魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第十三石:飯は高し食せよ乙女

「はいっ、どうぞ召し上がれなのです! 今日はしゃっちゃんちゃんと、ころこっちゃんの為に腕によりをかけて作ったです……っっ」

 

 テーブルに続々と置かれていく料理を前に俺は唖然としていた。

 

「え、これ全部お姉さんが作ったんですか?」

 

 訊くと、ゆりなのお姉さんは飛びっきりの笑顔で、

 

「はいっ。お二人に喜ばれるよう、どの料理が良いか三思九思しての結果ですっ」

 

 その結果が、この天を穿つようなタワー盛りご飯ですか。

 こりゃあ、白飯だけですぐに満腹になっちまうぞ。

 一つ一つがパーティ用かと思える程の量のおかずも凄まじいけれども……。

 隣に座っているコロナも額に汗を浮かべて、

 

「こ、コロナは見てるだけでお腹いっぱいになってきたんです」

 

 右手に持った箸がぷるぷるカタカタと震えている。

 俺はそいつの肩をちょんと突付いて出来るだけ小声で、

 

「おい、コロ美。お姉さんのあの顔を見てもそれが言えるかィ?」

「…………う゛っ」

 

 満面の笑み。

 両手をギュッと握って、キラキラと目から星を飛ばしまくっている。

 星マシンガン十発ごとに俺とコロナを交互に見ているワケで。

 そりゃ、あんな期待された表情で見つめられた日には……。

 

「わ、わーい。美味しそうなんです! いただきまーすっ」

 

 そう言うしかねーよなァ。

 俺とゆりなもそれに続いて、

 

「いっただきまーすっ」

 

+ + +

 

 二十分後。

 数多あるお皿の中身は、見事にキレイになっていた。

 

「にゃはは、お姉ちゃんのご飯美味しかったーっ。ボクの大好きなロールキャベツもあったし!」

 

 ゆりながコップに注がれた麦茶を飲み干して言う。

 

「あらあら、うふふっ。ゆっちゃんは小さい頃からロールキャベツが好きでしたものね。

 お二人はあの中に何か好きなおかずありましたでしょうか? なるべく好物に当たる様にと多く作ったつもりなのですが……」

 

 ゆるりと訊ねられるが、俺達はそれどころじゃない。

 

「う、うっぷ。コロ……美。お前が、答えてくれィ」

 

 まるで漫画のようにでっぷりと出たお腹をおさえながら言う俺と、

 

「肯定、なんです。えっと、こ、好物以前に、ご飯だけでポンポンがパンパン、という状況……なのです」

 

 まるで漫画のようにぽっこりと出たお腹をおさえながら言うコロ美。

 そうなのだ。

 俺とコロナは茶碗に盛られたタワー飯を平らげるのがやっとで、おかずまで手を出せずにいた。

 とすれば、なぜ皿の中身がキレイになっているのかという疑問が出てくるのだろうが――なんてこたァない。

 

「あれ、しゃっちゃん達おかず食べてなかったっけ?」

「えっ! も、もしかして私達だけで食べてしまったのでしょうか……」

 

 と。

 きょとん顔を見合わせる姉妹。

 

 何を隠そう、彼女達が猛スピードで食べていたというオチだ。

 そりゃあもう凄まじい光景だったぜ。

 笑顔のままパクパクモグモグと、華奢な体のどこへそんなに入るのかと問いたくなるくらいだ。

 見ているだけで腹いっぱいとはまさにあの状況だな。最上級の例だろうよ。

 

「なんという、なんということでしょう……。では、ただいますぐに作り直しますっ! 悔悟憤発ですっ!」

「い、いや、大丈夫ですからホント! お気になさらずっ!」

 

 青ざめた顔で即答する俺に、

 

「……けっぷ」

 

 こっそりとおくびで答えるコロナ。

 

「あう。ごめんね、しゃっちゃん。ボク、みんなとご飯食べるのが楽しくって、全然気付かなかったよぅ」

 

 ゆりながそう言って、申し訳なさそうに背中を丸くする。

 まーた、そうやってすぐに謝る。

 謝る必要なんざ微塵もねェってのに。

 

「ふっ、構わんぜ。俺のことは気にせず、いっぱい食べて大きくなるんだぞ、ゆりな。摂取した栄養は最大限に活かすんだ」

「え。う、うん……。がんばってみるっ」

「頑張りすぎて怪獣なみになられても困るケドな」

「わっ、怪獣かっくいーっ。がお、がおー!」

「ハ、ハハ。あんだけ食ったのに、元気っすね……」

 

 あいててて。

 腹痛のときによくわからん掛け合いなんてするもんじゃねェな。

 そう力無く笑う俺に、

 

「ゆっちゃんとしゃっちゃんちゃん。とても仲良しさんなんですね。かなり前からお友達なのですか?」

 

 頬杖をつきながら、微笑むお姉さん。

 

「ええ、まァ……」

 

 本当は今朝初めて会ったばかりなんだけれども。

 そう言うワケにもいかねぇし。

 

「えへへ。ずっと前からお友達だもんね。仲良し、仲良しー! がおー!」

「――そ、そうだな。っておいコラ、人の耳を噛むなって」

「がおおーん! がるるるー」

「もはや怪獣じゃなくてただのライオンだろそれ」

 

 残り少ない体力から搾り出したチョップをかましてやると、そいつは何が楽しいのか、

 

「にゃはは。殴られちったー。きゃいんきゃいーんっ」

 

 と、小走りで食器を洗いに行ってしまった。

 つーか、動物キャラをやるならやるで、ちゃんと統一してくれよな。

 

「あ。コロナも洗うんです。食べたらキレイキレイするのです」

 

 隣のツーサイドアップが言って、ぴょんと椅子から飛び降りる。

 そうだな。んじゃ、俺も腹ごなしに手伝うとするかねェ。

 手を広げて待つコロ美に渡そうと、俺たちの食器を重ねていると、

 

「ん? なんだこれ。『ももはせんよう』だぁ?」

 

 コロナの使っていた、ちんまいピンク色の箸にそうマジックで書かれていたのだ。

 ひらがなだから分かりづらいが、これは多分『ももは専用』という意味か?

 お姉さんが俺の手元を覗いて、

 

「あらあら。ゆっちゃーん、もっちゃんの小さい頃のお箸だって、懐かしいですねーっ」

 

 エプロンを後ろ手に結んでいる最中のゆりなに声をかける。

 

「それ、コロナちゃんにってボクが戸棚の奥から見っけたんだよー。ももちゃんってば、ピンク色のもの全部に『専用』って書いてたもんね。

 ボクのケシゴムの裏にも書かれてたっけ。にゃははっ」

 

 それを聞いたゆりなは後姿のまま、とても懐かしそうに答えた。

 

「あの、ももはさんって誰なんですか?」

 

 コロナの疑問に俺も続ける。

 

「もしかして、もっとご兄弟がいらっしゃるとか?」

 

 実はもう一人いる一番下の妹が使ってる、みたいな。

 

「んーん。違うですよー。もっちゃんは、ゆっちゃんの幼馴染さんなのですっ!

 桃色なサラサラの髪と白い肌がとても可愛い子なんですよ。このお箸は、幼稚園の頃もっちゃんが遊びに来てたときによく使ってたんです。

 でも――年長さんになる頃には、もう使われなくなっちゃったんですけどね……」

 

 寂しそうに俯いてしまうお姉さん。

 なにやらこれは。

 これ以上聞いてはイケナイ雰囲気のような。

 

「そ、そうですか――」

 

 どう話を切り替えしたらいいものかと食器をコロナに渡しつつ考えていると、

 

「何故なら、大きくなったもっちゃん専用お箸があるからなんですっ」

 

 ドギャーンと取り出されたピンク色の箸には、これまた『続・ももは専用』と書かれていた。

 

「今もっちゃんが使ってるのこれですよね、ゆっちゃん」

「うんっ。昨日もそれ使ってたもん」

「え……。昨日も?」

 

 するってぇと、今でもちょくちょく遊びに来てるってことかィ?

 

「ちょくちょくっていうより――毎日です。四歳の頃から今までずっと、ですねっ」

 

 食器を運び終えたコロナの頭を良い子良い子と撫でながら、事も無げに微笑むお姉さん。

 毎日って。

 しかも四歳の頃からとなると、ゆりなが九つとして五年間ってことになる。

 

 いやいやいや。

 フツウ、かなりの迷惑もんだぜ、そりゃあ。

 一晩宿を借りる身の俺が言えたモンじゃないけれどもさ。

 

「ぜんっぜん、です! むしろ一日でももっちゃんがいらっしゃらないと、とても不安です。悲しいです。がっかり、なのです。

 きっと、しゃっちゃんちゃんと、ころこっちゃんも彼女と会えば自然と仲良くなれるハズです……っっ」

「そ、そうですかねェ」

「え。コロナも、ですか?」

「そうですともっ! だって――」

 

 あまり乗り気でないといった雰囲気の俺たちをいっぺんにギュッと抱きしめ、

 

「お二人ともこんなに、こんなに可愛くてイイ子なんですから。

 イイ子同士はすぐにお友達になれること間違いなしなのですっ。肝胆相照、ですっ」

 

 お姉さんは全てを包み込むかのような優しい声で言った。

 この人は、どうして。

 一度会っただけのどこの馬の骨ともわからないヤツにここまで柔らかな言葉をかけるのだろうか。

 

 いや――

 この姉妹は、か。

 いささかに苦手だな……この温もり。

 俺はお姉さんの腕からするりと抜け出して、

 

「す、すんません! 俺、あの捨て猫の様子が気になるんでっ」

 

 そそくさと階段をかけあがった。


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