魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第二十九石:アイドルを辞めたシャオメイ

 大勢の記者が集まる中、現れたのは――小さな少女だった。

 どう見てもゆりなと同年代の子どもに見えるが……。

 そこで俺はポンと手を打つ。

 あー、ももはが言っていた小学生の憧れの的って、そういうことか。

 ハッピーラピッドとやらは、小学生アイドルのユニットってワケね。

 もっと年上、ハタチくらいのアイドルかと思っていたが――

 いやはや。考えてみりゃあ、いい年こいてハッピーレッドは無いよな。

 

 アイドルのリーダー、ハッピーレッド――か。

 しかも人気ダントツトップのシャオメイ。

 うーむ、どんなツラをしているのだろうか。マジで気になってきたぞ。

 引きではよく見えんな。

 と思っていたらタイミング良くカメラが寄った。

 

「ほほー」

 

 これはこれは。

 シャオメイという少女は赤く長いツインテールという髪型に、切れ長の綺麗な黒い目をしていた。

 まるでアイドルになるために生まれてきたかのような、完璧に整った顔。

 たしかにそこいらのガキとは雲泥の差の容姿だ。芸能人オーラが満ち満ちているというか。

 なるほどね。こりゃあ、人気が出ないほうがおかしいぜ。

 

 しかしながら――

 ちょぃとばっかし、目の下のクマが濃すぎやしねーか? 

 茶や青グマといった類じゃなくて、超絶真っ黒だぞ。

 ハッピーレッドというより、どちらかといえばアンハッピーブラックみたいな。

 まさかこの世界で流行りのメイクだったりして――いや、んなわけねーか。

 まあ、普通に疲れているんだろうな。

 

 やはり、アイドルっつうもんは並大抵の仕事じゃなさそうだ。

 それも大人気アイドルでリーダーとくりゃあ、なおのこと。

 おそらく脱退の理由はストレスがひどいとか、体が持たないとか、そんなところだろう。

 勝手にそう理由をつけて納得していると、シャオメイの隣に立つ小太りのおっさんが口を開いた。

 

「本日は大変お忙しい中、急なお声がけにも関わらずお集まり頂き誠にありがとうございます」

 

 だらだらと前口上を続けた後、ようやく本題に入ったのだが……。

 そいつがまぁ、トップアイドルにあるまじき内容だった。

 

 要約すると、三日前からシャオメイが突如辞めると言い出してきかなかったらしい。

 最初は冗談かとあしらっていたが、次々に仕事をすっぽかすわ、出たら出たでファンに暴言を吐くわで大変。

 辞めるにしても、なんとか『ラストコンサートで卒業』という形へ持っていき、綺麗に終わらせてやりたい。

 そう思った小太りのおっさん……セブンスプロの社長が説得を試みたが、それでも聞く耳持たず。

 もはや、どうしようもない。やむなく、こういった会見を開くに至った、というワケ。

 

 社長が必死に頭を下げ、記者の質問が飛び交うっつうこの状況で、シャオメイは俯いての終始無言――無視を徹底していやがる。

 その態度に、徐々に会場がヒートアップしていく。

 

「う~ん。シャオちゃんて、こんな恐いカンジの子だったっけ……」

「うんにゃ。クールでカッコいい子ってイメージやけど……。ちょっと様子がおかしいっちゃ」

「やっぱももちゃんもそう思う? どーしたんだろう。どっかお体悪いのかな」

 

 だよなぁ。子どもでも、さすがにこれはおかしいって思うよな。

 だって色々なアイドルが乱立している中でこいつはそのトップに君臨しているんだろ?

 それがこんな尻切れトンボなひでぇオチでいいのかよ。俺の世界だったら、ファンが暴動起こすレベルだぜ。

 まったく――何を考えているんだろうな、このシャオメイってヤツは。

 

「あ、ゆりっち。シャオっちが動いたっちゃ!」

 

 ももはの言うとおり、今まで頑なに下を向いていたシャオメイがゆっくりと顔を上げていく。

 

「ほんとだ! なんか言うのかも」

 

 慌てて音量を上げるチビ助。

 だが、その行為に反して音が段々と消えていくではないか。

 

「おーい、音なくなったぞ。ボタンの押し間違えかィ?」

「そ、そんなはずはないと思うけど――」

 

 シャオメイの顔が上がりきり、そして目が合う。

 

 え。

 

 目が合う……?

 

 その時だった。

 

「「!?」」

 

 ゾクっとする寒気。

 

 まるで心臓を掴まれたかのような息苦しさに襲われる。

 隣、ゆりなに目を向けるとそいつも苦しそうに胸を押さえている。

 こ、これは、この息苦しさは――なんだ?

 俺の視線に気づいたゆりなは、自分も何がなんだか分からないというように首を振る。

 

「ほわ? ふ、二人ともどうしたっちゃ?」

 

 口をパクパクと開閉していた俺たちにももはが不安げな声をかける。

 

「…………っ!!」

 

 答えようにも声が、出ねぇ。

 金縛り状態。

 体に喝を入れてくれるよう、チビ天に目配せをしようとするが、どうしても視線がシャオメイへと吸い込まれる。

 

(な、なんなんだ、この不快感は……)

 

 再びそいつと目が合う。

 

「ひっ!?」

 

 光という光を失った暗い瞳。

 死を孕んだソレに耐えられなくなった俺は、震える体を無理やり動かした。

 なんとかベッドから後ずさり、ヨロヨロと立ち上がることに成功する。

 こ、これでもうあいつの目を見なくて済む――

 

 だが。

 画面の向こうのシャオメイが再び顔を上げていく。

 まるで俺が見えているかのように。

 まるで俺を追っているかのように。

 

 ゆっくりと。

 そして、やがて。

 目が合う――

 微笑をたたえた唇の間でねっとりと舌が動き、その少女は何かを呟いた。

 

「       」 

 

 同時にクロエが毛を逆立てて威嚇をする。 

 こいつには聞こえたのかもしれない。

 音が消失しているため、俺には何て言ったのか分からなかったのだが。

 そんなことはもうどうでも良かった。

 何を言ったかなんて、そんなことは。

 ただただ、ひたすらに気味が悪りぃ。

 

 ゴクッ、と。

 恐怖で渇ききった喉を湿らせたとき、そいつは満足げに舌なめずりをした。

 その表情は、とてもひどく――美しかった。

 この世に生きるモノとは、思えない程に。


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