Minecraft ~ある冒険家の旅路~ 作:セッキー.Jr
今年もよろしくお願いします。
「わあ!!」
チェリーが鏡を見る。
薄い黄色に赤の帯。
髪は後ろでお団子になっている。
着物屋の御上さんは褒める。
「とても美しいですよ、お姫様!」
「もう…!お世辞言わないでくださいよ!」
チェリーは嬉しそうだ。
「おーい、チェリー、終わったかー?」
「あ、はーい!終わりました♪…じゃあ、エメラルド4個ですね。」
「毎度あり!大事に使ってやって!」
「はい!」
チェリーは店の外へ出て行った。
「お、チェリーさん、いいね!」
「ありがとう、ジャック君♪…えっと…ルーフスさんは?」
「うん…あんちゃんはね…」
「うんめぇ…!!」
…寿司を食べている。
「おっちゃん、これホンットうめぇな!」
「ありがとよ、ボウズ!そいつはサクラノ国名物だ!
…塩焼きも食ってくか?」
「お!お言葉に甘えて…」
チェリーはポカンとする。
「はっはっは…お嬢ちゃん、『花より団子』だな!」
隣の扇子屋の主人が冗談を言う。
チェリーは不満そうな顔になる。
「ルーフスさん…」
「お、チェリ」
ガツン!!
少年は道に倒れる。
頭には巨大なたんこぶが。
ステーラはたんこぶを何度もつつく。
「もう、ルーフスさんたら…」
チェリーはルーフスの持っていた魚の塩焼きを食べる。
「んー!…おいしい♪」
「「はっはっはっは!」」
周囲の町民達が笑う。
「そういえばお前ら。」
魚屋の主人が聴く。
「『正月花火』って知ってるか?」
「「「正月花火??」」」
「サクラノ国じゃ、年が明ける日のことを『正月』といってな。
その時に打ち上げる花火を『正月花火』っていうんだ。」
「花火かー…」
「花火は誰が作って、打ち上げているの?」
「ここからすぐ近くの、あの店で…」
ガッシャーン!!
丁度魚屋の主人が指差した店の前で砂煙がたった。
魚屋の主人は呆れた目をする。
「まーた始まったよ…」
店の前に倒れた青年は立ち上がって言う。
「おい!じじい!もう俺だって大人なんだ!
今年の花火こそ、俺があげるぞ!!」
「ばかやろう!まだわしは現役じゃ!この3号玉!」
「誰が一番ちっちぇえ花火玉だ?あ?こら?この音物!
うるせぇだけのじじいが!」
「たわけ!おめぇにゃあまだ早いんだよ!
もっと昔の
…丁度いい!食いもん買ってこい!」
と言って、店の奥へと入っていった。
「ったく…」
ルーフス達は魚屋の紹介で花火屋を見学することになった。
「俺はタネノスケだ。あのじじいはタマベエ。俺の親父だ。」
「ルーフスです。」
「ジャックです!」
「チェリーです。」
「で、この狼がステーラだよ!」
「ワオン!」
「花火はまず火薬玉を作ることから始まるんだ。
染めたい光の色に合わせて火薬に染料を混ぜる。
大きくしたいならファイヤーチャージを混ぜる。
で、紙で花火球を巻きつけてロケット花火にすれば打ち上げられる。
普通ならここで終わるんだが、俺は一工夫する。」
「一工夫?」
「花火の形を、素材で変えてやるのさ。金塊を加えるなら星型に、羽を加えればバラけたりね。」
「おお!そいつは楽しそうですね!」
「でも、あの頑固じじいときたら、
『うちは長年、円い花火でやってきたんだ!花火を星型にするなど、もっての外だ!』
とか言って、今年も円くて、色とりどりだけの花火を打ち上げるつもりだぜ…
俺はいつも正月花火を見ている子供達の言葉を聞くんだ。
『つまんない』ってね。その言葉も知らずに、あのじじいは丸にこだわっている。」
「だからさっきもめていたんですね。」
「…ま、俺は今日、河原にこの違う形の花火を持って行くけどな。」
タネノスケは腕を力強く曲げて言う。
「頑固なのは、親父譲りだからな!」
ルーフス達はほっとする。
ただ仲が悪いだけじゃないらしい。
「今日、花火を打ちあげるんですか?」
「ああ、河原から国中に見えるように打ち上げるんだ。
ぜひ、見て行ってほしいな。」
「はい!絶対見ます!
…ちょっとその河原に言ってみても良いですか?」
タネノスケは笑顔でうなずく。
ここは河原。
レールが広くしいてあり、ディスペンサーが繋いであった。
「レッドストーン回路とトロッコを使って打ち上げるんだね!」
「面白いな…」
「…あ、あれって、タマベエさんじゃない?」
あっちもこちらに気づいたようだ。
「おお、君らがアジヘイが言っていた旅の者達か!」
「ここ、見学しても良いですか!」
ジャックが興奮ぎみに尋ねる。
「おうよ、『正月花火』を打ち上げる仕掛けっつーもんを、とことん教えてやろう!」
「ディテクターレールにディスペンサーを繋げて、
トロッコが通るときに花火が出るんだ。時々、同時に何発も打ち上げるために、
レッドストーンだけ使った回路で制御することもあるがな!」
「へぇ~!!」
「ま、確実に回路を組めるのは、わししかおらんだろうよ!」
「タネノスケさんは出来ないのですか?」
タマベエはしかめっ面になる。
「あいつは何もできねぇよ。」
「タネノスケさんは花火の形を変える技を作ったのですよね?」
「あんなものは、エセ花火だ!」
「でも、子供達は『つまんない』って言っているのでしょう?」
チェリーがズバリと言った。
タマベエは核心を突かれて正直に話す。
「あいつは花火のことを分かっちゃいねぇ。
花火は先人の思いも打ち上げるものだ。
そんな花火を、勝手に星型にするなんて行為など、許せたものではない!」
「そんなことを言っていても、子供達の評価は何も変わりませんよ?」
「タネノスケさんを、一度信じてみてはどうですか?」
チェリーは言った。
タマベエはしぶしぶうなずく。
「…そうだな、今年が、あいつの作った花火の始めての打ち上げになりそうだ。」
日はもう地平線に見えていた。
夜になって。
寒いのに大勢の人たちが外に集まっている。
チェリーの下駄がカツカツとなる。
ステーラはクッキーを頬張っている。
「ここらへんでいいだろ!」
ルーフス達は河原の草の上に座った。
「もうすぐ始まるね!」
「楽しみです!」
「ワオーン!」」
ピュー~~…
バァン!!
橙色の大きな火花が空に舞った。
「はじまったー!」
観客はどよめき始める。
ピュ~
ピュ~
ピュ~
バン!!
バン!!
バン!!
星型に、円型に、クリーパー型だ。
「タネノスケさんの花火だ!」
「素敵…!」
その後も、何発もの花火が打ちあがる。
城の上からも花火を見ている人がいる。
「天晴れな正月花火じゃ…」
青色、黄色、紫色…
パラパラと落ちていく花火、
きれいに真っ直ぐ落ちる花火…
小さい花火、大きい花火…
高く拡散する花火、低く拡散する花火…
どれも、新鮮な花火ばかりだ。
子供達も喜んでいる。
タネノスケも真下から笑ってみていた。
タマベエは不満そうに瞳だけで花火を見ている。
そして最後の花火。
ピュ~… ピュ~… ピュ~… ピュ~… ピュ~…
同時に5発の花火が高く放たれた。
皆の視線が花火を捕らえている。
パァァアアン…!!
漆黒の空に。
桃色のしだれざくらが咲いた。
タマベエは花火と向き合った。
「ああ…桜が…桜が咲いておる…!!」
しだれざくらは花びらをあたりに散らすように消えていった。
観客達は感動で騒ぎ始める。
絶え間ない拍手が国中に響く。
殿様も日の丸を描いた扇子を開いて笑う。
「天晴れ!天晴れであった!はっはっはっは!!」
「これが…正月花火かぁ…」
ルーフスが草に寝転がる。
「すっげぇ…」
寒い空に舞った正月花火。
それは、人々の心にも焼きつくほど強い光であった。