魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
「どこ行きやがった、あんにゃろう」
十五分ほど空を翔けて探してみたのだけれども――
いない。
探せども探せども見つからないのだ。
あの巨体がだぜ? こんなちっぽけな町に隠れるところなんてあるとは思えないが。
ふうむ。
まさか、もっと遠くまで行っちまったとか?
俺が空中であぐらをかきながら考え込んでいると、
『パパさん。ダッシュは傷を負ってるんです。そこまで遠くに行けるとは思えないのです』
相も変わらず俺の心をサクッと読みとるチビチビ助。
「そりゃあ、まあそうだな……」
そう返して、俺はさっきの光景を思い出す。
本来の姿になったコロ美による容赦無しの氷柱マシンガン。
全身に氷柱が刺さり、のたうちまわるアイツの姿は、傷を負ったというよりも――
もはや、『致命傷』の領域だ。
ホバーを事も無げに喰らったクロエに、
ダッシュを平然と半殺しにしたコロナ。
模造やら七大やら括りは違えども、同じパンドラの箱から飛び出した『石』だってぇのに。
よくもまぁ、アッサリと傷つけられるもんだ。
クロエ曰く、数百年ほど箱ん中で一緒に過ごしていたんだろ。普通に考えりゃあ、それって仲間――
『否定。模造魔宝石と七大魔宝石は仲間じゃないんです。まったくの、別物なのです』
まァた、人の思考を勝手に読みやがって。
『ごめんなさい、なのです。でも、アレはコロナたちとは違う――違いすぎる石なんです。
あんなお話の出来ない暴れん坊さんなんて、コロナと一緒じゃないのです。絶対に違うんです』
拒絶。
自分と模魔を同列として考えて欲しくない、そんな拒絶がハッキリと伝わってくる。
いやはや。こういった話はとっとと切り上げたほうが良さそうだ。
とは、思うのだが……。
どうも引っかかる一点に、俺はつい訊いてしまった。
「あのよォ。お話の出来ないって言うけれども、さ。ホバーはともかく、ダッシュは会話通じたぞ?」
『ひ、否定。それはウソなんです』
「嘘じゃねぇって。まあ、実際のところ声を出した会話はしてないのだけれども、
あいつ、メモ帳に文字を書いてたんだぜ。下手っぴで、しかも片言だが、一応読める日本語をさ」
そう。
クロエも模魔には心が無いとか言っていたが、ダッシュには心があるように思えるのだ。
ちゃんと俺とお姉さんの言葉を理解し、文字を書いて返事をしたんだからな。
どう考えても心があるだろ、あれは。
『あの大きなヒレで文字を書いたんですか? ありえないのです』
「違う違う。お前さんたちのような『仮の姿』ってぇヤツ。金髪ちんちくりんのハチマキ娘ってな人型の時に書いてたんだ」
『そんな、まさか……。パ、パパさん。お姉ちゃまは、その仮の姿のダッシュを見て、なんて言ってたんですか?』
「ん。いや、別になんも言ってなかったと思うぞ」
ダッシュがハチマキ娘からサメに戻ったときのリアクションを思い出してみるが、
あの猫はそれが当たり前のように淡々と能力やランクについて語ってたぜ。
『そう、ですか』
それっきり黙ってしまうコロ美。
はて。こいつは、さっきから何を驚いているんだろう。
もしかすると、あまり模魔について知らないのかもしれないな。チビチビだし。
ま、俺もよく知らねぇケド、多分あいつらにも色んな種類があって、中には心があるヤツや仮の姿になれるヤツもいるとか、そんなオチだろ。
って、待てよ。仮の姿……?
もしかして、あいつ!
羽に力を入れて浮き上がった俺に、
『ど、どうしたんですか、パパさん』
「おそらく、ダッシュは仮の姿に化けていやがる。あの巨大なサメ状態じゃなくて、ちっこいハチマキ娘にな。だから、いくら探しても見つからなかったんだ」
+ + +
ほどなくして、そいつは見つかった。
俺たちの居た町よりも一駅ほど遠くの商店街。
「ビンゴ。よくこの方法を思い出したな、コロ美」
模魔の顔を思い浮かべて意識を集中させれば居場所がわかるかもしれない、というコロナのアドバイス。
霊獣はおおよその気配察知くらいしか出来ないが、強力な魔法少女ならば、それが出来るかもっつうこって。
ダメもとでやってみたら見事出来たってワケだ。
ただし、条件としては『顔や姿を一度でも見たことがある模魔』であり、しかも正式な魔法使い状態でなければ出来ない――
つまり、ゆりなのような簡易変身タイプでは不可能な捜索方法らしい。
他にも簡易変身と正式変身との違いについてなんかベラベラと語っていたが、長ったらしいから全部忘れちまった。
『さっすがパパさん。飲み込み早いんです。凄いんです。これが出来る魔法使いさんはそういないんです。やんややんやっ』
「いっひっひ。そう褒めてくれるなよ」
しかしながら、この探し方はいささかに体力を使うな。出来れば、あまり使いたくねぇところだぜ……。
さてはて。
これからどうしたもんだかと、改めてダッシュを見下ろす俺。
そいつは、端の欠けたベンチにちょこんと座って、おなかを押さえていた。
ちなみに、俺ら(というか見た目には俺一人か)は、見つからないように真正面にあるクレープ屋の屋根上にへばりついている。
はぁ。甘い匂いに腹が鳴りまくりだぜ……。
『あの子が本当にダッシュなんですか? 確かに魔力は感じるですが……』
「マジだっての。あのチビが金ピカのサメに変身したところを、ちゃーんとこの目で見たんだぜ。
それにしても、ずっと腹をさすってやがるが、どうしたのかね。やっぱコロ美の氷柱攻撃が効いてるのか?」
『多分、否定。模魔は丈夫なんです。少しぐらい傷ついてもへーキなのです』
少しぐらい、か。
そうは言うけれどもよ。
体操服もブルマもハチマキもボロボロに引き裂かれちまってるじゃねぇか――
「なんだかなぁ……」
呟いて、俺は肩をすくめる。
サメのような姿だったら別になんとも思わないんだけれども、これはいささかにどうもね。
『周りの人、ダッシュを見てるんです』
「ホントだ」
仮の姿だから見えているのだろう、周りの通行人たちがギョッとした目でそいつを見ている。
そりゃそうだ。
全身傷だらけの痛々しい姿をした小学生が一人でベンチに座っているんだ。
誰でも驚くだろうし、不思議がるだろうよ。
だが、驚き、不思議がるだけで誰もそいつに話しかけようとしない。
遠巻きに見て、気の毒にねぇとヒソヒソ話をするおばちゃんや、
まるで汚いモノでも見るかのような目で見ているサラリーマン。
誰しもがハチマキ娘の座るベンチから距離をとって歩いている。
そりゃ、そうだ――
あんな面倒そうなガキんちょ、誰も関わりたくないというのが本音だろう。
『あ、パパさん、ダッシュが動き出したのです。見つかっちゃうんです』
「おっとと!」
突然のコロナの声に、慌ててホフク後退する。
少ししてから、そーっと顔を出してみると、なんとそいつはお姉さんの財布を開けていやがった。
財布の中身と、正面のクレープ屋を交互に見るダッシュ。
『もしかして、お腹減ってるですかね?』
「あ、あのチビザメぇえ、他人様の金でテメェの腹を満たす気か! ふてぇヤロウだ!」
『わ。パパさん燃えてるんです』
見た目に惑わされるところだったぜ。所詮、模魔は模魔だ。化け物相手に同情なんてするもんじゃねぇ。
さっさとあの泥棒ザメをぶっ倒して、財布を取り戻す!
俺は立ち上がって杖を構える。
とりあえず、杖に『水付与』の呪文をかけとかねぇと。
「コロナが魂よ、我に翡翠の――」
「はわーっ! な、なんということでしょう……っ!」
聞き覚えのある少々ズレた口調に、俺は驚いて呪文を止めた。
げげっ、この声は……。
屋根上に立ったまま見下ろしてみると、そこには予想通り――ゆりなのお姉さんが居た。