魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
こいつは……。
なんて、簡単に言いやがる。
だいたいに何故、男の俺がガキ娘の姿に変えられてまで宝石とやらを探さなきゃならんのだ。
ハナっから女を選んで、そいつにやらせりゃあいいのに。
魔法少女なんてもんは、女の仕事だろ。
「さっきも言ったが、ピースの考えはオレだって良くわからねぇぜ。
これは多分だが、察するに大物になりうるであろう素質さえ備わってりゃ、性別はどっちでもいいのかもしれねぇな。
どうであれ、性別を変えるくらい、あのババァだったら朝飯前だろうし」
「だから、どっちでもいーなら、なんでワザワザ女に変える必要があるんだ。男のまんまでいいだろ。魔法少年ってことでさァ」
「あー。言われてみりゃ、そうだな。うーん。ほら、アレだろ。ピースの趣味。魔法使いは、やっぱり少女じゃないとダメっていうさ」
イヤな趣味のババァだな……。
「自分が歳を食ってるっていうんで、若い女を従えてピチピチエネルギーを吸収しようとしている、とかな。にっしっし!」
ピチピチエネルギーて。
「魔法世界の上下関係なんざ、まったくもって知らないけどもよォ。そいつは偉い魔女なんだろ?
よくそんな口の悪さでやっていけるな。俺がピースだったら、とりあえずお前さんをクビにするぞ」
言いつつ、ゆりなの横へどっかりとあぐらをかいた俺に、
「それは出来ないと思うよ。だって、クーちゃんは特別だもん」
すっかり笑顔を取り戻したゆりなが、自慢げに無い胸を仰け反らせながら言う。
「しゃ、しゃっちゃん!」
……ん?
「むーっ! ボクだって一応女の子なんだからねっ」
ふうん。
イッチョ前に顔赤らめて、まァ。
「わりぃ、うそうそ。言葉の綾だって。日本語むつかしいアル」
「うー。訂正を要求します!」
謝罪までいかなくて良かったよ。
「オーケイ」
んじゃ、えーと。
すっかり笑顔を取り戻したゆりなが、自慢げにナイスバディを仰け反らせながら――
「そ、そーゆー意味じゃないよっ!」
泣いたり笑ったり怒ったりと。
なんとも忙しい奴だな。
「あっ」
ゆりなが驚いた声を出し、俺の顔を覗き込む。
「な、なんだぁ?」
「今、しゃっちゃん笑ったでしょ。とっても可愛かったよ」
にへへーと屈託のない笑みを向ける少女。
……ったく。
俺ばかりが面食らって、どうもね。割に合わん。
そうだな、ここはひとつ。
「なんだ知らなかったのか、俺はどんな表情でも可愛いんだぜ」
耳にかかる髪をかきあげながら言ってやる。
ちなみにこの仕草は俺が一番グッとくるヤツだ。
「うんっ!」
って、おい。
「そこは否定してくれって、冗談に決まってるだろうよ。恥ずかしい」
「えへへ。恥ずかしがってるしゃっちゃんも可愛いよ」
「……そりゃどーも」
そういえば。さっき、こいつに顔を覗き込まれても胸が痛まなかったな。
どうでもいい話ではあるけども。
「仲良きことは美しきかな。微笑ましいところ悪いが。おめぇら、ちょっち窓の外を見てみそ」
唐突に、クロエがシリアスな声色で言う。
「へ?」
二人で外を見やる――と。
朝焼けの中に一匹の蝶々が舞っていた。何故かその羽根は淡緑色に発光している。
「ほよー。光ってるキレイな蝶々さんだ。あはは。やっぱし気になるんだ?
なんだかんだ言って、クーちゃんって猫さんだよね。今日のにゃんこってテレビに出てた子も蝶々さんと遊ぶの好きだったし」
クロエはやれやれとばかりにため息をついて、
「バーロォ。おめぇさァ、羽が光ってるテフテフなんざ現実にいるわきゃねーだろ」
「えっ!?」
俺たちは同時に驚いた。
浮遊する猫が存在しているくらいなんだから、光ってる蝶だっていそうなもんだけどな。
「シラガ娘は勘違いしてるみたいだが、オレたちが特別なだけであって、世界自体は至極真っ当なんだ。
みんな、魔法なんて現実にあるとも知らずに暮らしている。それこそマンガやアニメの世界のものだって認識さ」
ということは、俺が元に居た世界とあまり変わらないのか?
「どうかな。まず、おめぇがどういった世界に居たかを知らねぇし。まぁ、自分の目で確かめてみることだな、早速よ」
早速――?
「オレの話きいてたろ。パンドラから逃げ出した七匹の霊獣を魔法でぶちのめして捕獲し、宝石へと再度封印をするってよ」
逃げ出した霊獣と宝石集めどうのはきいた気がするけども、具体的な流れは今初めて知ったぞ。
「じゃあ、今言った。ほら、ボケボケしてねぇであの蝶々を捕まえに行くぜ、ポニ子!」
「ええー!? せめて着替える時間が欲しいよぉ。出来れば髪を結う時間も……」
「んなノンキに構えてる余裕あるわきゃねぇだろ!」
「は、はう」
どてらだけでもと、羽織ってバタバタ部屋を出て行くゆりなと黒猫を見送り、俺は肩をすくめた。
いやはや大変だねぇ、魔法少女とやらは。こんな朝早くから出勤だなんてさ。恐れ入るね。
「さてはてと」
ベッドの中へ入り、ぬくぬくと猫のように体を丸める。
うつらうつらとしかけた時――どすん。
なにかが俺の胸の上に……って、ぐお!
「このやり取りさっきもやっただろ。いーから、おめぇも来るんだよ、バカシラガ!」
二度も踏んでくれやがって。小さい胸が更にへっこんじまうだろうが。
「……小さいもなにも、まな板同然じゃねーか」
「むーっ! あたいだって一応女の子なんだからねっ」
頬を膨らませて、言ってみたり。
「わぁった。漫才ならあとでいくらでも付き合ってやるから、マジでもう行くぜ」
呆れ口調で返される。
「へぇへぇ、切羽詰まっているようで」
「放っておいたら、誰かに見つかって大騒ぎになるかもしんねーしな。それならまだしも、暴れて町を壊されたりなんかしたらもっと厄介だ」
厄災を抱える獣、か。
久々のシャバだ。遊びたくなるのも解る。
やむかたなし。
行くしかないってワケねぇ、どうしても。