魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第三十三石:黄金のサメだ!シャクヤクvsダッシュ

 空に手をかざすと、スカートのポッケから石が飛び出してきた。

 

「あっ。そっか、そういやポケットに入れてたんだっけか」

 

 恥ずかしさのあまり、ぽりぽりと頬をかいてしまう。

 ま、まぁ、こんなこともあるさね。

 

「とりあえず、起動、起動っとくりゃあ……試作型霊鳴石弐式、起動!」

 

 石を胸にあて、続けて叫ぶ。

 

「イグリネィション――!」

 

 あっという間に蒼杖へと変化したそれを、ブンブンと振り回し、

 

「行くぜぇええ! クロエぇ!」

 

 ラピスラズリに姿を変えたクロエを掴んで……掴んで、って、アレ?

 後ろを振り向くと、そこには困り顔の黒猫が一匹。

 猫は空中で腕を組みつつ俺に、

 

「あのさ……オレとは合体できねぇぞ。契約したモン同士じゃねーと変身は無理だぜ」

「そーいうことは、はやく言――」

 

 突然だった。

 右脇のカーブミラーが俺のつま先数センチ先へ倒れる。

 見ると、胸ビレを塀に突き刺したダッシュが笑っていやがった。いびつな牙をむき出しにして……。

 こ、こんちきしょうめ。

 

「変身さえ出来りゃあ、テメェなんざ恐くもなんとも――どわっ!」

 

 言ってる途中だってェのに、そいつは容赦なく胸ビレを振り下ろす。

 飛び退いてかわしたはいいが、勢い余ってズッコけてしまった。

 

「い、いててっ」

 

 巨大な影に、ハッと顔を上げると巨大なサメ――ダッシュが俺を見下ろしていた。

 鋭利な刃物のような胸ビレが、もう一度振り下ろされる。

 や、やべぇ……!

 金色の一閃に目をつぶる俺。

 

 なんて。

 なんて、あっけない終わり方だ。

 きっと、こんな小さい体なんざ、いとも簡単に引き裂かれてしまうんだろう。

 ま。一瞬で死ねるんなら、それも――

 そう覚悟していたのだが、待てども攻撃が繰り出される気配がない。

 

「…………?」

 

 そーっと目を開けてみると、そいつの胸ビレに黄緑色の氷柱が深々と突き刺さっているではないか。

 凄まじい鳴き声を発しながら、塀に打ち付けられた胸ビレを必死に抜こうとしているダッシュ。

 

「こ、これは……?」

「パパさん!!」

 

 上空から俺を呼ぶ声。

 見上げると、煌く羽をいっぱいに広げた巨大な蝶が舞っていた。

 ま、まさか。

 

「コロ美、なのか?」

 

 俺の問いには答えず、その怪獣は優雅に羽をはばたかせる。

 すると、その羽からエメラルド色の鱗粉が出てきた。

 いや、違うな。これは鱗粉というより、雪か?

 それは地上十メートルあたりに突如として現れた緑色に輝く巨大な魔法陣に飛び込むと、次々に氷柱へと姿を変えていく。

 

 そして――数多に広がったそれらは、ダッシュの体に容赦なく降り注いだ。

 うっひょお、なんてド迫力なんでしょ。って、俺もここにいたら巻き添えを食らっちまうんじゃねぇのか?

 ……こりゃあ面白がってる場合じゃねーな。

 そう、慌てて退こうとした俺の目の前に、

 

「否定。大丈夫なんです。パパさんのところだけ降らないように調節してあるんです」

 

 ゆっくりとツーサイドアップ園児が舞い降りた。

 そいつは後ろ姿のまま、

 

「……パパさん、お怪我はないですか?」

「おうっ、コロ美サマのおかげでこのとーり、ピンピンしてるぜ! いやー、それにしてもよォ。

 お前さんってば、本気出したら強ぇえのな。びっくりしちまったぜ。びっくりしたっていえば、あの姿だ。あれがコロ美の本当の姿なんだな」

 

 テンションがあがってしまい、つい饒舌に感動を語った俺に、

 

「強さは、否定。い、いつもは、こんなに力、出ないんです」

 

 苦しそうにコロ美が答えた。

 

「どうしたんでィ?」

「なんでもないんです。パパさん、それより今のうちなんです。変身、しちゃうのです」

 

 ダッシュを一瞥すると、苦しそうにのたうちまわっている。

 たしかに、捕獲するなら今しかねぇな……。

 そいつの脇に転がっていた霊鳴を拾いあげ、俺は背を向けたままのチビチビに言った。

 

「わかりましたんで。恐縮だけれども――変身すっぞ、コロ美っ!」

「肯定……!」 

 

 小さな蝶に戻り、それからすぐさま宝石へと姿を変えたチビチビを掴む。

 ん? なんかこの宝石、すげぇ熱くなってるな……。

 まあ。とにもかくにも、と。

 それを真上に放り投げて、俺は目を閉じた。

 

 大丈夫――きっと、今度も成功する。いや、成功させてやるっ!

 杖を掲げて、

 

「アイシクルパワーッ!」

 

 叫ぶ。

 

「チェインジ・エメラルド――ビーストォオオ、イン!!」

 

 魔宝石が割れ、破片が俺を取り囲む。

 すっぽんぽんにむかれ、やがて魔法陣から水流が噴出したのだが……これが熱いのなんのって。

 

「あ、あちちち!」

 

 ま、前に変身したときは、こんなに熱くなかったぞ。

 驚いていると、今度は薄緑色のパンツをはかされる――ハズだったのに、雪が舞い上がった。

 次々にコスチュームが現れていく様子に、どんどんと顔が青ざめる俺。

 

「えっ、あの。ちょい、待てって。パンツ、パンツの部分忘れてるぞコロ美!」

 

 言うと、腕に白いアームカバーが装着される。

 

「いやいやいや、コレとかいらねぇから、それよりもパンツ出してくれっ」

 

 だが、叫んでも梨のつぶて。

 どうやら、変身中は俺の声が届かないようだな。

 トホホ……。

 

 そうこうしているうちに、背中から蝶の羽が生まれ、すべての工程が終わる。

 とりあえず踏ん張って羽を起動させ、空高く飛び上がっておくが――

 やっぱり気になるもんで、ピラッとスカートをめくってみる。

 

「な、なんも無い」

 

 うう……俺は男だけれども、いささかにこれは恥ずかしいぜ。

 魔法を使ってパンツを出したいところだが、『水』や『氷』をどうアレンジすりゃあ出来上がるんだ。

 顔を真っ赤にしてスカートを押さえていると、

 

『パ、パパさん、ダッシュが逃げてるんです!』

「えっ!?」

 

 コロナの声に、慌ててダッシュの姿を探してみるが――どこを探しても見当たらない。

 あんな巨大な体躯を見失うなんて!

 

 こうなったら、飛びまわって探すしかねぇよな……。

 どうせ、今の俺の姿は誰の目にも映らないんだ。

 恥ずかしがってもいられねぇ、とっとと捕まえてやる!

 杖を肩に担ぐと、俺はダッシュを捜索するべく羽に魔力を注いだ。


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