魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第五十一石:ゆりなとシャオメイ

 言うと、マントをひるがえし――スカートの中から長細い変なものを出しやがった。

 それはまるで生きている蛇のような動きで俺たちを威嚇する。

 

「く、クロエさんよぉ。ありゃあ、一体どんな魔法なんでぇい」

 

 股下からニュルリと伸びる、お世辞にも可愛いとは言えないソレについて訊いてみたのだが、いつの間にかクロエの姿が消えていた。

 

『さっき、あなな言った。大魔宝石いない。今、おまえさんと、二人だけ。ぽっ』

 

 大魔宝石ってコロナのことだけかと思っていたが、その中にクロエも入っていたのか。

 またあんにゃろう勝手に消えて……。ていうか、なんで頬を染めてやがんだ。

 

『とりあえず、あの尻尾、怖いから逃げる。自動走行の許可欲しい。望むならおまえさんの意思で走れるように、結晶調整する』

「なるほど、言われてみれば確かに尻尾に見えるな。あ、初めてなんで自動走行で頼むぜ」

『おっけ』

 

 途端、爆音と共にホバー走行で急速後退する俺。

 

「どわわわっ、もうちょっと丁寧に……」

『無理。あの人の尻尾、思った以上の動き。あななのスピードについてくるなんて、よっぽど』

 

 ダッシュの言う通り、どこまでも伸びて追っかけてくるあの触手――じゃなかった、尻尾はかなり厄介だ。

 それだけならまだしも、シャドーの完全召喚もまだ生きているようで、俺が走り抜けたところにボコボコと穴が開いていく。

 すんでのところでそれらを回避するが、チビ鮫の余裕を無くした表情を見るに、状況の深刻さが窺える。

 かなりヤバイかもな……。

 

「あんまり、無理すんなよ。キツくなったらいつでも引っ込んでいいからな」

『へーき、よゆう。あなな、頑張る』

 

 口ではああ言ってるけれども……。

 さすがに、こいつだけ働かせて俺だけ見てるだけってワケにもいかねェって。

 まだ数十分しか経っていないが、少しくらいだったら霊鳴も動くだろ。

 ダッシュの負担を出来るだけ軽くしてやらなきゃな……。

 そう考え、杖を呼ぼうと手を掲げたその時、小さな声が聞こえてきた。

 

「あ、あんだぁ?」

 

 チビ鮫の声じゃないのは確かだ。なにを言ってるんだろう――と耳をすませてすぐに、

 

「ダッシュ、今すぐ指輪の中に戻れ!」

『えっ? だから、あなな、へーきだし。おまえさん、守るし』

 

 俺は続けて叫ぶ。

 

「これは命令だ! ご主人様の言うことを聞け!」

『りょ、了解だし』

 

 背後のダッシュが消えた直後、そいつがさっきまでいた空間――頭のあった場所に穴が開き、そしてシャオの尻尾が飛び出した。

 鋭利な刃へと先を変えたそれを見上げて、俺は喉をゴクリと鳴らす。

 もし、もしも一瞬でも戻すのが遅れていたら。今頃、ハチマキ娘は……。

 

「しゃっちゃん!」

 

 不意に声を掛けられ、振り向くと、そこには杖に跨ったゆりなが浮かんでいた。

 

「おお、チビ助! って、その格好……お前さんいつの間に変身したんだァ?」

 

 黄色いネクタイに、黒いドレスといった旧魔法少女のコスチューム。

 ホバー戦以来の魔法使いモードだった。

 改めてその姿を見て思ったが、相変わらずチビ助によく似合っているというか、なんとも可愛らしい格好だな。

 いや、可愛いというよりカッコ可愛いというべきかね。この窮地な状況も重なってか、とても頼もしく見えるぜ。

 

 そんなことを考えていると、カランという乾いた音が耳に入ってきた。

 音のした方へと顔を向けてみると、黒い杖が地面へと落ち――

 

「うわあぁああんっ!」

 

 いきなり飛びつかれ、また盛大に尻餅をついてしまう。

 

「いってってて。ど、どうしたんでェい?」

「ひっぐ、無事で、しゃっちゃん、無事でよかったよぅ……。クーちゃんが、恐い敵さん来たって。少しでも遅れたらしゃっちゃん死んじゃうかもって、だから、だからっ」

 

 泣きじゃくるチビ助に抱きつかれたまま、ただひたすらと困惑する俺。

 ていうか、困惑どころじゃないぞ。

 すげぇ力で押さえつけられるわ、ぼさぼさの長い黒髪が鼻やら目やら、至るところの穴に入ってくるわで、むしろ苦しいぜ。

 チビ助め、変身後の力はムチャクチャになるのを忘れてやがるな……。

 このままじゃ無事とは言えない体になっちまうので、

 

「ばーろぉィ、俺様はそう簡単に死なないっつーの。どこぞの虫さんよろしく素早いのと、しぶといのが取り柄なんでさァ」

 

 言って、全力でチビ助の肩を押し戻す。

 ぐおっ。なんて力だ。お、重すぎるぜ……。

 顔を真っ赤にして踏ん張っていると、

 

「ふえっ。どこぞの虫さんって、チョウチョさんのこと?」

 

 と、急に体を起こしたもんだから勢い余って、

 

「きゃっ!」

「わっぷ!」

 

 今度は俺がゆりなを押し倒す形になってしまった。

 わりィわりィと言いつつ、顔を上げたのだけれども――倒れたまま俺を見つめるそいつの潤んだ瞳を見て、胸に痛みが走るのを感じた。

 チクっとする痛み。初めて会ったときの、あの苦手な瞳。

 慣れたハズだと思っていたのに……。どういうこった、こりゃあ。

 

「しゃ、しゃっちゃん?」

「…………」

 

 時が止まったかのような一瞬。

 

「はーあ、やだやだ。人前でイチャついてくれちゃってさ。この紗華夢様がいるってぇーのに、危機感ってものが無いのかしら」

 

 背後から聞こえるシャオの呆れた声に、慌てて飛び退く俺たち。

 そうだった、こいつが居たんだ。

 胸の痛みの正体なんざ、今はどうでもいい。とにかく、シャオメイを――ジュゲムなんたらをどうにかして撃退しねェと。

 

「あの子、もしかしてシャオちゃん……?」

 

 隣のゆりなが自分のネクタイを握りしめつつ言う。

 

「ああ。顔色こそ悪いが、あいつは間違いなく本物のシャオメイだ。お前さんの好きだったハッピーラピッドのリーダーさんだぜ」

「そっか……」

 

 と、辛そうに俯くチビ助。

 ううむ。そりゃあ、そうだよなぁ。

 自分の憧れだったアイドルが急に『敵』として現れたんだ。

 普通は混乱するだろうし、ましてや戦うなんざ絶対に無理な話だろうよ。

 いやはや、どうしたもんだか。そう腕を組もうとしたところで――

 

「すっごい!」

 

 そいつは、バッと顔を上げたかと思うと、

 

「すごいよっ! 本物のシャオちゃんだっ、わーい、わーい! 芸能人さん初めて見たよっ」

 

 ぴょんこぴょんことその場でジャンプし始めたではないか。

 まさかの反応にズッコけそうになる俺。

 

「あ、あのなァ……」

「にゃはは。やっぱり近くで見るとめっちゃんこ可愛いなぁ、お肌もちもちつやつやだし、髪もさらさらふわふわで綺麗だし。ねっねっ、しゃっちゃんもそう思うでしょ!」

 

 そう思うでしょって言われましてもねェ。

 だが、そいつの爛々と輝く眼に気圧された俺は、

 

「えっ、いや。い、言われてみれば可愛いかもな……」

 

 と言う他なかった。

 実際、性格はアレだけれども、見た目だけは飛び抜けてるからな。まあ、目の下のクマは相変わらず酷いが。

 

「いやあ、ももちゃん居ないの残念だよぉ。そうだっ、ももちゃん用にサイン書いて貰っちゃおうかな。ついでにボクの分も――あっ、サインペンないや……。ど、どうしよう。もうこんなグーゼン、二度と無いかもなのにぃ」

 

 喜色満面の体ではしゃいだかと思うと、急に落ち込んだり……。

 手の付けられない興奮状態のチビ助に、俺はやれやれとこめかみに人差し指をあて、嘆息した。


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