魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第四十一石:vs第十四番模造魔宝石コピー・ザ・ヨムリエル編

 パンツ騒動の後、空腹に耐えかねた俺達はゆりな家へと文字通り飛んで帰ったワケだが。

 そこで事件は起こった。

 俺が変身を解こうと解除呪文を唱えた時、ぽんっという小さな爆発音と共に、胸のエメラルド宝石から蝶々――コロナが飛び出した。

 そいつはフラフラ彷徨ったあと、やがてヘロリと地面へ落下する。

 一体どうしたんだと、その様を呆然と見ていた俺だったが、

 

「あ、アイスウォーターちゃん、大丈夫!?」

 

 ゆりなの呼びかける声にハッと気付く。

 そういや、結構前からコロ美の声が聞こえなかったような……。

 もしかして、こいつどっか具合でも悪ィのか?

 

「しゃっちゃんどうしよう……。すっごく体が熱いよ」

 

 手のひらに蝶を乗せたチビ助が涙目で言う。

 

「確かに様子が変だな。羽の光りかたが尋常じゃねェし。とりあえず、ここじゃあ人目についちまうから家ん中入るぞ」

 

 部屋に戻ろうと俺たちが駆け足で階段を上がっていると、突然の黒い影。

 ギョッとして立ち止まったのだけれども――そいつはクロエだった。

 階段の一番上、ゆりなの部屋の手前でそいつは通せんぼをするかのように俺たちを見下ろしている。

 

「なんでェい、クロエか。驚かせやがって。つーか、今までどこほっつき歩いてたんだよ。お前さんがどっか行っちまったせいで、こちとら大変だったんだぜ」

「……ああ。わりぃ、ちょっとな」

「ちょっとなって、お前さんよォ」

 

 生返事に食って掛かろうとする俺に、

 

「しゃ、しゃっちゃん。それより、アイスウォーターちゃんが……」

「あ、そうだった。おいクロエ、コロ美の様子が変なんだけれども、一体どうなってやがるんでぇい」

 

 訊くと、黒猫は眉間にシワを寄せてこう言った。

 

「本来の姿に戻ったからな。おそらく石風邪にかかったんだろう」

 

 石風邪って、そんな風邪きいたことねェぞ。

 俺が視線を送ると、ゆりなも知らないという風に首を振る。

 

「ああ。石風邪っていうのは、オレたち霊獣や模魔がかかる特有の病気だ」

「びょ、病気って!」

 

 青ざめるチビ助だったが、

 

「いやいや、そんな大した病じゃないから安心しな。体力が無いときに魔力を使いすぎるとよくなっちまうんだ。オレも何度か経験あるし。アレだな、人間で言うところの貧血みたいなもんだな」

 

 黒猫の一言にホッと安心する。

 無論、俺もその言葉に安心したのだけれども……。

 小さいとはいえ、七大霊獣サマとやらが本来の姿に戻っただけで貧血になっちまうなんてな。

 ランクEのダッシュでさえコロコロ姿を変えてたっつうのに。

 うーむ。いまいち、よくわかんねぇ存在だ。

 そう俺が心の中で不思議がっていると、

 

「言っただろ。体力が無いときに、ってさ。コロ助は一日のうちに何度も集束を使ったからな。しかも七大の中でも一番体力の少ない三番石だ。すぐにガス欠になるんだよ。まっ、一番の原因はシラガ娘を守るために本来の姿へ変身、あまつさえ同時に集束まで使ったからだろうケド」

 

 ベラベラと次から次に言葉を紡ぐ黒猫に、俺は待ったをかけた。

 

「弁舌さわやかに語っているところ申し訳ないのだけれども、別に俺は何も言ってねーぞ。そりゃあ疑問には思ったが。もしかして、お前さんもコロ美みたいに俺の心が読めるのかィ?」

 

 言うと同時にそいつは肉球を自分の頭にあて、

 

「あっ!」

 

 と言った。スゲェやっちまった感が伝わるリアクションだった。

 しかし追撃の手は緩めずといった調子で、

 

「クーちゃん、『集束』ってなぁに?」

 

 今度は俺の後ろにいるチビ助が訊ねた。

 

「いっ!」

 

 あからさまな動揺。

 そういや、たしか集束のことは秘密なんだっけか。

 とりあえず、こちらにケツを向けてガタガタ震えているそいつに、言っておく。

 

「何をビビってんだか知らねェけれどもよォ。チビ助だって魔法使いなんだ。『集束』くらい知っておいたほうがいいだろ。つーか、そもそも隠す意味が分からん」

「そ、そーだな。シラガ娘の言うとおりだ。まあ、その前にコロ助を部屋に運ぼうぜ」

 

 運ぼうぜって、ジャマしたのは誰なんでぇい。

 いささかに唇を尖らせていると、そいつは俺の股下をスルッとくぐり、ゆりなを見上げる。

 

「言っとくが、ポニ子の部屋はダメだぜ。隣の物置部屋に連れて行くぞ」

「え。なんでボクの部屋だとダメなの?」

「石風邪は普通の人間には移らないが、魔法使いには移るんだ。しかも、持ってる魔力が多ければ多いほど移りやすい。それに風邪のあいだは細かい石の結晶を吐き続けるんだ。それは菌のようなもので、部屋の中でばらまかれたら最後、どうやっても除去する手立てがないの。消すには時間経過しかないが、完全に消えるまで丸一日くらいかかるんだ」

 

 ふぅん、なるほどね。だから物置部屋にコロ美を隔離するってワケかい。

 横目で黒猫を見ていると、チビ助が食って掛かった。

 

「ボク平気だもん。物置部屋なんて寒いところ、かわいそうだよっ」

「バーロー。平気じゃないっての。明日から学校が始まるんだろ? 悪いことは言わねぇ、コロ助は物置に寝かせておけって。どーせすぐに治るんだし」

「いいもん。風邪になっちゃったら休むもん」

「だぁああ。オレらは人間じゃなくて石なんだっての、頑丈なんだから平気だって!」

「人とか石とか関係ないよっ」

 

 いやはや。双方ヒートアップしちゃってまぁ。

 二人が言い合ってる中、俺はそーっとチビ助の手の中から蝶々をつまみ上げた。

 うお、思った以上に体が熱いな。大した病じゃない、なんて言うけれども……。

 グッタリと羽を休めているそいつと、「ボクの部屋!」「いいや物置!」なんてやり合うゆりな達を見比べ、俺は深いため息をついた。

 こりゃあ、どうも埒が明かないね。

 

「あーもう、めんどくせぇヤツら。いいよ、コロ美は俺のものだ。俺が面倒みるのが筋ってなモンで。二人はそこで仲良く遊んでなァ」

 

 そう言い捨て、俺は物置部屋へと歩を進めた。


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