魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第三十一石:目が輝く現象ってなに?

 おおっ。

 もしかしたら、そうかもしれねぇなあって心のどこかで思ってたんだ。

 

 あいつが魔法使いってんなら、ゆりなと俺とあいつとで三人か。

 こりゃあ、いいねぇ。それなら思った以上に早く魔宝石を集められるな。

 案外一ヶ月もしないうちに全部集めて、気持ちよく帰ることが出来るのかもしれない。

 もちろんこのチビジャリ娘の呪いも解いてもらってさ。

 そう俺が浮かれていると、黒猫がポツリと、

 

「またアレが鬼か。なら、どうせ今回も……」

「ん? なんか言ったかィ?」

「別に、なんでもねーよ」

 

 そういえば、と。

 クロエが洗面台に飛び移って、俺を見上げる。

 赤い瞳。 

 

「シラガ娘は気にならないのか? ポニ子が、オレと同じような『赤い眼』になったコト」

 

 ……気にならないハズがない。

 あの赤いゆりなのカラクリは早めに知っておきたいところだ。

 

「へへ。興味津々ってな顔してるぜ。わかりやすいな、シラガ娘は。いいぜ。今ならコロ助もいないし、サクッと教えてやるぜ」

「サクッとでは困るのだけれども。あれはそんな簡単に説明出来ることなのかィ?」

 

 訊くと、突然そいつは耳をピンと押っ立てて後ろを振り向いた。

 

「どうしたんでェい?」

「い、いや……」

 

 なんだろう。

 コロ美でも警戒しているのだろうか、そいつは声をひそめて、

 

「教えてやる、あの状態は『裏・集束』ってヤツだ」

 

 ウラ・シュウソク?

 こりゃまたよくわからん名称だな。

 

「そうだ。俺ら霊獣の間ではアレを裏束と省略して呼んでいる」

「裏、と言うけれども。いやはや、それじゃあ表もあるということかィ?」

 

 俺のからかい気味な質問に、

 

「あるんだな、これが。表――というより、それはただの『集束』なんだが。もしかして、コロ助の眼が光ったところ見たことあるとか?」

「ああ。モチのロンだぜ。ええと、霊鳴を渡される前と風呂に入った時、あとは髪を乾かしてる時の三回だったな。たしか」

「はは……。たった一日で三回も集束してたのか。そこんところ、あめーなぁやっぱし。ま、しょうがねぇか」

 

 苦笑いのクロエ。

 

「あの目ん玉が光る不気味な現象が集束ってぇヤツなのか。なるほどねェ。で、それって一日に何回もしちゃあマズイわけ?」

「……マズイな。霊獣であるオレたちは自由自在に集束状態になることが出来るが、本来の発動方法とは異なるため、やればやるほど身体に障るんだ。

 三日に一回のペースならまだしも、一日に三回はさすがに無理がある。つっても、コロ助の場合ほとんど無意識のうちに集束しちまったんだろうが、」

「その発動方法って、どうやるんだ!?」

 

 集束。

 あの目が光る現象はおそらく魔力強化――パワーアップだろう。

 赤いゆりなの桁違いな雷撃魔法を見るに、それしか考えられん。

 

 あれを。

 あれを、自在に発動できれば、この俺だって……。

 そう前のめりになった俺に、

 

「まあ、そうくるだろうなぁ。でも、わりィがハッキリ言わせてもらうぜ……シラガ娘にゃ『集束』は無理だ。あきらめな」

 

 一蹴されてしまった。

 しかしながらと、俺は語気を荒げる。

 

「無理って……チビ助に出来たんだ、俺もやれるって。方法を教えてくれよ、やるだけやってみねぇと分からねぇだろ?」

 

 あいつに出来て、俺に出来ないハズはない。

 お前も言っていたじゃねーか。

 俺はピースに選ばれた強力な魔法使い、だって。

 

「ポニ子に出来たって、裏の方を言っているのか? それなら、もっと無理な話だぜ」

 

 なぜなら、とクロエが言い掛けたとき、

 

「にんっ! あ、しゃくっち、くろっちこんな所に居たっちゃ!」

 

 ももはが急に飛び込んできた。

 そいつはビックリしている黒猫を抱き上げて、

 

「きゃはっ。お別れの挨拶に来たっちゃ」

 

 頬ずりを始めた。

 

「そうか。短い出番だったな……。忘れないぜ、俺はお前のことを。閻魔さまによろしく言っておいてくれよ」

「勝手に殺すなっちゃ!」

 

 すかさずピコピコハンマーでツッコまれる。

 なかなか手馴れた動きだった。

 片手にクロエを抱いているのに、よくもまぁそんな機敏に動けるモンだ。

 感心ヅラの俺に、やれやれとチビ天が首を振る。

 

「はぁーあ。相変わらずワケわからんち。しゃくっちと話してると時間の無駄っちゃね」

 

 なんとも失礼なことを言って、俺に黒猫を押し付けやがった。

 おっとっと。

 クロを抱きなおしていると、ももはがヘンテコなポーズをとって、

 

「覚えてやがれ!」

 

 走り去ってしまった。

 いや、覚えてやがれって……何をだよ。

 きょとんとしている俺に、腕の中の毛むくじゃらが笑った。

 

「にっしし。ワケわからんのはお互い様って話だよな。なかなか良いコンビしてるぜ、おめぇら」

「……うるへー。にゃん畜生め」

 

 さてはて。

 部外者も帰ったことだし、話の続きはゆりなの部屋でゆっくりとしてもらおう。

 そう、そいつを抱っこしたまま洗面所を後にしようとしたとき、

 

「いってて!」

 

 急に爪を立てるもんだからたまらない。

 こんにゃろう、乙女の柔肌を傷つけやがってよォ。

 そんな文句でも言ってやろうかとそいつを眼前に持ってくると、

 

「この、気配――シラガ娘、感じないか?」

 

 一転、シリアスな口調に面食らっちまう。

 いきなり、気配を感じないかって言われましても。

 

「いいから目を閉じて、意識を集中させてみろ。おめぇほどの使い手なら、もう感じることが出来るハズだ」

「や、やってみますんで……」

 

 気圧された俺は、とりあえず言われたとおりにやってみる。

 ええと、目を閉じて意識を集中だっけか。

 集中。集中。

 しばらくすると、暗闇にポツポツとなにやらノイズのようなものが生まれてきた。

 それは瞬く間に増殖すると、まぶたの裏全体を埋め尽くす。

 

「おお、なんかテレビの砂嵐みたいなもんが出てきたぞ。すっげ。こりゃあ、たまげた」

「だぁら、意識を集中させろって言ってんだろ!」

 

 んな怒鳴らなくても。

 おとなしくそのノイズを眺めていると、ぼんやりと魚のような影が浮かび上がってきた。

 気配と言うけれども……。

 もしかして、このへっぽこなお魚さんのことを言ってんのかね?

 

「んー。感じるっつうか、見えたんだが……出てきたのはよくわからん魚だったぞ」

 

 化け物でも魑魅魍魎でもなく、ただの魚。

 それも漫画のようにデフォルメされた魚。

 他には何も出てこないぜ。

 

「さかなぁ?」

 

 素っ頓狂な声をあげるクロエ。

 

「さかなぁ」

 

 素っ頓狂な声で答える俺。

 てっきり、また怒鳴られるかと思っていたのだが、

 

「変だな。あんで、そこまで見えんだ……?」

 

 驚き顔だった。

 

「変って、そう仰られてもよ。見えちまったモンはしょうがあるめぇ」

「うーん、おかしいなあ。まぁ、見えたんなら別にそれでいいのか」

 

 どうもさっきから歯切れの悪い言い方をしやがる。

 俺とチビ天のことをワケ分からんコンビとして笑っていたが、

 こいつだって俺からしてみれば十二分にワケ分からんぞ。

 しきりに首を傾げているクロエに、俺は痺れを切らしてこう言ってみる。

 

「……恐縮だけれども、この魚ちゃんがなんなのか教えてくれよ。めんどくせぇから、ハッキリ頼むぜ」

 

 すると、そいつは俺のお望みどおりにやたらハッキリと、

 

「あぁ、その魚は『第八番模造魔宝石ダッシュ・ザ・アナナエル』を示しているんだ。そんでもって、」

 

 軽い調子でさらに続ける。

 

「もうすぐこの家にやって来るぜ」

「へ……?」

 

 この家にやって来る――って。

 え、どういうことだ。

 俺がクエスチョンマークを掲げようとしたその時――家のチャイムがピンポーンと鳴り響いた。


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