魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

54 / 104
第五十三石:いきなりランクB!? 恐怖のコピー

「そうよ、あたしがこいつを痛めつけたのよ! 這いつくばって許しを請う姿、猫憑きにも見せてあげたかったわ。笑っちゃうくらい無様だったもの」

 

 見やると、腕を組んで仁王立ちのシャオメイ。

 

「おいっ、許しなんて誰が請うか! デタラメ言ってんじゃねぇっ」

「ホント、惨めよね。弱いってかわいそう。そのクセ、デカイ口を叩くんだから、もうつける薬は無いってカンジよね。いっぺん死んでやり直したほうがいいんじゃないかしら」

 

 さらっと無視し、饒舌に俺を馬鹿にするそいつに違和感を覚える。

 なぜ、こいつはチビ助を襲わないで俺を挑発してやがんだ?

 攻撃するなら今が絶好のチャンスだろうよ。

 

「どうして、」

 

 徐々にゆりなの瞳が藍色の光に支配されていく。

 いや、待てよ。もしかして、俺を挑発してるんじゃなくて――

 

「あんたも大変よねぇ、こんな弱くて馬鹿な『ハズレ』なんか引いちゃってさ。本当はもっと強くて賢い人が良かったんでしょ?」

「どうして、しゃっちゃんを、」

「今からあたしがピース様に頼んであげよっか。そこの、その、使えないゴミを処分してくださいってさ!」

「どうして、しゃっちゃんを、イジメるの……かな?」

 

 やがて、完全に光りきった瞳をゆっくりと閉じ、ゆりなは俺の腕の中から抜け出した。

 生気の感じられない後ろ姿に、俺は思う。

 やはりそうだ。この現象――『集束』に違いない。

 

「いくらシャオちゃんでも……ダメだよ。許せないよ」

「チビ助、お前……」

「ごめんね、しゃっちゃん。悪いけど下がっててくれないかな」

「あ、ああ」

 

 言われるがまま半歩だけ下がり、一つおかしい点に気付く。

 俺を『しゃっちゃん』と呼んだってことは集束じゃないのか?

 髪も燃えていないし、体中を纏うオーラや稲光だって変色していない。多少動きが活発化しているけれども、それだけだ。

 だが、しかし。あの眼の光はどう考えても……。 

 そう思案しようとしたその時、シャオメイのスカートから尻尾が飛び出し――チビ助を猛然と襲った。

 

「マズイ! ゆりな、あいつの尻尾は先っぽを自在に変形させることが出来るんだ。大きく避けないと危険だぜ!」

 

 停止しかけた頭を奮い起こして無我夢中で叫ぶと、

 

「そう……。おいで、霊冥」

 

 冷静にそれだけ言い、転がっていた杖を手元へと呼び戻すゆりな。

 そして、尻尾が顔面に到達する瞬前。

 

「らいらい」

 

 杖をくるぅりと回転させたかと思うと、そいつの左手には何故か独特な形の小さい黒鎌が握られていた。

 そ、そんな物騒なモノ一体どっから出したんだ?

 

「サンダーシックル……」

 

 妙な三枚刃で尻尾を器用に絡め取る鎌――全体に黒い雷を走らせるそれを見て、すぐにその正体が霊冥だと知ることになる。

 なるほどねェ。俺のアクアサーベルと似たようなものか。それより、スゲェ反射神経をしてやがるなコイツ……。

 普通あんな正確にあいつの尻尾を受け止められないぞ。というか、避けないで受け止めようと判断したのが、また何とも。

 無謀なのか、はたまた――余裕というものなのか。

 

 どちらにしろシャオメイのヤツ、さぞかし悔しがっていることだろう。

 そう、そいつへと視線をスライドさせると、

 

「あははっ! 思ったとおりだわ。猫憑きの集束の引き金は、この男ね!」

 

 心底楽しそうに笑っていた。

 ああ、やっぱりそういうことかよ。

 俺を挑発していたんじゃない――チビ助を怒らせて、『集束』を発動させようとしていたんだ。

 ふざけた真似をしやがって……。

 

「でも、裏束じゃないのは少し残念ね。あのゾクっとする魔気を間近で触れてみたかったのに。まあ、『表』でも十分楽しめるケドさ」

 

 そう言ってシャオメイが黒い指輪を掲げた、その時だ。

 大音量の警報音が頭上で鳴り響き、それと同時に空に凄まじくデカイ亀裂が走った。

 にゃろう。出やがったな、シャドーめ。

 

「空の亀裂に気をつけろ、ゆりな。こいつの持つシャドーは、ランクAのとんでもねぇ模魔だ。穴が開いたら最後、闇に飲み込まれちまうぞっ」

「うん、わかった……」

 

 相変わらずどこを見てるのか分からない目だが、話は通じるようで良かったぜ。

 それにしても――ここまで巨大な穴を開ける力がシャドーにあったなんて、思いもよらなかったな。

 ま、どうせ俺相手じゃあ出すまでも無かったってことだろう。とっておきの大召喚は、お楽しみの対チビ助戦で、ってか。

 

「チッ、なんてタイミング。せっかく良いところだってーのに、邪魔しやがって……」

 

 亀裂を睨むシャオメイの顔に、何故か焦りの色が見える。

 どういうことだ、と訊ねるよりも前に、そいつは俺に向かってこう言った。

 

「バッカバカじゃん。鳴き声で判らないのかしら。あれはシャドーじゃなくて、コピー・ザ・ヨムリエル……十四番目の模魔よ」

「あ、あれが、模魔コピー!?」

 

 破れた空から巨大な顔をのぞかせるソレに、足が勝手に後ずさりをしてしまう。

 体躯こそホバーと同じくらいだが、その形状がまた……なんと言ったらいいものか。

 端的に言えば、虫だ。それも、よく見慣れた虫――カブトムシの形をしていた。

 とは言え、仮面のハチドリやモノアイの鮫のように、そのままの姿をしているわけではない。

 

 鈍色の鎧のような分厚い外骨格に、四本の脚。次いで四又の長い頭角に、突出した四つの複眼。

 そして、悠々たる動きで広げられる四枚の鞘翅。

 うげぇ……。いささかになんてモンじゃねェな。めちゃくちゃに気味が悪ィ。

 

 コピーは下手くそな飛び方で、(むしろただの滑空かも)音も無く近場の屋根へ降り立つと、四つの目をせわしなくキョロキョロと動かした。

 

「なに、してやがんだ?」

「……誰を食べようかって吟味してるんじゃないの」

 

 た、食べるって。

 

「笑えん冗談だぞ」

「あら。冗談かどうかは、身をもって確かめてみればいいわ。少なくとも笑えるとは思うけれども」

 

 あたしにとってはね、と言い足してシャドーの指輪に口づけをするシャオメイ。

 

「あっ、テメェ逃げるつもりか!」

「当然でしょ? 霊鳴も霊獣も無しで、どーやってあいつと戦えってーのよ。第一、このあたしがわざわざ出張る必要なんて無いの。集束状態の猫憑きがいるんだから、あんな低ランクの模魔なんてちょちょいのちょいでしょ」

 

 あんな低ランクのって――ジュゲムさんは名前だけじゃなくてランクまで知ってるのか。

 

「まぁね。たしかランクBだったハズよ」

 

 それだけ言うと、ひらひらと手を振って闇の中に消えていくシャオ。 

 

「ランクBが低ランクだとォ!? って、どこに行きやがった」

 

 辺りを見回すと、意外にもすぐにそいつは見つかった。

 右前方、建設中の超高層ビルの屋上――クレーンの先端に、さも自分は無関係な観客だと言わんばかりの態度で座っている。

 つまりは、横柄なあぐらってヤツだ。

 

「くそったれが……」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。