Minecraft ~ある冒険家の旅路~   作:セッキー.Jr

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気づけば明けてから4日経っているという。

今年もよろしくお願いします。


31:正月花火

 

 

「わあ!!」

 

チェリーが鏡を見る。

 

薄い黄色に赤の帯。

 

髪は後ろでお団子になっている。

 

 

着物屋の御上さんは褒める。

 

「とても美しいですよ、お姫様!」

 

「もう…!お世辞言わないでくださいよ!」

 

チェリーは嬉しそうだ。

 

 

 

「おーい、チェリー、終わったかー?」

 

「あ、はーい!終わりました♪…じゃあ、エメラルド4個ですね。」

 

「毎度あり!大事に使ってやって!」

 

「はい!」

 

チェリーは店の外へ出て行った。

 

 

 

「お、チェリーさん、いいね!」

 

「ありがとう、ジャック君♪…えっと…ルーフスさんは?」

 

「うん…あんちゃんはね…」

 

「うんめぇ…!!」

 

…寿司を食べている。

 

「おっちゃん、これホンットうめぇな!」

 

「ありがとよ、ボウズ!そいつはサクラノ国名物だ!

…塩焼きも食ってくか?」

 

「お!お言葉に甘えて…」

 

チェリーはポカンとする。

 

「はっはっは…お嬢ちゃん、『花より団子』だな!」

 

隣の扇子屋の主人が冗談を言う。

 

チェリーは不満そうな顔になる。

 

 

 

 

「ルーフスさん…」

 

「お、チェリ」

 

ガツン!!

 

 

少年は道に倒れる。

 

頭には巨大なたんこぶが。

 

 

ステーラはたんこぶを何度もつつく。

 

 

 

「もう、ルーフスさんたら…」

 

チェリーはルーフスの持っていた魚の塩焼きを食べる。

 

 

「んー!…おいしい♪」

 

「「はっはっはっは!」」

 

周囲の町民達が笑う。

 

 

 

 

 

「そういえばお前ら。」

 

魚屋の主人が聴く。

 

 

「『正月花火』って知ってるか?」

 

「「「正月花火??」」」

 

「サクラノ国じゃ、年が明ける日のことを『正月』といってな。

その時に打ち上げる花火を『正月花火』っていうんだ。」

 

「花火かー…」

 

「花火は誰が作って、打ち上げているの?」

 

「ここからすぐ近くの、あの店で…」

 

 

 

ガッシャーン!!

 

丁度魚屋の主人が指差した店の前で砂煙がたった。

 

魚屋の主人は呆れた目をする。

 

「まーた始まったよ…」

 

 

店の前に倒れた青年は立ち上がって言う。

 

「おい!じじい!もう俺だって大人なんだ!

今年の花火こそ、俺があげるぞ!!」

 

「ばかやろう!まだわしは現役じゃ!この3号玉!」

 

「誰が一番ちっちぇえ花火玉だ?あ?こら?この音物!

うるせぇだけのじじいが!」

 

「たわけ!おめぇにゃあまだ早いんだよ!

もっと昔の(わざ)っつーもんを磨いてから言うこった!

…丁度いい!食いもん買ってこい!」

 

と言って、店の奥へと入っていった。

 

「ったく…」

 

 

 

 

 

ルーフス達は魚屋の紹介で花火屋を見学することになった。

 

「俺はタネノスケだ。あのじじいはタマベエ。俺の親父だ。」

 

「ルーフスです。」

 

「ジャックです!」

 

「チェリーです。」

 

「で、この狼がステーラだよ!」

 

「ワオン!」

 

 

 

「花火はまず火薬玉を作ることから始まるんだ。

染めたい光の色に合わせて火薬に染料を混ぜる。

大きくしたいならファイヤーチャージを混ぜる。

 

で、紙で花火球を巻きつけてロケット花火にすれば打ち上げられる。

普通ならここで終わるんだが、俺は一工夫する。」

 

「一工夫?」

 

「花火の形を、素材で変えてやるのさ。金塊を加えるなら星型に、羽を加えればバラけたりね。」

 

「おお!そいつは楽しそうですね!」

 

 

 

「でも、あの頑固じじいときたら、

『うちは長年、円い花火でやってきたんだ!花火を星型にするなど、もっての外だ!』

とか言って、今年も円くて、色とりどりだけの花火を打ち上げるつもりだぜ…

俺はいつも正月花火を見ている子供達の言葉を聞くんだ。

『つまんない』ってね。その言葉も知らずに、あのじじいは丸にこだわっている。」

 

「だからさっきもめていたんですね。」

 

「…ま、俺は今日、河原にこの違う形の花火を持って行くけどな。」

 

タネノスケは腕を力強く曲げて言う。

 

「頑固なのは、親父譲りだからな!」

 

ルーフス達はほっとする。

 

ただ仲が悪いだけじゃないらしい。

 

「今日、花火を打ちあげるんですか?」

 

「ああ、河原から国中に見えるように打ち上げるんだ。

ぜひ、見て行ってほしいな。」

 

「はい!絶対見ます!

…ちょっとその河原に言ってみても良いですか?」

 

タネノスケは笑顔でうなずく。

 

 

 

ここは河原。

 

レールが広くしいてあり、ディスペンサーが繋いであった。

 

「レッドストーン回路とトロッコを使って打ち上げるんだね!」

 

「面白いな…」

 

「…あ、あれって、タマベエさんじゃない?」

 

 

あっちもこちらに気づいたようだ。

 

「おお、君らがアジヘイが言っていた旅の者達か!」

 

「ここ、見学しても良いですか!」

 

ジャックが興奮ぎみに尋ねる。

 

「おうよ、『正月花火』を打ち上げる仕掛けっつーもんを、とことん教えてやろう!」

 

 

「ディテクターレールにディスペンサーを繋げて、

トロッコが通るときに花火が出るんだ。時々、同時に何発も打ち上げるために、

レッドストーンだけ使った回路で制御することもあるがな!」

 

「へぇ~!!」

 

「ま、確実に回路を組めるのは、わししかおらんだろうよ!」

 

「タネノスケさんは出来ないのですか?」

 

タマベエはしかめっ面になる。

 

「あいつは何もできねぇよ。」

 

「タネノスケさんは花火の形を変える技を作ったのですよね?」

 

「あんなものは、エセ花火だ!」

 

「でも、子供達は『つまんない』って言っているのでしょう?」

 

チェリーがズバリと言った。

 

タマベエは核心を突かれて正直に話す。

 

「あいつは花火のことを分かっちゃいねぇ。

花火は先人の思いも打ち上げるものだ。

そんな花火を、勝手に星型にするなんて行為など、許せたものではない!」

 

「そんなことを言っていても、子供達の評価は何も変わりませんよ?」

 

 

「タネノスケさんを、一度信じてみてはどうですか?」

 

チェリーは言った。

 

 

 

タマベエはしぶしぶうなずく。

 

「…そうだな、今年が、あいつの作った花火の始めての打ち上げになりそうだ。」

 

日はもう地平線に見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になって。

 

寒いのに大勢の人たちが外に集まっている。

 

チェリーの下駄がカツカツとなる。

 

ステーラはクッキーを頬張っている。

 

「ここらへんでいいだろ!」

 

ルーフス達は河原の草の上に座った。

 

「もうすぐ始まるね!」

 

「楽しみです!」

 

「ワオーン!」」

 

 

 

 

 

 

ピュー~~…

 

 

 

 

バァン!!

 

 

 

橙色の大きな火花が空に舞った。

 

「はじまったー!」

 

観客はどよめき始める。

 

 

ピュ~

     ピュ~

          ピュ~

 

 

 

バン!!

     バン!!

          バン!!

 

 

星型に、円型に、クリーパー型だ。

 

 

「タネノスケさんの花火だ!」

 

「素敵…!」

 

 

 

その後も、何発もの花火が打ちあがる。

 

城の上からも花火を見ている人がいる。

 

 

「天晴れな正月花火じゃ…」

 

 

 

青色、黄色、紫色…

 

 

パラパラと落ちていく花火、

 

きれいに真っ直ぐ落ちる花火…

 

 

小さい花火、大きい花火…

 

 

高く拡散する花火、低く拡散する花火…

 

 

 

どれも、新鮮な花火ばかりだ。

 

子供達も喜んでいる。

 

 

 

タネノスケも真下から笑ってみていた。

 

タマベエは不満そうに瞳だけで花火を見ている。

 

 

 

そして最後の花火。

 

 

 

ピュ~…  ピュ~…  ピュ~…  ピュ~…  ピュ~…

 

 

 

 

同時に5発の花火が高く放たれた。

 

 

皆の視線が花火を捕らえている。

 

 

 

 

 

          パァァアアン…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の空に。

 

 

 

 

桃色のしだれざくらが咲いた。

 

 

 

 

 

タマベエは花火と向き合った。

 

 

 

 

「ああ…桜が…桜が咲いておる…!!」

 

 

 

しだれざくらは花びらをあたりに散らすように消えていった。

 

 

 

 

観客達は感動で騒ぎ始める。

 

 

絶え間ない拍手が国中に響く。

 

 

 

 

 

殿様も日の丸を描いた扇子を開いて笑う。

 

 

「天晴れ!天晴れであった!はっはっはっは!!」

 

 

 

 

 

「これが…正月花火かぁ…」

 

ルーフスが草に寝転がる。

 

 

「すっげぇ…」

 

 

 

寒い空に舞った正月花火。

 

 

 

それは、人々の心にも焼きつくほど強い光であった。

 

 

 


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