魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
「かーっ、ごちゃごちゃとまぁ。勉強みたいでイヤんなるぜ」
向かう間に少しでも暗記しようと、取扱説明書を読み返していた俺の頭の中に、
『パパさん、そろそろホバーのもとへ到着するんです』
コロナの声が響く。
顔をあげると、目の前にハチドリの巨大な背中が現れた。
「うわっとっと!」
腰に力を入れて急ブレーキ。
あっぶねぇ。そろそろどころか、激突するところだったぞ。
『あう。この状態だと、イマイチ距離感がつかめないんです』
「あれま。そいつは知らなんだ。ま、運転代行ご苦労さん」
それにしてもと、改めてホバーを見上げてみる。
「うっひゃあ」
こ、こりゃあ……いささかに。
遠目で見ていた時と、迫力が桁違いだな。
というかフツーに無理だろ、コレ。
「なぁコロ美、このドレスってポッケついてねーのか? 説明書を仕舞いたいんだけれども」
『否定。ポッケは無いんです、でもスカート横にポシェットがあると思うのです』
確かに花のアップリケがついたピンクの可愛らしいポシェットはあるんだが……。
いささかに小さすぎるぞ。これじゃあおにぎり一個でいっぱいじゃねぇか。
やれやれ。
どこの世界でもデザイナーとやらは機能性というものを軽視する節が、
「きゃあああ!!」
うおっ。
この悲鳴、ゆりなの声か――!
「やべぇ! どこだ、どこにいる?」
俺は慌てて取説をパンツの中へ押し込むと、即座に羽を広げてホバーの前へと飛び出した。
一瞬、強風が頬を掠める。
下を覗くと、杖にまたがったまま吹き飛ばされていくゆりなの姿が見えた。
マズイ、このままじゃ地面に叩きつけられちまう……!
説明書に書かれていた魔法の仕組みという項目を必死に思い出す。
たしか七大魔宝石に限り、想像力とセンス次第で主体となる能力をどのようにもアレンジ出来るらしい。
つまり、俺が割った石はコロナであり、その能力は『水』及び『氷』となる。
しかしながら、水や氷でどうやってゆりなを……。
いや、待てよ。
そういえば変身したあの時に確か――
上手く出来る可能性は低いかもしれないけれども。
「ここで、やらずして!」
研ぎ澄ませ、シャクヤク。
想像だ――
創造しろ――!
「コロナが魂よ、我に翡翠の水を宿せっ」
杖の表面に薄緑色の水が流れ出したことを確認し、
「ぷ~ゆゆん、ぷゆん! ぷいぷいー……ぷうっ!」
そいつを振り上げて、ゆりなへ向けると俺はこう叫んだ。
「すいすい、『スノードロップ』!」
その瞬間、杖の先から飴玉サイズのガラス玉が次から次へとゆりな目がけて飛び出していく。
「おおっ、マジで出るとは。こいつはたまげた!」
初めて出した『魔法』に舞い上がった俺は、杖からポコポコ生まれていくガラス玉をひとつ掴みあげて、月光に透かしてみた。
ひんやりとした氷細工のガラス玉。
その中には無数の雪がヒラヒラと舞っている。
月光に照らされている為か、角度を変えると雪が金色にキラッと輝くという、何とも神秘的な玉っころだ。
「ほー、キレイなモンだな。売ったらそこそこ良い金になりそうだねェ、いっひっひ」
なんて満足げにアゴをさすっていると、若干引いた様子のコロナの声が響いた。
『パ、パパさん……。そんな魔法出して、旧魔法少女さんにとどめをさすつもりなんですか?』
「えっ!?」
ギョッとして見下ろすと、俺の放った飴ちゃんが猛然とゆりなを襲っているではないか。
「あっちゃー……予想外」
「ふぇええーん! なんか変なのも飛んできたよぅー!」
と、泣き叫ぶゆりなの声が聞こえるか否かのところで俺は空を蹴った。
羽に力を入れて最大限の加速。
「ぷゆゆん、ぷゆん、ぷいぷいぷう! 間に合えっ、すいすい~!」
スノードロップがゆりなに当たる直前、そいつの前に駆け込んだ俺は、杖を腰に構えて、抜刀よろしく引き抜いた。
「出てみろ、アクアサァアアベル!」
言った直後、数コンマの世界で杖が水を纏った刀へと変化する。
感動している暇もなく、俺はがむしゃらに刀を振って飴玉を叩き割った。
すると、どうだろう。
割られた飴玉から大量の雪が舞い散り、地面を瞬く間に覆っていくではないか。
「きゃっ!?」
「うおっと!」
勢い余って積もった雪の中へとダイブする俺とゆりな。
痛てェ……。もっと早く割っておきゃあ良かったぜ。
まぁ、なんとか膝を擦りむく程度で済んだし、初めてにしては上出来か。
なんて立ち上がった俺の股間あたりでモゾモゾと何かが動く。
「わ。わ。真っ暗! 怖いよぉ!」
「コラ。人のスカートん中で勝手にお化け屋敷ごっこすんな。遊びたけりゃあ、ちゃんと入場料払いなァ」
スカートをめくると、雪からポコッと頭を出したゆりなが不思議そうに俺を見上げていた。
「あ、あれ? もしかして、しゃっちゃん?」
「もしかしなくても俺だってーの。見りゃあ、分かるだろォ」
「だってだって、その格好……」
口をあんぐり開けながら、体の隅々まで視線を巡らすゆりな。
ああ、そうか。
そういえば、今の俺って魔法使いモードになってたんだよな。
ちょいと自分の姿に照れくさくなった俺は頭をポリポリかきつつ、
「いやぁ、チビ助のより露出激しいけれども、これでも結構暖かいんだぜ。この周りのうにょうにょしたオーラがさ。まるで温泉に浸かってるみたいで、」
と。
快活に舌が回り出したところで、
「どうして――?」
ゆりなが唇を震わせる。
「あのまま、おうちに帰っちゃうのかと思ってたのに。もう、二度と会えないんだって思ってたのに……どうして?」
「んー。どうして、って」
目を潤ませたチビ助の腕をグイッと引っ張って立ち上がらせる。
そいつの鼻頭に乗っかった雪を一つ払いながら、
「だってさー。昨日、寝る前に約束したじゃんか」
「……約束?」
「また明日いっぱい遊ぼうねって。だぁら遊びに来たってワケ。ちぃっとばっかし朝早すぎるかもしれないけれども――」
ニィッと笑って子どものように続ける。
「ゆ~りなちゃん、あっそびましょ」
それを聞いた途端、不安そうな表情をたちまち笑顔に塗りつぶすチビ助。
「はーいっ! 遊ぶっ、しゃっちゃんと一緒に遊ぶーっ!」
当選が確定した政治家のようにバンザイ三唱しているそいつに、
「いっひっひ。ちょうど面白そうな遊びをしているようだねェ。それじゃあ、今日の遊びはアレにしようぜ――」
言いながら、右肩を杖でトントン叩いてニヤリと目配せする俺。
「にっしっし。しゃっちゃんてば、ナイスタイミング。それじゃあ、今日の遊びはアレにしよっか――」
言いながら、左手で杖をクルクル回してニヤリと目配せするゆりな。
そして俺らは杖を同時に止めると、
「「鬼退治ごっこ!!」」
叫んで跳躍。
つまるところのバトル開始というこって。