魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第五十五石:完全召喚!ホバーを呼び出したゆりな

「ふぁあ。まるでコロナたちメロンパンの具にされたみたいなんです」

「お前さんはこれがメロンパンに見えるのか。確かにそんな模様と形だけれども。つーかメロンパンって具が入ってない気がするぞ」

「とっても、とっても、不思議ちゃんなのです」

 

 それは、この雷防壁自体のことを言ってるのか、それともメロンパンに具が入ってないことを言ってるのか。

 ま、どっちも不思議だけれども。

 そう俺たちが、ボケらっと防壁を眺めていると、

 

「ねぇ、キミさぁ。誰かを傷つけようとするってことはねぇ……」

 

 網目の間から見えるチビ助が、ボソっと呟き、杖の持っていない方の握り拳をゆっくりとコチラに向けて突き出した。

 ん、ちょっと待てよ。あんなに遠くに居るのに、なんで声がハッキリ聞こえてくるんだ?

 しかも、ちゃんとボソっと出した感じが分かったぞ。

 

「魔力を持つ者同士なら、どんなに遠くにいても無線のように声をキャッチすることが出来るのです」

「へえ、そうなのか。いちいち近寄らなくても作戦を立てられるってワケね。便利なこった。それはともかくとして……チビ助のヤツ、一体何をする気なんでェい?」

「うーん。目が光って尾を引いてるということは、集束をしてるってことなんです。とすれば、きっとまたとんでもない魔法を出すつもりかもなんです」

 

 やっぱり、それしか考えられないよなぁ。

 低速だがまだまだ上昇をやめないゆりなの目から放たれる藍色の光。

 残光として夜を美しく彩るそれに、俺は不安を隠せない。

 はたして、チビ助の突き出した拳がクルリと回りだす。そして、それがピッタリ百八十度ほど半回転したときだ。

 

「自分もね――自分も、傷つく時が来るってことなんだよ……ッ!」

 

 叫んだと同時に、集束の光が一気に倍増し、真っ逆さまに落ちるゆりな。

 そのままの格好で、そいつは握り拳を開いたかと思うと、

 

「反転ッ! らいらい、プラズマァア、ドォォオムゥウ……」

 

 地響きと共に、俺たちを覆っていた雷防壁がメキメキと音を立てて裏返っていく。

 次に、俺たちの足元に突き刺さっていた瓦や、さっき飛散していった何かの細かい欠片などが、裏返った防壁の中央へと、一斉に集まる。 

 

「わ、わわ。ぱ、パパさん!? 恐いんですっ」

 

 俺だって何が起こるか分からないし、いささかに恐いさ。

 でもよ、あいつはあのドがつく程の優しいゆりなだぞ。俺たちに危害を加えるハズが無いだろ。

 胸に飛び込んで来たチビチビの背中をぽんぽん叩きながら、

 

「落ち着けって。大丈夫、ジッとしてれば安全だ……。ゆりなを信じろ!」

「こ、肯定、なんですぅ……」

 

 コロナが涙目で答えたと、ほぼ同時に、

 

「リフレクション!」

 

 と、呪文を唱え終えるゆりな。

 その声に呼応するかのように、中心部に溜まった無数の瓦や塵がコピーへと向かっていく。

 もちろんそのままの形で向かうのではなく、それぞれ凄まじい電気を身に纏っているワケだが――

 

「これが『プラズマドーム・リフレクション』か……。瓦礫も何も、全部まとめて反射したってことかィ」

 

 リフレクション、確かこれは反射って意味だったハズだ。

 中学一年生の頃、英語の成績が二だった俺でも分かるぞ。

 まあ、漫画で得た知識なのだけれども。知識は知識さ。

 

 しかしながら――直撃を食らったコピーの苦しそうな様相を見るに、ただの瓦礫によるダメージだけではなさそうだ。

 纏っている雷の力も当然の如くあるとは思うが、あのプラズマドーム自体の魔力も加算されている気がするぜ。あくまでも当て推量だけれども。

 

「いやはや、なんとも。バリアという役割だけではなく、攻撃も兼ねているなんざ、なんともまあ便利っつうか、強力な魔法だねェ」

 

 あの魔法一辺倒で大体の模魔は倒せるんじゃないのかね。

 うーむ、羨ましい限りだぜ。俺の氷魔法でアレと似たようなの作れねぇかなぁ……。

 なんて、そんなことを考えていると、

 

「パ、パパさん。旧魔法少女さんが落っこちてるんです!」

「えっ!?」

 

 コロナの声に慌てて空を見上げると、なんとチビ助がドンドンと急速落下してしまっているではないか。

 そういや、ドームの裏返し魔法を詠唱し始めたときから落ちているような……。

 もしや、反転魔法を唱える際にジャンプの勢いを殺してしまったからか?

 って。んなことよりも早く飛んで行って、チビ助を助けねーと!

 

「おい、チビチビ。変身して、ゆりなを拾いあげるぞ!」

「む、無理なんです。あんなに遠いところでは急いで変身しても間に合わないのですっ。コロナが元の姿だったら追いつくかもですが、戻るのにも時間がかかっちゃうですし……」

「チッ……!」

 

 確かに距離が遠いし、それに最初にやったハイジャンプでいくらか高さに余裕があるとはいえ、あの落下スピードだ。

 今から変身して飛んでいっても、十中八九間に合わないだろう。

 でもよ――だからって、このまま見殺しになんてさせてたまるかってんでェい!

 

「つべこべ言ってねぇで変身すっぞ、コロ美。これはご主人様による直々の命令だ。否定つったら、お尻ぺんぺんの刑に処すっ」

「こ、肯定、」

 

 チビチビが頷きかけたとき、

 

「しゃっちゃん、ありがとね。でも、ボクは大丈夫だよ……」

 

 そんな優しげなゆりなの声が耳に入ってきたかと思うと、

 

「我は欲す、汝が纏う忌むべき力を。おいで、ホバー・ザ・ルヒエル!」

 

 模魔の召喚を、それも完全召喚の呪文を唱えたではないか。

 名前を呼んでキスをするだけでいいよ、なんてあの時言ってたのに――完全召喚の呪文を知っていたとは。

 だったら初めからそう教えてくれりゃあいいのに。

 頭の中がモヤモヤし始めたところで、

 

「旧魔法少女さんは、ネオンの召喚でたくさん練習をして、コツを掴んだのだと思うのです。詠唱を省略しても模魔が出るから大丈夫だって思って、それでパパさんにそう伝えたのかと」

「ネオンって、シャオが言うには俺が来る直前に捕まえた模魔のことだろ? 直前がどれくらいのことを言ってるのか分からんが、そんな短期間で詠唱カットをマスター出来るとは、いささかにも思えないのだけれども」

 

 そう言うと、未だに俺の腕の中に居るコロ美はうーんと唸って、

 

「そういえばそうなのです……。でも、あの人の才能ならちょっとの時間でコツを掴めたのかもしれないんです」

「ふーん。才能、ねェ」

 

 と、チビ助をちらりと見やる。

 足裏から振りまかれている濃緑色の光の粒子のおかげか、落下せずに浮いている状態――いわば滞空モードとなっているゆりな。

 おそらくアレは、背後に佇んでいる大人しそうな三つ編みメガネ少女、ホバー・ザ・ルヒエルの力によるものだろう。


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