魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第四十三石:看病するシャクヤク

「はぁ……」

 

 とにもかくにもと、ドアを閉めると、俺は用意された着替えやら何やらを持ってコロ美のもとへ戻った。

 目を閉じ、浅く速い呼吸を繰り返しているチビチビ。

 うーん。さっきよりはマシになったが、それでもまだ苦しそうだねぇ。

 着替えを脇に置き、その他もろもろが入ってる袋からタオルケットを取り出す。

 それをフワリとかけて、

 

「いいねぇ、こいつは暖かそうだ。これで掛け布団問題はクリアってなもんで」

 

 ぽむぽむ叩いてやる。

 それにしても、ごちゃごちゃとまぁ。色んなものが詰め込まれているな。

 

「どれどれ、えーっと。絵本にぬいぐるみに、ぬいぐるみに、ぬいぐるみ……って、なんじゃこりゃ」

 

 ぬいぐるみが袋の八割を占めているぞ。

 使えそうなのは、洗面器とタオルぐらいしか見つからないんだが。

 風邪薬の一つぐらい入れておいて欲しかったぜ。なんて贅沢なことを心の中で思っていると、

 

「石風邪は特殊なのです。人間の風邪薬は効かないんです……」

 

 か細い声でコロナが言う。

 

「あれま。起こしちまった?」

「否定。体がホカホカして全然眠れないのです」

「ホカホカ、ねぇ。ちょいと失礼」

 

 よくある火照りだろうと、布団の中に手を入れて確かめてみたのだが、これが熱いのなんのって。

 どうなってんだ、こいつァ。火傷しちまうところだったぞ。

 

「いやはや。石風邪とやらを甘く見すぎていたのかもしれねぇ。コロ美、立てるか? とりあえず汗がハンパねェから着替えすっぞ」

「ふぁい……。がんばるんです」

「頑張るな頑張るな。立ってるだけでいいって。俺が着替えさせてやる」

「こ、肯定」

 

 スモックを脱がし、ぱぱっとパジャマへの着替えを済ますと――いや、ちょいタンマ。

 この動物の顔をしたボタンが、凄まじく閉めにくいんだけれども。むむっ。

 誰だよ、このパジャマのデザインを考えたヤツは……。もはや知恵の輪レベルだぞ。

 

「くそっ、牛のツノが邪魔過ぎて閉まんねぇ。待てよ、このツノ少しだけ曲がるぞ。ああ、分かった。ここをこうするのか。そんでもって鼻輪を半回転させれば――よし、いいぞいいぞ」

 

 俺が唸りながらボタンと格闘していると、

 

「あのあの、パパさん。コロナはひとつお訊きしたいんです」

「んー。恐縮だけれども、ただ今お取り込み中なんで。手短にヨロシクどうぞ」

「肯定。パパさんって、もしかして妹さんとかいるです?」

 

 その言葉にぴたりと手を止める。

 

「……どういう意味だよ?」

「昨日のお風呂から思ってたんです。なんとなくですけど、お兄ちゃまっぽい雰囲気が、」

「いねェよ」

 

 言っている途中だったが、一言で俺はその会話を終わらせる。

 いないモノは、いない。だから話すことは何も無い。

 

「パパさん……?」

「ほれ、出来たぞ。いっひっひ、かっちょわりィパジャマだぜ。さぁ、横になりなァ。あとは冷たいタオルで頭を冷やせばすぐに治るだろ」

「あ。ありがとなんです」

 

 もぞもぞと布団の中へともぐりこむコロ美。

 そんじゃま、下に降りて水を汲んでくるかね。

 俺が洗面器を持って立ち上がろうとしたとき、ちょいちょいっと小さな指でつつかれる。

 

「あんだよ。心配しねぇでも、すぐに戻ってくるって」

「えっと、その。お水は魔法で出せばイイと思うのです」

 

 …………。

 そっスね。そういや、俺って水の魔法使いでしたね。

 恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしていると、コロ美がクスクスと笑った。

 

「にゃろう。笑うんじゃねェよ、タコ助」

「否定。コロナはタコじゃないんです。チョウチョなのです」

「似たようなモンだろ」

「似てないんですっ!」

「おー、コワい。へへっ、ちょっとは元気になってきたじゃあないの……っとォ、ぷ~ゆゆんぷゆん、ぷいぷいぷう『アクアビット』!」

 

 詠唱後、右手をグッと握り締める。すると、手の中に冷たいグミのような感触が現れる。

 そっと手を開くと、小さなシャボン玉がフワッと浮かび上がった。中にはエメラルド色の水がなみなみと溜まっている。

 オーケイ、俺の想像通りだ。だが、これじゃあいささかに少ないな。

 

「ぷゆゆんぷゆん、」

 

 左手を右手首に添え、魔力をちょいと追加。

 すぐさま膨張し巨大化するシャボン玉を洗面器の上まで持っていき、

 

「ぷうーっ」

 

 弱めのアイスブレスをかまして凍らせる。それを霊鳴の尖った方でつつけば――あっという間に出来上がり。

 

「す、凄いんです……」

 

 洗面器の中を見てコロナが感嘆の声を上げる。

 

「他の魔法と比べりゃあ、別に凄くないだろうよ。ただ単純に水入りシャボンを作って凍らせただけだし。まあ杖を使わずに魔法を出すのは初めてだったから、少し緊張したけれども」

 

 言いながら、チビチビの頭に冷たいタオルを乗せてやる。

 

「氷とお水を効率良く出す魔法を一瞬で閃いたのです。やっぱりパパさん凄いんです。特別なのです」

「へいへい、そりゃどーも。興奮したらまた熱があがんぞ。いいから寝ろ」

 

 あまり何度も褒められてもね。何故かそこまでイイ気分じゃあない。

 さて、一段落ついたことだし、すき焼きが出来上がるまで俺も横になるかね。

 ごろんと、コロ美の隣に寝転がり、特大のあくびをしていると、

 

「あのっ」

 

 布団を顔半分までかぶってそいつは恥かしそうに、こう呟いた。

 

「きょ、今日のパパさんなんだか優しいのです。昨日も優しかったですけど、なんていうですか、その……」

「病気だからな。女で、子どもで、しかも病気とくりゃあ最大限まで優しさレベルをあげなきゃなんねぇ。まっ、治ったら厳しくするんで覚悟しときなァ」

「うっ……。なら、コロナはずっと石風邪のまんまがいいです」

「おっと。言い忘れたけれども、看病も一日が限界だから。それ以上は見放す。サクッと見放す」

「ぐすっ」

 

 悲しげに鼻をすするチビチビ。

 ちと、からかい過ぎたかね。

 

「チッ」

 

 俺は飛び起きると、袋からぬいぐるみ達を解放した。

 コロ美の周りへと陣取ったそいつらの中で一番でかい蜘蛛のぬいぐるみ(ゆりながコロナへと貸したヤツだ)を掴み、

 

「ふぉっふぉっ。おチビさん、逆に考えてみなされ。一日だけなら優しくしてやらんこともないという意味じゃろ。ほれ、なにかして欲しかったら何でも言うてみるがいい。今のうちじゃよ」

 

 人形劇よろしくやってみる。

 出来ればそのまま寝てくれたほうが有り難いんだけれども。

 

「あっ! えっと、えっと、それじゃあ絵本を読んで欲しいのですっ」

 

 そうもいかないよなぁ……やっぱし。

 しょうがねぇな。めんどくせーけど。

 底にあった『雪むすめ』という絵本を取り出し、袋を畳む。

 やれやれ。結局、袋の中身を全部使うことになったな。

 

「パパさん、はやく、はやくっ」

「わーってるって。えーっと、昔々おじいさんとおばあさんがいました……」


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