どうしてこうなった?   作:とんぱ

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後日談その3 ※

 ハンター。その言葉を一般的に解釈するならば狩りをする人、すなわち狩人や猟師といった存在を指す言葉となるだろう。

 だが、この世界に置いて専門的な意味合いでのハンターは一般的なそれとは異なるものになる。珍獣・怪獣、財宝・秘宝、魔境・秘境。未知という言葉が放つ魔力に魅せられ、それを追うことに生涯をかけている者達のことを【ハンター】と呼ぶのだ。

 

 ハンターと一口に言っても様々なハンターがいる。未知と言っても多くの未知があるように、ハンターにもそれぞれ何を目標としているか、何をハントの対象としているかで種別があるのだ。

 世界中の未確認生物を見つけ出す幻獣ハンター。遺跡の発掘と修復・保護を行う遺跡ハンター。賞金が懸けられた犯罪者を捕らえるブラックリストハンター。犯罪そのものを取り締まるクライムハンター。他にも電脳ネット上の違法行為を取り締まるハッカーハンターや、新たな美味を求めるグルメハンターに、金のためだけに活動するマネーハンターなど、様々なハンターがそれぞれの思惑で活動している。中にはお悩みハンターやかわ美ハンターと言った一風変わったハンターもいる。

 これらはあくまで一部の例だ。他にも様々な対象をハントする多種多様なハンターがこの世には存在している。

 

 そんなハンター達にもアマチュアとプロという括りがある。

 アマチュアとなるのに特にこれといった制限はない。本人がそう名乗ったらその時点で他人が信じる信じないはともかくその者はアマチュアハンターとなるだろう。実力や実績は置いといてだが。

 だがプロは違う。厳しい試験を潜り抜け、特殊な力を手に入れた者こそがプロのハンターを名乗れるのだ。

 

 この世にプロハンターは755名存在している。これを多いと取るか少ないと取るかは人それぞれだ。だが、年に1回の試験で全世界から100万を超える人数が試験を受けながらも、現在のプロハンター資格保有者が755名だというのだからその希少性と難易度は推して知るべしだろう。

 

 厳しい試験を乗り越えてプロとなったハンターとアマチュアとの間にある差は果てしなく大きい。

 第1に実力の差だ。厳しい試験を乗り越えた者とそうでない者。運によって合格不合格の差が出ることはあれど、やはり実力の差は大きく出るだろう。

 特に合格後に得られる念能力がアマチュアとの大きな差を広げる要因となる。もちろんアマチュアでもプロに勝る実力を持つ者は極少数だが存在するが。

 

 第2に信頼の差だ。プロとアマ、どちらかを選べと言われれば互いの人柄や実力を知らないならば殆どの人がプロを選ぶだろう。

 それだけの信頼がプロにはあるのだ。それを裏付けるのがハンターライセンスの存在だろう。ハンターライセンスは持つだけで多くの特権が得られる所謂特権階級の証だ。それも全てはプロハンターを特別視させる為でもある。

 その効力は絶大だ。電脳ページの無料使用、殆どの国はフリーパスで入国でき、公共施設の95%はタダで使用、民間人が入国禁止の約90%と、立入禁止区域の75%まで入ることが可能。売るだけで7代遊んで過ごせ、持ってるだけで一生何不自由なく暮らせる。

 

 これらの特権を知ってプロハンターになりたいと思わない人間は極稀だ。一般人なら一度はなってみたいと思い憧れる職業がプロハンターだろう。

 そしてそれだけの特権をプロハンターに与えることが出来る程の力を持っているのが、ハンター協会なのだ。正確にはその裏に政府の力があるのだが、それは一般人は深くは知らないことである。

 

 そんなハンター協会の本部ビルのとある一室に、複数の男女が集まっていた。彼らはこの世で選ばれた存在であるプロハンターの中でも更に選ばれた者達だ。

 【十二支ん】。それが彼らの呼称だ。会長であったアイザック=ネテロにその実力を認められた12人。会長が有事の際に協会運営を託す他、ネテロが暇な時に遊び相手になったりもするネテロが信頼する者達だ。

 十二支んという名の通り、それぞれには干支に関するコードネームが与えられており、ネテロに心酔する者達の殆どはその名に合わせて改名やキャラ変をするなどちょっと間違った方向に努力している。まあ何事にも例外というものはあるが。

 

 彼ら十二支んはネテロが認めた通り相応の実力を有している。それは単純に戦闘力に限った話ではなく、ハンターそのものとしての実力や仕事の難易度の高さにも現れている。つまりは、彼らは実力相応に忙しいということだ。それぞれがそれぞれのハンターとしての職務を全うしつつ、十二支んとしての活動もしている。

 その為十二支んが一同に会するということは珍しいことだ。……1人だけこの場にはいない十二支んもいるが。

 

 

 

「納得いきませぬ……!」

 

 静かに怒鳴り声を上げているのはボトバイ。辰(タツ)をコードネームに持つ男性だ。十二支んの中では一番の年配者であり、その実力も十二支んでトップクラスと言われている。

 

「同感だ! 理由を説明してくれよ会長!」

 

 ボトバイの意見に同意し語気を荒げるカンザイ。寅(トラ)のコードネームを持つ男性だ。短慮で短気で小学生でも知っていることを知らない程に学がない彼だが、戦闘能力は1級品だ。それだけで十二支んになったと言ってもいいだろう。

 

「理由は言ってたわよ~~。聞いてなかったのかしら~~?」

 

 間延びした声でカンザイに駄目出しをするピヨン。卯(ウ)のコードネームを持つ女性だ。小柄な少女だが実力は十二支んに選ばれているだけのことはある。皮肉と毒舌が目立つのが難点だが。

 

「その理由が納得いかないという話に戻るだけでは? →卯」

 

 独特の喋り方をしているのはチードル。戌(イヌ)のコードネームを持つ女性だ。戦闘能力は十二支んの中では高いとは言えないが、理知的で頭の回転が速く多くのハンター達から支持されている。

 

「戻るのも仕方ないわね。私たちの意見はそこに集約されるのだから」

 

 チードルに意見を返したのは大人な女性と思わせる風貌を持つゲル。巳(ミ)のコードネームを持つ女性だ。そのコードネームの通り腕を蛇のように操作することが出来る。コードネームに由来する能力を持つ者もいるのだ。それほど会長を心酔しているということだろう。

 

「がいぢょおおあああん!! やべないでぇええええ!!」

 

 大声で泣き喚いているのはギンタ。未(ヒツジ)のコードネームを持つ男性だ。感情表現が豊かというべきか、会長を心酔している為か、ネテロが会長を辞めると聞いてからは終始この様子だ。もっともその実力は十二支んでもトップクラスだが。

 

「ギンタうるさい! 暑い!! 臭い!!」

 

 近くで泣き喚くギンタに容赦なく毒舌を叩き込んだのはクルック。酉(トリ)のコードネームを持つ女性だ。思ったことをすぐに口に出すのが特徴だ。酉の名を冠する故か、鳥を操る能力を持っている。

 

「うるせーんだよクズ。今そんな時じゃねーだろーがカスがよ」

 

 喚き騒ぐ連中を罵倒しているのはサイユウ。申(サル)をコードネームに持つ男性だ。事あるごとに相手を罵る言葉を発しており喧嘩っ早い男だが、十二支ん以外で彼に喧嘩を売るものはそうはいない。それだけの実力を持っていると知られているのだ。

 

「理由は聞きました。ですが、まだ会長はハンター協会に必要です。どうかご再考を……!」

 

 周囲で喚く連中を無視し、真っ直ぐに意見を発したのはミザイストム。丑(ウシ)のコードネームを持つ男性だ。十二支んでも良識派であり、犯罪を取り締まるクライムハンターである。

 

「私も同意見です。いえ、ハンターの多くがそう願うでしょう」

 

 ミザイストムの意見に同調したのはサッチョウ。午(ウマ)のコードネームを持つ男性だ。彼もまた十二支んでは良識派として知られている。お悩みハンターという悩み事を解決するハンターをしている。

 

 ミザイストムとサッチョウの意見が重なったタイミングで、この場に集まる全ての十二支んの視線が1つに集まった。

 

『どうなんですか、会長!?』

「そう言われてものぅ~」

 

 ほぼ全ての十二支んからの期待と願いが籠められた叫びを受けながらも困ったように頭を掻いている老人。彼こそが全てのハンターの頂点。協会の会長にして最強の念能力者と謳われているアイザック=ネテロその人である。

 もっとも、現在は会長に元という頭文字がつくが。

 

 会長を辞したはずのネテロが何故この場にいるか。まあ言わなくても分かるだろう。十二支んから熱烈な辞めないでコールが入った為である。

 今までにも再三と言われていたが、何度願ってもネテロが意見を曲げてくれなかったのでこうして全員で集まって説得をしているのだ。

 まあ、唯一ネテロが会長を辞めることに興味がないと言った亥(イ)のコードネームを持つジン=フリークスだけはこの場にはいないのだが。

 

「前にも言ったじゃろ? すでに協会はワシの手を離れた。もうワシがいなくても十分に回るじゃろう。年寄りは引退じゃよ」

 

 それで納得がいくならこのような会議はなかっただろう。

 その証拠とばかりに多くの十二支んが怒号をあげるかの如く叫びだした。

 

「いいや、まだ会長は必要です!」

「年寄りだなどと、この場の誰よりも強い人の台詞ではありません→会長!」

「オレ達を置いていこうっていうのかよ!」

「会長!」

「会長!」

『会長!!』

 

 この有様である。まさに親離れ出来ない子どもの集まりと言ったところか。

 それだけ尊敬しているという証であり、ネテロがそれだけ尊敬される存在であるという証でもあるのだが、渦中の当人はたまったものではなかった。

 

「まあまあ皆さん落ち着いてください」

 

 興奮の坩堝と化していた室内を鎮める一言が発せられた。

 あれだけ興奮していた十二支んの注意を一纏めにした男こそ、子(ネ)のコードネームを持ち副会長という会長に次ぐ権力を持つ男性。パリストン=ヒルである。

 見た目は爽やかで常に笑顔を絶やさない好青年だ。その美貌と柔らかな物腰に夢中になっている協会員の女性は数知れない。だが中身は好青年とは程遠い存在だ。狡猾で抜け目がなく、人の心理を把握し操り誘導する術に長けている。

 実力も高く十二支んでも数少ないトリプルハンターの1人で、役職・実績共に会長に最も近い存在である。

 

 ネテロがパリストンを副会長に抜擢したのは彼がネテロの最も苦手とするタイプだからだ。イエスマンだけではつまらないというネテロの捻くれた嗜好から選ばれた彼は、それに相応しい働きをこれまでに多くしている。

 会長であるネテロの足を引っ張るために様々な手を尽くしたり、その手腕で多くの協会員や協会専門のハンターを囲っている。

 そして茶々を入れられたネテロが嬉しそうに困る様を見るのがとても大好きという捻くれ者であった。ある意味ではネテロと似通った部分があるのだろう。

 多くの人間はパリストンが会長になる為にネテロの足を引っ張っていると思っているがそうではない。彼は単純にネテロと遊ぶのが楽しいからこそ様々な悪巧みを講じているのだ。

 まあ、それで犠牲になる人間はふざけるなと声を大にして言いたいだろうが。

 

 とにかく、そんなネテロが困ることをするのが大好きなパリストンがネテロの会長辞任を認めるだろうか? まあそんなことあるわけがなかった。

 

「皆さんの仰ることはご尤もです。私もネテロ会長が辞任をするというのを簡単に認めることは出来ません。いえ、私も会長の仰る理由はよく分かります。これまで協会を牽引してきたネテロ会長が、若者たちに次代を託すという考えは非常に正しいでしょう。私としても会長のその想いを受け取りたいし、会長のように在りたいと常々思っています。

 しかし! 今ネテロ会長が辞められるのは責任の放棄ではないでしょうか? 会長の責務を果たした上での辞任ならば先ほど仰られた理由も含めて納得いたしましょう。ですが、会長は先のキメラアント事件に置いて様々な規定を無視して討伐隊を結成しNGLへと赴いています。確かに人間大のキメラアントというのは未曾有の大事件かもしれません。ですがだからと言って規定を無視していい訳ではありません。それが全てのハンターの模範となるべき会長ならば尚更のことでしょう。全てのハンターのトップともあろう人が、一介のハンターの未確認情報1つで規則を破るような行為を取るのは如何なものかと思いますが?」

 

 良くここまで舌が回るものだと幾人かの十二支んが感心していた。

 中には何を言ってるのか分からない状態の者も若干名いたが。

 

「パリストンうざい! くどい!! うるさい!!」

「おや? 私は皆さんと志を同じくしているつもりですが? ネテロ会長の説得、したいんでしょう?」

 

 あまりの話のくどさと長さに苛立ちを見せていたクルックに対し、パリストンはそう言い放つ。

 この場でパリストンに好意を持つものはネテロを除いて1人もいなかったが、今回だけはパリストンの言う通り、ネテロを除く全ての者が志を同じくしていた。

 ネテロに会長を続けてほしい! 全てはその一点だ。十二支んの内この場に集まる11人は普段はいがみ合うことがあってもそれだけは同じ気持ちだった。

 もっとも、パリストンだけはネテロに対する尊敬ではなくネテロが困るだろうという思惑でだったが。つくづく歪んでいるのである。

 

「まあパリストンのいうことも尤もじゃ。だからワシは責任を取って辞任をじゃな――」

「これはこれは! 会長ともあろう御方の台詞とは思えませんね! 不手際を起こした際に辞めることが責任を取ることになるのでしょうか? 私はそうは思いません。責任を取るというのはその役職から離れることではなく、起こしてしまったことに対して力を注ぎ汚名を返上することではないでしょうか? ネテロ会長が為さったことは先程も言ったように責任の放棄にしか思えませんが?」

 

 言ってることは分かるのだが、お前が言うなという想いが複雑に絡み合う十二支んである。

 このようにペラペラと口が回るパリストンであるが、自分がして来たことは一切合切棚に上げての言い分なのだ。

 十二支んでも頭の回る者ならば薄々と理解している。パリストンが副会長の座に着いた3年間で闇に隠れてどれだけのことをしてきたかを。

 もちろんその全ては公になってはいないし、パリストンが何かをしたという証拠はないのだが。その辺りの情報操作もパリストンはお手の物なのである。

 

「今回はパリストンの言うことに賛成ね→会長。もうしばらくは会長として働いてほしいです→会長」

「ふ~む」

 

 どこか困った風に頭を掻くネテロ。

 彼らの言い分も自分への信頼も分かっているつもりだ。だが自身の意思を曲げることはないと断固として決めている。

 もう我慢出来ないのだ。あの、好敵手と最強最悪の存在との対決。あれを見てからハンターとしてではなく武人として生きたいという想いが日に日に強くなっていくのだ。

 

 もちろんハンターとしての日々が嫌だったわけではない。望んでなったプロハンターだ。嫌どころか素晴らしく楽しくて充実した日々だった。

 これまでハンター協会を牽引して来たという自負もあるし、会長としての務めも立派に果たしてきた。満足のいくハンター人生だったと言えるだろう。

 だが、いや、だからこそ。ハンターとしてはもう満足しているのだ。唯一心残りが暗黒大陸にあると言えばあるが、あそこには自分が求めた強さはなかった。

 そして自分が求めた強さを誰よりも持っているのが最大の好敵手アイシャなのだ。暗黒大陸でも十二支んでも満たすことが出来なかった渇きを満たせる存在。

 

 自分はそうは長く生きれないとネテロは思っている。良くてあと10年と言ったところだろう。……120歳を超える身で思うことではないだろうが。その残りの人生を彼女との勝負のみに専念して費やしたいのだ。

 好敵手は今も強くなっている。彼女は肉体的に成長期なのだ。強さは衰えるどころか強くなり続けるだろう。

 対して自分はそうではない。この歳でこれだけの強さを保っていることが驚異と言えるような年齢だ。残る人生を修行に費やさねばあっという間に好敵手に置いていかれるだろう。

 それだけは何が何でも避けたいネテロである。いつまでもアイシャの好敵手でありたいと思っているのだ。そして最後には勝ち越して勝ち逃げをしてやるのが今のネテロの生き甲斐であり最大の楽しみなのだ。

 自分が死んだ後に悔しそうになっているだろうアイシャを想像するとそれだけで笑みが浮かぶネテロであった。

 

「くくっ」

「どうしたのですか会長?」

 

 突如として笑い声を上げるネテロを怪訝に思う十二支ん。

 それをネテロは何でもないように軽く誤魔化した。

 

「ちょっと思い出し笑いをしただけじゃよ」

「真面目に聞いてください! →会長!」

 

 自分たちは真剣に会長復帰を願っているというのに、当の本人はこの調子だ。

 

「そもそも会長復帰とか言うても、ワシが辞任したことは決まっておるじゃろうに」

 

 ネテロの言うことは尤もだった。どれだけ十二支んがネテロに会長を続行してほしいと思ったとしても、既に辞めているのだからどうしようもあるまい。

 今さらやっぱり会長辞めませんなどと引退宣言したアイドルが前言撤回して戻ってくるような真似を出来るわけがなかった。

 

「あ、大丈夫ですよ。ボクが上に掛けあってネテロ会長の辞任届けは保留にしてもらってますから」

「おい?」

 

 どうやら会長の頭文字に元はまだ付いていないようだった。色々と裏で悪巧みをしているパリストンを嫌っている他の十二支んも今回ばかりは内心で良くやったと褒めていた。何人かはパリストンがネテロの会長辞任を阻止している本当の目的は何か、と訝しんでいたが。

 今まではネテロの邪魔をして自分が会長になるように動いていた男だ。裏では何を考えているか分かったものではなかった。

 まあ、彼の本心を知るものはハンター協会ではネテロとジンくらいのものだろう。

 

「ネテロ会長は安心して会長としての責務を果たしてくれればいいんですよ?」

 

 とても爽やかな笑みを浮かべながらそう言うパリストン。

 ネテロにとっていつもなら困りつつもその実楽しみを覚える展開だが、今回ばかりは本当に困っていた。

 

 ――うーむ。他の十二支んはともかく、こ奴は厄介じゃのう。どうやって煙に巻こうか――

 

 ネテロが内心でちょっぴりだけパリストンを副会長に据えたのを後悔している時、パリストンの携帯電話が室内に鳴り響いた。

 

「あ、ちょっと失礼しますね」

 

 会議の場に関わらず電話で応答するパリストン。緊急を要する連絡が入る可能性があるハンターだ。会議中だろうと電話の電源を落とすことはしない。

 

「ええ――そうですか――はい、そのようにお願いしますね」

「お忙しいのねピンハネ王子さま~~。まだ私腹を肥やしたりないのかしら~~?」

「あはは、私腹だなんて嫌だなぁ。あれはプール金です。協会をより大きくする積み立て制度ですよ。あと、今の電話はちょっとしたサプライズに関したものでして。もうすぐ分かりますよ」

 

 前半の建前はともかく、後半のサプライズについては何のことなのか十二支んの誰も分からなかった。ネテロだけは何故か猛烈に嫌な予感がしていたが。

 

「あー、会議も長くなってきたからそろそろ終わりにしようかの。また次の機会に改めて話し合いの場を開くので、ここは一旦お開きに――」

「そう言ってのらりくらりと逃げる気でしょう? 会長の手口は分かっているわよ」

「せめて納得のいく説明をお願いしたい! 何か他に理由があるのでしょう!?」

「がいぢょおおおぉぉ! やべないでええ!!」

「会長!」

「会長!」

『会長!!』

 

 取りあえず先延ばしにしてこの場から逃れようとするが、流石はネテロと付き合いの長い十二支ん。ネテロの手口はよく理解しているようで逃がす気は更々なかった。

 会議室の緊張と興奮が高まりつつある中、会議室のドアからノック音が聞こえてきた。最初は室内のあまりの騒音に聞こえなかったノック音だが、数回続く内に何人かの十二支んがそれに気付き、それにともない徐々に室内も落ち着きを取り戻していった。

 

「はい、何でしょうか?」

『あ、会議中に申し訳ありません。例のお客様をお連れしました』

 

 全員の代表の如くにドア前にいるだろう人物に語りかけたパリストン。そしてそれに返ってきたのは誰もが怪訝に思う言葉だった。

 

 ――お客様?――

 

 それは十二支ん全員――パリストンを除く――の疑問だった。

 会長と十二支んの会議中に事件が起きたことは今までにないわけではないが、客などという第三者が来るのは初めてのことだ。一体誰が? いや、どういう用件でこの場に来るというのか?

 何人かの十二支んは疑問に思うと同時にすぐにパリストンを睨みつける。いつもと変わらない爽やかな笑みを浮かべている胡散臭い表情だ。確実にこいつが何かをしたのだと理解する。と言っても、何をしたのか、誰を連れてきたのか、何が目的なのか。さっぱり理解出来ないのだが。

 

 そして誰よりも嫌な予感がしているのがネテロだ。この状況は確実にパリストンが作り出した状況だろう。ネテロが辞任を表明してから既に2ヶ月が過ぎている。それからというもの十二支んが何度も心変わりを申し出ていたが、こうして十二支ん全員――ジンは除くが――が集まって会議を開いてまでネテロに詰め寄ったのは初めてだ。

 そんな時にこのタイミングでパリストンが電話に応対してすぐに客が来る。100%黒だとネテロは確信していた。そしてパリストンはネテロを困らせることに全力を尽くす男だ。ならばこれから起こることはネテロに取って良い出来事になる可能性は限りなく低いだろう。

 

「どうぞ入ってください」

「失礼します」

 

 ドアを開けたのはプロハンターの一員であり、その中でも協専と言われている男だった。

 

 協専とは、協会の斡旋を専門としているハンターの略称である。

 ハンター協会には政府や企業から直接仕事を請け負い、それをプロハンター達に依頼として斡旋するケースが多々ある。この依頼を受けたハンターは仕事の成否に関わらずリスクや難易度に応じた一定の報酬が協会から保証されている。その為これだけを仕事として選ぶハンターもいるのだ。それが協専と呼ばれるようになったのである。

 

 これら協専はそれ以外のハンターから揶揄されることがままある。プロとしての自分に誇りを持つハンターが多い中、仕事を斡旋してもらって小銭稼ぎをしていると思われやすい協専は誇りがないように思われがちなのだ。

 そしてもう1つ理由がある。それは協専ハンターが副会長子飼いのハンターだと実しやかに噂されているからだ。

 

 協会の依頼斡旋は協会の審査部と呼ばれる機関が取り仕切っている。1つの依頼に多くのハンターの応募が殺到した場合、彼ら審査機関がハンターを審査し適切だと思われるハンターを選出するのだ。つまり協専のハンターは審査部に逆らうことはまずないと言えた。彼らの心証を悪くすれば依頼を受けられないことすらあるのだから。ここら辺が誇りがないと呼ばれる所以だろう。

 

 そして審査部は副会長派の連中によって抱きこまれている……という噂があった。これが本当ならば審査部を通して副会長は協専ハンターを操ることが出来るということだ。

 噂は噂だ。確たる証拠はない。だが、経験あるハンターや十二支んの殆どはこれが真実であると確信していた。

 

 この協専が客とやらなのか? いや違う。戦闘にも優れている十二支んは協専の男の後ろに他の人間の気配があるのを感じる。

 

 これが客なのだろう。そして副会長子飼いの協専が客とやらを連れてきた。パリストンが噛んでいる確率100%から150%に上昇である。これで協専の男が客だったら200%だったが。

 

「それではお入りください」

 

 協専の男がドアを開いた後、誰かに入室するよう促す。

 そうして入ってきた者を見て大半の者が――誰だ?――と疑問を思い浮かべたが、ネテロだけが驚きの声を上げた。いや、気配を感じた時の驚愕が姿を見てようやく言葉になったと言うべきか。

 

「げぇっ! アイシャ!」

「失礼しま――って、何で私を見て驚きの声を上げるんですかネテロ?」

 

 ネテロの驚愕する様を見て誰もがこのアイシャと呼ばれる女性の正体を勘ぐる。

 この場で楽しそうに笑っているのはパリストンのみだった。




 ジャーンジャーンジャーン。
 パリストン動かすのめっちゃ難しい。頭のいいキャラは裏で色々するから動かす時は大変です。さじ加減が難しくて……。
 十二支んの紹介はところどころ想像も含まれています。細かい設定とかまだ分からないキャラたちですから。早く原作再開しますよーに。

 ハトの照り焼き様から頂いたイラストです。

【挿絵表示】

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