魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第五十四石:重装甲コピーvs集束のゆりな

 大体、ランクAの模魔を持ってるクセに戦えないなんて絶対ウソだろ。

 紗華夢の力でシャドーを捕まえたように、コピーもサクッと捕まえてくれりゃあいいのに。

 そう俺がジーッと睨みつけていると、急に耳元に息がかかる。

 

「ひゃうっ!?」

 

 振り向くと、ニヤリと唇をひん曲げたシャオの口がそこにあった。

 なんだ、口だけシャドーを使って移動させたのか……。

 相も変わらず何でもアリな模魔だな。

 

「きゃは。情けない声出しちゃって、ダッサー」

「うるせェな……。尻尾巻いて逃げ出したヤツが何の用だよ」

「あら、尻尾は巻いてないわよ。縮めただけだし。でもさ、コレ体の中に全部入らないからちょっと不便なのよね。二十センチぐらいは出ちゃうから、下着にいちいち穴を開けなきゃなんないのよ」

「そういう意味じゃねーよ。というか、そんな使いどころの無い尻尾ウンチクなんざどうでもいい。用があるなら、それをさっさと言ってくれ」

「ハイハイ。あれよ、ザコ虫のクセに目が良いなって感心してサ。よくあたしのことすぐに見つけられたわね?」

「そりゃあ……存在感のあるマントがバサバサ風になびいてりゃ、すぐに気付くって」

 

 ふうん、と意味ありげにそいつは唇を尖らせると、

 

「ま、いいわ。見つけたご褒美に、一つだけ面白いことを教えてあげる」

「面白いことォ?」

「ふふっ……。模魔コピーはね、『脱皮』するの。そうなったら厄介なことになるわ。ま、あんたに出来ることと言えば、脱皮前に猫憑きが倒してくれるようお祈りするくらいしかないわね」

 

 そう言い残すと、裂け目は跡形も無く消えてしまう。

 脱皮。それは動物が成長の過程で皮を脱ぎさる行為。文字通りの意味だ。

 未だに獲物を探している様子の節足動物を見ながら、あの重装甲の中に何が隠されているのだろうと考える。

 

「脱皮が厄介ねェ……」

 

 ヘビやらクモの脱皮を思い出してみるが、やったところで姿自体はあんまし変わらないように思えるが。

 つーか、戦闘中に脱皮なんてモンをしちまったら、体が軟化して不利になるんじゃないのか、という疑問が出てくる。

 ううむ。模魔の場合は例外とか?

 まぁ、考えたところで答えは見つかるはずも無いワケで……ともかく、この情報はチビ助に伝えておいたほうが良さそうだな。

 俺は、無表情のままコピーを見上げているチビ助に向かって、

 

「ゆりな、シャオ曰くコピーは『脱皮』をするらしい。本当かどうかは分からないが、そうなっちまったら面倒なことになる! だから早めにケリをつけなきゃならねェ」

「うん……わかった」

 

 やがて標的を見つけたのだろうか、コピーの複眼がいっせいにチビ助の方へ向いた。

 

「来るぞ!」

 

 やにわに飛び上がったかと思うと、急速で滑空。

 そしてチビ助の眼前へ降り立つと同時に、両前脚を振り下ろすコピー。

 バッテンの軌道を描いたそれだったが、紙一重で避けられる。

 ……凄まじい跳躍によって。

 グングンと空を駆け上がるチビ助に俺は唖然とするしかなかった。

 

「うっへぇ、なんてデタラメなジャンプ力……。集束状態だからあんなに高く跳べるのか?」

 

 そう呟いたとき背後から、

 

「否定。あのジャンプ力はお姉ちゃまの能力なんです。パパさんがコロナの羽で飛べてるように、お姉ちゃまと契約すると特典として凄いジャンプ力が手に入るのです」

「はぁ。なるほどねぇ、霊獣ごとに色んな付加能力があるってワケね。いささかに凝ってらっしゃる……って、コロ美!?」

 

 振り向くと、そこにはペリドットカラーのストレートロングという髪型の眠そうな幼女――チビチビ助が浮かんでいた。

 そいつはパジャマ姿のまま、タッパーに詰められたすき焼きを、モグモグごっくんと美味しそうにほお張っていた。

 何故ここにいるんだとか、もう石風邪は良くなったのかとか、色々訊きたいことはあったのだけれども。

 まぁ、とりあず。

 

「行儀悪ィぞ、コルァ」

 

 高速のフロストチョップをド頭にぶち込んでおく。

 当然油断していただろうチビチビ助は、シラタキをすすってる途中だった為、「ふぐぅなんです!」というトンチキな鳴き声と一緒にそれらを吹き出した。

 

「けほっけほっ。パパさん、ひどいんですっ。コロナは病み上がりなのです、もっと優しいチョップにして欲しいんです」

「言ったじゃんか。治ったら厳しくするから覚悟しとけってさ。そんだけ元気があるんだから、もう優しさレベル下げていいだろ」

「やだっ、まだ治ってないんです。下げちゃヤなのです!」

「はーい、今下げましたァ。もう無理でーす、一旦下げたら一週間は上がりませェん」

 

 そう言って、口角から垂れ下がってるシラタキを強引に口の中へ押し込んでやる。

 コロ美は俺に抗議の視線を送りながら、それを頑張って咀嚼して、

 

「……それにしても、パパさんもお元気そうで良かったのです。一つだけでもビックリなのに、大きい気配が二つも同じところに出たので、急いで飛んで来たんです」

「気配――ああ、確か気配察知だっけか。でもそれって、おおよそしか出来ないんじゃなかったか?」

「肯定。でも、どっちも出してる魔力波が凄すぎるんです。あそこまで膨大だと、むしろ気付いてくれって言ってるようなものなのです」

 

 コロ美の話をまとめると、こうだ。

 一つ目の巨大な気配にびっくりしたコロナはすき焼きを持ってきたゆりなに気配のこと、ついでに俺とクロエが居ないことを伝えた。

 それは大変、もしかしたら何か事件に巻き込まれたのかもしれないと、霊冥を呼んで俺たちを探しに出るゆりな。

 見送ったあと、すき焼きを一人で食べてると、まさかの二つ目が出現。

 これも強大で、さすがに旧魔法少女さんだけじゃ心配だと自分も慌ててベランダから飛び降りた、と。

 一刻も早く魔力を回復させるために、すき焼きが入ったタッパーを大事に抱えて――

 

「魔力が無くちゃパパさんがピンチのとき助けられないんです。変身も出来ないですし……だから大目に見て欲しいんです。普通のときはちゃんとお行儀良く食べるのです」

 

 言って、大急ぎで豆腐を口の中へと詰め込むコロナ。

 

「むぐっ!?」

「お、おい大丈夫かよ」

 

 チビっこい体して、あんなデカイ豆腐を丸々飲み込もうなんざ、無理に決まっている。

 咳き込んだチビチビの背中をさすりながら、俺は気付かれないように小さくため息をついた。

 こんなに寒い中。こんなに冷え切ったすき焼きを。こんなに急がせて。

 なぁにが、「もうムチャはさせねェ」だよ。さっそくムチャさせてるじゃねぇか……。

 

「パパさん、ありがとなんです。背中さすさすのおかげで豆腐さんをやっつけることに無事成功したのです」

「そ、そうか。急がなくていいからな……。良く噛んで、味わって食べな」

「肯定なんです。そういえば、気配の一つがコピーということは見れば分かるんですが、もう一つの凄い魔力波を出してる模魔はどこにいるんです?」

 

 おそらく最後の楽しみに取っておいたのであろう、パイナップルの一切れを口に放り投げてそんなことを訊ねるコロ美。

 そうか、デカイ気配は読み取れても正体までは分からないんだったな……。

 

「ああ、もう一つの気配の正体はシャオだ。あそこに座ってるヤツだぜ。あいつは模魔じゃなくて――」

 

 と、言ってクレーン先に座っているであろう黒マントを指さそうとするが、

 

「!?」

 

 いきなり足元へと突き刺さった瓦の数々に、二人同時に固まる。

 その瓦の雨は止むことを知らず、弧を描いてどんどこ飛んできやがる。 

 

「あぶねぇあぶねぇ……。コピーめ、ヤケクソになってんな」

 

 様々な家の屋根を渡り歩いては、未だに上昇を続けているゆりなに、前脚で剥がした瓦をぶん投げるという攻撃をしているコピー。

 実は数分前からこんな調子だった。

 だから、(一応チラチラ気にはしていたが)コロナと話せる余裕があったのだ。

 しかしながら……駄々っ子のように瓦を投げまくるあいつを見るに、そんな悠長な時間はいささかにも――

 

「クッ……! らいらい、プラズマドーム!」

 

 チビ助による突然の呪文に、ビクッと顔をあげた……その時だった。

 俺の顔面、数センチ先で何かが飛散していき、そして同時に爆竹のような破裂音が聞こえた。

 

「こ、これは?」

 

 俺とコロナの周りを覆うように形成された、小さな半球型の光るカゴ。

 藍色の光と限りなく黒に近い紫光が網目状に交錯しており、その交錯した部分から時々小さな火花が発生している。

 独特のスパーク音から察するに、おそらくこれはゆりなの出した雷防壁だろうな。プラズマドームとか呪文唱えてたし。

 にしても、合間合間から見える星空も手伝ってか、凄まじく幻想的で綺麗な防壁だ。


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