Minecraft ~ある冒険家の旅路~ 作:セッキー.Jr
「なんじゃありゃ・・・」
「何・・・あれ・・・」
少年は目の前に見えた景色に目を見開く。
霧には直方体の大きな影が映される。
ボートは前進する。
霧が晴れていく。
ビル、だ。
10階どころではない、30、いや、80階はありそうだ。
「すげぇ・・・・・・・・・」
「初めてみました・・・あんな高層ビル・・・」
「すごい都会だね・・・」
少年達は見入るばかりであった。
少年達が砂浜に着くと、
改めて高層ビルの高さが目に分かった。
高層ビルの周りには大小それぞれのビルが建っている。
「何?あの子達。」
「旅人さんかしら?」
「まあ、服の汚らしいこと。」
「彼らは悲しい人たちなんだ、ほっとこうぜ。」
「そうね!ダーリン、・・・」
近くで悪口やら何やらが聞こえている。
少年達は目にもくれなかった。
「こら!君達!!」
見るとライフセーバーが走ってくる。
「困るな、ここにいては。ここはリゾート地なんだ。
君達がいると評判が下がる。」
少年達はムッとした。
が、おくびにも出さず、
「ああ、すみません~。まだ田舎者でございますから。へへへ・・・」
と皮肉りながらすごすごと立ち去っていった。
リゾート地の出口から出ると、もうビルや店が並んでいた。
人通りも多い。
『ロイヤルベールホテル:グランドスレイヴシティ支店』
『メークドネルド:グランドスレイヴシティ第3支店』
『メイプルドーナッツ本社ビル』
『ビース生命保険本社ビル』
・・・
少年達は看板を見ながら歩く。
狼が舌を出しながらしっぽを振っている。
初めての景色に興奮しているようだ。
その挙動不審の姿を観てたのか、一人のアロハシャツの老人が話しかけてきた。
「君達、この街は初めてかね?」
「はい、私達は北の島から旅をしてきた者です。いや~本当にすごい都市ですね。」
「ワン!」
ずっと黙っていた狼がやっと口を開く。
「ほう、君達、旅をしてきたのか・・・」
老人は遠い目になる。
はっと思い出したのか、
「ところで君達、『エメラルド』は持っているかね?」
「エメラルド?・・・あぁ、確か・・・」
ジャックがバックから取り出す。
「・・・この宝石ですよね。」
ヒスイ色に輝く宝石。
「そうじゃ、ここでの『対価』は『エメラルド』で行うのじゃ。
これを持っていなければ、あんた、この都市で何も買えんぞ。」
「なるほど・・・ありがとうございます、おじいさん。」
「なんのなんの・・・旅人さんに出会えたことで、私も昔の思い出を思い出すことができた。こちらこそ、ありがとう。」
老人は去っていった。
少年は少し安心した。
さっきみたいな卑下する奴ばかりいるのかと思ったが、
親切な人もいるんだな、と。
ぐぅ~・・・
ジャックのお腹が鳴る。
チェリーは微笑んで、
「せっかくだから、何か食べていきましょうか。」
「ああ、そうだな!」
「へへへ・・・」
「ワンワン!!」
少年達は近くにあった『メークドネルド:グランドスレイヴシティ第3支店』
に入っていった。
「「「いらっしゃいませ~!」」」
「ご注文は何でしょう?」
「えっと・・・フィッシュサンド一つ、ビッグサンド二つで。」
「テイクアウトで?」
「へ・・・」
受付は少し顔をひきつらせて、
「お持ち帰りにしますか?ここで食べていきますか?」
「あ、お持ち帰りで・・・」
「エメラルド5コになります。」
少年はジャックからもらったエメラルドを払う。
「「「ありがとうございました~!」」」
「はぁ・・・意外に高いんだな・・・」
「本当だね・・・」
少年達は街道を行く。
狼はチェリーのフィッシュサンドの魚の半分を食べている。
「でもおいしいですよ、このハンバーガー。」
「おお、そうだな・・・ムシャムシャ・・・」
少年はがっついた。
「この都市も、まぁまぁ楽しいところだな!」
「おめぇは・・・この都市の何を知ってる?」
少年は目を開く。
右を向くと、そこには路上に缶を置いて酒を飲む男がいた。
ボロボロのジャンパーを着たその男の表情は、ネックとキャップでほとんど見えなかった。
男は続ける。
「おめぇの目に映るもんが、ぜんぶ真実だと思うな。この都市にゃ、裏があるんだよ・・・」
ジャックとチェリーも話を聞く。
さらに続けた。
「おめぇは、この瞬間の都市を信じるか?疑うか?」
その男は見るからに汚らしい存在であった。
だが見えない口からこぼれだす話は、妙に惹かれる点があった。
どういう意味だ?
その時、遠くから大声を出して歩いてくる人物がいた。
「やあやあ諸君!!今日もがんばっているかね!!」
「これはこれは市長!!こんにちは!!」
「元気でなによりだ!!がははははは!!」
豪快で、金髪のその男は笑う。
「市長さん!こんにちは!!」
見ると少女が一輪の花を持っていた。」
「これ!!」
少女は男に花を渡す。
「ありがとね~お嬢ちゃん!お兄さん、今日も頑張っちゃうよ!」
スーツの男、市長は少女の頭をなでる。
その時、後ろについていた女性秘書は市長を呼ぶ。
「市長、午後3時丁度から『メルエス株式会社社長、ラレール・ベルグソン氏とのご対面があります。そろそろ戻らなければ。」
茶色の長い髪を縛り上げ、黒いスーツに身を包んだ女性秘書。
銀縁眼鏡をずりあげている。
「ああ、分かったよ。じゃ、戻ろうか。」
男が振り返る時、一瞬目が会った・・・様な気がする。
そして素早く目を逸らした・・・様な気がする。
はて・・・
あんな人、どっかで見たような・・・
チェリーも首をかしげている。
ジャックは何も感じないようだ。
「市長さんって、面白そうな人だなぁ。」
「クゥ~ン?」
ここはグレート・スライヴシティ、グランドビル58階。
最上階であるこの階に一人の男が座っていた。
逆光で顔が見えない。
壁掛け時計は午後5時を指している。
この季節だ。外はもう真っ暗だ。
男は少し考える素振りを見せながら、誰かに電話をした。
「お前ら。この都市の北に旅人が来た。
そいつらを始末だ。」
「了解。」
ガチャン。
隣にいた秘書は言った。
「恐縮ですが」
「うわ、びっくりしたぁ!!」
部屋の明かりが付き、逆光ではなくなった。
「お、お、お前は、気がつくと近くにいるからびっくりするんだよ!
もっと強くノックしてこいよ!!」
さっきのダンディな声と裏腹に、まぬけに裏声を出した。
「承知しました。」
そして裏返すように、ダンディな声に戻る。
「ふっふっふ・・・あいつら、終わったも同然だな。
私に逆らうとこういうことになるんだぜ・・・はっはっはっは!!」