女っぽいような気もするけれども、それよりもかなり短いし、上半身は俺の新魔法少女に似ているが……もっと露出度が増している。
「ゆりなの旧コスでもないし、俺の新コスでもないぞ。こりゃ一体なんなんでェい……」
あんぐり口を開けている俺を尻目に、今度は光の輪がダッシュの髪をまとめていく。
と言っても、ストレートロングという髪型のままだった。どうやらボサボサだった長い髪を綺麗にしただけらしい。
そんでもって、髪の仕上げを済ませたそいつは、ちょいと失礼とばかりに俺の小指をまさぐり、赤い糸をいそいそと持ち出していく。
「何故に糸を持ってくんだ?」
なんて思っていると、その糸はハチマキに――いや、リボンへと変わっていった。
それを長い金髪に可愛く添えると、光輪はふよふよとそいつの頭上に乗っかり、きらりんと光を放つ。
そんな変身終了の合図に、それまで目をつぶっていたダッシュは水色の瞳をゆっくりと開けて、
「ゆ、融合開花……ラヴ・シャイン!」
と。
どこぞの戦隊モノのキャラのようにポーズを決めたではないか。
「…………」
もちろん、俺のあんぐり口はそのまま。
それに加えて目が点になっていたのだけれども――まあ、とりあえず、これだけは言っておこう。
コホンと咳払い一つしたあと、俺は得意満面のそいつに向かって、
「なんでぇい、そのヘンチクリンな決めポーズと名前は!」
とツッコんだ。
しかし、そんなツッコみもどこ吹く風。
そいつは無駄にキラキラ輝く星マシンガンを周囲にまき散らしながら、
「キラッとピカッと! 二つの光が今、希望のともし火へと――」
なおもそんな前口上を続けようとしやがったので、
「だぁら、人の話を聞きやがれってんだっ!」
一発だけ後頭部にフロストチョップをお見舞いしておく。
「あううーっ。痛いしぃ。ご主人さまぁ、どーしてあなな殴るのぉ……」
頭を押さえながら涙目で見上げるそいつの鼻先に、指をグイッと突きつける。
「どーしてもこーしても、なんなんだよその『ブラ社員』とかいうヘンタイみてぇな名前は!」
「違うしっ、ラヴシャインだし! ブラじゃなくて、ラヴっ!」
「どっちも似たようなもんだろ。つーか、そのふざけた名前は自分で考えてつけたワケ……?」
腕を組んだままの状態で眉を寄せるといった、イラ立ち顔マックスの俺に焦ったのか、だし子は首をぶんぶんと振って、
「だ、だってぇ、過去のあなながそう言えってゆーから言っただけだし……。あなな、ふざけてなんかないもん」
「じゃあ、やっぱりお前のせいじゃねーかっ!」
「あうーっ! あななだけど、あななじゃないしっ。おまえさんの分からず屋ぁ!」
「あんだとォ、ご主人様に向かってなんでぇいその可愛くねェ態度はッ」
そんな言い合いをしていたときだ、ふと冷たい何かが上空から降ってきて俺の頬を掠めた。
「!?」
足元に刺さった黄緑色のツララに驚愕する俺。
やや遅れて頬にピリッとした痛みが走る。
「この氷は……まさか、コロ美!?」
「ご主人様、上!」
ハチマキ娘の指差す方向に顔を向けると、そこにはコロナじゃなく……蝶の影が舞っていた。
そいつは集束よろしくエメラルドグリーンの眩い光を放ちながら、さらにいくつものツララを作り出していく。
その数――数十にも及ぶ膨大な量だぞ。
「こ、今度こそ、あななが守るから……」
そう言って俺の前に歩み出たはいいけれども――声がいささかに震えてるじゃねーか。
周りにボコボコと現れた影達も激昂しているのか、みんな一様に眼を光らせてダッシュを警戒している。
まずい――
融合に成功したとはいえ、成ったばかりのあいつにはいくらなんでも荷が重過ぎる。
ダメだな……これはさすがに俺も霊鳴を振っていかねェと。
そう、弐式を強く握り締めた次の瞬間。
目の前にいきなり巨大な暗闇が現れたかと思うと、その中からウネウネと蠢くモノが飛び出した。
その触手のようなモノは次々と影に巻きつき、暗闇の中へと強引に引きずり込んでいく。
「えっ、えっ? これご主人様が出してるの?」
「いや、俺はこんなデタラメな魔宝石持ってねェし」
「じゃあ、もしかして……」
「…………」
顔を見合わせてゴクリと喉を鳴らす俺たち。
もしかしなくとも、こんな芸当が出来るヤツは一人しかいないワケで。
最後までツララ乱射で抵抗した蝶もあっけなく闇に喰われたところで、今までつくねんと立っていたネームレスが口を開いた。
「赤の魔法少女……。せっかくアナナエルの力を試す良い機会だったのに。どうして貴女が手を出すの?」
「どうして? どうしてですってぇ……? それはコッチのセリフだわ」
イライラした様子で暗闇の中からノッソリと現れたのは、やはりというべきか――シャオメイだった。
そいつは、目元を覆う黒いバイザーのような妙な機械を装着していた。
そのバイザーの中央に赤い光の波が一つ走ったかと思うと、
「こいつが、ダッシュ・ザ・アナナエルだっていうの? ランクEからランクD並みの魔気力になって生き返ってるだなんて……ふざけたことをしてくれたものね。こんな冒涜、あたしは認めないわよ」
「……貴女が認める必要はない。そう私は判断する」
淡々とした眼帯娘の返しに、ますます怒りをあらわにしたシャオは、
「ピース様のメイド風情が、この紗華夢 夜紅サマに意見をするってぇの!?」
なんてネームレスの胸倉を掴んでしまったではないか。
しかし、掴まれたそいつも止せばいいのに、火に油よろしく、
「紗華夢はこの世にたった一人だけの存在。だから、私は貴女を赤の魔法少女と認識する」
「チッ。相変わらず話にならないわね、このバカ女は……」
なんだこいつら、似たような格好してるクセに果てしなく仲が悪そうだな……。
「こ、恐いし……」
消え入りそうな声と、引っ張られる俺のスカート。
後ろを見やると、シャオを見て完全にすくみあがっているハチマキ娘がいた。