Minecraft ~ある冒険家の旅路~   作:セッキー.Jr

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今回、今までにない大長編となっております。

時間がたっぷりある時に、ゆっくり読んでいただければ幸いです。


13:裏側(後編)

バタン!!

 

ルーフス達はセンタービルの最上階の、社長室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

誰もいない。

 

 

 

 

 

 

机の上には置手紙が置いてあった。

 

 

 

 

その置手紙には、甘ったるい、ふざけた口調でこう書いてあった。

 

 

 

 

「やあ革命家諸君、君達がここに来る事は分かっていたよ。

 

 

 

ここで戦っては、私の愛するビルが壊れてしまう。

 

 

 

西の爆弾処理場だ。ここならいくら壊してもらってもかなわない。

 

 

 

まあ、もし、君達が『犯罪者』になってもいいというのならな。」

 

 

 

 

最後の文字を黙読した途端、あざ笑うような笑い声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

「くそ!あいつ、俺達を走りまわせやがって!!」

 

 

 

「待って、あんちゃん、置手紙の下になんかある!」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

見ると、年代がかっている写真のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

女の人・・・?

 

 

 

 

 

笑顔じゃない、女の人が映っていたのだ。

 

何かを抱えながら、女の子を連れている。

 

 

 

 

逃げているのか…?

 

 

 

 

 

 

「・・・なんだこりゃ?・・・」

 

「きれいな人だね…」

 

ルーフスやジャックは分からなかった。

 

 

 

 

 

が、チェリーは驚愕していた。

 

 

 

 

 

 

 

まさか…そんな…ここは…

 

 

 

 

 

 

 

私の…

 

 

 

 

 

 

 

「チェリー、どうした?」

 

「顔色が悪いよ?」

 

ルーフスとヴァイオレットが問いかける。

 

 

 

「い、いえ、なんでもありません!…それより、爆弾処理場へ行きましょう!」

 

「そうね。このセンタービルには一人も部下がいなかった。

 

つまり爆弾処理場に全員が待機しているはず。気を引き締めていきましょう。」

 

 

皆が頷く。

 

 

 

そして、社長室をあとにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中心街から離れ、ルーフス達は西へと進む。

 

 

 

 

廃業になった水商売のお店が立ち並んでいる。

 

 

 

 

チェリーはその光景をただただ見ていた。

 

 

 

 

 

 

何も記憶がない…まさかね…そうよ…

 

 

 

 

いきなり、チェリーの脳裏に何かが光った。

 

 

 

 

 

 

違う…そんなはずは…

 

チェリーは首を振る。

 

そして、歯をかみ締め、心を戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、よくきたねぇ。君達。」

 

「いい加減その甘ったるい口調はお止めにしてもらえません?」

 

ヴァイオレットは厳しく言い放つ。

 

 

 

 

「おや?ヴァイオレット。お父さんがどうなってもいいのかい?

 

薄情な女だ…見損なったぜ…」

 

「お父さんは死なない!!お父さんは…例え森が焼けても…

 

くじけない!…自分の手で生き返らせるわ!」

 

 

 

 

 

 

バキュン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァイオレットの髪に弾がすり抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

市長が拳銃を放ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ヴァイオレットは拳を握り締める。

 

 

 

 

 

 

 

恐怖で足が立ちすくむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて奴だ…人間の風上にもおけない!」

 

 

「……」

 

ルーフスは市長を睨む。

 

 

 

 

「子供がこんなに弱いのによぉ!

 

…エメラルドもろくに持たねぇ田舎もんが語るんじゃねぇよぉ!

 

世の中は権威が全てなんだよ!馬鹿力で勝てるもんじゃねぇんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

チェリーが剣を振りかぶり、市長に向けて降ろす。

 

 

 

 

 

暴力団の一員が斧でガードする。

 

 

 

 

 

 

戦闘用斧。バトルアックスだ。

 

 

 

 

 

 

 

「すごい…チェリーさん…」

ジャックはチェリーの速さに見とれていた。

 

 

 

 

「おやおや、これは村のお嬢さん。はしたないですなぁ、

まるであなたのお母さんのように。」

 

 

 

 

「…そうだったのね。…なんであなたがお母さんを知っているの?」

 

 

「親父のアルバムを発見したのさ。親父がどうもお世話になりましたっ!」

 

相変わらずのふざけた口調だ。

 

 

 

「なるほど…家族揃って狂ってたわけね…」

 

チェリーは珍しく皮肉で返した。

 

 

「そういえば、まだ家賃滞納してないのですよー。

返してもらわないとなぁ!」

 

 

 

 

 

バン!!

 

 

 

 

 

 

「チェリー!!」

 

ヴァイオレットが叫ぶ。

 

 

「グルルルルルル…」

 

ステーラも唸り声をあげる。

 

 

 

 

チェリーの肩から血が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェリーさん!」

 

「………ッ!!」

ルーフスは睨んだまま舌打ちした。

 

 

 

 

ジャックが手を見れば、

 

 

 

 

震えている。さっきのヴァイオレットとは違う震えだ。

 

 

 

 

 

「…チェリー。」

 

 

ルーフスは優しい口調で話しかけた。

 

 

 

「お前は、休んでろ!な!」

 

 

「…ごめんなさい、ルーフスさん…」

 

 

ルーフスは最高の笑顔で言った。

 

「いいってことよ!あとはジャックと何とかするから!…ヴァイオレットも看病、よろしくな!」

 

「分かりました…幸運を祈ります。」

 

 

 

「ああ!」

 

 

 

 

ヴァイオレットはチェリーをおんぶして、爆弾処理場の門から出て行った。

 

 

 

 

 

ルーフスの顔が豹変した。

 

 

 

 

先ほどの優しい笑顔からは、想像もできないくらい冷たい顔だ。

 

 

 

 

市長は笑っている。

 

 

 

 

ルーフスとジャックの背後、ウォーハンマーを持った二人組を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

ビュン!!

 

 

 

 

 

 

 

ルーフスとジャックは素早く剣で斬る。

 

 

 

 

 

 

ズバッ!!

 

 

 

 

 

「うお!!」

 

 

 

 

 

二人組は倒れる。

 

 

 

 

 

市長の笑いが消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーフスは二人組の一人の胸ぐらを掴んで問う。

 

 

 

 

 

 

「おい、あいつの今までにしたことを言え…!」

 

黒スーツはビビッて声が出てこないようだ。

 

 

 

 

「言え!!」

 

ルーフスは怒鳴った。

 

 

 

「に…人間(ひと)を売って!遺跡から宝石を奪って!それから…森を焼き払ってテーマパークを建造する計画をたてましたっ!!」

 

 

「遺跡…」

 

ジャックは悲しみと、怒りが湧いてきた。

 

古代の遺跡を、こんな欲望まみれの奴に荒らされたのだ。

 

 

 

 

市長は続ける。

 

「そいつの言ったとおりだ。だが良く考えてみろよ…

人間(ひと)を売れば、仕事が楽になる。場合によっては、心の癒しになる。

金は手に入れられる。

遺跡から頂けば、儲かる。森を焼き払えば、肥料も沢山、テーマパークが

出来れば、みんな喜ぶじゃないか!ダッハッハッハ!!」

 

 

 

 

少年は口調を朗らかに言う。

 

「ほう、そりゃいいな…」

 

「へ…?」

ジャックは驚愕する。

 

 

「エメラルドが沢山あれば、本も買える、服も買える…

 

俺も参加するぜ。」

 

「あんちゃん!」

 

 

 

ルーフスは答えない。

 

 

「ほう、そうか!それは良かった…ようこそ、我がチームへ!」

 

「さっそくだが、今までにためたお金、見せて欲しいなぁ…」

 

「ほれ、これだ…!」

 

市長の手からエメラルドの束をひったくる。

 

 

 

 

地面に落として、足で踏んづけた。

 

 

 

 

 

パリン……

 

 

 

 

 

 

 

エメラルドが全て粉々になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんちゃん…!」

 

 

「お前~~!!」

 

 

人間(ひと)がエメラルド一個で買えんのかよ…」

 

 

 

 

 

 

人間(ひと)が…!!こんな石の欠片で買えんのかよ!!」

 

 

 

 

「くそっ!お前ら!出番だ!!」

 

「準備はいいよな!ジャック!ステーラ!!」

 

 

「ワオーン!!」

 

「ああ!!」

 

 

 

「うおおおおおお!!」

 

黒スーツがハルバードをジャックに振りかざす。

 

 

 

ジャックが消えた。

 

 

 

 

 

「ここだよー!!」

 

また振りかざす。

 

 

 

 

 

また消える。

 

黒スーツの頭に矢が刺さった。

 

 

 

 

子供はエンダーパールを手でもてあそんでいた。

 

 

 

 

 

 

少年にフレイルの鉄球が降りかかる。

 

 

剣で防ぐ。斬る。斬る、斬る。

 

 

「ぬお!!」

 

 

 

 

ステーラは黒スーツの脛を無差別に噛む。

 

 

 

「いて!」

       「ぎゃあ!!」

「ああ!!」

 

 

 

 

 

また一人、また一人と倒れたり、逃げていく。

 

 

 

 

だがまだまだいるようだ。

 

「あんちゃん、これじゃキリがないよ。」

 

「くそ…厄介な奴らだ…!」

 

 

ルーフスの背後に剣が迫る。

 

 

「あんちゃん!危ない!」

 

 

「うわぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーフスのポケットから何かが落ちた。

 

 

 

 

 

 

さっきのクリーパーフィギュア。

 

 

 

 

 

 

 

 

男は動きを止め、釘付けになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ・・・」「は?・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レアフィギュアだー!!」

 

 

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

男達の祭りが始まった。

 

 

クリーパーを手に入れようと、こんがらがっている。

 

 

 

「おい!お前ゾンビ持ってるだろ!」

          「いんや、俺はこのキュートな瞳のリーパーのほうがいいんだ!!」        「

    「俺のだー!」

       「お前に渡すからブレイズくれよ!」

            「誰が渡すかぁ!どっちも俺のもんだ!!」

  「スケルトンいる人ー。クリーパーこっちにもっといでー。」

「うるせぇ!骨なんているか!」            「ショボン。」

    「よこせー!!」     「いてぇよ!」

       「はなせ!!」        「誰だ踏んだ奴!」

 

 

「おい!お前ら!何してやがる!!…くそっこうなったら

スイッチを押してやる!…てああ!!」

 

市長の手がすべり、黒スーツ祭りの中へ。

 

 

 

 

パキッ!!!

 

 

 

 

「ああああ!!」

 

 

 

 

 

 

「ああ、もうめんどくせぇ!!」

 

クリーパーを持った男が爆弾処理場から出て行く。

 

 

「「「「「「「「「待てー!!」」」」」」」」」」

 

 

 

ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ

ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ

ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ

ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ

 

タタタタタタタタタ…

 

 

………

 

 

 

 

 

 

市長は愕然とする。

 

 

 

 

 

目の前には壊れた無線スイッチが。

 

 

 

 

 

「あのヴァカ(バカ)ども…」

 

 

 

 

 

 

チェリーとヴァイオレットが処理場に入ってきた。

 

「ルーフスさん…さっきの人たち…」

 

 

 

 

 

見ると二人と一匹、そして一人しかいなかった。

 

 

 

 

「知能は猿並だったようね!クスッ!」

 

黒スーツを誰よりも知る、ヴァイオレットは笑う。

 

 

「ルーフスさん、これって、どういうことですか?」

 

「それが…」

 

 

ルーフスがこれまでの事を話す。

 

 

 

 

 

チェリーは話を聞き終えると、笑いもせずに市長に近づく。

 

 

 

バシン!バシン!

 

チェリーがビンタをくらわせる。

 

「ぶほっ!がほっ!」

 

「これはヴァイオレットとビストさんの分。」

 

バシン!

 

「ばほっ!」

 

「これはお母さんの分。」

 

バシバシ!バシ!

 

「ひぶっ!ぐほっ!ばほっ!」

 

「これはルーフスさん達の分。…えっと、頭の数は確か…」

 

 

 

バシバシバシバシバシバシ!!

 

「がはっ!ひでっ!ぶほっ!あべっ!しぬっ!うへっ!」

 

「そして、昔の人たちの分。」

 

 

「ハハハハ…チェリーさん、ありがとう、スカッとしたよ!」

 

「ついでにチェリー、あと3発食らわせてやってくれ、

そいつに売られようとしてた子たちの分だ。」

 

 

 

バシバシバシ!!

 

「ちょっ!やめっ!ぶはっ!」

 

「私からも礼を言うわ。ありがとね!チェリー!」

ヴァイオレットは笑顔で言った。

 

「私達、友達でしょ!」

 

ヴァイオレットとチェリーは抱き合った。

 

ルーフスとジャックも笑う。

 

 

 

「お、おまひら!」

 

歯のかけた市長がなにやら大声を出す。

 

 

「おまひら、市長にほんなほとして、タダで済むとおほうなよ!…さいはん(裁判)も知らない田舎ほんどもが!

おほいしれ!おはえらはあひた(明日)、いは、今日!処刑ら!!はっはっはっは!…ああ、いへぃ…」

 

 

市長はそう言って、頬をさすりながらセンタービルに戻っていった。

 

 

「…ごめんなさい皆さん。私が言い出したせいで裁判に巻き込んでしまって…」

 

「大丈夫だって!」

 

「ヴァイオレットさん、旅人はもともと、悪いことする人たちだったんだよ!

別に、良く見られようとはしたくないよ!」

 

「そうよ!たとえ檻の中に入ったとしても、皆一緒だから!」

 

「ありがとう、皆さん…うっうっ…」

 

「泣くなよ!ほら、拭けよ!」

 

 

 

 

 

爆弾処理場の砂を、太陽の光が照らそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは中心街。

 

人が集まっている。

 

 

市長と旅人の公開裁判だ。

 

「えーこれより、旅人のルーフスさん達とゴルディ市長の裁判を始める。」

 

「はいはーい!!…私は夜に、この旅人達に暴行を加えられました!

皆さーん!この、市民の為に力を尽くす市長が暴行を加えられたんですよ!

 

この旅人達は、罪を償うべきではないのでしょうか!」

 

 

「そうだー!」

         「有罪だー!」

   「市長さーん!」

            「あんたの味方するぜー!」

  「ヒューヒュー!!」  「いいぞー!もっと言ってやれー!!」

 

「静粛に!!」

 

裁判長が大声を出す。

 

 

「では旅人の方々と、協力者のヴァイオレット秘書の意見を述べてください。」

 

「はい。」

 

ヴァイオレットが立った。

 

「ゴルディ市長は『暴力団を撲滅する』というスローガンを立て、皆さんの評価を集めました。

しかし今もなお、暴力団は健在のままです。なぜなら、市長自ら暴力団とのつながりがあったからなのです!」

 

さすがに女性秘書だ。テキパキと話を続けている。

 

 

「なんだって?」   「嘘ー。」

  「女は下がってろ!」  「嘘つくなー!」

 「ゴルディさんがそんなことするはずねぇよ!」

 

だが、やはり市長のほうが上であった。

 

「静粛に!!…度が過ぎる場合、退場させますよ。」

 

観客は一斉に静かになった。

 

 

「ではゴルディ市長の意見をどうぞ。」

 

 

「私が暴力団とつながりがある?そういうのなら証拠がないとねぇ…ヴァイオレットのお嬢さん。」

 

「いいぞー!ゴルディさん!」

 

一人の男が大声をあげる。

 

 

 

「確かに証拠はありませんね…

 

証拠が無いとすれば、旅人の方々は有罪ということになりますが。

 

そういうことでよろしいですかね?」

 

裁判長が問う。

 

ルーフス達はただただ黙る事しか出来なかった。

 

証拠がないのだから。

 

 

 

ルーフスは観客を見回す。

 

 

ヒソヒソと話をしている主婦達。

 

携帯カメラのフラッシュをたく男達。

 

大声で状況を聞いている子供達。

 

ただひそかに笑っているおと…

 

 

!…あいつは!

 

 

「裁判長!」

 

「ルーフスさん、どうぞ。」

 

 

 

「あの男を調べてください!」

 

「へ…」

 

「あー!あんたは!」

 

ジャックは思い出した。

 

あのルーフスが胸ぐらを掴んだ男だ。

 

 

 

「め、めっそうもない…そいつのたわごとですよ…

 

一般市民を巻き込んでいいんですか?裁判長?」

 

「では、おまえさん、このバッグの中に入ってたこの武器はなにかな?」

 

「ギクッ!!」

 

 

「ハヤブサおじいさん!」

 

アロハシャツの老人だ。

 

   「きゃ!あの人、取材の鬼と呼ばれるハヤブサさんだわ!」

 「なんであの人が旅人達の味方を…」

            「カメラ持ってきとけばよかったなぁ」

 

なにやらとても有名らしい。

 

「それだけではないぞ。…お前達、スクリーンに映しなさい。」

 

 

 

そこにはルーフス達と市長と暴力団員の姿が遠くから映し出されていた。

 

市長の声が入っている。

 

『…だが良く考えてみろよ…

人間(ひと)を売れば、仕事が楽になる。場合によっては、心の癒しになる。

金は手に入れられる。

遺跡から頂けば、儲かる。森を焼き払えば、肥料も沢山、テーマパークが

出来れば、みんな喜ぶじゃないか!ダッハッハッハ!!』

 

 

 

「あ…いや…それは…その…これは嘘だ!合成だ!

…はっはっは…良く出来てる映画じゃないか…

声優が俺とそっくりだ!傑作だな!」

 

 

観客の空気が冷めた。

 

市長を睨んでいる。

 

 

 

「俺も一言言っていいか?」

 

 

「お父さん…!!」

 

「ビスト…!」

 

 

 

裁判長は笑いながら言う。

 

「やれやれ…今回の裁判はすごい事になりそうですな…

ではビストさんでしたな。どうぞ。」

 

 

スタッフがマイクを渡す。

 

「俺の管理している森を焼こうとしている奴をとっ捕まえたんだ。

そしたらなんと、ゴルディ市長っつーお偉いさんに指図されたらしいじゃねぇか。」

 

 

「ほう…市長、なにか意見は?」

 

「皆さん!そいつは狼と人間の血を引くものです!そんな奴の言う事が信じられると思いますか!?」

 

観客はゴルディの理不尽な意見に、額のしわを寄せた。

 

 

 

「私達からも!」

 

「君達は…!」

 

 

洗いたてのまっすぐ伸びた髪の少女達が言う。

 

 

「私達、ゴルディ市長の部屋の檻にずっと閉じ込められてて、

それで出られるかと思ったらまた売られて…」

 

ゴルディの目はぐるぐると回り、汗を流している。

 

観客の視線がぐさりと刺さっている。

 

「裁判長、証拠が山ほどありますな!」

 

ハヤブサは畳み掛ける。

 

裁判長は大きな声で言う。

 

「これらの重大な証拠より、ルーフスさん達の無罪が確定しました!

 

観客の皆様、反対意見は!」

 

 

観客は何も言わなかった。

 

「「「やったー!!」」」

 

「ワオーン!!」

 

 

 

 

「そして、ゴルディ市長の件につきましては、人の命を金で買うような行為を、

市長であるにもかかわらず行ったため、終身刑を科す!賛成の者!!」

 

 

 

ザッ!!

 

皆が皆、手を上げる。

 

 

 

こうして、ルーフス達の裁判が終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん!!」

 

「ヴァイオレット!!」

 

 

お父さんの大きな体に、ヴァイオレットが飛びついた。

 

ヴァイオレットは涙を流す。

 

 

「ごめんね…お父さん…心配してくれたのに…」

 

「いいんだ、ヴァイオレット。お前が元気でいれば、それでいい。」

 

 

 

「でも、なんでここに来たの?」

 

「いや、なんかなぁ、昔お前と撮った写真、あったろ。

それがいきなり落ちたもんで、嫌な予感がしただけだ。」

 

 

「もう、お父さんたら…ありがとう!」

 

 

 

「良かったね、ヴァイオレット。」

 

チェリーはもらった涙を拭く。

 

 

 

 

ジャックはハヤブサと話していた。

 

「へぇ、ハヤブサさん、放送局の局長さんだったのかぁ!」

 

「ほっほっほ…わしをただのおじいちゃんと思ったらダメだぞ。」

 

「後でカメラ見せてもらえませんか!」

 

「勿論じゃぁ!放送局に顔を出してみてくれ!」

 

 

 

 

ルーフスとステーラはなにやら探し回っていた。

 

 

 

「ワンワン!!」

 

「あ!いた!」

 

 

 

 

ホームレスのおじさんだ。

 

 

「あん?なんだ、裁判の小僧か…」

 

「その言い方はやめてくださいよ…」

 

「なんだ?この俺になんのようだ?」

 

「あなたにお礼を言いたくて…」

 

 

 

「あなたがこの街の裏を教えてくれなかったら、

 

あの女の子達は売られていたし、俺も成長できなかった。

 

だから、ありがとう。」

 

 

「ばかやろう。旅人がホームレスに礼言ってどうすんだ。」

 

「はは、それもそうですね。じゃ、また会えたら会いましょう。」

 

「二度とくんなよ。」

 

といいながら、おじさんは手を振ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

ホームレスは一人つぶやく。

 

「旅ねぇ…いいじゃねぇか…」

 

 

 

「なあ、少年よ。皆、こんなみすぼらしい姿の俺を『狂ってる』というが…

 

 

 

 

 

こんな窮屈な世界で生活して、泣かないそんな奴らも『狂ってる』

…と思わねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

灰色のビルの隙間から、青い青い空が見えていた。

 

 

 


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