魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第六十四石:ああ、わかってるって

 あとは、ただ弐式をこいつの首にめがけて振り下ろすだけ。

 それでハチマキ娘は救われる。救われるんだ……。

 

 救われる? 本当に――?

 

 必死で守ろうとした相手に、首を落とされて死ぬのがこいつのシアワセ。

 声をかけるでもなく、声が届くでもなく。

 孤独なまま。泣いたまま。いきなりワケも分からずに殺される。 

 

 ご主人様に殺されるんだからそれがシアワセ。

 シアワセな最期――

 

「……そんな、のって。そんなのって、あんまりじゃねェかよ」

 

 頭では理解していた。今ここで殺さなければ、影がもっとひどい殺し方をする。

 でも。それでも、俺は……。

 キッと顔を上げた俺に、霊鳴が二回ほどフラッシュする。

 

「ああ、わかってるって。わりィなぁ試作型ちゃんよォ。なんも解ってないクセに偉そうなこと言っちまってさァ」

 

 なにが俺が介錯してやらないと、だ。

 なにが主人の為に出来ることを、だ。

 クソ、くだらねぇ……!

 

「ぷ~ゆゆん、ぷゆん。ぷいぷい、ぷぅ! 弐式ちゃん行くぜ、すいすい~『アクアサーベル』!」

 

 直後。待ってましたとばかりにブクブクと泡の弾ける音を立て、すぐさま氷の鉈から水の刀へと姿を変える霊鳴。

 コロ美がいなくて水付与が出来ないせいか、いささかに弱々しい水の刃だが、まあ影を切るだけならこれでも事足りるだろう。

 そいつを肩に乗せ、俺は周りを囲う影どもを睥睨した。

 

「くそったれども、よくも俺様の可愛い下僕を泣かせやがったなァ? 恐縮だけれども、その落とし前はキッチリつけさせてもらうぜ」

 

 言うと、一瞬だが影たちが怯むのが分かった。

 あいつらにとって俺は攻撃対象外。だから、どうしたらいいのか困惑しているのだろう。

 

「相手は戦意が無いみたいだぜ。気が引けるか、弐式?」

 

 一応、訊いてみたのだが――激しく光り、勢いよく蒸気を出す霊鳴に、俺はクツクツと笑った。

 

「怒り心頭に発する、ってかァ? いっひっひ、そらそうだよなァ。誰だってムカつくもんな。テメェの大切な人を傷つけられたらよォ!」

 

 言うが早いか。大跳躍し、サーベルを蝶に突き刺す。

 そして、そいつが霧散するよりも前に、俺はダッシュに一番近い狐を力任せになぎ払う。

 両前足を失ったそいつはたたらを踏んだのち、全身を炎に焼かれながら消えていった。

 その燃え散る音に気付いたのか、ダッシュが泣き顔をふと上げる。

 

「ひっぐ……。あ、あれ、霊鳴が、ひとりでに動いてる……?」

「バーカ。ひとりでに、じゃねーよ。俺もいるっつーの」

 

 そうだ。テメェは独りじゃないんだよ。力任せにそいつの髪をぐしぐし撫でつけてから、もう一度霊鳴に魔力を込める。

 

「行くぜ、弐式……」

 

 息つく間もなく、他の五匹も次々に水の刃で切り刻んでいく。

 動けずにいる相手だ。それは俺にとって造作も無いことだった。

 

「……何故、こんなことをするの?」

 

 全てを倒し、肩で息をしているとネームレスがそんなことを訊ねてきた。

 

「何故ってかァ? うーん……」

 

 俺は霊鳴を肩に担ぎ直し、霊薬の残量を確かめながらこう答えた。

 

「俺がバカだから、かねェ」

「バカ……?」

「正直、お前さんの言っている事がほとんどよくわからねーんだ。んで、こいつを俺が殺すことが本当の幸せだって言われても、いまいちピンと来なくてさァ」

「わからないなら、もう一度言う。何度切り刻もうが、影は忌むべき存在が生きている限り死なない。少し経てばまた彼女を襲う。また、彼女が怯える。だから、貴女が――主人である貴女が壊すのが一番。それがアナナエルの幸せな最期。そう、私は――」

 

 言い終えるよりも前に、俺はたまらず振り向いた。

 

「判断、するってか。勝手に。勝手にさァ……こいつの幸せを『判断』しないでやってくれよ。俺はハチマキ娘を殺したくないんだよ。死ぬ前も、死んでからも体を張って俺を守ろうとしてくれたヤツを、殺せるワケねぇじゃねえか」

「…………」

「このチビには生きていて欲しいんだ。俺の後ろで、だしだしとうるさく騒いでいて欲しいんだ。ただ単純に、そんだけなんだよ……」

「泣いて……いるの?」

 

 無表情娘が少しだけ驚いたような顔になっていた。

 

「え。な、泣いてなんか――」

 

 ギョッとして頬に手をあててみる。

 げげっ。ほんとだ、いつの間にか泣いてしまってたらしい。

 

「ち、違う違うっ。これは霊鳴の水っつうか、俺は水の魔法少女だから、色んなところから水がぴゅーぴゅー出やすくて……ちょ、ちょっち、たんま!」

 

 これ以上恥ずかしいところを見られるワケには、と。

 慌てて手に持っていたダッシュのハチマキで涙を拭ってしまった。

 

 その瞬間――

 突然、ハチマキがまばゆく輝いたかと思うと、勝手に俺の手から抜けだしてハチマキ娘の周りをグルグル回り出したではないか。

 

「ひえぇえ、なんでぇい!?」

 

 いきなりの怪奇現象に目を丸くしていると、それは一本の赤い糸へと変化した。

 

「わわっ!」 

 

 同じくビックリしているダッシュの左手の小指にするすると巻かれる赤い糸。

 そして、もう片方の糸が今度は俺の指輪に――右手の小指に巻かれていく。

 いったい何が起きたんだかと、ネームレスを見てみると、そいつはフゥと小さくため息をついていた。

 

「な、なに落ち着いて眺めてやがんでぇい! どうなってんだこりゃあ、説明してくれってばっ」

「説明……。それは私がする必要はない。そう、私は判断する」

「だから勝手に判断するんじゃ――うぐっ」

 

 なんだ、頭に直接なにかの映像が流れ込んでくるぞ……!

 こ、これは――ダッシュと、俺!?


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