魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第三十六石:飛び出せっ、氷の鉄拳!

「クソッ! なんて、すばしっこいヤツだ」

 

 デパートの屋上に降り立つと、俺は霊鳴を強く握りしめた。

 何度も、何度も逃げられやがって。なにが選ばれし魔法使いだ。情けねぇ――

 こんなことなら食い終わるまでノンキに待ってねェで、とっとと魔法を撃っておけば良かったぜ。

 そんな焦燥に駆られている俺に、

 

『……さすがはダッシュの看板背負ってるだけあるんです。あのスピードに対抗するにはコロナの羽だと力不足なのです。パパさんは悪くないんです』

「…………」

 

 コロナの気遣いが胸に刺さる。

 確かにハチマキ娘の足の速さはとんでもないかもしれないが、それでも追いつけないほどではない。

 むしろ、追い越すくらいの力をチビチビ助の羽は持っている。

 実際、さっき一度だけ接近することに成功したからな。だけれども、また徐々に引き離されていった。

 

 その理由は――カーブ。

 直線速度ならば俺の方がおそらく、いや確実に速い。

 だがあいつはそれを知ってか知らでか、直線を嫌ってとにかく曲がりまくる。

 やっと飴ちゃんの射程距離内に入ったかと思えば、くるりと方向転換をして俺のスピードを殺しにかかる、といった具合だ。

 まあ、カーブの弱さについては今後の課題だな。今は飛びの練習してる時間もねぇし。

 

『あれ? そういえば旧魔法少女さんが居ないんです』

 

 チビチビの声に俺はちらりと振り返る。

 晴れ渡った青い空に、せっせと春の日差しとやらを生み出している太陽。

 チビ助どころか鳥の一匹すら飛んでいないという、なんともスッキリした風景だった。

 

「ま、あんだけ飛ばしたらついて来れねぇだろ。羽に魔力ぶち込みまくったしよォ。つーか、ついて来られたらいささかにショックだぜ」

『そでした。パパさんの羽と旧魔法少女さんの杖とでは、出るスピードが違ったんです』

 

 確かに羽と杖の差が一番デカイのかもしれねぇが……。

 あのフラフラした飛びっぷりを見るに、杖で飛ぶこと自体にあまり慣れていないように思える。

 とはいえ。あいつも魔法使いになったばかりらしいし、仕方ないっちゃ仕方ないか。

 しかしながら、このどピーカンな天気――悪くねぇな。こんな時じゃなければ、ゆっくり日向ぼっことシャレ込みたいところだけれども。

 

『肯定。気持ち良さそうなのです。パパさんと一緒に日向ぼっこしたいんです。旧魔法少女さんを待つあいだ、少しだけしちゃうのです』

「否定。また今度な」

『ぶぅ~っ』

「ブーたれてもダメなもんはダメだっつうの。ゆりなが来るまでに、ダッシュを見つけて少しでもダメージを与えておかねぇとよォ」

 

 そう。

 今のあいつは変身をしていない素の状態。

 攻撃力については俺がカバーするから別にいいとして、問題は防御力だ。

 体中を纏うオーラで防いでいるのかコスチューム自体で防いでるのかよく分からんが、どっちにしろ、それらの無い生身で攻撃を食らったらひとたまりもないだろう。

 たとえランクEのダッシュだとしても、だ。

 

 護れるなら護ってやりたいところだけれども――正直、その自信が無い。俺だって成り立てだし。

 ……出来ることなら、なるべく戦闘に参加させたくねぇ。

 理想としては俺が先に瀕死までおいやって、最後に到着したチビ助に捕獲を任せるって流れだな。

 

「コロ美、恐縮だけれども気配察知をしてみてくれ。大体で構わねェぜ」

『肯定。えっと……なんとなくダッシュの気配を感じるんです。きっとまだこの街に居ると思うのです』

「オーケイ。そんじゃ、もう一回アレをやってみっか」

 

 新魔法使い専用の捜索術。

 しんどいからあまりやりたくないんだけれども、そうも言ってられねぇ。

 目を閉じ、ダッシュのツラを思い出す。

 

 …………。

 現れたのは、顔いっぱいにクリームをつけて美味しそうにクレープをほおばるハチマキ娘――

 違う。

 違うって。

 あのチビガキは仮の姿であって、本当の姿じゃねぇんだよ。

 

 俺はブンブンと頭を振って、サメ状態のダッシュを思い出した。

 凶暴そうなツラに、不揃いに並ぶ歪なキバ。そして、鋭く冷たいウォーターブルーの目ん玉。

 

 まっ、こんなところだろ。そんじゃ意識集中っと。

 うーむ……。

 どうやら、前方には居ないようだな。するってぇと、こっちか?

 目を閉じたまま首を回してみると、暗闇の中に黄金色のモヤが出てきた。

 

 コレだ。

 いっひっひ。見つけたぜぇ、サメちゃんよォ。そして、このモヤのデカさ――かなり近くにいやがるな。

 今度こそ不意打ちをぶちかまして、

 

「……んんっ?」

『どうしたんですか?』

「いや、なんか、どんどんモヤがデカくなっていってるんだけれども……」

 

 不思議に思い、目を開けてみると、目の前が金ピカ一色に染まっているではないか。

 

「ま、まさか」

 

 おそるおそる見上げた先には――俺を静かに睨みつけている金色のサメ、ダッシュ!

 

「うおわっ!?」

 

 俺はすぐさま羽に魔力を注ぐと、後方へと羽ばたいた。

 ビ、ビビらせやがってよォ。

 速まる鼓動を落ち着かせるために、大きく深呼吸。続けて杖を持ち直す。

 水付与は――よし、まだ効いてるな。

 

 それにしても、と俺は微動だにしないダッシュへ目を向ける。

 なんで、あいつの方からやって来やがったんだ?

 逃げるのに飽きたのか、はたまた逆に不意打ちをかまそうとしたのか。

 いや、んなことゴチャゴチャ考えてたらまた逃げられちまうってェの。

 これはチャンスだ。四の五の言わずに攻撃あるのみってなモンで!

 

「恐縮だけれども、いかせてもらうぜっ! ぷ~ゆゆんぷゆん、ぷいぷぃい~ぷぅ!」

  

 一発目といったら、やっぱコレっきゃねぇ。

 

「すいすい、『スノードロップ』っ」

 

 杖からポコポコ飛び出す、無数の氷弾。

 よーし、当たってる当たってる。

 俺は飴マシンガンを出したまま、羽を広げて飛び上がり、

 

「いっひっひ。こいつもくらいなァ! 追加攻撃だっ、ぷゆゆんぷゆん、ぷいぷいー……」

 

 空いている左手をダッシュに向けて突き出す。

 ゆりながやっていたように、杖を持っていない手のほうでも魔法が出せるハズだ。

 俺だって。

 俺だって、やってみせる。

 

「ぷぅ!」

 

 前半の呪文を唱えた直後、俺のコブシ周りに流れていた緑色のオーラが、いっそう分厚くなる。

 いいねェ、実にいい。

 ニヤリと笑い、俺は力いっぱいコブシを握った。

 ますます分厚いオーラを宿した左手を、グンッと引いて、

 

「飛び出せぇええ、すいすい、『フリーズナックル』っ!!」

 

 後半の呪文と同時に正拳突きを繰り出す。

 すると、俺のコブシと同じ形をしたゼリー状の塊がプルンと現れた。

 そしてそれは瞬く間にダッシュへと突っ込んで……いかない!?


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