魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第十四石:寝心地サイアクのふともも

 

 部屋に戻ると、捨て猫もといクロエが学習机の上で毛づくろいをしていた。

 

「おろ。遅かったじゃねーか。ポニ子とコロ助は一緒じゃねぇのか?」

「もうしばらくしたら来ると思うぜ……。あたたた」

 

 急に走ったもんだから、腹が悲鳴をあげやがる。

 

「その様子っつーか腹をみると、例のアレを喰らったみたいだな」

 

 あの山盛り飯のことを知っているのか。

 ベッドにドカッと座り、一息つく。

 

「ああ。喰らったぜ、二重の意味でなァ」

「けけっ、うめぇこと言うじゃねーか。ポヨ子の飯、美味かったか?」

「白飯しか食えなかったけれども。炊き方はかなり上等なモンだったぜ。丁度いい硬さで。てか、ポヨ子ってどういう意味なんでィ」

「んなの決まってんだろー? ぽよぽよしてるから、ポヨ子。性格と体と、二重の意味っつうヤツでさ。にっしっし」

「……おまえさんなァ。エロ親父みたいな反応に困る発言、謹んでくれっての。俺はこれでも中身は健全な中学生男子なんだぞ」

「はっ。よく言うぜ。てめーはそんじょそこらの鼻水たらした中学生とは違うだろ」

「これはこれは。買いかぶってくれるねェ。恐縮だけれども、ここは素直に喜んでおこうかね」

「飄々としやがって。ジジくせぇのはどっちなんだか。ま、だからこそピースに選ばれたのかもな」

 

 またその話か。

 選ばれしもの、うんたらかんたら。耳にタコだって。

 コントローラーのAボタン連打で会話を飛ばしたいくらいだね、まったくもって。

 

「わりーけれども、」

 

 言いかけたところで、黒猫が跳躍。

 音も無くベッドに飛び移り、俺の膝の上で丸くなる。

 

「なんだ。暑苦しいぞ、毛皮ヤロー」

「けけけっ。シラガ娘、おめぇは腹いっぱいで動けねぇんだろ。だったら大人しくオレを可愛がりやがれ。満足したら退いてやんぜ」

 

 俺は小さく舌を打った。

 

「口やかましい猫だなまったく」

 

 実に腹立たしい食肉目小動物の背中を撫でようとして、俺は止まった。

 何故なら、クロエが驚いたような顔で俺を見ているからだ。

 

「なんでェい。俺様の顔に飯粒でもついてるのかィ?」

「あ。いや――な、なんでもねぇよ」

「……変なヤツ」

 

 なんでもないと言われると気になるのは何でかねぇ。

 しかしながら、と俺はクロエの背中を撫でながら思う。

 このバカ猫と一緒にいるときは、なんつーか気が楽だ。

 言葉遣いが俺に似てぶっきらぼうな為か、気安く軽口が叩ける。

 

 他の女性陣はいささかに、どうもな。(一応こいつも女だっけか)

 コロナはただひたすらに面倒だし、ゆりなは少し慣れたが、やはりまだ苦手だ。あの瞳が。

 そして、ゆりなのお姉さん。彼女が一番厄介だ。あのほわほわとした温かさが――心底キツい。

 

「なぁ、シラガ娘よ」

「はーいっ。なぁに、クーちゃん?」

 

 俺のここ半年で一番の茶目っ気に、

 

「き、気持ちわりぃ声だしやがって。大体、オレをクーちゃんと呼んでいいのは、ポニ子だけだぜ」

「へぇへぇ。そうかいそうかい、そいつは残念だねェ」

 

 そんなことよりと、黒猫が俺に向き直る。

 

「さっき何を言いかけてたんだ? わりーけれども、の続き」

 

 ああ。すっかり忘れてた。 

 

「まぁ、アレだ。散々コロナには言ったのだが、やっぱし俺ァ、魔法使いなんざやる気しねェから。

 どうせ首を突っ込んだら、間違いなくべらぼうに面倒なことになるだろうし。だからその前に――」

「この世界から逃げ出す、ってか?」

 

 俺の台詞を先回りした後、クロエは器用に腕を組んで瞑目した。

 

「……言ったハズだぜ。元の姿に戻り、そして元の世界に帰りたいのなら、いくら探したって方法は一つしかない、と」

 

 未だ目を瞑ったままのそいつに、

 

「――最悪、姿はチビガキのままでもいい。とりあえず、俺ァ俺の世界に帰りてェって話。明日か、出来れば今夜にでも俺はこの家を出る。

 このままズルズルと引き込まれるのは勘弁だ。行動しないよりはマシってな。何か戻れるきっかけを掴めるかもしれねェし」

 

 ま。姿に関しては、本当に最悪の場合だけれども。

 

「そうか。わかった」

 

 てっきり怒鳴られるかと思っていたのだが、猫は悟ったように頷いて、続ける。

 

「お前の呪いを解いて、元の世界に戻してくるようオレがピースに掛け合ってみるぜ。

 ――抜け出すときはなるべくあいつらにバレない方がいいだろうな。

 夜中、タイミングを見計らってオレが声をかける。その隙にこの家から出るぞ。いいな?」

「そ、そりゃありがたい話だけれどもよ。一体どういう風の吹き回しなんでィ?」

 

 こいつにとっては俺が魔法使いにならないと困るんだろ?

 だったら逃走に協力的になるのは、いささか不可解に思えるが。

 単純にこの猫の考えがわからんな。

 

「……猫であるが故の、気まぐれなものと。そう思えばいい」

 

 俺の疑問符に、淡い笑みを返す黒猫。

 そいつは一つ大きい伸びをしたのち、再び丸く寝なおして、

 

「ケッ、硬ぇ太ももしやがって。誰かさんに似て寝心地サイアクだぜ、ったくよ」

 

 と、口角を上げた。


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