魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
「んにゅ~っ、よく寝たよぅ」
きっと快眠だったのだろう、猫のような伸びをして起き上がったゆりなに、
「ゆ、ゆりっち、おはようっちゃあ……」
「よ、よぉ。よく眠れたかい、チビ助……」
ゼーハーと肩で息をしている俺たち。
瀕死の状態だった。
「わわっ。ど、どうしたの、二人とも。汗だくだよぉ?」
ビックリ顔のゆりなに、
「ちょっと、このチビ天とケンカしてたんだ」
言って、ももはの頬に人差し指をぐりぐりとめり込ませる俺。
「ちょっと、しゃくっちとケンカしてたっちゃ」
言って、俺の額に人差し指をぐりぐりとめり込ませるももは。
「……恐縮だけれども、指を離してもらえねぇかなァ」
「……そっちが離したら離すっちゃ」
意地の張り合い。
たがいに火花を飛ばしあう俺たちを交互に見て、
「あれ? しゃっちゃんとももちゃんって、いつの間にそんな仲良しさんになったの?」
「「仲良しさんじゃないっ!」」
くわっと同時に言い放った俺らに、ゆりなはニッコリと、
「ほらぁ、やっぱり仲良しさんじゃん。えへへっ。二人が仲良しさんだと嬉しいよぅ」
本当に――心底嬉しそうなチビ助。
そいつの笑顔にすっかり毒気を抜かれちまった俺らは、どちらともなく指を離すと、
「もう、それでいいぜ……」
「ウチもそれでいいっちゃ」
ヘロヘロと答えた。
いやはや。それにしても、いささかに遊びすぎたというか。
第七ラウンドまでは数えていたのだが、その後がどうも記憶に無い。
…………。
自分で言っといてなんだが、第七ラウンドて。どんだけケンカしてたんだよ俺たちは。
「ケンカバカも程ほどにしとかねぇとな。身がもたねェ」
「というより、ウチらただのバカかもしれないっちゃ……」
ぐっ。
ケンカという単語を抜かしただけなのに、急に響きがカッコ悪くなったぞ。
まぁ。そもそも、あんな服の引っ張り合いにカッコ良いも悪いもねぇか。
「「ハァ……」」
と、ため息。
「にゃははっ、ため息までぴったんこだもん。二人ともすごいすごい!」
ベッドに腰掛けて足をブラブラさせるゆりな。
元気だよなァ、まったく。
もともとパワフルだけれども、寝起きのためか、さらにパワーが増しているように感じる。
俺は「よっこいしょういちのすけ」っと掛け声一つにチビ助の隣に座り、
「その元気をいささかに分けてもらいたいものだぜ」
苦笑いしつつの冗談。
そう。ただの冗談のつもりだったのだが。
「いいよ~。ちょうど溜まり過ぎてて困ってたところだったし。しゃっちゃんにボクの元気、分けてあげるっ」
「へ?」
どういうこったと首を傾げていると、そいつは俺の頭頂部のアホ毛をむんずと掴んで、
「ぽ~よよん、ぽいぽい~っ……」
詠唱をはじめた。
……って、詠唱ォ!?
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
「ぽんっ! らいらい、みにらいとにんぐぅ~」
「あでしっ!?」
唱え終えてすぐさま俺の全身を電流が駆け巡った。
もちろん、アデシという意味不明な発言はそれによるものだ――言うまでもなく。
いやいや、んなコトはどーでもいい。
「い、いきなり電撃をぶっ放すたァ、どういう了見なんでぇい!?」
そうゆりなに詰め寄ると、そいつは妙にスッキリしたツヤツヤ笑顔で、
「にははっ。寝て起きるとね、いっぱい電気が溜まっちゃうの。だから、放出したの~っ」
したの~っ、じゃねぇええ!
「お前さんなぁ……。俺様が言ったのは元気を分けてくれであって、電気を分けてくれとは一言も言ってねぇぞコルァ!」
俺の前のめりの抗議に、まあまあとゆりなが両手でおさえる。
「ねーねー、しゃっちゃんさ。ちょっと肩をこうしてみて」
ぶんぶんと右肩を回すゆりな。
「こう、か?」
そいつに倣って肩を回してみると、どういうことだろう。
さっきまでの疲れがウソのように吹き飛んでいるのだ。
肩だけではなく、腰も首も楽になったような気がする。おお、すげぇなこりゃ。マジで快適だぞ。
「ねっ。電気治療っていうみたい。クーちゃんに教えてもらったんだよ、これ。元気になったでしょ~」
言いながら人差し指と親指で輪っかを作っては離すを繰り返すゆりな。
そのたびに黒い電流がバチバチと糸を引くように現れる。
うーむ。
何気ない仕草なんだろうが、改めて見ると、本当に不思議だねぇ。
だって、指から電気が出てるんだぜ。なんともアッサリとさ。
目の前で実際に見ているから何とか信じられるが、ブラウン管越しだったら一笑に付しているところだ。
どうせ手品とかCGだろうってな。
まったく今更の話だけれども、こんな簡単に出ちまう『魔法』ってヤツぁ――いささかに恐ろしいな。
「ぼーっとして、どったの? しゃっちゃん、もしかして電気足りない?」
指を擦って大量の火花を散らすチビ助。
俺が足りないんじゃなくて、足りないのはきっとこいつの方だろう。放電し足りないという意味で。
その放電に付き合ってやりたい気持ちは山々だけれども、さすがにこれ以上ぶっ放されたら体に悪い気がするぜ。
俺はブルッと身を竦ませて、
「い、いや大丈夫、足りてるって。おかげさまで元気マンマンさ。
……でもよォ、ちょっとした謎なんだけれども。どうして髪の毛なのに電気が通ったんだ?」
確か髪は電気を通さないハズ。中一のときの先公が間違っていなければ、だが。
そんな俺の疑問にゆりなは少し考える素振りを見せて、
「そうだったの? んー……よくわかんないけど、しゃっちゃんは『水』だもん。だから髪からでも電気が通ったのかも」
「水ぅ?」
俺が『水』――ああ、そうだった。
水だから電気を通す。小学生でも知っていそうな、というより本物の小学生が知っていたこの事実だが……。
しかしながら。
いくら俺がコロ美と契約を交わした『水の魔法使い』だからって、髪まで水になっちまうのはおかしいだろ。
試しにてっぺんの触角を引っ張ってみる。別にチャプチャプ音もしないし、普通の髪だ。針金のように硬い点を除いては、だけれども。
そんなことをしていると視界の隅に何やらチョコマカと動くものが映った。
「?」
アホ毛を指でハテナマークにひん曲げてよーく見てみると――クロエだった。
黒猫が肉球を大げさに振ってヘンテコなダンスを踊っている。
なにしてんだ……コイツ。まさか俺のマジックポイントを吸い取ろうとしているワケではあるまいな。
腹が減ったから、みたいなノリでさ。
「あっ……!」
それを見たゆりなが、しまったというような声をあげる。
そして、これまたしまったという顔で、
「しゃ、しゃ、しゃっちゃん……」
「あんだよ?」
「やびゃい」
ヤバイを噛んだそいつの指す方向に視線を向ける。
ももはだった。
ぺったんこ座りで俺とゆりなをジーっと訝しそうに見ているチビ天。
俺は魔法少女の取説を思い出していた。
其の陸、注意事項についての部分――他人に正体を知られてはいけません。
魔法使いであることをバレないように周りに注意して魔法を使ってください。
…………。
やびゃい。
思いっきり魔法の話をしてしまったぞ、オイどうすんだ。話どころか、ゆりななんて電撃出しまくりだったし。
注意事項を破ったらどうなるかは書いてなかったから、いささかにも分からないけれども……。
こういった約束事を破った場合、往々にして痛烈なペナルティが与えられるモンだ。
ペナルティ。
イヤな響きだ……。どうしたものか、と。俺がいよいよ真面目に悩み始めたとき、
「ゆりっち、しゃくっち――」
ももはの呼びかけにドキンと心臓が飛び跳ねる。
だ、大丈夫。平静を装うんだ。俺が小声でそうチビ助の脇をつつくと、そいつは「うん、わかった」と小さく頷いて、
「も、ももちゃんなぁに?」
頬をピクピクさせながら言うゆりな。
「ち、チビ天どうしたよ?」
眉をヒクヒクさせながら言う俺。
「………………」
むしろ怪しさ全開だった。
ややしばらくして、ももはが言葉を続ける。
「もしかして二人って、魔法使い――」
ダメだ、完全にバレてる。
終わりだな……。
俺が諦めのため息をついていると、
「――ゴッコしてるっちゃ?」
キレイにずっこける俺たち。
折り重なって倒れている俺らの上に、チビ天がピョコンと乗っかってきて、
「二人だけなんて、ずっこいっ! ウチも一緒に魔法使いゴッコしたいっちゃ」
背中をポカポカたたき始めた。
ははは……。いやはや、冷や汗かいて損したぜ。
どうやら魔法使い関係者でないコイツには、ゆりなの出した電撃が見えていなかったらしい。
多分――ももはの目にはただのゴッコ遊びにしか映っていなかったのだろう。
そう。
元気を分けてあげると、ゆりながいきなり俺のアホ毛を掴んで、変な呪文を唱える。
そんでもって俺は大きなリアクションをとった後、なんで髪から電気が通るんだという質問をする。
そんな、ただのゴッコ遊び。
ただのではなく、どう考えても意味不明なゴッコ遊びだった。
俺がもしチビ天の立場だったら、恐縮だけれども今日はこの辺でお暇しますねと後ずさりしたくなる、そんな遊び。
まあ、なにはともあれ、バレていないようで良かった良かった。
あやうく初日でいきなり正体がバレる、というヘッポコ魔法使いのギネスに載っちまうところだったぜ。
んなもんあるのか知らねぇが。