魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
あの馬鹿でかい仮面鳥相手にどこまでやれるか分からねェが――
だが、今の俺は魔法使いだ。
テメェがファンタジーなら、こっちだってファンタジー。
演じてみせるさ、ガキどもの幻想を!
「ぷ~ゆゆん、ぷゆん。ぷいぷいーぷうっ! 行くぜェ、杖からマシンガン! すいすい、『スノードロップ』!」
ホバーの周りを飛び回りながら飴ちゃんを放つ俺。
それと同じタイミングで杖にまたがり、飛翔したゆりなが左手をあげて、
「ぽ~よよん、ぽいぽいーぽんっ! 行くもん、指からバチバチッ! らいらい、『ライトニング』!」
人差し指の先から黒い電撃を放つが、素人目でも分かるくらいに弱々しかった。
以前にコロナに放ったときのような気の抜けた電撃。
直撃を食らったはずなのにまったく気付いてない様子のホバー。
俺の飴っころも大したダメージは与えられなかったようだが――
いくらなんでも、と思った俺は、頭上に浮かぶゆりなに訊ねた。
「どしたんだ? まさか、相手がハチドリさんだからって手加減してるんじゃねェよな」
「う、ううん。実は、さっき戦ってるうちに霊薬が無くなりかけちゃってて……」
チビ助が言うには、杖の中には魔法の源となる霊薬という液体が注がれていて、(確か説明書の其の参あたりに書いてあったな)
それが尽きると魔法を出せなくなってしまうらしい。
そしてゆりなは俺と違い、空を翔る羽を持っていない為、杖に乗らないと空を飛べないときたもんだ。
杖を使わずに手から魔法を放つことは一応可能だが、霊薬の消費が激しいし、それに威力もかなり弱まる。
だけど、模魔を捕獲するには、捕獲呪文の為にある一定以上の霊薬を確保しておかなければならない。
だから霊薬を節約しようと、さらに威力のない電撃になってしまったというワケだ。
それを聞いた俺は、少し腕組みをした後、ゆりなにこう言った。
「それなら、ゆりなにはチマチマ電撃を与えるよりも捕獲準備してもらったほうが良さそうだな」
「えっ、でも……。弱らせないと捕まえられないし。少しでも魔法撃たなきゃ」
「いや。それで霊薬切れて肝心の捕獲が出来ませんでしたってオチは勘弁願いたい。
あいつを引き付けて弱らせる役は俺がやる。まだまだたくさん霊薬あるしな」
言って、手中の霊鳴へと視線をスライドさせる。
それを振ると、柄先の蒼い宝石の中に霊薬がたっぷり入ってるのが分かる。
「う、うん……。しゃっちゃん、無理しないでね?」
すいーっと飛んできたゆりなが心配げに俺の顔を覗く。
やれやれとばかりに、そいつにチョップをかましつつ、
「任せなって。俺だって、選ばれてここに居るんだ。やってみるさ、程ほどに」
「わかった。ボク、しゃっちゃんを信じるよ」
そう頷くと、ホバー側面のビルへ降り立つゆりな。
目をつぶり、杖を掲げると捕獲呪文の詠唱をはじめる。
よし――次は俺がホバーを引き付けて弱らせる番だ。
俺は、好き勝手に突風を飛ばしまくっているホバーの後ろへ回り込み、
「おーい、鬼さんこちら! 霊の鳴る方へ!」
ゆっくり深呼吸して、霊鳴に魔力を込める。
とりあえずは、あの鬱陶しい羽を止めるのがベターだな。
とくりゃあ、アレをぶちかますしかあるめェ。
「ぷぅゆゆん、ぷゆん。ぷいぷいー……ぷぅ! すいすい、『エメラルドダスト』!」
振り下ろすと、杖先からモクモクと水蒸気が噴出していく。
そのままの状態で持ち上げると、それはあっという間に空へ昇り、細氷となってホバーを襲う。
俺にやっと気付いたのか、轟音を響かせながら旋回するハチドリ。
しかーしながら、少し気付くのが遅かったようで、見る見るうちに羽が凍っていくじゃねーか。
なんだ? こいつ、実はただの見掛け倒しだったりして。
これなら、余裕だな――余裕シャクヤクってなもんでっ!
自分の魔力の凄まじさにイケると踏んだ俺は、杖にどんどん魔力を注ぐ。
それに比例して激しさを増す翠玉の細氷。
「落ちろよ、こんちくしょぉおおお!!」
俺がもっと魔力を注ごうとしたその時だ、
ホバーの金色の目が一瞬にして真紅に染まり、とてつもない鳴き声を発した。
「な、泣いたって許してやんねー……」
ぞっと、言いかけて俺は驚きおののいた。
魔法をストップし、小さく後退する。
なぜなら鉄仮面の下部分――鳥であればクチバシ辺りが割れたからだ。
いや、割れただけならばそれほど大したことじゃない。
先の鳴き声である振動で割れたという、ただそれだけのことだから。
だが――その仮面の下にあったものが『鳥のクチバシ』ではなく、『人間の口』だったとしたら?
それが、歯列矯正をしているかのような鉄の奇妙な器具をつけていたら?
普通、誰だって驚愕するっつうの。
俺が呆然と目を丸くしていると、キュィイインという何かが擦れるような音が聞こえてきた。
「なんだよ、なんの音だよ!?」
ホバーの出している音かと、俺はそいつのあらゆる部分へ視線を飛ばす。
その俺の慌てようを楽しんでいるのか、ニンマリと『笑う』ホバー。
冷や汗が流れ落ちる間際、俺はその音が発生している箇所をつきとめた。
頭上の赤黒い光輪。それが高速で回転している音だったのだ。
それで、なにを始めようってんだよ――
ビビるかよ、そんなコケおどし。
なにかをしようったって、そんなの!
俺は再び杖を握り締めると、魔力を込める。
もう一度だ。
あいつの動きは確実に鈍っている。
もう一度、エメラルドダストをぶっ放す!
「ぷーゆゆん、ぷゆん……」
しかし、俺はすぐさま詠唱を中断した。
光輪が、ストロボのような強力な赤い光を発した為だ。
「!?」
緩慢な動きでハチドリの口が開かれていく。
その喉奥がチラッと見えた瞬間、俺は自分の『最期』を垣間視た。
脳裏に次々と映し出される俺の死体。
色々な角度から、ありとあらゆる死に様を。
だが、死に様は違えど、状況は皆同じように思えた。
暗い空。佇む仮面のハチドリ。コスチューム姿のまま死んでいる俺。
なんだこりゃ。意味がわかんねェ。
まさか、そんな。こんなあっけない死なんざ――冗談だろ?
いやいや、よく考えろシャクヤク。そうだ、これもあいつの攻撃だろう。
ったくよォ。なんて悪趣味で胸糞の悪い攻撃だ。
しかし、恐縮だけれどもそんなモノを見せられたところで別に痛くも痒くもないワケで。
と。
苦笑しつつ顔を上げた時、俺は目が合った。
ホバーと。
いや、正確にはホバーの口の中に存在していた巨大な目玉と――