魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第六十二石:謎の眼帯少女、ネームレス ☆

「どうして、ハチマキ娘が?」

 

 詠唱も無しに魔法を繰り出し、集った影達を次々に駆逐していくそいつに、ただただ唖然とするばかりだった。

 踊るような動きで華麗に金色の雷撃を放つダッシュ。

 そいつの出す魔法は呪文名や色こそ違えど、ゆりなの雷魔法にとてもよく似ていた。

 

 しかしながら――雷を使える霊獣と言えばクロエだよなぁ。ゆりなと契約しているはずなのに、なんで模魔のダッシュが当たり前のように使えてるんだ?

 それに、弐式だってそうだ。状況によって様々な武器へと瞬時に変化させているという、俺以上の使いこなしっぷり。

 ううむ。疑問符だらけで頭がパンクしちまいそうだぜ……。

 

「……理解不能。それは至極当然」

 

 背後から、やけにか細い声が聞こえたもんだから俺はビックリして、

 

「うわ、化けモノの次は幽霊か!?」

 

 と。青ざめた顔で振り向いたのだけれども。

 そこに突っ立っていたのは、黒い影チックな化けモノでもなく、白い影チックな幽霊でもなく……フツーの少女だった。

 

【挿絵表示】

 

 紫色のショートヘアに、左目は赤紫の瞳で右目は黒い眼帯という、いたってどこにでもいる――って、ちょっと待て。まったくもってフツーの少女じゃなかったぞ。

 

「なんでぇい、その海賊みたいな眼帯は。転んでどっかにぶつけちまったとか? それともモノモライにでもかかっちまったのかィ」

「…………」

「まさかまさか。本当に海賊で、今まさにお宝を探し中……とかなんとかだったりして。いや、でもここは花畑だからなぁ。海のウの字もねーし」

「…………」

「ガン無視っすか」

 

 というよりも、ガン見無視というべきか。

 その紫少女は俺より背が低く、こちらをジーッと見上げているワケなんだが……その眼力が凄まじいのなんのって。

 

「あのう、俺様の顔になんかついてんの?」

「…………」

 

 息が詰まりそうな沈黙。ま、まあ、いいか。

 そういえばやけに大きいマントを羽織っているな。あれ、つーかこのマントってシャオが身に付けていたマントの色違いじゃねーか?

 あいつのは黒かったが、この眼帯少女のは逆に真っ白だ。

 あとは留め具の宝石も、あっちは赤いルビーのような石がはめ込まれていたが、こっちは青い石がはめ込まれているという違いがある。

 違いはそれだけで、他はおそらく同じデザインか。

 

 ふうむ。シャオと何かしら繋がりでもあるのかねぇ……。そう、目を凝らしてじっくり見ていると、

 

「……私は幽霊じゃない。それに、海賊でもない。そう、私は判断する」

 

 俺を見上げていたそいつがぼそりと言った。

 なんつー、返答の遅さだ……。

 

「そ、そりゃまぁそーだわな。えーと、じゃあどなたさんで?」

 

 実は死神なんデス、なーんてオチはねぇよな。

 すると、そいつは静かにまばたきを一回だけして、

 

「私はピース様の使い。貴女を迎えに来た。それだけ」

「それだけって……名前は?」

「名前って、なに」

「えっ」

 

 一瞬、おちょくられてるのかとも思ったが……。

 無表情で首を傾げる素振りを見るに、本当に『名前』の意味を解っていないのかもしれない。

 

「うーん。なんつったらいいのかなァ。なら、ピースからは何て呼ばれてんの?」

「……ピース様は私をネームレスと呼んでる。これが、名前?」

 

 それって、たしか無名だとか名無しっつうような意味じゃなかったっけか。

 どちらにしろ、ひでぇ呼びかたをするもんだぜ……。もっと呼びやすくて可愛い名前がたくさんあるだろうによ。よりにもよって名無しって。

 そう心の中で舌打ちをしたとき、なにかが俺たちの頭上を飛び越えていった。

 

「な、なんだ!?」

 

 見やると、一匹の狐の形をした影が青い眼を光らせてダッシュの背後へと回ったではないか。

 やべぇ。ハチマキ娘のやつ、他の化けモノに夢中でまったく気が付いてないぞ!

 

「おいダッシュ! 危ない、後ろだっ!」

「うぐっ……!」

 

 しかし、俺が声をかけたのにもかかわらず、狐の吐き出した炎をモロに受けてしまうハチマキ娘。

 

「どういうこってェい。俺の声が聞こえてねーのか?」

「ら、らいらい……『サンダースピア』!」

 

 片ヒザをついたまま弐式を槍の形へと変化させ、背後の狐を貫いた――が、そいつは煙状になったかと思うと、再び狐の姿を構築してダッシュへ飛びかかる。

 

「くっ!」

 

 すぐに体勢を立て直して再び七つの影を翻弄するチビ鮫だったが、その顔は先ほどとは違い、苦痛に満ち満ちていた。

 

「あの影どもは一体なんなんだよ。倒しても倒してもすぐに復活しちまうじゃねーか……」

 

 弐式や雷呪文を器用に使う姿を見て、そこまで心配せずにいたのだけれども。

 これでは、いささかにマズイような――

 そう、唇を噛みながらダッシュの戦う姿を見守っていると、

 

「どうして、そんな顔をしているの?」

 

 抑揚のない声で訊ねてくる無表情娘。

 

「んなの、チビ鮫のことが心配だからに決まってるだろっ」

「……そう。でも、心配するだけ無駄。どう抗おうとも彼女はここで終わり。あの姿で『時園』に迷い込んだ時点で終わりからは逃げられない。そう、私は判断する」

 

 その言葉にギョッとしてネームレスと呼ばれている少女を見ると、そいつは戦ってるダッシュを指さして、

 

「彼女はアナナエルだけど、アナナエルじゃない。過去の意識と現在の意識が混ざり合っている。言わば、まがいもの。それは、この時園では忌むべき存在。だから、それを排除しようと抗体である影たちが自然に生まれる……彼女を完全に消すまで、ずっと」

 

 なんだそりゃ。言ってる意味がまったくもって解らないのだけれども。

 

「解らなくていい。ただ、知って欲しい。彼女は助からない。弐式の霊薬と彼女自身の魔力が尽きたら影に四肢をもがれて、バラバラに分解される。それは、きっともうすぐ。その姿を見たくなければ、はやく私と一緒にピース様のところへ――」

「ちょっと待て、待てよ! 分解って、あいつがダッシュじゃないって。そんなにぽんぽん言われても頭がおっつかねぇよ」

「だから、貴女が理解する必要はない。ピース様は貴女の呪いを解いてもとの世界へ帰すつもり。そうすればアナナエルと貴女は無関係になる。契約も全て無かったことになり、記憶も隠蔽される」

「記憶を隠蔽?」

「今までのことを全部忘れること。それで、アナナエルや黒の魔法少女のことを気に病まなくて済む。そう、私は判断する」

「…………」

 

 なにもかも忘れ、もとの世界に帰れる。

 そういえば、クロエが俺を戻してくれるようピースに掛け合ってくれてたんだっけか。

 それで気が変わらなければ俺を逃がしてもいい、という流れになったハズ。ピースはそれを覚えていた――

 

「本当、なんだろうな?」

「……本当」

 

 と、能面顔のまま小さく頷いて歩き出す眼帯少女。

 あいつについて行き、ピースと会えば俺は今すぐにでももとの生活に戻れる。

 

 このよくわからん世界ともおさらば出来る。

 あの煩わしい魔宝石集めからも解放される。

 

 ……なあんだ。めんどくせェことが一気に解決する良策じゃねーか。

 なにも迷うこたァねぇな。

 とっとと帰って、また喧嘩三昧の日々に明け暮れるとしよう。魔法だなんだって、やっぱり俺の性には合わねーんだよ。


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