魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第二十八石:なぜ?トップアイドルの脱退会見

『七時五十七分! 七時五十七分!』

 

 やにわに聞きなれない機械声が部屋中に響き渡る。

 今度はあんだよ。また変なヤツのおでましって流れか。

 こちとらチビ天だけで腹いっぱいだってェのに……。

 今度はどういうジャンルのヤツだろうか。

 

 あの声からして、そろそろロボットあたりが来るのかもしれない。

 青いタヌキ型ロボット、みたいな。そうだとしたら魔宝石集めがかなり楽になるな。

 んで、あわよくば元の世界に戻してもらったりなんかしちゃってさァ。

 そんな妄想をしつつ部屋を見渡してみるが――俺たち以外、誰もいねぇ。

 

「あいた~!」

 

 俺の背中で駄々をこねていたチビ天が叫んで飛び降りる。

 

「ん? あ、いたーって、誰か見つけたのか? どこだどこだ」

 

 キョロキョロする俺に、

 

「にゃはは。しゃっちゃんてば、ボクと同じ間違いしてるー。それ方言でね~、こっちで言うところのしまった~って意味なんだって」

「なんでぇい、そうなのか。紛らわしいヤツ」

 

 そんなやり取りをしていると、ももはがワンピースの左胸についている懐中時計をひっぺがして、

 

「ゆりっちぃ、ゆりっちぃ、もう八時になるっちゃあ!」

 

 印籠よろしく俺たちに向ける。

 まぁ、たしかに八時手前だけれども。いったい何を焦っているんだ?

 ぴょんぴょんとその場で足踏みを繰り返すそいつを見て、

 

「ほい、了解うけたまわりっ!」

 

 威勢良くゆりなが立ち上がる。

 どこから取り出したのだろうリモコンをバッと掲げると、

 

「セブンズフラッシュ・スイッチオーン! ……ポチっとにゃ」

 

 盛大な掛け声と共にボタンが押され――ベッド脇の壁に設置されているテレビが起動した。

 ……起動したっていうか、ついたっていうか。なぁにを騒いでんのかと思ったらテレビかよ。

 あきれている俺の隣に、ゆりな、ももは、クロエが続々と寝っ転がる。

 テレビの前で川の字のように並んだそいつらは口々に、

 

「はっちじ~、はっちじ~。仮面モリガーのじっかん~っ」

「わーい。今日は凶悪怪人モリボーとの決着だよね」

「にゃあーん!」

「あ、くろっちー! ふう姉ちゃんに飼っても大丈夫って許可もらえたっちゃ?」

「ぶいっ。これで心置きなく一緒にいられるよぅ」

「ほわわぁ、良かったっちゃあ」

「にゃんっ」

 

 楽しそうに騒いでいやがる。にしても、仮面モリガーとはまた。

 俺の居た世界にも似たようなモンがあったような。

 おおかた内容の察しはつくが、一応訊いてみる。

 

「なんでぇい、仮面モリガーってぇのは」

「んとね~、色んな森をバイクで走るのが趣味の女の子が、その森を汚す悪い怪人さんを仮面モリガーに変身してやっつけるお話なの!」

 

 ああ、やっぱりそんな感じのやつか。

 

「でったんカッコいいっちゃ!」

 

 言って変身ポーズを決めるももは。

 よほど好きなんだろうねぇ。

 

「ボクはその前にやってるセガレンジャーのほうが好き……って、もう終わってるじゃん!

 ももちゃあん、いつもは七時半に起こしてくれるのにぃ、どーしてぇえ、なにゆえぇえ」

 

 どんよりと恨めしそうなツラで迫るチビ助に、

 

「ご、ごめんっちゃ! しゃくっちと喧嘩しててすっかり忘れてたっちゃ」

 

 テヘヘと、平謝りのチビ天。

 普通ならばこのまま流すような別にどうでもいい場面だけれども。

 

 ふむ。

 あえて遊んでみる勇気。

 

「ゆりな……っ! こいつを、こいつを責めないでやってくれィ。全部、俺が悪いんだ! 責めるなら俺だけにしてくれ!」

 

 ももはを抱きしめて頭を撫でまくってみる。

 

「ひいぃっー!?」

「責めさせはしない! 嫌なことから全て、俺がお前を護ってみせる……っ」

「だ、だったら今すぐ手を離して欲しいっちゃあ、気持ち悪いっちゃ! でたん嫌なことっちゃ!」

「わ。わ。しゃっちゃんとももちゃんてば、ハイパー仲良しさんっ。いいな~いいな~っ」

「ほわわあっ!? ゆ、ゆりっちぃ、これは誤解っちゃ! ウチの一番は、その、あの……」

「五階だってぇ? 恐縮だけれども、ここは二階だぜ」

「わーい、しゃっちゃん上手い!」

「よせやい、照れるじゃねぇか」

「って、いい加減に離れろっちゃ!」

 

 すぱこーんとピコピコハンマーで殴られた。

 いってて。

 んなもん、どこに隠し持ってたんだよ。

 

「こんなこともあろーかと、ナップサックの中に常備してるっちゃ」 

 

 ナップサックの羽が自慢げに羽ばたく。命名、どや羽。

 てか、こんなこともあろうかとって。普通こんなこと無いと思うのだけれども。

 

「だいたいさー、わざわざピコハン出すなんて面倒くさくねぇか?

 さっきの喧嘩みたいに素手でツッコミ入れりゃあいいのによォ」

 

 頭をさすりつつ言う俺に、

 

「だ、だって。それは……」

 

 急に顔を赤くするももは。

 ごにょごにょ。もじもじ。

 

「それは?」

「お……だち……だから」

 

 聞こえねえ。

 

「あんだってぇ?」

「だ、だから、おとも、だち……だから」

 

 ぷぷ~っ! なんじゃそりゃ。つまるところの、あれか。

 お友達になった俺へのツッコミはピコハンで、なるべく痛くないようにしよう――そうコイツの中で決めたということか。

 なんともまぁ……可愛いじゃねぇの。

 いささかに面白くなってきた俺は、気づかないふりをしてもう一度、

 

「あんだってぇえ?」

「うう~、そのね、しゃくっちが、お、お友達だからぁ、」

「聞こえねーなぁ、貧乳だと声量まで少なくなっちまうものなのかなぁ、不思議だなぁ――」

「オイ、待てやこるぁあああっ!!」

 

 その後、お友達向けではない強烈なビンタが飛んできたのは言うまでもない。

 

+ + +

 

「しゃっちゃん、大丈夫?」

「やーん。あちき、もうダメかもぉ」

「も、ももちゃん、どーしよう。しゃっちゃんのキャラが変わっちった!」

「……もう一発いっとくっちゃ?」

「すまん。今、ちょうど治ったところだ」

 

 話を戻すが、ゆりなは戦隊モノの方がお好きなようで。

 モリガーに続いて、これもどんなもんか訊いてみることにした。

 

「えっとねえっとね、セガレンジャーはね、七光戦隊セガレンジャーって言ってねー。

 前にやってた癒着戦隊アマクダレンジャーの子どもが主人公で~、」

「オ、オーケイ、もう大体わかりましたんで」

 

 とても嫌なネーミングだった。

 つーかセブンズフラッシュって掛け声の元ネタはもしかしなくてもコレだな……。

 

 やがて仮面モリガーが始まる。

 なんてことはない、やはり俺が居た世界のヒーローモノと相似している子ども向けな番組。

 つまんねぇな……。ふと二人と一匹に目をやるが、そいつらは一様に口をあんぐりとあけている。

 これほど夢中を表しているアホ面もないだろう。

 やれやれ。

 チビ助やチビ天はともかく、どうしてクロエまでそんな食い入るように――

 

 ピロンピロン。

 聞き覚えのあるチャイム音がテレビから聞こえてきた。見やると、速報テロップが出ている。

 えーと、何々……。

 

 『セブンスプロジェクト所属の人気アイドルユニット、ハッピーラピッドメンバーであるシャオメイさんが本日付けで緊急脱退を発表』

 

 って、何かと思ったらアイドルの卒業かよ。

 メンバーが捕まったっつうならまだ解るが、たかだか卒業ごときでこんな速報が流れちまうなんてね。

 まったく、大げさな話だ。

 

「たまったもんじゃねぇよなァ。好きな番組にこんなくだらねぇテロップ流されちゃあさ」

 

 俺も経験があるからよくわかるぜ。

 人が気分良くサッカー中継を観ているとき、しかも盛り上がってる場面に限って速報テロップが邪魔をしやがる。

 せっかくの興が削がれちまうんだよな、ありゃあ。

 どこぞの誰かが当選確実とか知ったこっちゃねぇってのに。

 きっと共感を得られるだろうとそう思って言ったのだが、

 

「ウソ!? ゆ、ゆりっち、ニュースに変えてもらえるっちゃ?」

「う、うん」

 

 ゆりなが青ざめた顔でチャンネルを回す。

 隣のチビ天は戸惑いを隠せないといった表情。

 あんなに楽しそうに観ていた番組をそっちのけってことは……もしかしてそれ以上にこのアイドルが好きなのか?

 俺の問いに、

 

「好きっちゃね! てか、ハピラピが好かん子なんて、たぶん居ないと思うっちゃ。

 ウチら小学生の憧れの的やもん。しかも、しかも、シャオっちはハッピーレッド!」

「ハ、ハッピーレッド?」

「うん。七人組のアイドルでそれぞれ色があるの。虹の七色ね。でね、レッドはリーダーの色なんだよ。

 めっちゃんこ凄いアイドルのハピラピのリーダー、しかもこの前の人気投票でダントツ一位のシャオちゃんがいきなり抜けるんだもん。

 も~、モリガーどころじゃないよぅ……」

「やけん、脱退理由がどーしても気になるっちゃ」

 

 し、真剣だねぇ。

 こいつらチビどもをここまで熱くさせるアイドルとは――いささかに気になるぜ。

 

「あ、ももちゃんニュースはじまるよっ。緊急会見だって」

「ううう、とっくにエイプリルフールは過ぎてるのに……。観るの怖いっちゃあ。ゆりっちぃ、お手てぇ」

 

 ももはが涙目で差し出した手を、

 

「ほいほーい」

 

 いつものことだとばかりにギュッと握るゆりな。

 おいおい、ホラー映画じゃないんだからよォ……。

 おっ。ようやく会見が始まるみたいだ。


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