魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第三十七石:余裕の勝利!?

「な、なにしてやがんだテメェ! 飛ぶんだよ、あいつに体当たりすんのっ」

 

 俺の怒声に、ぷゆゆっと怯えるように身を震わせるマスカットゼリー。

 そいつは空中で静止したまま一向に動こうとしやがらねぇ。

 ったく、ご主人様に反抗するたァ新米魔法のクセに良い度胸してやがるぜ。

 あーあ。かっちょよくロケットパンチみたいに飛ばす予定だったのによォ……。

 

『パパさん。こんな時はふーふー、なのです。後押ししてあげるんです』

「ふーふー、だぁ?」

 

 あ。

 そこで俺は思い出す。

 昨日のゆりなとコロナの一戦で、コロナが繰り出したあの魔法を。

 そうか、ふーふーってのは『氷の吐息』のことだな。

 

 ゼリーを維持するべく左手はそのままで、飴ちゃんもおろそかにしないよう右手に再度魔力を注ぐ。

 吐息、ね……出来るか分からねェが、両手が塞がってる今、それしか選択肢はなさそうだな。

 

「オーケイ、やってみますんで。んじゃ、いくぜぇええ……口から吹雪! すいすい『アイスブレス』っ」

 

 大きく息を吸い込み、そして限界まで達したところで一気にフゥーッと吐く。

 おお、すっげぇ、マジで出たぞ。

 氷の粒がちらほら混ざっているエメラルドグリーンの吐息。

 キラキラと輝いたそれは一瞬でフリーズナックルを凍らせ――勢い良く飛ばした。

 

「おっとっと」

 

 明後日の方向へ飛んでいこうとしたそいつを、左手をクイッと曲げて軌道修正。

 すると、曲げた方向にナックルが飛んでいくではないか。

 スノードロップに押され、身動きの取れないダッシュに容赦なくぶつかっていく凍ったマスカットゼリー。

 いやはや。さっきまであんなに怯えていたというのに、子どもの成長ってェのは早いもんだね。パパさん感激だ。

 

 それにしても、と俺はふと思う。

 左手の動きと同じようにナックルが動くってェことは――

 

「……これは、もしかすると、もしかするってねェ!」

 

 試しにシャドーボクシングよろしく左コブシを振ってみる。

 やはり思ったとおりだ。同じように氷ゼリーも動きやがる。

 やられるがままにヒレガードしているダッシュに、俺は確信の笑みを浮かべた。

 イケる……倒せるぞ!

 

「ウラウラウラウラーッ! どうした、どうしたァ!?」

 

 ジャブ、ジャブ、フックからのストレート。

 うっひょお、気持ち良いねぇ!

 やがてガードが崩れたそいつの土手っ腹に、

 

「恐縮だけれども、ここまでだね」

 

 トドメのボディブロウをかます。

 巨大ザメ、陥落。

 声も無く落下していくダッシュを見下ろして、俺は勝利の味を噛み締めていた。

 へへっ、変身さえ出来りゃあ、ザッとこんなもんよ。 

 

 おっ。今日一番の大将が戻ってきたな。

 俺の周りを楽しそうに飛び回るフリーズナックルを捕まえて、

 

「なんでぇい、褒めてほしいのかィ?」

 

 いつの間にか氷がとけていたそいつは、ぷるんと一回だけ震えて答える。

 おそらくイエスって意味だろーな。

 

「よしよし、良い子良い子。エライぞー、お前さんは」

 

 撫でてみると、ぶくぶくと沸騰する音を立てて、たちまち消えてしまった。

 

「あんれま。もしかしてノーって意味だったのか」

『否定。嬉しすぎて気化しちゃうくらい照れてしまったんです』

「ふうん。撫でられるのがそんなに嬉しいのかねェ?」

『それはもう! ご主人様に撫でてもらえるなんて、それ以上のご褒美はないんですっ』

 

 へー。

 じゃあ、あとで飴ちゃんも撫でておこうかね。機嫌悪くされちゃあ、一番困る魔法だし。

 しっかしながらよォ……。

 

「本当に想像次第でなんでも作れるんだから、スゲェよな魔法ってヤツァ」

 

 しみじみと言った俺に、

 

『……ほんとはありえないのです。成ったばかりなのに、ここまで色んな魔法を上手く編み出せるなんて。

 いくら新魔法少女さんと言えど、こんなのっておかしいんです』

 

 コロナが苦々しくつぶやく。

 むっ。なんだよ、こいつまでクロエみたいなこと言いやがって。

 

「ありえなくねーっての。俺はピースに選ばれた程の強力な魔法使いなんだろ? これくらい出来てトーゼンだぜ!」

『そうですね……』

 

 そんなやり取りをしていると、ゆりながやってきた。

 杖に跨って、ゼーゼーと息を切らしている。

 こりゃまた、ヒドい状態だな。俺はボサボサになっちまったそいつの髪形を整えながら笑って、

 

「よっ、遅かったなチビ助。わりぃが、スピード勝負は俺の勝ちってことで」

「はぁ、はぁ……。しゃっちゃん速すぎぃ。ボク、もうヘトへトだよぉ……。ちょっち休まないと、ま、魔法出せないかも」

「オーケイ。ノンビリ休んでもらって構わないぜ。どうせ、あとは捕獲するだけだからよ」

「ふぇ?」

「ほれっ、アレを見てみそ」

 

 交差点のど真ん中で気絶しているダッシュを指差すと、ゆりなが目を丸くした。

 

「しゃ、しゃっちゃん!」

 

 凄いね、チョーつおい最強じゃん! とセリフが続くと思い、したり顔でふんぞり返っていた俺にチビ助がこう叫んだ。

 

「油断しちゃダメっ」

「……へ?」

 

 どういうこっちゃ。

 倒れているであろう、そいつを見下ろしたその時、

 光の輪が高速回転する音と共に、ウォーターブルーの瞳が真紅に染まった。


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