どうしてこうなった?   作:とんぱ

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後日談その7 ※

 現在アイシャ達はハンター協会本部に逗留していた。

 アイシャとクラピカは第1回13代会長総選挙にて上位16位に入選してしまい、その為に紹介と演説の動画を撮らなくてはいけなくなったからだ。

 ゴン達はその付き添いだ。どうせすぐに第2回目の選挙が、そして2回目で会長が決定しなければ第3回と選挙が続くのだ。協会本部に直接居た方が移動の手間が省けて楽というものだ。

 プロハンターならば協会本部にある部屋を借りて寝泊りすることも可能だ。もちろん費用は掛からない。その為かゴン達と同じような考えの者達が本部には多く集まっていた。

 

「もしかしたらジンもここにいるのかな?」

 

 選挙は全ハンターに参加する義務がある。もちろん中にはそれを拒否して欠席している者も少なからずいるが、ジンがハンター協会にいる可能性は常よりも高くなっているのは確かだろう。

 ゴンは今ならばジンと出会えるのではないかと期待する。ジンが第1回選挙に置いて16位以内にいたこともゴンの期待を高めていた。ジンもアイシャ達と同じように演説動画を撮る為に協会本部にいるだろうと思えたからだ。

 

「探してみるか? アイシャとクラピカも撮影してるから、今なら2人がいる場所に行けば出会えるかもしれないぜ」

「だな。アイシャの細かい位置ならアイシャが持っている【高速飛行能力/ルーラ】の目印があるから分かるぜ」

「お前の能力ストーカーにも使えるな……」

「つ、使ってねーよ!」

 

 レオリオがアイシャに渡している目印はそれを刻んだレオリオ本人ならばその位置を確認することが出来る。それを使えばアイシャがどこにいるのか分かるのだ。

 アイシャの現在地の詳細を完全に把握していれば、アイシャが何処で何をしているかまで大まかに理解出来るだろう。もっともアイシャが目印であるお守りを持っていることが前提だが。

 もちろんレオリオは協会本部を把握していないので、アイシャの位置が分かってもその位置がどのような場所なのかは理解出来ない。

 もし出来ていればアイシャが特定の場所で特定の行動をしていることが予測出来るわけだ。ストーカー呼ばわりもあながち間違いではないかもしれない。

 

「で、今どこにいるんだ?」

「ちょっと待てよ……上の階だな。大体15階くらい上かな」

「相変わらず便利だな」

 

 そうしてゴン達は連れ立ってアイシャがいると思わしき階層へと移動した。

 レオリオの案内に従って移動した結果、アイシャがいるだろう部屋の前には見知った人物たちが立っていた。リィーナとビスケである。

 

「リィーナさん、ビスケ!」

「皆様、このような場所にどうされたのですか?」

「アイシャの出待ち? 撮影はもう少しで終わると思うけど」

 

 リィーナとビスケもアイシャと同じく上位16位に選ばれていた。なので撮影の為に協会本部に居てもおかしくはない。

 2人ともすでに撮影は終了しており、今はアイシャが出てくるのをこうして待っていたようだ。もちろんビスケはリィーナに付き合ってだが。

 

「アイシャもそうだけど、ゴンの親父のジンって人を探してるんだよ」

「ジンも撮影してるんでしょ? どこにいるか見なかった?」

 

 ゴンの期待の籠もった眼差しにリィーナ達は表情を曇らせながら残念そうに答えた。

 

「ジンはもういないわ。一番最初に撮影終えてさっさと出て行ったみたい」

「私達が撮影の為にここへ赴いた時には既におりませんでした。恐らくは……」

 

 リィーナの言葉の続きは言わずともゴンには理解出来た。

 恐らくジンはゴンと出会うのを避ける為に早々に撮影を終えて逃げたのだろう。

 自分を見つけたければこんな手ではなく、実力で見つけてみろ。そう呟くジンがゴンの脳裏には映っていた。

 

「よーし……絶対に見つけてやる!」

「ちょ、おいゴン!?」

 

 ジンの挑発――と言ってもゴンの想像だが――に触発されたのか、ゴンは衝動に任せてその場を飛び出していった。キルアの言葉も聞かず、窓を開けて飛び降りていくゴン。

 ジンがどこにいるかも分かっていないが、近くにいる可能性がある上にこのような逃げられ方をした為にじっとしてはいられなくなったようだ。

 

「……行っちまったか」

「まあ腹が減ったらその内帰ってくるだろ」

 

 レオリオの言葉に誰もが頷いたところで、撮影室のドアが開いた。中から出てきたのはアイシャとクラピカだ。

 

「アイシャさん、お疲れ様でございます!」

「リィーナもビスケもお疲れ様です。皆も待っていてくれたんですね」

「まあゴンの付き添いでな」

「ふむ。そういうゴンがいないようだが?」

「飛び出してった」

「は?」

「……やはりあの気配はそうでしたか」

 

 レオリオ達の説明を聞いてゴンの行動に納得するアイシャとクラピカ。

 まあゴンだからなと納得される辺りゴンも相当である。

 

「それより撮影はどうだったんだ?」

「まあ可もなく不可もなく終わりましたよ」

「こちらもだ。どうせ勝つ気はないのだからな。当たり障りなく終わらせてきた」

 

 アイシャもクラピカもこれ以上選挙で勝ち上がる気はなかった。そもそも現在の状況が望んでいない物なのだから当然である。

 特に会長になってからの方針や方策などもなく、協会がどのような方向に進もうと自分たちの害にならない限りは特に問題はない。そんな2人が力を入れて選挙演説を行うわけがなかった。

 

「演説動画っていつから見られるんだ?」

「全員の撮影が終わればすぐにでも見られるわよ~。アイシャ達で最後だったから、もしかしたらもう配信されてるんじゃないかしら」

 

 ビスケの言葉通り、ハンターサイトでは既にビーンズによる選挙報告と同時に演説動画も配信されていた。

 演説動画では投票数の多い順に上位16位(19名)が紹介されていく。

 その中でアイシャとクラピカの紹介はこうだ。

 

 アイシャ=コーザ。ルーキー。突如として現れた超新星。何を成したのか不明のダークホース。本人曰く「投票しないでください」とのこと。

 クラピカ。ブラックリストハンター(シングル)。あの幻影旅団を捕らえたスーパールーキー。だが選挙には乗り気ではなく投票は遠慮すると言っている。

 

「……アイシャとクラピカは分かるけどよ。上位の内4人が投票しないでってどうなんだ?」

 

 レオリオの呟き通り、この紹介では19名中4名が投票は不要との断りが入っていた。アイシャとクラピカ以外ではネテロとサンビカ=ノートンという女性ハンターである。ネテロも会長の立場に戻る気はなく、サンビカも興味はないようだ。

 だが興味があろうがなかろうが、この選挙のルールには関係がないのである。本人がどれだけ乗り気でなかろうと、他人から評価され投票されたら嫌でも会長になる可能性があるのだから。

 

 場合によってはこのままフェードアウトすることは出来ないかもしれないと不安に思い始めたアイシャとクラピカであった。

 

 

 

 そうしてゴンを除く全員が揃って和気藹々と話しながら歩いていると、1人の男性が立ちはだかった。

 立ちはだかると言ってもその男性に敵意はないようだ。プロハンター故か多少の威圧感を放っていたが、アイシャ達の誰もが警戒心を抱くほどの威圧ではなかった。

 この場では最も立場の高い――世間的にはだが――リィーナが代表するように男性に問いかける。

 

「何か御用でしょうか?」

「これは失礼ロックベルト殿。私はブシドラというものだ。用があるのはそちらの彼……クラピカ君にでして」

「私に?」

 

 ブシドラと名乗った彼に対して何人かは聞き覚えがあるようだった。

 確か第1回選挙において16位と惜しくも1票差となり脱落した人物の中にブシドラという名があった。

 記憶力の良い者達がそう思い出し、アイシャとクラピカは彼の立場を羨んでいると、ブシドラがクラピカに向かって話しかけた。

 

「早速君達の選挙動画を見させてもらったよ。幻影旅団の捕縛については聞き及んでいたが、本当に素晴らしい功績だ。同じブラックリストハンターとして尊敬する」

「……仲間の協力あってのことだ」

 

 幻影旅団については自分の力で成した事柄とは言えないので、それを褒められてもクラピカは素直に喜べはしない。

 

「謙遜する必要はない。もちろん私とて君1人で成したこととは思ってはいない。それだけ幻影旅団は強大だったのだから。だが、君がいなければ成しえなかったのも事実ではないのかな?」

 

 ブシドラの言う通り、クラピカ1人では成しえなかったが、クラピカがいなければまた不可能だった。それだけクラピカの能力は優秀と言えた。

 ブシドラはクラピカの能力など知りもしないし、その実力の詳細も知らないが、まだ若いクラピカが1人で幻影旅団の全てを捕らえられるとは思っていなかった。

 なので仲間の協力あっての手柄だと初めから踏んでいたのだ。その仲間の中で中核を成したのがクラピカだろうと考えているのだが……。

 

「それで、何の用なのだ? 世間話ならば勘弁を願いたいのだが?」

「私も無駄話をするつもりはない。率直に言おう。我々に協力してもらいたい」

「協力?」

 

 そうしてブシドラはクラピカに、いや、この場にいる全員に向かって熱弁する。

 現在の協会の問題点。ハンター十ヶ条の疑問。

 ネテロ会長の素晴らしさを説きつつ、彼に傾倒するだけでなくより良い協会を目指すという理想。

 

「君もブラックリストハンターならば分かるはずだ。十ヶ条の四、このような悪法があってはいつハンターの中から大罪者が現れるか分かったものではない。だが、ネテロ会長を心酔する者が会長になってはその悪法も引き継ぐ可能性が高い。そうならない為にも、我らが同志テラデインに会長になってもらいたいのだ」

 

 要約するとクラピカの持つ票をテラデインに下さいな、ということである。

 クラピカが持っている票は現在僅か7票。全体の1%未満だ。それでも票を集めていかなければ会長にはなれはしない。ならばコツコツと積み重ねるしかないのだ。

 

「もちろんいきなりこのようなことを言われても戸惑うのは仕方ない。なので、次の選挙にて同志テラデインが勝ち残っていれば、その時にまた返事をしてほしい」

「そうは言うが、私の票は今回でなくなる可能性があるが?」

 

 クラピカは既に動画にて投票は不要と声明している。その声を聞いたクラピカへの投票者はその票を別の候補者へと移す可能性が高いだろう。

 そうなればクラピカは選挙から脱落するはずだ。そうなっては協力のしようがなくなるだろう。

 

「問題はない。君が我々と共に協力の意思を示す声明を出してくれれば、それで君に期待している者たちからの票が集まるだろう。君のような若さと実力を有した未来ある人物が我々と共に有る。そう思ってくれれば同志テラデインに集まる票も自然と増えるはずだ」

 

 あながち間違ってはいない案である。数とは力だ。人が集まるところにはより多く人が集まるようになっている。中心人物の回りに人を集める力を持つ者が多ければ尚更だ。

 

「アイシャ君、君にも協力をお願いしたい」

「へ?」

 

 アイシャはクラピカとブシドラのやり取りを見ながら、キルア達と一緒にどうなるかとコソコソと話している所に突然話を振られて思わず間抜けな声を出す。

 それにかまわずブシドラはアイシャに畳み掛けるように話し出す。

 

「君も選挙には興味がない様子。ならば、君がもし第2回選挙にて勝ち残った場合に同志テラデインへの協力を演説してくれれば、第3回選挙にて君も選挙から開放されるはずだ。……まあ、第2回で選挙が決着すれば話は別だが。君にも悪い話ではないはずだ。考えておいてくれ」

「はあ……確約は出来ませんが……」

「それでいい、考えておいてくれ。……出来ればロックベルト殿にも協力していただけると嬉しいのですが」

 

 クラピカとアイシャへの協力が終わり、最後に上手くいけば儲け物という風にブシドラは恐る恐るとリィーナへも協力要請を出す。

 

「お断りします」

「……そうですか。いえ、失礼しました。長く押し留めて申し訳ない。私はこれで失礼する」

 

 そうしてブシドラが立ち去った後、疑問に思ったアイシャはリィーナに問いかけた。

 

「リィーナは会長になる気があるんですか?」

「まさかそのような気はございません。会長などになってしまえばアイシャさんと共にいる時間が少なくなってしまいますから。ああ、もちろんアイシャさんが会長になれと仰るならば、例えどのような方法を用いてでも会長になってみせますが」

「あ、いえ、そこら辺はあなたの自由になさい……」

 

 相変わらずアイシャに関してだけはイエスマンであるようだ。周りはドン引き……ではない。すでに慣れているからだ。

 この程度で引いていたらとっくにこちらの精神が病んでいただろう。悲しい鍛えられ方をしたキルア達であった。

 

「それでは何故ブシドラさんの協力を断ったのですか?」

「別に彼に対して思うところがあるわけではありませんが、協力しても意味がない人物の手を取るつもりはございませんから」

『?』

 

 リィーナの言葉の意味を全員が理解したのは第2回選挙の結果を見た後だった。

 

 

 

 

 

 

 アイシャとクラピカが不安を抱いたまま第2回13代会長総選挙はつつがなく始まり、結果はすぐに発表された。

 

 1位 パリストン     191票(25,2%)

 2位 リィーナ      122票

 3位 ネテロ       120票

 4位 チードル       40票

 5位 ボトバイ       35票

 6位 アイシャ       32票

 7位 イックションペ    29票

 8位 ミザイストム     28票

 9位 サッチョウ      24票

 10位 ビスケット      22票

 11位 ギンタ        18票

 12位 テラデイン      15票

 13位 ピヨン        14票

 14位 クルック       13票

 15位 キューティー      9票

 16位 ジン          7票

    ルドル         7票

 18位 クラピカ        3票

    サンビカ        3票

 

 無効票            5票

 欠席票           18票

 

 投票率          96.6%

 

「なんで!?」

「よし!」

 

 悲鳴と喝采。その2つが同時に上がった。

 悲鳴の主はアイシャ、そして喝采の主はクラピカである。

 クラピカの喝采の理由は至って簡単。今回の選挙結果で上位8位に入ることなく、そして投票率が95%を超えている為上位8名による再選挙が決定したからである。

 つまるところクラピカは煩わしい会長候補の立場から逃れることが出来たわけだ。

 

 対してアイシャの悲鳴の理由も簡単だ。

 

「なんで順位が上がってるの?!」

 

 そう、まさかの順位上昇であった。演説にてアイシャは自分は会長になりたいと思ってないので投票は不要という説明をしていた。

 同じような演説をしたネテロ・クラピカ・サンビカの3名は見事に目論見通りに投票数が落ちている。……それでも上位にいるネテロの人気は凄まじいが。

 だというのに、何故かアイシャだけ投票数が増えているのだ。いや、それだけならばいい。票が増えても上位8位以外ならば問題はなかった。問題なのは上位8位以内に残ってしまったことだ。

 

「だ、誰が私に投票するっていうんですか!?」

 

 全くもって投票される理由が分からないアイシャはこの結果に困惑している。

 前回の投票結果はまだ納得が行く理由があった。恐らくだが、アイシャがNGLで助けたプロハンターが投票の多くを占めていたのだろう。

 だが今回の投票数は32。明らかにアイシャが助けたプロハンターの人数を超えた投票数だ。演説でも投票不要を発したというのに何故なのか?

 

「まさか、アイシャの美しさに惑わされて……」

 

 などと戯言を呟くミルキは放っておいて、アイシャは原因を考える。

 そして思いついた。いや、思い出したというべきか。

 

 ――彼、あなたの邪魔をするのが好きなんでしょう? 次はどんな1手を放ってくるのやら――

 ――うむ、まあ予想はついとるが……――

 

 そう、アイシャがパリストンにハンター協会に呼び出されたあの日にネテロが意味深に呟いた言葉。

 あの時、ネテロがアイシャを見る顔は何か面白い物が見れそうだと楽しそうにして笑いを堪えていた顔だった。

   

「あ、あのじじい! こうなるのを予測してたな!」

 

 アイシャはこの時になって理解した。自分が選挙で勝ち残っているのはパリストンのせいだと。

 パリストンが票を操作することでアイシャに一定数の票を獲得出来るようにし、選挙に勝ち残らせているのだ。

 何故そのようなことをするのか? 理由も簡単に予想が出来た。全てはネテロへの嫌がらせである。

 ネテロはアイシャとの戦いを希望して会長を辞めた。そしていくらパリストンとはいえネテロを会長の座に留めておくのも限界がある。

 だったらアイシャを会長の座に祭り上げればいい。そうすればネテロへの嫌がらせになり、新たな玩具(アイシャ)への嫌がらせにもなる。まさに一石二鳥であった。

 そんな状況を予想しつつもアイシャが戸惑っているであろう未来を予測して愉悦に浸っていたネテロに対してどうしてやろうかと憤慨するが、今はそれどころの話ではない。

 

「まずい。この考えが当たっているとしたら、このままでは……!」

「なるほどねぇ。あの腹黒王子が考えそうなことね」

 

 アイシャの考えを聞いたビスケはありそうな話に頷いていた。

 

「アイシャさん、私が副会長を亡き者にいたしましょう。そうすればアイシャさんも後顧の憂いがなくなるでしょう」

「相変わらずアイシャのことに関しては恐ろしい人だぜ……」

 

 これの恐ろしいところは真面目に提案していることだろう。まさしく狂信者の類だ。

 まあ狂信者的には提案しているだけマシかもしれないが。良かれと思って勝手に動きだしたら手遅れである。

 

「あなたの育て方は間違ったかもしれません……」

「そんな! アイシャさんに間違いなどあろうはずがありません!」

 

 リィーナを除く誰もが思った。やっぱり手遅れかもしれない、と。

 

「しかしあれだな」

「ああ。何と言うか……」

 

 キルアの呟きにクラピカが曖昧に応える。

 他にも何人かはキルアの言いたいことが理解出来たようだ。

 

「どうしたのキルア?」

「ああ、ゴンはあん時いなかったから分からないよな」

「だな。……あんだけ熱弁しておいてよぉ」

 

 ますます何を言ってるのか理解出来ないゴンがキョトンとした顔になる。

 

『落ちてんじゃねーかテラデイン!!』

 

 キルアとミルキとレオリオの叫びがはもった。

 あれだけブシドラが協力要請を呼びかけ、理想を熱弁し、次の選挙では等と謳っておきながら、テラデインまさかの落選であった。

 

「リィーナさんはテラデインが落ちるって分かってたのかよ?」

 

 あの時リィーナが発した『協力しても意味がない人物の手を取るつもりはございません』。これの意味を考えるとこの時点でリィーナはテラデインの落選を読んでいたことになる。

 

「ええ。テラデインさんは脱会長派として有名な方ですので。ネテロ会長は忌々しいですが協会内での求心力は相当なものです。だというのに、ネテロ会長が存命の内に脱会長派を謳って票が多く集まるわけがございません。それでも第2回まで残られるだけそこそこは優秀だったのでしょうが……」

 

 リィーナの説明に全員が納得する。

 

「なるほどな。まあいいや知らない奴のことなんか。特に興味なかったしな」

「そうだな」

 

 それでテラデインやブシドラに関する話題は潰えた。哀れ。

 

「しっかしゴンの親父さんも脱落か。これじゃ完全に逃げられたな」

「うん、せめて今回の選挙に勝ち残ってればまだチャンスはあったんだけどね……」

 

 あの時ジンを追いかけたゴンだったが、当然ジンは見つからなかった。手がかりなしで探しに飛び出したのだから当然である。

 第2回の選挙で勝ち残っていればまだ協会本部にて出会える可能性はあったかもしれないが、今回の結果にてそれもなくなったようだ。

 

「でも、いつか絶対見つけてやるんだ!」

 

 チャンスを逃したゴンだったが、逆にそれがゴンを燃え上がらせたようだ。

 簡単に落ち込まず、気持ちを切り替えたら悩まないという点はゴンの長所だろう。ある意味ゴンの強さの1つでもあると言える。

 

「しかし、私を会長の座に祭り上げる。それが副会長の手ならば、どうすればそれを回避出来るのか……」

 

 話はアイシャの会長就任へと戻る。現在最大の投票数を有しており、協会内での発言力が高い副会長が裏から手を回せば本当に会長になってしまう可能性がある。

 そうならないためにはどうすればいいか。今のアイシャにとって重要なのはそれだけだ。テラデインなにそれ美味しいの? 脱落出来て羨ましいなチクショウ、がアイシャの本音である。

 

「このまま会長になる気はないって演説し続ければいいんじゃないの? いくら副会長だからって拒否し続ける奴を会長にまで持っていけないだろ?」

「いや、それだけでは不安が残るな。現にアイシャは先の演説で選挙に興味がないことを伝えているが、それでもアイシャの票は増えている」

「うーん。他の人、例えばビスケとかに投票してってお願いしてみたら?」

「ちょっと、あたしを巻き込まないでよ」

「例えだってば」

「そうですね……私的にボトバイさんなら会長に相応しいと思っていますので、彼を推してみます。多少は効果があるでしょう」

「じゃあ他には――」

 

 等と、全員でアイシャを会長にさせない為に話し合っている。

 誰しもアイシャが会長になることを望んでいないのだ。一緒にいる時間が減るのが嫌だという思いを持つ者が多いが、その根底にあるのは本人が嫌がっているからというものだ。友情?である。

 

「全体の方向性としてはそれで問題はありません。ですが、その程度であの副会長から逃れることは出来ないでしょう」

 

 様々な案を出すが、それらの案では副会長の魔の手からは逃げられないとリィーナによって断言される。

 戦闘馬鹿が多いこの面子の中、リィーナは唯一といっていい経済界の猛者だ。

 腹黒くて当たり前。生き馬の目を抜くような魑魅魍魎が跋扈する世界を経験しているリィーナのその言葉は妙な説得力があった。

 

 だからこそ期待する。リィーナならばアイシャの窮地を救ってくれるのではないか、と。

 

「何か案があるのですか?」

「先程も言いましたが、全体の方向性としては皆様の案に訂正はございません。それで会長就任に至らなければ何も問題はないのですから」

「だけどそれじゃ無理ってあんたが言ったじゃない。リィーナが色々とプロハンター達に呼びかければ可能性が増えるんじゃないの?」

 

 リィーナのプロハンター達への影響力はそれなりに高い。

 風間流門下生のプロハンターは言うまでもなく、門下生でなくても風間流で念に目覚めたプロハンターも多い。

 彼らの多くはリィーナが声を掛ければその意思にある程度は従ってくれるだろう。

 

「いえ、副会長の嫌らしいところは真実で攻めてくるところです。人の弱みを握り裏から手を回すだけならばただの小物なのですが……。恐らく副会長はアイシャさんの素晴らしさを広めてくるでしょう。キメラアント事件の最大の功労者。あのネテロ会長を超える実力。こういった他人が聞いて耳触りの良い真実を突かれると、いくら私が手を回しても副会長の影響力を超えることは出来ないでしょう」

 

 表も裏も、2つ同時に操ってこその一流。副会長嫌いのリィーナですらパリストンの手腕は認めていた。

 他の人物ならまだしも、協会の表と裏の両方で大きな影響力を持つパリストンが真実を利用して攻撃して来た時、こと協会内ではリィーナでも太刀打ち出来ない程であった。

 

「じゃあどうすれば……」

「ご安心ください。私にいい考えがございます」

 

 どことなく一抹の不安を感じさせるフレーズだが、リィーナの考えを聞いたアイシャは驚愕しつつもそれしかないと納得するしかないのであった。

 

 




 長らくお待たせしました。なんとも時間が掛かってもうしわけありません。次は結構早く投稿出来ると思います。その次は未定ですが……。
 ブシドラは原作で一人称をオレとしていますが、ここでは他人に協力をお願いする立場なので丁寧に私という一人称にしています。

ハトの照り焼き様から頂いたイラストです。いつもありがとうございます。

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