Minecraft ~ある冒険家の旅路~   作:セッキー.Jr

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25:歯車の街

草原の生活が1週間ほど経って。

 

チェリーの重傷は完全に治った。

 

 

「チェリー、大丈夫か?痛まないか?」

 

「ええ、全然大丈夫です!ルーフスさん、ジャック君、ステーラ、ありがとうございます!」

 

「いいってことよ!」「そうだよ、チェリーさん!」「ワン!!」

 

 

ルーフス達は元気に西へ向かう。

 

 

 

 

 

 

「お…でっかい街だぞ…」

 

ルーフス達の目の前にはレンガや石で囲まれた街だ。

 

 

「あんちゃん、よく見たら、ここ、一つの国みたいだよ!」

 

「!…まじか…!」

 

 

遠くにうっすらと城が建っているのが見えた。

 

 

「ともかく、門へ行ってみましょう。」

 

「ワオン!」

 

 

 

 

ルーフス達は門へと向かう。

 

 

 

 

 

 

門番が3人を止める。

 

「旅人の方ですね?」

 

「はい、そうですが。」

 

「入国料をお支払い願います。」

 

「入国料…ですか?」

 

 

門番は堅い表情から少しくだけて話す。

 

「この国では、王の権利を自分の物にしようと王を襲う輩が王国を狙ってくるのです。

だから入国に関してはとても厳しくなっております。」

 

もう一人の門番が話す。

 

「私も入国料を支払わせることは反対なのですがね…この政策が出来た後、支払うことが出来ずに

王国を避けて通る旅人が多くなりまして。」

 

「まあ、しょうがないか…」

 

 

ルーフス達はそれぞれ1個ずつ、エメラルドを渡す。

 

「ペットの分は支払うのですか?」

 

「いえ、結構です。では、ごゆっくり。」

 

 

 

 

門を開けると同時に2人門番は笑顔で言った。

 

「「ようこそ、ディラベル王国へ!!」」

 

 

 

門の隙間から光が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには美しい赤いレンガで造られた街があった。

 

石畳の道をルーフス達は踏み始めた。

 

「すごい…」

 

 

木材とレンガの調和。

 

その美しさは声も出ない。

 

 

こんな街を人が作ったのだというからより驚きだ。

 

 

 

 

一人の商人が活気に話しかける。

 

「よお、旅人さんかい?」

 

「はい。…とてもきれいな街ですね!」

 

「そうだろそうだろぉ!この街はー古い伝統を守っている街でね。

コンクリートも一個も使わずにレンガと木材だけで生きた街なのさ。

レッドストーンさえも使わないんだぜ!」

 

ジャックは驚く。

 

「動力が無くてここまで発展したの!?」

 

「すごいなぁ…」

 

 

 

 

 

「いや、ボウズ、それは違うな。」

 

「?」

 

 

「レッドストーンは使わないんだが、歯車を使っているのさ。」

 

「歯車を?」

 

「例えばよ…」

 

商人はチェストの中から例えを探す。

 

 

 

「これだこれ、ほらよ。」

 

商人は目の前の机に置く。

 

ちっちゃなゼンマイだ。

 

「まあ、かわいい!」

 

「これは中に歯車をしこんである。こうしてまわすと!」

 

商人がギギギとゼンマイをまわす。

 

「中に歯車の回転する動力がたまる。…まあ適当な例があまりなかったから、

もう少し先へ行ってみるといい。色んな歯車が見えるぜ。」

 

「ありがとうございました!ではまたいつか!」

 

3人はお礼を言った。

 

「おう!いい旅にしろよ!」

 

 

 

 

 

 

 

先へ進んで。

 

ルーフス達は植林場の横を歩いていた。

 

「あんちゃん、あれ!」

 

「お!」

 

 

植林場の中で人が木を切っている。

 

手にはノコの付いた機材が握られていた。

 

 

 

「あのー。すみません!」

 

「おや、旅人さんじゃないか、めずらしいねぇ。」

 

おばさんが応えた。

 

「その手に持っているものはなんですか?」

 

「これは歯車動力で動くノコギリだよ。

動力を補充すれば何回でも使えるのさ。」

 

「すごい!」

 

「そうだろう、だけどこのノコギリはこれだけじゃなくてねぇ…」

 

おばさんは斬り残した高い樹木を見つけた。

 

「それ!」

 

ノコギリの刃が木に向かって飛んでいく。

 

 

 

 

そして木が落ちた。

 

「「おおおおおお!」」

 

「楽々ですね!」

 

「ワン!ワン!」

 

3人と1匹は喝采を送る。

 

 

 

 

 

 

ところ変わってここは農場。

 

ルーフス達は広大な小麦畑を見学していた。

 

 

 

スプリンクラーが水を撒き散らしている。

 

 

農家のおじさんは説明を始める。

 

「この歯車駆動のスプリンクラーのおかげで、広大な畑を管理するのが楽になったよ。

ほれ、自家製のはちみつパンを食うか?」

 

 

ルーフス達ははちみつパンにかじりつく。

 

 

 

「「「おいしい!!」」」「ワオーン!」

 

 

 

 

 

 

 

「でも、歯車があるってことは造っている人もいるのですよね?」

 

「ああ、それなら、もっと先へ行ってみるといい。

 

実は歯車の伝統は続いているが、歯車を造る職人は減っていて、その一軒しかないんだ…」

 

「え!?」

 

「ってことは、あのゼンマイも、ノコギリも、

このスプリンクラーもその店だけで造っているのですか!?」

 

「ああ、そうさ。かなり腕のいい職人でね。

彼にかかればどんな歯車製品も造れるのさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

どんと、でっかい歯車がデザインされている店だ。

 

 

 

 

「ここか…」

 

「分かりやすいね…」

 

 

 

 

 

チリーン…

 

 

 

 

カウンターには一人のメガネで白髪のおじいさんがいた。

 

すごい真剣な目で歯車を磨いている。

 

「いらっしゃい。」

 

 

 

その真剣な目のまま、そっけなく言った。

 

少し話しかけづらい。

 

 

 

ルーフスは申し訳無さそうに話しかける。

 

「あの…この店でこの街の歯車を造っているのですか?」

 

 

おじいさんは納得した歯車にうなずき、歯車を置いてルーフス達に向き合う。

 

「そうだ。今では私一人になってしまったがな。」

 

「一人で…!」

 

ルーフス達は感服する。

 

 

 

 

 

「あの…もしよろしければ、見学させてもらってもいいですか?」

 

「……」

 

 

おじいさんは無言でゆっくりと完成した歯車を棚に置いた。

 

 

 

…アレ…

 

迷惑だったかな…?

 

 

 

 

 

 

おじいさんはカウンターの扉を開ける。

 

「ついてきなさい。」

 

 

 

 

「まずは自己紹介だな。私はコグウィルだ。」

 

「僕はルーフスといいます。」「ジャックです。」

「チェリーと申します。」「あ、こいつはステーラです。」

「ワオン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

コグウィルさんは茶色、銀色、金色の歯車を見せた。

 

「歯車には3つの種類がある。木製、鉄製、真鍮(しんちゅう)製だ。

後者ほど摩擦が少なくなり、動力が安定する。」

 

移動し、「動力伝達機材」と書かれた看板の前に来る。

 

「動力の伝達にはいろいろある。手でこいだり、振り子を使ったり、

蒸気を使う方法がある。ここで主に使っているのは、一番動力を生むことが出来る

タービンだ。下から蒸気を加えることで半永久的に動作できる。」

 

またまた移動し、いろいろな機材の置かれている前に来た。

 

「あ、さっきのノコギリだ!」

 

「スプリンクラーもあるぞ。」

 

「扇風機のようなものもありますね…」

 

コグウィルさんはうなずく。

 

「歯車を使うことでこんなにも様々なものができる。

細かな手持ちの機材を作るにはまた違ったテーブルが必要になるがな。

 

…と、私が説明できるのはここまでだ。」

 

「「ありがとうございました!」」

 

「あの、質問いいですか?」

 

ジャックが手を挙げる。

 

「何故、あなたは歯車を造っているのですか?」

 

 

 

 

「…そうだな。」

 

コグウィルさんは考える。

 

 

「伝統を守りたい、とも言いたいのだが、それ以上の理由がある。」

 

コグウィルさんは壁から突き出た木の椅子に腰掛けた。

 

 

「私はもう分かる通り、人との付き合いが苦手でね。

ただただ昔から、一人この部屋で歯車を造り続けてきた。

そして歯車を人に手渡した時、ひしと感じたものがある。

感謝の気持ちだ。歯車が私とこの街の人々を繋いでくれたのだ。

電気は人に手渡せないだろう?私は、歯車で人をこれからも繋いでいきたい、

そう思っているから、かもしれないね。」

 

コグウィルさんは少し笑ったように見えた。

 

 

 

チリーン…

 

「ありがとうございました。」

 

「ちょっと待ってなさい。」

 

おじいさんが引き止める。

 

 

 

 

 

ルーフスの手に道具と沢山の釘が渡された。

 

「…これは?」

 

「これ一つしか余っていなかったのだがな。

物騒なのだが、これは釘を飛ばす武器となっている。

モンスターが出た時は、役に立ててもらいたい。

お金は結構だ。」

 

 

ルーフスは手を握った。

 

「ありがとう、コグウィルさん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「さようなら!」」」「ワオーーン!!」

 

おじいさんは優しく手を振る。

 

 

 

 

ここにまた、5つの歯車が噛み合ったのだった。


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