魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記) 作:あきラビット
「おっかしいなァ。たしか、ここら辺だったよーな」
森に戻った俺は、墓石があった場所を探すことにした。
赤い満月は普通の三日月になっていたし、黒い雲もどこかへと消え去っている。
とっくに森は元の姿を取り戻していたのだけれども……さすがに時間が時間のためか、陽が落ちてきて視界が悪い。
うーん。なんとなく戻ってみたはいいが……。あの場所が全然見つからねェな。
そろそろ時間がヤバイかなと腰を上げたとき、
「シャクヤク……」
いきなり俺の名前を呼ばれたもんだからたまらない。
こんな不気味な森の中だ。しかも今はコロ美もチビ助も居ない、たった一人っつう状態。
……そりゃさすがの俺だってビビっちまうさ。ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえて声のした方を見てみると――
「!?」
少しだけ離れた場所にシャオメイが立っていた。
――あいつが俺の名前を呼んだのか?
でも、俺に気付いていないような……。それに、あいつは俺のことを名前じゃなくてバカてふって呼んでるハズだし。
訝しげな目でシャオの横顔を見ていると、そいつは自分の手へと視線を落として、
「温かかった……」
その手を胸のところでギュッと握ってポロポロと涙を流し始めた。
お、鬼の目に涙とはよく言ったもんで……。
そいつは涙を拭うこともせずに、その場にしゃがみ込むと、輪を描くようにドングリを並べる。
まるでそれは壱式があった墓のような――
「……どういうこったァ?」
さっきから何がどうしたもんだか。
疑問符が頭の中を埋め尽くす前に、俺はそいつの後ろ姿に声を掛けることにした。
「おいおい。お前さん何をしてるんでぇい?」
「……!?」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしたシャオが振り返った。
そいつは俺の顔を見ると、明らかに動揺した様子で、
「な、なんで、ここに……。そんな、戻って来るハズないのに……」
「いやあ。俺もよく分からねェんだが、どうもあの墓が気になってさァ。なんとなく来てみたのだけれども」
……ん? 待った。
こいつ――目の下のクマも無ければ髪型もストレートだぞ。それにマントを羽織ってやがる。
さっきまで居たシャオは若干だがクマがあったし、髪型もツイン、そしてマントはシロと一緒に闇の中へ放り込んでいたような。
『まさか』なんて言葉はすでに必要なかった。
ここまで違えば、さすがに俺だって解る――
「お前、寺の前で会った方のシャオメイだろ……?」
「…………」
「へっ。だんまりを決め込むつもりかィ? なんとか言ったらどうなんでぇい。なんのつもりか知らねーが、お前さんが俺とシャオに手紙をよこしたんだろ?」
壱式のある東福森に呼ぶため、俺の名とシャオの名を騙りそれぞれのポケットに手紙を入れた。
やったとするならば、こいつしかいない。
「手の込んだ真似をしやがって。一体どういうつもりだァ」
「…………」
「なんでシャオの格好をしてやがるんでぇい。まさか偽者……姿を真似る模魔石でもあるのか?」
「…………」
迷った表情をした後、俯いて一歩後ろに下がるシャオメイ。
どうして。どうして何も言わないんだよ、こいつ……ッ!
弐式に魔力を注いで詰め寄ったそのとき、
「ぴいっ!!」
やにわに、木陰から飛び出してくる小鳥とリスたち。
「お、おい。なんだなんだァ!?」
突いたり、齧ったりして俺に襲い掛かってきたそいつらに魔法を使うわけにもいかず、必死で振り払っていると、
「やめなさい、あんた達……」
シャオが呟いた途端、猛攻が止んだ。
そいつの肩に戻っていくそいつらを見て、俺はハッと思い出した。
「バッカバカじゃん。今どき恩返しなんて流行らないわよ? それともまた飴をねだるつもりかしら? まったく……卑しい小動物たちね」
言ってリスの頭を撫でるシャオ。
――やっぱりそうだ。こいつら、寺の前でシャオが飴をあげていたリスと小鳥に違いない。
あのときは、シャドーの中へ放り込んで殺したかと思ったんだが……。
「……バカてふ。そろそろご飯の時間でしょ。あんたは、もう帰ったほうがいいわ」
スッとマントで涙を拭い、その中から取り出した黒いバイザーを被るシャオメイ。
そいつは口を真一文字に結ぶと、さっきまでの動揺なんて無かったかのようにマントを翻した。
「か、帰ったほうがいいって……。なんなんだよ、少しくらい質問に答えやがれっ!」
「――これからピース様がここに来るわ。あんたはここで何も見なかった……そういうことにしておきなさい」
冷たく言い放ったその時、キイキイという耳障りな錆びついた音と共に、森の葉や木々が一瞬で朽ちていく。
一体何事かと木々を見渡していると、森の奥から車椅子に乗った老婆が現れた。
「おお。ワシの可愛い紗華夢よ。心配しておったぞ。一体何をしていたのじゃ」
「すみません。微弱な魔気を感じたもので。調べに向かったところ、白の魔法少女に見つかってしまいまして……」
「ほぅ、ほぅ。それはそれは、いささかに」
不気味な仮面を被った小柄な体格。黒いローブに全身を包んでおり、見えるのは皺くちゃの大きな手だけだった。
ゆりなとクロエが言っていた『あいつ』と条件が全て合う。
――俺は確信した。
こ、こいつが、こいつが……!
「……ピースッ!」
「ああ……。威勢の良い小娘じゃのう。いっひっひ、素晴らしい。スンバラシィ」
訊きたいこと、言ってやりたいことは山ほどあった。
それなのに。何故か、俺は声を出すことが出来なかった。