魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第三十石:シャオメイって一体何者?

「なんなんだよ、あのガキは」

 

 部屋から抜け出した俺は洗面所に腰を落ち着かせていた。

 乱暴に顔を洗った後、鏡に映る未だに見慣れない少女にそう訊ねてみるが、そいつは疲弊した顔でただ息を荒げているだけだ。

 ちくしょう――まだ心臓がドクドクと波打ってやがる……。

 

「よぉ、シラガ娘。どうした? 顔が青いぞ」

 

 おどけた口調。

 鏡越しに視線を送ると、洗濯機の上にクロエが乗っかっていた。

 

「どうしたも何も……。あいつ――シャオメイってガキは一体何者なんでェい。あいつと目が合った瞬間、動けなくなっちまった」

「にっしっし。そりゃアレだ。恋、ってヤツかもしれねぇぞ?」

「茶化すなって。そんなんじゃなくてよォ……なんつったらいいんだ、ありゃあ」

 

 どう言えばいいのか分からん。 

 胸が締め付けられるあの奇妙な感覚――もちろん恋などではないのは確かだ。

 ならば――恐怖か? いや、違う。

 単なる恐怖かといえば、そうでもないような……。

 俺が説明に窮していると、

 

「……引かれているんだよ。お前たちは、あいつにな」

 

 黒猫が眉間にシワを寄せて言った。

 引かれているって――どういう意味だよ?

 

「シラガ娘がピースに選ばれた強力な魔法使いだという何よりの証拠ってワケだ、うん」

 

 んん……?

 

 それだけ言って満足げに顔を洗い出すクロエ。

 いやいや、端折りすぎだろ。俺はまだ魔法使いになったばかりのヨチヨチな赤ん坊なんだぜ。

 初めてで右も左も分からないんだ。もうちぃっとばっかし噛み砕いて言ってくれねぇと困るって。

 そんな俺の不満に、クロエがスッと目を逸らして、

 

「……初めてが、あれだけの魔法をとっさに思いつくかって」

 

 苛立つように呟いた。

 あれだけの魔法――『スノードロップ』、『アクアサーベル』、『エメラルドダスト』のことか。

 確かに今考えてみれば、どの魔法もとっさの案にしては上手くいきすぎたのかもしれない。

 そう。どれも、ちゃんとした形になり、それなりの力を発揮することが出来た。

 中でもエメラルドダストは最高傑作の威力だと言える。あのホバーに唯一、ダメージを与えられたしな。

 

 そういえば――前にもあれだけの魔法を初陣で閃いておきながら、とか言われたような。

 でも、あん時とはいささかにニュアンスが違うんだよなぁ。

 今回は、どうもトゲが含まれているというか。

 でも、初めてには違いないんだし……。褒められこそすれ、ムカつかれる筋合いはねぇぞ。

 俺がムッと口を尖らせている様子に気づいたのか、そいつは慌てたように肉球を振って、

 

「あっ、じゃなくって、初めてなのにあれだけの魔法をとっさに思いつくなんて、さすがシャクヤク様!

 そう言いたかったんだ。いやぁ、言いかた間違えちまったぜ、まいったまいった」

「……そんな間違い、あるかァ?」

「ん、んなことより、おめぇはあのシャオメイってヤツのことについて訊きたいんだろ? 説明してやんぜ、オレの知っている範囲でだけど」

 

 ごまをするような足の動き。

 なにやら、はぐらかされたような……。

 とりあえず俺らがシャオメイに引かれてるという理由を詳しく訊いてみる。

 

「それはだな、魔力を持つモノ同士は引かれ合うってことなんだ。それも、強力な魔力を持つモノ同士は、どんなに遠くに居ても相手を感じることが出来る」

 

 魔力を持つモノ同士――

 それは、すなわち。

 

「……あのガキは魔力を持っている、ということか?」

 

 クロエは深く頷いて、

 

「そして、あのヒゲにまとわりつくような不愉快な力――おそらく、アレは模魔じゃない。模魔ではありえない」

「模魔じゃないって……。そんなの見りゃあすぐに分かるじゃん。だって、普通の人間じゃねーか」

 

 俺の中で、模魔といえば真っ先にホバーが思い浮かぶ。

 巨大という言葉では物足りない程のハチドリ。 

 まったく。とてつもなく、どうしようもない。そんな化け物。

 そいつしか知らんが、他もきっとこんなヤツらだろう。

 そう思っていたのだが、

 

「模魔は、持つ能力によって様々な姿カタチをしているんだ。

 ホバーのように巨大なケモノ姿のヤツもいれば、コロ助のように小さい子どもみたいな見た目のヤツもいる。他にも色々なパターンがあるぜ」

 

 動物のような姿。

 人間のような姿。

 その他、色々なパターン……って、なんだよ。想像つかんぞ。

 眉を寄せていると、クロエがけらけら笑って、

 

「まぁ、それは遭ってからのお楽しみだぜ」

「出来れば遭いたくないんだけれども……」

「普通は、」

 

 すぐにそいつは真剣な表情に戻って、

 

「普通はな、魔力を持っているイコール模魔だとすぐに判断出来るんだよ」

「ん。ちょい待ち。えっと、もしかしたら『魔法関係者』かもしれないんじゃ?」

 

 話や説明書にチラホラ出てくる魔法関係者という言葉。

 どんな奴らか見たことないが、そいつらだって魔法関係者って名前なんだし。

 魔力を持っているなら、その人たちという可能性もあるんじゃないのか。

 

「いや、関係者といっても魔力は無いんだよ。俺たちの姿が見える、そして理解がある。だが、それまでだ。魔力までは持ち合わせていない」

 

 つまり?

 

「……これは、あくまで予想にすぎない話だが」

 

 回りくどいな。

 

「わかりましたんで、とりあえず言ってみてくんねぇか。その予想とやらを」

 

 しばらく躊躇うように白ヒゲをイジっていたクロエだったが、

 やがてため息をついて、こう言った。

 

「あのシャオメイは、お前たちと同じくピースに選ばれた『魔法使い』かもしれない」


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