魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
おおっ。
もしかしたら、そうかもしれねぇなあって心のどこかで思ってたんだ。
あいつが魔法使いってんなら、ゆりなと俺とあいつとで三人か。
こりゃあ、いいねぇ。それなら思った以上に早く魔宝石を集められるな。
案外一ヶ月もしないうちに全部集めて、気持ちよく帰ることが出来るのかもしれない。
もちろんこのチビジャリ娘の呪いも解いてもらってさ。
そう俺が浮かれていると、黒猫がポツリと、
「またアレが鬼か。なら、どうせ今回も……」
「ん? なんか言ったかィ?」
「別に、なんでもねーよ」
そういえば、と。
クロエが洗面台に飛び移って、俺を見上げる。
赤い瞳。
「シラガ娘は気にならないのか? ポニ子が、オレと同じような『赤い眼』になったコト」
……気にならないハズがない。
あの赤いゆりなのカラクリは早めに知っておきたいところだ。
「へへ。興味津々ってな顔してるぜ。わかりやすいな、シラガ娘は。いいぜ。今ならコロ助もいないし、サクッと教えてやるぜ」
「サクッとでは困るのだけれども。あれはそんな簡単に説明出来ることなのかィ?」
訊くと、突然そいつは耳をピンと押っ立てて後ろを振り向いた。
「どうしたんでェい?」
「い、いや……」
なんだろう。
コロ美でも警戒しているのだろうか、そいつは声をひそめて、
「教えてやる、あの状態は『裏・集束』ってヤツだ」
ウラ・シュウソク?
こりゃまたよくわからん名称だな。
「そうだ。俺ら霊獣の間ではアレを裏束と省略して呼んでいる」
「裏、と言うけれども。いやはや、それじゃあ表もあるということかィ?」
俺のからかい気味な質問に、
「あるんだな、これが。表――というより、それはただの『集束』なんだが。もしかして、コロ助の眼が光ったところ見たことあるとか?」
「ああ。モチのロンだぜ。ええと、霊鳴を渡される前と風呂に入った時、あとは髪を乾かしてる時の三回だったな。たしか」
「はは……。たった一日で三回も集束してたのか。そこんところ、あめーなぁやっぱし。ま、しょうがねぇか」
苦笑いのクロエ。
「あの目ん玉が光る不気味な現象が集束ってぇヤツなのか。なるほどねェ。で、それって一日に何回もしちゃあマズイわけ?」
「……マズイな。霊獣であるオレたちは自由自在に集束状態になることが出来るが、本来の発動方法とは異なるため、やればやるほど身体に障るんだ。
三日に一回のペースならまだしも、一日に三回はさすがに無理がある。つっても、コロ助の場合ほとんど無意識のうちに集束しちまったんだろうが、」
「その発動方法って、どうやるんだ!?」
集束。
あの目が光る現象はおそらく魔力強化――パワーアップだろう。
赤いゆりなの桁違いな雷撃魔法を見るに、それしか考えられん。
あれを。
あれを、自在に発動できれば、この俺だって……。
そう前のめりになった俺に、
「まあ、そうくるだろうなぁ。でも、わりィがハッキリ言わせてもらうぜ……シラガ娘にゃ『集束』は無理だ。あきらめな」
一蹴されてしまった。
しかしながらと、俺は語気を荒げる。
「無理って……チビ助に出来たんだ、俺もやれるって。方法を教えてくれよ、やるだけやってみねぇと分からねぇだろ?」
あいつに出来て、俺に出来ないハズはない。
お前も言っていたじゃねーか。
俺はピースに選ばれた強力な魔法使い、だって。
「ポニ子に出来たって、裏の方を言っているのか? それなら、もっと無理な話だぜ」
なぜなら、とクロエが言い掛けたとき、
「にんっ! あ、しゃくっち、くろっちこんな所に居たっちゃ!」
ももはが急に飛び込んできた。
そいつはビックリしている黒猫を抱き上げて、
「きゃはっ。お別れの挨拶に来たっちゃ」
頬ずりを始めた。
「そうか。短い出番だったな……。忘れないぜ、俺はお前のことを。閻魔さまによろしく言っておいてくれよ」
「勝手に殺すなっちゃ!」
すかさずピコピコハンマーでツッコまれる。
なかなか手馴れた動きだった。
片手にクロエを抱いているのに、よくもまぁそんな機敏に動けるモンだ。
感心ヅラの俺に、やれやれとチビ天が首を振る。
「はぁーあ。相変わらずワケわからんち。しゃくっちと話してると時間の無駄っちゃね」
なんとも失礼なことを言って、俺に黒猫を押し付けやがった。
おっとっと。
クロを抱きなおしていると、ももはがヘンテコなポーズをとって、
「覚えてやがれ!」
走り去ってしまった。
いや、覚えてやがれって……何をだよ。
きょとんとしている俺に、腕の中の毛むくじゃらが笑った。
「にっしし。ワケわからんのはお互い様って話だよな。なかなか良いコンビしてるぜ、おめぇら」
「……うるへー。にゃん畜生め」
さてはて。
部外者も帰ったことだし、話の続きはゆりなの部屋でゆっくりとしてもらおう。
そう、そいつを抱っこしたまま洗面所を後にしようとしたとき、
「いってて!」
急に爪を立てるもんだからたまらない。
こんにゃろう、乙女の柔肌を傷つけやがってよォ。
そんな文句でも言ってやろうかとそいつを眼前に持ってくると、
「この、気配――シラガ娘、感じないか?」
一転、シリアスな口調に面食らっちまう。
いきなり、気配を感じないかって言われましても。
「いいから目を閉じて、意識を集中させてみろ。おめぇほどの使い手なら、もう感じることが出来るハズだ」
「や、やってみますんで……」
気圧された俺は、とりあえず言われたとおりにやってみる。
ええと、目を閉じて意識を集中だっけか。
集中。集中。
しばらくすると、暗闇にポツポツとなにやらノイズのようなものが生まれてきた。
それは瞬く間に増殖すると、まぶたの裏全体を埋め尽くす。
「おお、なんかテレビの砂嵐みたいなもんが出てきたぞ。すっげ。こりゃあ、たまげた」
「だぁら、意識を集中させろって言ってんだろ!」
んな怒鳴らなくても。
おとなしくそのノイズを眺めていると、ぼんやりと魚のような影が浮かび上がってきた。
気配と言うけれども……。
もしかして、このへっぽこなお魚さんのことを言ってんのかね?
「んー。感じるっつうか、見えたんだが……出てきたのはよくわからん魚だったぞ」
化け物でも魑魅魍魎でもなく、ただの魚。
それも漫画のようにデフォルメされた魚。
他には何も出てこないぜ。
「さかなぁ?」
素っ頓狂な声をあげるクロエ。
「さかなぁ」
素っ頓狂な声で答える俺。
てっきり、また怒鳴られるかと思っていたのだが、
「変だな。あんで、そこまで見えんだ……?」
驚き顔だった。
「変って、そう仰られてもよ。見えちまったモンはしょうがあるめぇ」
「うーん、おかしいなあ。まぁ、見えたんなら別にそれでいいのか」
どうもさっきから歯切れの悪い言い方をしやがる。
俺とチビ天のことをワケ分からんコンビとして笑っていたが、
こいつだって俺からしてみれば十二分にワケ分からんぞ。
しきりに首を傾げているクロエに、俺は痺れを切らしてこう言ってみる。
「……恐縮だけれども、この魚ちゃんがなんなのか教えてくれよ。めんどくせぇから、ハッキリ頼むぜ」
すると、そいつは俺のお望みどおりにやたらハッキリと、
「あぁ、その魚は『第八番模造魔宝石ダッシュ・ザ・アナナエル』を示しているんだ。そんでもって、」
軽い調子でさらに続ける。
「もうすぐこの家にやって来るぜ」
「へ……?」
この家にやって来る――って。
え、どういうことだ。
俺がクエスチョンマークを掲げようとしたその時――家のチャイムがピンポーンと鳴り響いた。