魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第四十八石:急襲のシャオメイ

「なあ、チビ天どーしたんだよ?」

「ぷいっ」

「いつものヘンテコな喋りはどーしちまったんだ」

「ぷいっぷいっ」

 

 そっぽを向いては、前に回り込むを二十回ほど繰り返したのだが、

 

「あちちち! あ、足が、ブッ壊れちまうっ」

 

 先に音を上げたのは俺の方だった。オーバーヒートよろしく尋常じゃない熱を放つふくらはぎ。

 ダッシュリングの凄さは認めるが、これは注意して使わないと身がもたねぇな……。

 とりあえず、アイスブレスを吹いて応急措置をしておこう。

 

「フー、フー……。お前なあ、いい加減に認めろよ」

「だから人違いですってば」

 

 うーむ、なんて強情なヤツなんだ。このままじゃ埒が明かねェ。

 仕方ない。こうなりゃ伝家の宝刀を抜くしかないな。

 

「正気を取り戻してくれよ、貧乳ちゃん! 胸が小さいからって現実逃避は良くないぜ。まことに残念ながら一生そのままかもしれないけれども、むしろそれが好きだって男も中にはいるハズだ。ほとんどの男は大きいに越したことは無いって内心思ってるケド、それは今は関係ない。だから、いつものお前に戻ってくれっ」

「……ぷいっ」

 

 おかしい。おかし過ぎるぞ。

 こりゃあ、本気で頭を打ったのかもしれないな。さすがに心配になってきたところで、

 

「お、委員長めっけ。こないなトコでなにしてるんや?」

「もうトーカさんってば、駅はこちらじゃありませんわ。まぁ方向音痴なところもとても魅力的なのですが……ポッ」

 

 なんてことを口々に言いながら、背後から二人組みの少女が現れた。

 おそらく、ゆりなやももはと同じぐらいの年齢だと思うのだが、どちらも育ちの良さそうな服を身にまとっている。

 いや、よく見りゃあ今のチビ天もかなり上品な格好をしているな。

 真っピンクな肩出しワンピースなんていう露出のある服も着ていなければ、持っているカバンも普通のどこにでもありそうな茶色いカバンだし。

 まあ、羽つきナップサックがそもそも異端過ぎるっつう話だけれども。

 

「あらぁ。トーカさん、この白髪のかたは一体どちらさまですか」

「なんやぁ、委員長の知り合い?」

 

 つーか、さっきから気になっていたんだが、トーカさんって何のこっちゃ。しかも、委員長って?

 そう、ももはに訊ねたのだが、そいつは俺に一瞥もくれずにお行儀よくカバンを両手で持ち直すと、

 

「いえ。このような不躾な人、知りません。それより、二人ともお稽古に遅れてしまいますよ。早く行きましょう」

「え、ちょっと。おい……チビ天ってば」

 

 止めるも声も空しく、そそくさと立ち去ってしまうももは。

 目を点にしたまま、硬直していると、クロエが俺の頭に飛び乗ってきた。

 

「まあまあ、あいつにも色々あるんだろ」

「色々ってなんだよ。おめぇさん、なんか知ってんのか?」

「んー。オレの口から言ってもいいけど、いずれ本人の口から理由を話すときが来ると思うぜ。ま、オレらはオレらで仲良く散歩としゃれ込もうじゃねーの」

 

 チッ。相変わらず歯切れの悪い言い方をするヤツだ。

 しばらく景色を眺めながらゆったりと歩を進めていたのだけれども……。

 やっぱりムカつくもんで。

 

「なんでぇい、なんでぇい! なーにが『このような不躾な人知りません』だ。けっ、お高くとまりやがってよ」

 

 両手を頭の後ろで組みつつブーたれる俺に、

 

「まぁだ言ってやがんのか。シラガ娘って意外にナイーブだよな」

「あんだとォ? 別に気にしちゃいねーよ」

「だったら何べんも同じことグチるなって。大丈夫さ、あいつはシラガ娘のことちゃんとお友達だと思っているぜ」

「へっ、そいつはどーだかねェ」

 

 てか、いつまで頭上に居座る気だコイツ。

 俺のアホ毛で楽しそうに遊んでいるところをあまり邪魔したくはないが。

 そろそろ頭が痒くなってきたぜ。

 

「しまった。触覚ボクシングに夢中でまた忘れるところだった。シラガ娘に充填の説明をしておかねーと。ちょっと霊鳴を取り出してみそ。言っとくが、霊薬が切れてる状態じゃあ呼んでも飛んで来ないからな」

「ん……ああ、わかりましたんで」

 

 言われるがまま、ポッケから冷たくなった霊鳴石を取り出す。

 ぼんやりと淡い光を放っている弐式だったが、その光もすぐに消えてしまいそうだった。

 

「見るに堪えんというか、なんとも元気の無い試作型ちゃんなんだけれども」

 

 もはや事切れる寸前だぞ。こりゃあ元に戻るのに時間がかかりそうだ。

 

「あっちゃー、霊薬すっからかん状態だな。とりあえず、言い方はなんでもいいから霊鳴に眠るよう命令するんだ」

「オーケイ。眠りやがれっ、霊鳴!」

 

 命令するや否や、元気良く遥か彼方へと飛んで行ってしまう霊鳴石。

 

「ありゃまあ。あんな元気どこにあったんだ?」と俺が目を丸くしていると、

「元気そうに見えるが、アレは単に海の魔力に引き寄せられてるってだけ。戻すときは霊薬ゼロでもいいが、呼んだときに消費する魔力は石自体の霊薬から捻出するから、ゼロだと飛べなくなるんだ」

「ふーん。海、か。そういや、説明書のどっかに海に戻せとか書いてあったな。ということは、試作型ちゃんは今ごろ海の中でおねんね中ってワケ?」

「そうそう。一時間も寝かせれば五十パーセントくらいには回復するぜ。満タンにするなら六時間はかかるけどな。あ、ゼロの状態から満タンだと十二時間はかかるんだった」

 

 そんなに時間がかかるのか……。つまるところの安易に霊薬を使い切るのはマズイってことだな。

 

「おー。シラガ娘はポニ子と違って、物分りが良いな」

「伊達に長生きしていないんでね。つっても五年程度だけれども。それより、気になることが一つだけ。確かダッシュ戦の時点で霊薬を使い切ったハズだと思ったんだが、起動も出来たし、少しの時間だが乗れたのは何でだ?」

「あぁ、それか。説明書に書いてあったと思うが、海で眠らせるという選択肢の他に、使用者の心身を休ませるといった形でも充填が出来るんだ。これは他の『レイメイ』にも共通することなんだが、簡単に言えば、食事、睡眠なんかで霊薬が溜まる。もちろんそれは微々たる量で、それぞれの眠る場所に――弐式の場合は海に戻すのがベストだけどな」

 

 なるほどな。スゲェ面倒くせぇシステムだっていうのが分かった。

 霊鳴石を作ったヤツめ。無駄に手の込んだ仕様にしやがって……。

 眉間にシワを寄せてブツブツ文句を言っていると、クロエがぴょーんと飛び降りて、後ろ歩きを始める。

 

「ま。ま。要は霊薬が無くなる前に、さっさと眠らせればいいっつう単純な話さ。小まめに充填しておけば、憂いなし!」

 

 ゴマをするような前足の動きに、意地悪心をくすぐられる。

 

「はぁ。魔法少女ってヤツはなんでこうも面倒くせェのかね……。だりィぜ、まったくもって。やめちゃおうかなァ」

 

 なんて大げさに言ってみたりして。

 

「んな、すぐに面倒くさいって言わないでくれよ。頼むぜ、シャクヤク様っ。ポニ子とコンビを組めるのは異世界中探しても、シャクヤク様しかいないんだって」

「いっひっひ。まったく、しょうがねぇなあ。そこまで言うんならやってやらないでも、」

 

 言いかけたところでハタと足を止める。

 な、なんだ、この寒気は……。

 それは俺の前を歩いていたクロエも感じていたようで、先ほどとは一転し、緊張した面持ちで辺りの様子を窺っている。

 気味の悪い不快感が、ぬめりと俺の背中に滑り込む。

 この感覚、いつかどこかで――

 

「……魔法少女、やめたければやめてもらっても構わないわ」

 

 後ろから迫ってくる殺気のこもった声に、身動きが取れずにいると、

 

「ねぇ。そんなに面倒ならさ。さっさと退場しちゃいなさいよ」

 

 こ、今度は前から声が聞こえてきたぞ……。

 違う。前方どころじゃない、四方八方から聞こえてきやがる。

 

「あたしのいる場所すらも分からない『LevelⅡマイナー』如きの魔法少女。これから先を考えると、いっそ哀れね」

 

 目の前。何も無い空間に亀裂が入ったかと思うと、その中から長い赤髪の少女が現れた。

 いや。赤髪の少女なんて回りくどい言い方をするまでもない。

 こんな、敵意むき出しといったあからさまにドス黒い感情をぶつけてくるヤツは、一人しか知らない。

 そう、一人しか――

 

「シャオメイ……ッ!」 


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