魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第三十二石:ちっちゃな訪問者

 タイミングの良すぎる訪問者に、一歩後退。

 おいおい、マジか?

 身構えている俺に黒猫が声を落として、

 

「噂をすればなんとやら。早速おいでなすったようだ」

 

 早速にも程があるだろうが。

 ホバーとやりあってから、それほど経ってねぇってのに――

 こんなことになるなら俺もゆりなと一緒に寝ておけばよかったぜ。

 目をこすりながら心の中で愚痴っていると、再びのチャイム音。

 

「ど、どうしたもんだかねぇ」

「どうしたもんだかって、捕まえるに決まってんじゃねーか」

 

 いやまぁ、それはそうなんだけれども。

 まさか、直接この家に敵さんがやってくるなんて思ってもみなかったワケで。

 えーと。うーんと。

 とりあえず開けるべきか?

 いや、開けた途端ぶっ飛ばされる可能性があるよな。変身をしていないスッピン状態なんだし。

 

 ここはコロ美を呼んできて変身をしてから開けるか――

 よしっ、そうしよう。

 いったん部屋へ戻ろうとしたとき、後ろからパタパタとスリッパの音が聞こえてきた。

 

「はいはぁい。いま出ますですよ~っ」

 

 エプロン姿のゆりなのお姉さんだった。

 裾で手を拭きながら靴箱の上に置かれていたシャチハタの印鑑を取って、

 

「お待たせしましたですっ」

 

 ガチャリ。

 

「あっ……!」

 

 止める間もなく、あっさりと扉が開かれてしまったのだが……。

 そこに立っていたのは――体操服姿の小学生だった。

 おそらくゆりなより学年が下で、コロ美よりは上かなといった感じの女の子。

 額の赤いハチマキを見るに、体育の授業中なんだろうか。

 って、授業中だったらこんなところに来るわきゃねーか。

 

「まあ、あらあらまぁ。なんて……ああ、なんて可愛らしいのでしょう!

 もしかして、ゆっちゃんの新しいお友達さんなのでしょうか?」

 

 わきわきと手を動かしている様を見るに、きっと抱きしめたい衝動に駆られているのだろう。

 だが、そんな微笑み満開のお姉さんとは対照的に、そいつはツーンとそっぽを向いてしまった。

 

「はれっ? 違ったのでしょうか……。ではっ、しゃっちゃんちゃんのお友達さんですか?」

「い、いやァ、まったくもって知らねェ子です」

「それでは……。えっと、なんのご用なのでしょう?」

 

 中腰の姿勢でニコリと微笑むお姉さんに、今度は逆の方へそっぽを向くハチマキ娘。

 ふわっとしたカールの金髪を指でイジりつつ、生意気そうに口を尖らせていやがる。

 なんかムカつくガキんちょだな……。

 

「おいコラ、おチビさんよォ。用が無いんだったら、ピンポン押すなよな。いささかにメーワクなんだよっ」

 

 俺が言うと、そいつはブルマの中からメモ帳とマジックペンを取り出し、

 

『おまえ、ちんまい、あななと、おなじ』

 

 下手クソな字で書かれた文を俺に突き出した。

 

「な……っ! なんだとっ、こんガキゃあ」

 

 気色ばむ俺の肩に、お姉さんがなだめるように手を置いて、

 

「そんな言い方しちゃ、メッなのですよ。しゃっちゃんちゃんは、この子よりきっとお姉さんなのですから、優しく……ね?」

「う、うぅ。すみません」

 

 頷くしかあるめぇ。

 宿主には逆らえねぇし……かなり不服だけれども。

 一応、しゅんと肩を落としたポーズを取っていると、

 

「ああっ! わ、私ってばなんて偉そうなことを……っ!

 こんな良い子を叱ってしまうなんて、そんな資格ないのです。申し訳ないのですっ」

 

 急に抱きつかれてしまった。

 どーして、そこで抱きつくっつう結論に至るんだ、この人は。

 

「ちょ、あの、苦しいですってば」

 

 み、身動きが取れねぇ。

 例によって巨大な胸プレスに目を白黒させていると、俺たちの様子をバカにしたツラで見ていたハチマキ娘が再度メモ帳に何かを書き始めた。

 そして突き出されるメモ帳。

 

『さいふ、かりもの、きた』

「財布を借り物に来た、って書いてあんのか?」

「あ。もしかして、借り物競争に使うのではないのでしょうか?」

 

 そいつは一瞬目を泳がせたあと、首肯した。

 

「んな馬鹿な。そんな借り物あるかってぇの。ねぇ、お姉さ――」

 

 呆れた笑みを向けると、お姉さんはもぞもぞとスカートをまさぐって、

 

「はいっ。お財布なのです。これをお使いくださいっ!」

 

 差し出した途端、ムンズと掴んで、もの凄いスピードで走り去ってしまうハチマキ娘。

 そしてそれを笑顔で手を振りながら見送るお姉さん。

 …………。

 な、なんてお人好しなんだ。

 

「ちょっと! ずぇってェ、あいつ戻ってきませんよっ。ドロボーですって、ドロボー!」

 

 お姉さんは食って掛かる俺の唇に、そっと人差し指をあてがうと、

 

「大丈夫……。大丈夫なのですよ。あの子は良い子さん。運動会が終わったら、きっと返しにやってきますですっ。さ~て、洒掃薪水!」

 

 笑顔のまま踵を返して台所へ消えてしまった。 

 いやいやいや。

 なんで良い子と言い切れるんだって。どこにも良い子要素なんて含まれてなかったじゃねーか。

 むしろ悪い子要素の塊だったぜ。

 

「ちっ。追うぞ、シラガ娘!」

「んなの、言われなくったって!」

 

 命の次に大事な金をパクられたんだ。是が非でも取り返さなくちゃならねぇ。

 猫を抱きかかえたまま玄関を飛び出すと、はるか前方にそいつを発見した。

 もうあんなところまで……なんつー脚力をしてやがんだ。

 

「てやんでぇい、待ちやがれってんだ!」

 

 叫ぶと、ハチマキ娘はこちらを振り返って、あっかんべーをしやがった。

 む、ムッカつくぜ、ったく……。

 全力で追いかけてみるが、まったくもって距離が縮まらねェ。

 ガキんちょのスピードじゃねぇぞ、ありゃあ。

 何度目の曲がり角だろうか、そこを曲がろうとしたとき、急にそいつが立ち止まった。

 

「はぁ、はぁ……。つ、ついに観念しやがったか。手間かけさせやがって」

 

 さあ、大人しく財布を渡してもらおうかと続けようとした、その瞬間のことだ。

 そいつの赤いハチマキが黄金色に輝き、頭上に赤黒い光輪が出現する。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 あれよあれよという間に姿を変えるハチマキ娘。

 やがて――俺の目の前には黄金のサメが立ちはだかっていた。

 ホバーほどじゃないけれども、なんて大きさなんだ。

 

「このチビ、マジで模魔だったのか……」

「ああ。やっぱり、こいつは『ダッシュ・ザ・アナナエル』に違いないな。

 能力は『疾駆』で、ランクは確かEだったハズだ。捕まえりゃあ、ダッシュの力が手に入るぜ」

「へぇ。それはそれは、いささかに」

 

 ランクE……ね。

 ホバーがCだったから、それより二段階は弱い模魔ってことか。

 だったら、俺一人でもイケるかもしれねぇ――

 

「クロエ、わりぃけれども降りてくれ」

「おっ。シラガ娘ってば、やる気まんまんじゃねーか!」

「今回ばっかりはな。ゼニのためなら、えんやこらだ」

 

 それに、こいつの力――『疾駆』とやらも欲しいしな。

 器用に尾ビレで立っていたそいつは、空中へ舞い上がり、一鳴きする。

 ホバーよりもいくらか甲高い警報音――挑発のつもりだろうな。

 いっひっひ、おもしれぇ。すぐに吠え面かかせてやんぜ。

 

「変身する……っ! 来やがれっ、霊鳴ィイ!」


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