魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第四十四石:雪むすめ

 絵本の内容はこうだった。

 ある雪の降る日、おじいさんとおばあさんが外を見ると子どもたちが楽しそうに雪だるまを作っていた。

 子どものいなかった二人は、どちらともなくワシらも雪だるまを作ろうと提案する。

 やがて完成したのは、それはそれは可愛らしい女の子の姿をした雪だるまだった。

 長靴に手袋、帽子にマフラー。雪だるまにめいっぱいのオシャレをさせるおばあさんに、おじいさんは名前をつけてみないかと微笑む。

 それじゃあこんなのはどうでしょうと、おばあさんが『ミイ』と名前をつけた瞬間、その雪だるまが動き出した。

 驚いた二人だったが、すぐに喜び抱き合い、その子を我が子のように育てる。

 すくすくと育っていく雪むすめ。その姿は本物の女の子と見分けがつかないほどだった。

 しかし、体はやっぱり雪だ。冬以外は外で遊べず家の中に閉じこもっていなくてはならなかった。

 

 ある夏の日。外で楽しそうに遊ぶ友達の姿を羨ましそうに見つめる雪むすめ。

 寂しそうなその姿を見た友達は一緒に遊ぼうよと雪むすめを誘った。

 迷ったあげく、意を決して家から飛びだして行く雪むすめ――

 

「そんでもって、太陽の日差しを受けたミイちゃんは、跡形もなくとけて消えてしまいましたとさ」

 

 めでたしめでたしと締めくくろうとしたのだが。

 

「ミイちゃんかわいそうなんです……。ひっぐ、うえぇっ」

「げっ。たかが絵本で泣くとか、カンベンしてくれよォ。かわいそうも何も、そもそもミイちゃんは人間じゃなくて雪だるまなんだっての。ったく、作り話にマジになるなって」

 

 だが泣き止むどころか、ますます大声で泣くコロ美。

 しまった。逆効果だったか。

 

「あー、スーパーめんどくせぇ!」

 

 しばらく耳を塞いでいると、急に静かになった。

 そっと目を開けてみる。

 

「泣き疲れた、か」

 

 スヤスヤと寝息を立てているコロナ。

 はぁ。これだからガキんちょは……。やってらんねェ。

 十分だけでも眠ろうと寝返りを打とうとしたところで、ギュッとキャミソールが引っ張られる。

 

「あんだぁ?」

 

 見ると、チビチビの小さな手が俺のキャミを掴んでいた。

 

「こいつ、いい加減に!」

 

 乱暴に手を放そうとするが、

 

「パパ、さん。コロナは、ずっと……」

 

 ズルリと額のタオルが落ち、それと同時に涙も流れ落ちる。

 その時だった。俺はクロエの言葉を思い出す。

 

『一番の原因はシラガ娘を守るために本来の姿へ変身、あまつさえ同時に集束まで使ったからだろうケド』

 

 こいつが石風邪にかかったそもそもの原因は俺――

 変身。集束。大魔法。こんな小さい体でそれらをいっぺんにしたんだよな。

 

「ムチャ、しやがってよ」

 

 呟いてすぐ、自分の勝手な発言に情けなくなる。

 ムチャさせたのはどこのどいつだよ。

 生身でダッシュを追いかけたりなんかするから、コロナが力を使わざるを得なかったんだ。

 こうなることを分かっていてこいつは俺を守ってくれたんだよ。ありったけの力を使って。

 

 チビチビが居なきゃ何も出来ないクセに。

 魔法が使えなきゃ何の意味もないクセに。

 

 自己嫌悪――らしくないよなァ。

 まったく。この世界はどうも調子が狂う。

 俺は落ちたタオルをもう一度濡らすと、そいつの頭に乗せようとして、

 

『ご主人様に撫でてもらえるなんて、それ以上のご褒美はないんです』

 

 今度はコロナの言葉を思い出していた。

 

「…………」

 

 撫でるだけで命を救ってくれた褒美になるとは、思っちゃあいないけれども。

 それでも――

 他に何をしてやれるのか分からない俺は、

 

「さんきゅな、コロ美。あと、ごめん」

 

 チビチビの頭を数回優しく撫でた。

 タオルの水か汗か、じっとりと濡れている前髪を整えてやる。

 

「なんつーか、その……もうこんなムチャさせねェからよ」

 

 言ってタオルを乗せたその時だ。

 

「うっひゃあ、もしかしてお邪魔だったか?」

「!?」

 

 振り向くと、そこには面白そうに笑う黒猫が座っていた。

 うげっ。こいつ、いつの間に!

 

「へぇ、なるほどね。二人っきりの時はいつもそんなカンジだったのか。そりゃあ好かれるワケだ。合点がいったぜ、『優しいパパさん』よ」

「こ、これはだな。一瞬の気の迷いっていうか、別にこんなガキどうでもいいし。ただ、親父に優しくしろって言われてるから仕方なく演技しただけだしっ。間違えるなよ、クソッタレ!」

 

 そいつは嫌味なニヤケヅラを向けたまま、

 

「ほれほれ。あんま大きな声を出すとコロ助のヤツ起きちゃうぜ」

 

 と、尻尾を左右に揺らす。

 

「ぐっ……! ていうか、なんの用でぇい」

 

 あぐらをかいてバカ猫の鼻をつつくと、そいつはくすぐったそうに顔を背ける。

 

「なんの用だとはご挨拶じゃねーの。オレだってコロ助の具合が心配だったから様子を見に来たのさ。シラガ娘一人だと不安でさぁ」

 

 こんのニャンちくしょうが。ホント、言いたいこと言ってくれるぜ。

 俺がイラッと拳を握りしめていると、クロエは顔を背けたまま呟いた。

 

「でも……大丈夫そうだな。あーあ。コロ助のやつ、良いご主人様に拾われて幸せモンだな。けけっ」

 

 こんな目にあわせて良いご主人も何もないと思うのだけれども。

 というか、いささかに疑問だな。

 

「俺より、チビ助のほうが良いご主人様をやっていると思うぞ?」

「…………」

 

 クロエが無言を返したとき、ガチャリとドアが開いてゆりなが顔を覗かせた。

 

「しゃっちゃん、すき焼き出来たよー。あ、クーちゃんこんなところにいたんだ。もう、お話の途中で急にいなくなるんだもん。心配しちゃったよ」

「へへっ、猫は気まぐれって言うじゃん」

「気まぐれすぎだよっ!」

 

 そんな二人のコントを見ていたい気もするのだが、ちぃとばっかし声が大きいので人差し指を唇にあて、シーッというジェスチャーをする。

 

「にゃ、にゃはは。それじゃあ、待ってるからね」

 

 ポリポリと頭をかいてドアを閉めるチビ助。

 俺はコロナの様子を確認してみた。よし、ぐっすり眠っているようだ。もうじき良くなるだろうな。

 そんじゃま、早速行くとするかね。もう腹ペコで限界だぜ。

 

「よーし、今日こそ白飯以外も食ってやるぞってなモンで……あれ、お前は行かねーの?」

 

 コロ美の隣でとぐろを巻くクロエに訊いてみると、

 

「バーロー。ポヨ子もいるんだぜ、オレが普通にすき焼き食ったらおかしいだろっての。あとでポニ子がタッパーに詰めて持ってきてくれるから心配すんな」

「……別にテメェの心配なんかしてねぇし」

「コロ助の心配はするのに、オレの心配はしてくれねぇんだな。ああ、オレは今モーレツに悲しいぜ。およよよ」

「チッ、うざってぇ」

 

 付き合ってらんねーやと、ドアを開けた時、

 

「今度こそ……」

 

 背後から悲しげな声が聞こえた。

 

「ん?」

 

 不思議に思い、首を傾げたのだが、階下から漂ってくるすき焼きのニオイにたちまちノックダウン。

 こりゃあ、たまんねーぜ!

 俺はそのニオイの糸に手繰り寄せられるまま階段を下りていった。


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