Minecraft ~ある冒険家の旅路~ 作:セッキー.Jr
サクラノ国をあとにしたルーフス達。
広大な荒地に続く一本の道路を辿っていた。
荒地には動物も、植物も一切見当たらない。
驚くほど新鮮に、冷ややかな茶色の乾いた土が地平線まで続いていた。
ステーラは道路の白線で綱渡りをしている。
ジャックはバンダの辞書を開いて確かめた。
「この荒地の一本道…これだよね!」
見ると目の前の景色にそっくりな光景が白黒写真に写されていた。
「まさにここですね!」
「で、この道路の先の国はどんな国なんだ?」
ジャックは笑顔で話す。
「『ジェラーナ』って言う国で、石油で栄えた国だよ!
国名はその土地の昔の言葉で『燃える』という意味らしいんだ。」
「なるほど…石油にうってつけの名前ってことだな。」
ジャックはいきなり冷静になった。
「でも『燃える』には二重の意味があって…」
「二重の意味?」
チェリーが問う。
「その国と間に砂漠を挟んで『イクオラ・ジェラーナ』っていう国があって…
ジェラーナ国と石油問題で対立しているんだ。今も双方の国で犯罪が起きている。」
「石油問題か…」
「……」
ルーフスが沈黙する。
「…ってなんだ?」
チェリーとジャックがずっこける。
「あんちゃんも少しは知っておいてよ…」
「石油問題とは、石油の取り合いで対立する問題のことですよ!」
「あーなるほど。」
「ワン!ワン!!」
ステーラが吠える。
狼の鳴き声と共に前を見ると、そこには都会が広がっていた。
ビルを架け渡すガラスの通路を人がせわしなく歩いている。
タクシーに並ぶ列からまた一人、タクシーに乗っていった。
カフェにはカップルが楽しそうにコーヒーを飲んでいたり、
めがねの男性が足を組んで新聞を読んでいた。
「すごいですね~!」
「グレートスライヴシティに戻ってきたみたいだ!」
「ワン!ワン!」
ステーラも大喜びのようだ。
「さて、まずはなんか食っていくぞ!」
「いいですねー!行きましょう!」
「おー!!」
「ワオン!!」
ジャック君は何が食べたいですか?
う~ん…あ!ホットチキンに挑戦しようかな!
…
3人と1匹の会話を陰から見る黒服がいた。
誰かと連絡をとっているらしい。
ルーフス達は小さな屋台でホットチキンを作る様子を見ていた。
鶏肉にバターを塗って、唐辛子の粉を振りかけてかまどで焼く。
3人と1匹は顔を並べてよだれを垂らしていた。
「はい、どうぞ!」
美味いチキンを求めて食べてきた、そんなことを言っているかのような
太ったコック姿のおじさんがホットチキンを1つずつ渡す。
「わぁ~♪ありがとうございます!」
「クゥン♪」
「おいしそ~♪」
その時であった。
いきなりルーフス達の後ろの道路にすごい勢いで車が止まる。
ビーッ
窓が開く。
一人の男が話し始める。
「君達、旅人?旅人だよね?私はジュート放送局のドーカ・デナ記者というんだ!
早速だけど君達には我が放送局で君達の今までの旅路からこの国に来て何を思ったかを
聞かせてもらおう!大丈夫?」
「え、えっと」
「オーケイ!では行こう!」
デナは無理やりルーフス達を車に押し込める。
コックのおじさんはルーフスのチキンを持ったまま困惑する。
「あの…?」
デナは一気にアクセルを踏む。
車は反動をつけて去っていった。
そう、ルーフスのチキンから…
「俺のチキィィィィィイイン!!」
ルーフスは窓から後ろに手を伸ばし、涙を道路に落としていった…
ルーフスの涙が小粒に収まった所で。
キィ!
「あれ?ここが放送局?」
見ると放送局以上に豪華な、神殿といった感じだ。
デナはさっきのテンションとは思えないくらいに冷静に話す。
「騙してしまってすまなかったな。だが仕方がない。これは国家機密だからな。」
「「「国家機密ぅ!?」」」
「ワオーン!?」
「私は大統領からの命令で、君達をここに連れて来い、といわれたのだ。」
「でも…なんでただの一旅人の私達を…?」
「
大きな扉が開く。
横にはボディーガードが合わせて20人。
椅子の横にも二人、ボディーガードがいた。
後ろの大きな窓からはこの都市の景色が覗いていた。
こげ茶色の椅子には大統領が座っている。
「ようこそ、燃える国、ジェラーナへ。」
黒いスーツに紺青のネクタイ。
白い肌に堀の深い目、薄い茶髪の男性だ。
「私がこの国の大統領、エルジア・ストックだ。」
緊張で口が一文字になるルーフスとチェリーの横で、ジャックは問う。
「何故僕達をここに呼んだのですか?国家機密ってなんですか?」
ストックは答える。
「私は、今対立している国、『イクオラ・ジェラーナ』と石油問題で和解したい。」
ストックはそのまま続ける。
「このまま彼らが悪い、私達が悪いといっていては、何も進展しないと私は思った。
そこで私は、この和解の手紙を筆したのだ。
しかし、我が軍で各々が武器を持ち、行ってしまっては元も子もない…
油断した所を打ち滅ぼしてしまう、という意味をこめるだけになってしまうのだ。」
大統領は椅子から立ち上がり、面と向かって話す。
「頼む。君達が、この手紙を届けてくれないか。」
突然の頼みにルーフス達は目を開く。
「でも、私達はこの国とは全く関係ありませんよ。
そんな私達に、この国を賭けてしまっていいのですか?」
ストックはうなずく。
「私のような、ジェラーナ国に偏った者が行ってしまっては駄目なのだ。
君達なら、この手紙を安全に、何の疑いもなく運んでくれる。
君達は『中立』な立場なのだ。…勿論、君達の判断に任せる。私のわがままを、
どうか叶えてくれるかな。」
ルーフスは真剣に悩む。
そしてジャックとチェリーとも話し合った。
結果は…
「分かりました。やってみます!」
ストックは笑顔でルーフスの手を握る。
「ありがとう、勇者達よ!」
「あのー…」
ジャックが大統領に話しかける。
「もしこの手紙を届け終えたら…
この国の工場を見せてもらっても良いですか!!」
ストックは少年の目線でうなずく。
「わかった。私が工場に頼んでみよう。」
「ありがとうございます!!」
「では、行って来ます!」
「幸運を祈る。」
バタン…
扉が閉じられる。
「…この手紙で、この対立が無くなればいいのだが…」
キィ…
「大統領、今の輩がフェイクの旅人達ですか?」
見ると金髪に金色の口ひげ、迷彩柄の帽子に制服を着た男が入ってきた。
「おお、アーティクル長官、そうだ。彼らがこの国の希望さ。」
「…なるほど、そうですか。」
アーティクルは少し笑う。
「これで、本当に平和は訪れるのでしょうか…」
「…隣国も、戦争は望んでいないだろう。大丈夫だ。きっと上手くいくよ。」
二人は大きな窓から広大な砂漠の地平線に見えるイクオラ・ジェラーナを見ていた。
広大な砂漠を進むルーフス達。
イクオラ・ジェラーナはまだ遠い。
「まだまだあるな、これは…」
「あんちゃん、あれが石油だよ!」
見ると黒い液体がなみなみと湧き出ていた。
「これが機械の原動力になっているんだね。」
「う~ん…この液体が…」
ルーフスはいまいち納得出来ていないようだ。
バババババババババババ!!
プロペラの音が近づいてくる。
「なんだ?…」
チェリーが後ろを見て慌てて言った。
「ルーフスさん、走りましょう!」
「え…!?」
バババババババババババババ!!!!
後ろから赤いヘリコプターが突進してくる。
「わああああ!!」
ルーフス達は走る。
とにかく前に。
ダダダダダダ!!
ヘリコプターからマシンガンが放たれる。
ルーフス達のすぐ後ろの砂がはじかれていく。
ヘリコプターは執拗にルーフス達を追いかける。
「…逃がしてもくれなそうだな。」
ルーフスはジャックとチェリー、ステーラに言う。
「ジャック!チェリー!ステーラ!別れてヘリコプターを叩き落そう!」
「ワン!」「わかった!」「了解です!」
ジャックとステーラが左、チェリーが右、ルーフスは正面に立った。
ヘリコプターは作戦に勘付いて上昇し始める。
「くらえ!」
ルーフスが釘を発射する。
チェリーとジャックも弓矢を発射した。
ガン!ゴン!ガン!
3つの攻撃は見事にヘリコプターに命中した。
ヘリコプターはふらふらと下降する。
「砂山に隠れろ!」
ルーフス達は急いで走る。
バァァアン!!
隠れるより前にヘリコプターは爆発した。
「おわぁ!」「きゃぁ!」「うわぁ!」「……!」
ルーフス達は衝撃につまづいた。
「あっぶね…」
ヘリコプターの方を見ると、慌てて赤いヘルメットの男が逃げようとしている。
「ジャック!あれ残ってるよな!」
「…!…わかった!あんちゃん!」
ジャックは黒い薬を男に投げつけた。
パシャァン!
薬が割れる。
「あれ…」
男の動きが鈍くなる。
ルーフス達はすたすたと男の前に立ちふさがった。
「おい、なんで俺らを攻撃したんだよ!」
男は奇術を使う魔法使いを前にしたような恐怖を感じて
土下座する。
「か…堪忍してくれぇ!ここここれはある人からの命令でやったことだ!」
「いやだから…なんで攻撃したかって聞いてんだよ!
心配すんな、俺達はお前をどうもしねぇから。」
「…本当だな…」
男は深呼吸して話す。
「和解の手紙を届けさせないためだ!」
「…なんで和解しちゃいけないんだ?」
「まぁ、お前らは旅人だから知る由もねぇよな。」
男は続けて話す。
「ジェラーナ国とイクオラ・ジェラーナ国には石油問題しかあるわけじゃない、
宗教問題もあるのだぞ!」
「宗教…!?」
ルーフス達は驚く。
「でも、この辞書にはそのことは書いてないよ!?」
男は辞書をまじまじと見た。
「宗教問題は最近、ある男から団体ではじまったものだ。
だからその古い辞書には載っていないんだよ。
…その男が我々のリーダーだ。我々は信仰する人が違うものと和解する気はない。」
「…その男って誰なんだ?」
「それは―――」
ここは大統領室。
ボディーガード達が部屋の中で血を流して倒れていた。
大統領のスーツの肩が赤く染まっていた。
「まさか宗教問題の引き金が君だったとはな…!」
「アーティクル!」
赤い戦闘服を着たその人物が、大統領に銃をつきつけていた。