魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第二十一石:明滅する瞳

「――っ!?」

 

 あまりの不気味さから悲鳴にならない声をあげる俺。

 アイツの『目玉』から視線を逸らそうと何回も試みるが、なぜか逸らすことが出来ねェ。

 半ば金縛り状態の俺にホバーが光輪を再びフラッシュさせる。

 

「ひっ!」

 

 まただ、また『最期』の映像が否応なしに頭の中へと流れ込んでくる。

 見下ろすホバー。斃れた俺。泣きじゃくるコロナ。呆然とするゆりな。唇をかみしめるクロエ。

 それらの映像が、なんどもグルグルと俺を嘲笑うかのようにかけ巡る。

 さすがに、こうも連続で自分の死体を見せられると気分が滅入ってくるな――

 

 クソったれ……!

 俺は震える手に鞭打って杖を持ち直した。

 

「人の中に土足で! ちくしょうが、正々堂々と戦いやがれ!」

 

 しかしながら、いくらそう叫んだところで聞き入れるハズもなく。

 それは壊れたテープのように何回も何回も繰り返された。

 だんだんと全身が虚脱感に包まれていくのがわかる。

 

 …………。

 もしかして、これは本当の未来なのか?

 どうあがいたところで俺はホバーに勝てない、結末はすでに決まっているという。

 ……考えてみりゃあ、そりゃそうかもな。

 

 何も出来ず、こんな棒立ちでなすがままに攻撃を食らっているんだ。

 これが精神攻撃ではなく、普通のカマイタチ攻撃だったら金縛りくらった時点でアウトだしな。

 きっと弄ばれているんだろう。ったく、一瞬でも余裕だと笑った俺がバカだったぜ。

 大体、こんな巨大なバケモンに最初から勝てるハズ無かったんだってェの。

 

 ――ああ。わかった、もうわかったって。白旗あげるから映像止めてくれ。

 俺がゆらりと杖を下げた様子に、戦意喪失を見て取ったのかホバーが甲高く鳴いた。

 勝利の雄たけびとやらか。ま。もう、どうでもいいことだけれども。

 

 まどろっこしいことは抜きにして、とっとと楽にしてくれや。

 そんな俺の願いを叶えるべく、とどめを刺そうとそいつが両羽を持ち上げた、

 その瞬間のことだった。

 

「しゃっちゃんを、いじめちゃダメぇえええ!」

 

 振り向いた先に居たのは、捕獲準備をしているハズのゆりなだった。

 いや、これはゆりな、だよな?

 

 黒檀のような瞳が真っ赤に光り輝いているんだが……。

 まるでいつぞやのコロナのような、あの不気味な光り方。

 どうしてチビ助が? 一体なんなんだよ、あの変なライトモードは。

 加えて体を纏っていた藍色のオーラや黒い稲光まで赤く変色しているぞ。

 

 ――どういうこっちゃ。今、ゆりなに何が起こっているのかまったくワケがわからん。

 俺がそう呆けていると、ホバーが蜂のように羽音を立てて旋回をはじめた。マズイ、まさかゆりなを狙おうってのか。

 

「ダメだ、チビ助! 捕獲は一旦中止にして逃げろ!」

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 

 前傾姿勢になり、肩で息をしているチビ助。俺の声が聞こえていないのか?

 もう一度逃げるよう叫ぼうとしたその時、ゆりながゆっくりと顔を上げた。

 

「!?」

 

 ……やはりそうだ。

 あのどこか遠くを見ているような瞳に、真一文字に結ばれた口。

 光の色の違いはあれども、コロナのときとまったく一緒だった。 

 

「――あーあ。おいたが過ぎちゃったみたいだね、ホバーちゃん」

 

 いつもの口調とは裏腹に冷然とした声。

 性格が悪くなった(ように感じた)コロナとは違い、ただひたすらに冷えていた。

 

 危険を察知したのか、ホバーが焦った様子で光輪を回し始める。

 あの『最期』を視せる攻撃の予兆……か。

 あんなモノ、チビ助に見させるワケにはいかねぇと、杖を構えて飛び出そうとした俺に、

 

「……キミはこっちに来ちゃ、メッだよ」

 

 一瞥もせずにやんわりと拒絶される。

 

「え? あ、はい」

 

 『しゃっちゃん』ではなく、『キミ』と呼ばれたことにいささかショックを受けた俺は、言われるがままパタパタと退いた。

 なんつーか、ホントに別人のようだな……。

 

 しかしながらと、俺はゆりなとホバーを見比べる。

 いやはや。どちらもチカチカとまぁ、なんて目に優しくないお二方なんでしょ。

 鍔迫り合いが聞こえてきそうな睨み合いのなか悪いんだが、目がしばしばしてかなわねェ。

 目頭を押さえながらそんな緊張感に欠ける愚痴を心の中で展開していると、

 

『パパさん、そんなときは霊鳴から出ている水をすくって目にさせばいいんです。目薬の代わりにもなる優れものなのです』

「おっ、そうなのか。そりゃまた便利なこって……ん?」

『ん?』

「って、コロ美! 今までどこに行ってやがったんでぇい。こちとら大ピンチだったってーのによォ」

 

 薄情な奴だぜと続けようとした俺に、

 

『ひ、否定。コロナはずーっとパパさんのことを呼んでたんです。あの目から出る精神干渉波は相手の魔力を吸い取るから、

 目を見ないように後ろに回りこんでくださいって、何度も呼びかけてたのです』

 

 げっ、マジだ。

 杖を見ると、さっきは満タン近くまであった霊薬が半分以下へと減っている。

 なるほどな、あの虚脱感はそういうオチだったのか。

 

『肯定。でも、いくら呼んでもホバーの出す魔力波に邪魔されちゃってて……今やっと声が届いたんです』

「ホントかぁ~?」

 

 腕を組み、意地悪く言う俺に、

 

『疑うなんてヒドいんです。ただ――もうちょっと早い段階で声をかけられたんですケド、

 今度は旧魔法少女さんが出すめちゃくちゃな魔力波にびっくりしちゃって……』

「そうだ! ゆりなのヤツ、一体どうしちまったんだよ。お前さんみたいに目がピカってやがるし、まるで別人みたいに変わっちまったんだが」

『ア、アレはですね。えーと、なんて言うですか。うぅ、お姉ちゃまぁ……コロナはどしたらいいのか分からないのです』

 

 なんだ? 知っていそうだが、何か言えない事情でもあんのか。

 コロナの煮え切らない様子に不思議がっていると、いきなりホバーの光輪がフラッシュした。

 もしかしなくとも、これは攻撃の合図だ。対するゆりなは目の明滅速度が急激に上がっている。

 ホバーが口を開けたと同時に、ゆりなが気だるそうに片手で杖を掲げた。

 

『ウソっ、まさか!? パ、パパさん、すぐに旧魔法少女さんの後ろへ飛ぶんです!』

「どうしたんだよ、んな慌てて……」

『いいから、はりあっぷ! そこに浮かんでると巻き添えくらっちゃうんです』

「わ、わかりましたんで」

 

 本当はよく分かっていないが、とりあえず言われたとおりにゆりなの背後へと羽ばたく。

 チビ助の背中――前傾姿勢のままだからか、かなり小さく見えるな。

 あ、髪に綿ボコリ付いてやんの。取っておかなきゃなと手を伸ばした瞬間、

 

「あっちっち!」

 

 凄まじい熱にすぐさま手を引っ込めた。

 なんだぁ? と目を丸くしていると、そいつの長い髪の毛がふわりと浮き、所々が燃えるように赤く発光していくではないか。

 まさか、この現象って――こちらも攻撃をするぞという合図なのか?

 そして、耳を疑うような詠唱が始まった。

 

「天翔るは閃光の雷。地這うは残酷なる獣――踊れよ、踊れ。夜空の悲鳴に踊り狂え」

 

 な、なんだその怖い文字の羅列は!?

 んなヤバそうな詠唱、説明書のどこにも書いてなかったぜ。

 ぷゆゆん……じゃなかった、ぽよよんで始まる詠唱とはまったくかけ離れていることに驚いていると、急に空がパッと真っ赤に染まった。


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