どうしてこうなった?   作:とんぱ

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第七十話

 まさに暴力の嵐。モントゥトゥユピーの攻撃は苛烈を極めていた。

 敗北寸前まで追い詰められたことがモントゥトゥユピーからゴン達への侮りを完全に消し去り、全力を尽くして排除するべき敵だと認識させたのだ。

 それは人間を餌という下等な存在と決めつけ侮っていたモントゥトゥユピーが精神的に成長したことを意味する。

 だがそれはゴン達にとってたまった物ではない成長だった。

 

 触腕がゴン達に向かって振るわれ続ける。鞭のようにしなるそれはモントゥトゥユピーの身体能力も合わせて見切ることも難しい速度に達している。

 しかもその触腕は戦闘当初よりもさらに細かく複数に分かれていた。数を増やしたことでより細くなり、オーラも分散し攻撃力は下がっている。

 だが元々脅威的な攻撃力を誇るモントゥトゥユピーだ。これでもゴン達に十分なダメージを与えることが出来るだろう。

 一撃一撃は弱くとも、数を増やすことで当たりやすくなる。当たりさえすればダメージを与えることが出来る。そうすればいずれ足も止まる。そこで止めをさせばいいだけだ。

 大振りの、最大の一撃など必要ないのだ。敵がどれほど巧く、どれほど戦闘に熟達していようと、脆いことに変わりはないのだから。

 

 そしてモントゥトゥユピーのその結論は間違ってはいなかった。

 今はまだ耐え凌いでいるが、この触腕の嵐に曝され続けるといずれは飲み込まれるだろう。そこに待っているのは明確な死だ。一撃喰らえば骨に影響が出るような攻撃が無数に高速で飛んでくるのだ。動きを止めた瞬間にその身を肉塊に変えられることになるだろう。

 

「クソッ! このままじゃ!」

 

 ジリ貧だ。

 ミルキの言葉の続きは声にはならなかったが、その場の誰もが理解していた。

 このまま守勢に回っていても敗北するまでの時間が長くなるだけだ。ただ生きながらえているだけではいずれ動きを捉えられるだろう。

 そうなる前に何とかして倒しきらなければならないのだが……。

 

「くっ!」

「ゴン!?」

 

 触腕の一撃がゴンの身を掠めていく。まともに食らったわけではないのに掠めただけでゴンの体がぐらつく。

 そこにさらに追撃とばかりに複数の触腕がゴンを襲う。

 だが、その触腕はゴンに触れることなく大地を抉ることとなった。

 

「クラピカ!」

 

 キルアが叫ぶよりも早くにクラピカの鎖がゴンを間一髪のところで引き寄せその命を救っていた。ゴンが無事だったことでホッとするキルア。だが一息吐く間もなくキルアにも複数の触腕が飛び掛って来た。

 

「ちぃっ!」

 

 持ち前の素早さでそれらを何とか躱すが、それだけだ。躱したところで反撃を行うことは出来ない。今やモントゥトゥユピーの周囲には隙間を見つけるのも困難な程に触腕が振り回されているのだから。

 

 危機を乗り越えられたものの、所詮は一時的、ただのその場しのぎに過ぎない。そう思わせるようにモントゥトゥユピーはゴン達をジリジリと追い詰めていた。

 焦らず、獲物が疲弊するまで攻撃の手を緩めずに徐々に徐々に近づいていく。

 

 その冷静さにたまったものではないのはゴン達だ。

 

「冗談じゃねーぞ! どう見ても力馬鹿なのにせこい戦いしやがって!」

 

 あまりな状況にレオリオが思わず悪態を吐く。

 

「わめいたところで状況は変わらん! 今は活路を開く方法を考えるんだ!」

 

 カイトの言葉に全員が冷静さを取り戻し活路を見つける為に思考を繰り広げる。

 その間にもモントゥトゥユピーの攻撃は止んでいないが、回避に徹したゴン達ならば避けることは不可能ではなかった。

 ある一定以上の距離を保てば触腕は届かず、例え届いたとしてもゴン達ならば反応して避けることが出来る。

 かと言って離れすぎてモントゥトゥユピーを見失わない絶妙な位置取りをゴン達はしてたのだ。

 

 だが、それにも限界というものがあった。

 

「ぐあぁっ!」

 

 高速で迫る触腕を躱しきれず吹き飛ばされるレオリオ。

 一撃でもまともに受ければ致死的なダメージを負う攻撃に曝され続けているのだ。

 神経を削りながらの回避は確実に体力と精神を疲労させていくだろう。そしてレオリオは先のダメージを回復させる為に【掌仙術/ホイミ】を使ったことでさらにオーラを消耗していたのだ。

 オーラの消耗は体力の消耗に等しいものがある。そうした悪環境が重なり、とうとうレオリオはモントゥトゥユピーの攻撃を浴びてしまった。

 

「レオリオーッ!」

 

 咄嗟にガードは出来たのか、攻撃を受けた右腕はひしゃげている。しかも腕越しに内臓にまで衝撃が伝わったのか吐血もしていた。

 どうやら即死というわけではなく、力なく膝をつき【仙光気/リホイミ】によって回復してどうにか体勢を立て直そうとしているが、そんな行為も僅かに生きながらえるだけの無駄な行為なのかもしれない。

 何故なら、吹き飛び体勢を崩したレオリオを見て好機と悟ったモントゥトゥユピーが、猛然とレオリオに接近し止めの攻撃を繰り出そうとしていたからだ。

 

 ――まずは1匹!――

 

 鬱陶しい蠅のような連中をようやく1匹消せることに悦びの感情を見せるモントゥトゥユピー。

 だが、すぐにその顔は嗜虐の表情から苦悶の表情へと変化することになった。

 

 モントゥトゥユピーが振るった無数の触腕。

 それは体勢を崩し、重傷を負ったレオリオでは避けることも受けることも不可能な攻撃だ。一体幾つの触腕を振るったのか。数えるのも億劫なそれが目にも止まらぬ速度で鞭のようにしなり襲いかかるのだ。

 上下左右から迫り来る触腕。今のレオリオにそれを凌ぐ方法はないだろ。

 

 そう、レオリオには、だ。

 

「させん!」

 

 レオリオが吹き飛ばされたと同時に。モントゥトゥユピーがレオリオに駆け出し追撃を繰り出すよりも早くにそれを阻止するように動いた人物がいた。

 それはカイトだ。この場で最も念と戦闘の経験が豊富なカイトは、この場の誰よりも状況を判断して咄嗟に動くことが出来たのだ。

 

 だが、迫り来る触腕を前にカイト1人でレオリオを庇いきれるのだろうか。最悪殺されるのが1人から2人に増えてしまうだけになるかもしれない。

 キルアはこの状況で電気を節約する為に【神速/カンムル】を使用していなかったことを後悔した。咄嗟に【落雷/ナルカミ】を放ちモントゥトゥユピーの動きを止めようとするが果たして間に合うかどうか。

 

 だが、そんなキルアの後悔を切り裂くように、カイトは右手に持つ刀を一閃した。

 無数の触腕に対してひと振りの斬撃など焼け石に水としか言えないだろう。

 誰もがそこでカイトとレオリオの命運は尽きたと思った。この荒れ狂う無数の死の洗礼に、たった1本の刀を一閃したところでどうなるというのか?

 

 だが、カイトの持つ刀はただの刀ではなかった。【気狂いピエロ/クレイジースロット】というカイトの念能力で具現化した武器なのだ。

 【気狂いピエロ/クレイジースロット】は様々な武器に変化することが出来る具現化系能力だ。そしてその武器の変化はカイトの自由に選ぶことができない。その名の通り、スロットで出た数字に割り振られた武器へと変化する仕組みだ。

 しかも一度でも出した武器は使用しない限り変えられないし消すことも出来ないというデメリットもあった。

 

 状況に応じて自由に武器を変化させることが出来れば便利なのだが、デメリットというのは念能力に置いて1つの強みでもあった。

 そう、武器がランダムに変化しその場の状況に合わせられず、簡単に武器を変えられないという制約があるからこそ、変化した武器1つ1つに強力な能力を付けることが可能なのだ。

 

 そしてカイトが振るった刀の能力。

 それはオーラを籠めれば籠める程に斬撃を増やすことが出来るというものだった。

 ひと振りの斬撃にて同時に幾重もの斬撃を放つことを可能とする能力。制約として斬撃は刀の斬撃範囲内というものがあり、斬撃を増やせば増やすほどオーラの消費も膨れ上がる欠点もある。

 だがこの状況では最適の能力だろう。カイトはここ一番でこの刀が出ていたことに自身の運も捨てたものではないと笑みを浮かべていた。

 

 いくらカイトと言えども、広範囲に広がる無数の触腕を全て切ることなど出来はしない。だが今モントゥトゥユピーはレオリオを倒す為に全ての触腕をレオリオに向かって振るっていた。

 1人の人間を狙うならば、どれだけ広範囲だろうと最後には1つに向かって収束されていく。もちろん全ての触腕が同時に迫ってくるわけではない。多少のバラつきはあって当然だった。

 だが、カイトはその触腕の全てが刀の斬撃範囲に入る一瞬のタイミングを見極め、渾身のひと振りを放ったのだ。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 それはまさに刹那の見極め。

 もし僅かでも遅れていれば切られるよりも早くに触腕はレオリオとカイトを貫いていただろう。

 もし僅かでも速ければ切り裂ききれなかった触腕がレオリオとカイトを貫いていただろう。

 

 レオリオへと迫る無数の触腕は、同じく無数の斬撃によって全てが切り払われた。

 これに驚愕したのはその場にいるカイト以外の全員だ。あれだけの触腕を刀のひと振りで切り裂くとは思ってもいなかったのだ。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 その中でも一番驚愕したのはもちろんモントゥトゥユピーだ。

 必殺を確信した攻撃を、たった1人の人間に防がれるばかりか、あれだけの触腕の全てを切り裂かれるなど思ってもいなかったのだ。

 

 実際は無数に分かれた触腕だからこそ切り裂けたのだが。

 もし触腕の数が半分ほどだったら。つまり触腕1本1本の太さが今の倍だったならば。左手を負傷し片腕しか使えない今のカイトの攻撃力では触腕の全てを切り裂くことは不可能だっただろう。

 

 だがそんな事実など今は関係がない。全ての攻撃が無効化されたことにモントゥトゥユピーが衝撃を受けたことに変わりはないのだ。

 そしてそんなモントゥトゥユピーの衝撃は、彼に大きな隙を作り出すこととなった。

 

 これまでの人生で最大数の斬撃を生み出した為、オーラを消耗しすぎたカイトは息を荒げながら大地に膝をつく。

 恐らく戦闘に回す余力はないだろう。カイトは自己の戦力を冷静にそう判断する。だがカイトは戦闘意欲を敵に見せつける為に刀を構える。

 ハッタリも時には武器になるのだ。警戒に値すると思い込ませていれば先程のような攻撃も躊躇うかもしれないのだから。

 

 実際にはもう刀を振るう体力もない。だが、そんなことをおくびにも出さずにカイトは叫んだ。

 

「攻めろーーっっ!!」

『っ!!』

 

 カイトの叫びに反応してゴン達は未だ呆然としているモントゥトゥユピーを攻め立てる。

 一番最初にモントゥトゥユピーを攻撃したのはゴンだ。レオリオを助けようと無謀にもレオリオの前へ出ようとしていたのが幸いしたのか、今のゴンはモントゥトゥユピーに最も近い位置にいたのだ。

 

 そして全力でオーラを籠めて僅かな溜めを作り、今出来うる全力の一撃を放った。

 

「最初はグー! ジャンケン、グー!!」

 

 放ったのは拳ではなく、蹴りだった。

 ゴンの両腕はモントゥトゥユピーの攻撃を防御した為に罅が入っているのだ。罅程度で攻撃を躊躇うゴンではないが、どうしてもそれでは攻撃力が落ちてしまう。無意識に庇う庇わない以前に、力が上手く伝達しないのだ。

 

 そこで足だ。足は腕の三倍の力があると一般的に言われている。

 その足に全ての顕在オーラを籠め、【ジャン拳】の要領で思い切りモントゥトゥユピーを蹴りつけたのだ。

 

「ぐああっ!?」

 

 脇腹を抉るような鋭く重い一撃に、あのモントゥトゥユピーが確かな苦痛の声を上げた。

 効いているのだ。ゴンの一撃が、圧倒的な暴力の化身に確実に届いたのだ。それは人間の力が王直属護衛軍に通用するという証でもあった。

 

「こ、この……!」

 

 自身に二度も痛みを与えた小癪な雑魚に仕返しをしようと大木のような足で蹴りを放とうとする。

 だがその足には既にクラピカの鎖が巻きついていた。

 

「うおお!?」

 

 地獄もかくやという修行のおかげで習わずとも柔の一部を手に入れたクラピカ。そんなクラピカにとって、今のモントゥトゥユピーのバランスを崩し転倒させることは造作もなかった。

 

 蹴り上げようとした足を勢い良く引っ張られて転倒したモントゥトゥユピーに更に追撃が入る。

 

「ぬっ! ぐっ!?」

 

 ミルキが倒れたモントゥトゥユピーに遠慮ない攻撃を叩き込む。一撃や二撃ではない、出来うる限りの連撃をその巨体に叩き込み、そして同時に自身のオーラを流し込んでいった。

 

「図に乗るなカスどもがァァーーッ!!」

 

 咆哮一閃。

 いいようにやられ冷静さを失い憤怒に飲まれたモントゥトゥユピーは、その体から無数の刺を生み出しミルキを串刺しにしようとする。

 だが、ミルキは刺が生える前兆を見て即座にその場から離れていた。

 過去はともかく、ミルキはあのゾルディックで暗殺者として過酷な修行を受けてきたのだ。一度放った敵の攻撃、しかも僅かに予備動作があるのを見ていたならばそれを察知することくらいは出来た。

 

 攻撃を避けられたことを忌々しげに思いながらも立ち上がるが、そこでモントゥトゥユピーは僅かに違和感を覚えた。

 

 ――何だ? 何かおかしいぞ?――

 

 ほんの僅かではある。だが確かに何時もより体が重たく感じたのだ。

 それは気のせいではなくミルキの能力によるものだ。自身のオーラに触れた物の重さを操作出来る能力。ミルキは先程の攻撃で出来る限りのオーラを流し込んでいたのだ。

 

 だがモントゥトゥユピーはそんな小さな違和感を怒りによって吹き飛ばした。

 圧倒的な身体能力と溢れんばかりのオーラで増した自身の重さなど気にせず動き出したのだ。

 

 立ち上がったモントゥトゥユピーはまずは邪魔な鎖を砕こうとする。その為に肉体を変化させながら切り裂かれた触腕を腕として再生させる。

 これはモントゥトゥユピーの念能力によるものではない。モントゥトゥユピーが生来持つ生物としての能力だ。

 

 キメラアントで唯一魔獣の混合型として産み出されたモントゥトゥユピー。

 その為か、念能力を用いずとも肉体の細胞を変化させある程度自由に体を変形させることが出来た。そしてそれを応用して腕を生やしたのだ。もちろんちぎれた腕が元に戻ったわけではないので全体の体積は減少しているが。

 

 体積の減少は自ずとモントゥトゥユピーの戦闘力の減少に繋がるのだが……。

 自身を縛る鎖を握り締め、引きちぎろうとするモントゥトゥユピーの力を鎖越しで感じたクラピカにはモントゥトゥユピーの戦闘力の減少など微塵も感じられなかった。

 

「な、何という馬鹿げた力だ!」

 

 力と言えばクラピカにとって最も印象づいていたのは幻影旅団が1人、筋骨隆々の男ウボォーギンであったが、これはそれを遥かに上回る力だ。

 最も頑丈なはずの、そして【絶対時間/エンペラータイム】によって100%の出力を発揮し強化系の力で強化された【打倒する人差し指の鎖/ストライクチェーン】が容易く軋みを上げていく。このままではものの数秒で引きちぎられるだろう。

 

 モントゥトゥユピーは両手で鎖を掴みこのまま一気に引きちぎろうと力を籠める。

 だが力を入れた瞬間に鎖が突如として跡形もなく消え失せてしまった。クラピカが具現化を解いたのである。物の出し入れが自由なのが具現化系の強みの1つだ。

 そして力を込めた瞬間に力を入れる対象が消えてしまった為、またもモントゥトゥユピーは思い切り体勢を崩すことになった。

 

「よっと!」

「ぎっ!?」

 

 そんな大きな隙を突いたのはキルアだ。

 今も【神速/カンムル】は使用していない。長期戦を見越して電気を節約しているためだ。【神速/カンムル】を使えばモントゥトゥユピーですら反撃出来ない程の速度で攻撃出来る自信はキルアにはあった。

 だがそれで出来るのは僅かな時間稼ぎくらいだ。モントゥトゥユピーを殺しきるには圧倒的に攻撃力が足りなかった。

 そしてそれ以上に充電している電気も心もとなかったのだ。ここぞという時にしか電撃系の能力は使用するつもりはキルアにはなかった。

 

 体勢を崩したモントゥトゥユピーの顔面をキルアは思い切り蹴り飛ばす。

 ゴンほどの攻撃力はない為に然程のダメージにはならないが、それでも体勢を崩していたモントゥトゥユピーに尻餅をつかすには十分な威力だ。

 続けてクラピカが尻餅をついたモントゥトゥユピーを再び【打倒する人差し指の鎖/ストライクチェーン】にて両腕を含んだ胴体を縛りつける。

 

 そしてまたもその隙を突いてゴン達が殺到した。

 ゴンの【ジャン拳グー】による蹴りにて大地に沈み込むモントゥトゥユピー。

 ミルキも僅かでも動きを鈍らせる為に攻撃と共にオーラを流し込んでいく。

 キルアは頭部を集中して攻撃し脳にダメージを蓄積していく。脳震盪の1つでも起こしてくれたら万々歳だ。

 

 各々が出来る限りの攻撃でモントゥトゥユピーを打倒する。

 1つ1つの攻撃は積み重ねとなり、確実にモントゥトゥユピーにダメージを刻んでいた。

 

 ゴンの攻撃は何よりも大きなダメージを与えている。だがオーラも相応に消耗し、【ジャン拳】の使用も残り数回が限度だろう。後先を考えればこれ以上の消耗は自殺行為になる可能性が高い。

 それでもゴンは全力の一撃を叩き込み続ける。例えそれで倒せなくても、少しでも敵の動きが鈍ることに繋がれば後は仲間が何とかしてくれると信じているから。

 

 ミルキの攻撃も目には見られないが確かな効果を発揮していた。

 どれほど重量を増しても然程の影響も見られないモントゥトゥユピー。だが既にモントゥトゥユピーに掛かる重量は本来の10倍以上に膨れ上がっていたのだ。

 生来のオーラ量と身体能力でそれを誤魔化しているが、戦闘当初のように無数の触腕で攻撃をすれば増した重さによって本来の攻撃速度は確実に落ちているだろう。鞭のような細長くしなる物ほど重さの影響は受けやすいのだから。

 

 キルアの攻撃は攻撃力の問題によりそこまでのダメージを与えてはいない。本来なら目や耳といった防御力のないデリケートな部位を攻撃したいのだが、流石のモントゥトゥユピーもそれは警戒して頭を大きく振るい攻撃箇所を絞らせないようにしていた。無理に攻撃しようとすれば大きな反撃を受けるやもしれず、仕方なく後頭部や延髄といった部位を攻撃する。

 如何に頑丈であろうとも頭部というものはデリケートなものだ。一撃一撃の威力は低くとも、積み重ねれば衝撃は徐々に浸透していく。その僅かな積み重ねが戦闘の結果を左右することもあるのだ。そう信じて神経を削りながらキルアは攻撃を続けていた。

 

 クラピカも鎖を上手く使って出来るだけモントゥトゥユピーの動きを制限する。

 幾度となく鎖をちぎられそうになるが、その度に鎖を緩めたり、力に逆らわないようにしたりと上手く敵の力を受け流していた。もしクラピカの鎖がなければゴン達はこうも自由に攻撃出来ていなかっただろう。ダメージは与えていないが、最大の殊勲はクラピカにあるだろう。

 

 そして本日最大の攻撃が、モントゥトゥユピーを襲うことになった。

 

「ゴン!」

「うん!」

 

 モントゥトゥユピーへの攻撃を一端取りやめ、オーラを集中していたゴンに触れるミルキ。すぐにミルキの意図を理解し、ゴンは全力の一撃を叩き込む。

 

「さい、しょは、グー! ジャンケン、グー!!」

 

 残りのオーラの殆どを詰め込んだ一撃。

 まるで踏みつけるように放たれたその一撃がモントゥトゥユピーに触れる直前に、ゴンの重量が一気に増した。ミルキがゴンに大量のオーラを流し込んでその重量を操作したのだ。

 

 体重が増すということは一撃の重さも増すということだ。

 あまりに重くなると通常の戦闘も困難になるが、振り下ろしの一撃ならそれほどの影響も出ない。

 腕の3倍の力の足で、全力の硬をして、数百キロの重量となったゴンが、モントゥトゥユピーを踏みつけたのだ。

 

「ーーっっ!?」

 

 もはやモントゥトゥユピーの口から出た叫びは言葉になっていなかった。

 口からは血反吐が吐き出され、大地に沈み込んでいくモントゥトゥユピー。どうやらあまりの威力に大地に大穴が出来てしまったようだ。

 その破壊はウボォーギンの【超破壊拳/ビックバンインパクト】をクラピカやキルアに思い出させる程だった。

 

「うおっ!?」

「と、とんでもないな」

 

 あまりの破壊力に近くにいたキルアもミルキも、そして攻撃を放ったゴンすらも衝撃で吹き飛ばされていた。

 まさに必殺の一撃。これを受けて生きていればそれはもう化け物としか言いようがないだろう。

 

「……やったか?」

「分からない。手応えは、あったけど……」

 

 キルアの呟きに全身から珠のような汗を吹き出すゴンが息絶え絶えに応える。

 もうゴンには戦闘力は殆ど残っていない。カイト同様戦闘の続行は難しいだろう。

 

 これで終わってくれ!

 だが……そう願うゴン達全員の祈りは、儚くも散ることとなった。

 

「っ! 全員離れろーっ!」

 

 最初に異変を感じたのはクラピカだった。

 クラピカの鎖は未だモントゥトゥユピーを縛り付けていた。だが、突如としてその鎖が砕け散ったのを感じ取ったのだ。原因を察し、そして膨れ上がる圧力を前にクラピカは一時的な退避を選んだ。

 

「あああああああーーーーーっ!!! どいつもこいつもーーーーーーっ!!!」

 

 穴から現れたのはモントゥトゥユピー……と思われる何かだ。

 モントゥトゥユピーが沈んだ大穴から現れたからこそそう思えたのだ。

 一目見てモントゥトゥユピーと理解出来ないほどに、今の彼はかつてのそれとは決定的に違うほど見た目が変化していた。

 

 人間という下等生物にいいようにされるという屈辱が怒りとなり、冷静さを保とうとしていた理性を振り切ったのだ。

 怒りのままに肉体を変化させた結果、モントゥトゥユピーの肉体はその怒りに見合ったように膨れ上がっていた。そこから感じ取れるのは破壊。その一言に尽きるだろう。

 

 モントゥトゥユピーは怒りの全てを右腕に込めて怒りの対象に向けて振り下ろす。まるで天が墜ちてきたかのような錯覚。それを前にして立ち向かうという選択肢は今のゴン達にはなかった。

 

 クラピカの叫びを聞いて誰もがその場から離れる。

 キルアはゴンを、ミルキはカイトを、クラピカはレオリオを担ぎ、全力で疾走する。直後、破壊の鉄槌が大地に振り下ろされた。

 

 爆音。衝撃。そのどちらも先のゴンの一撃を遥かに上回るものだ。

 その衝撃は空気を伝播してゴン達を吹き飛ばした。直接命中すれば骨すら残らないだろう。その証拠と言わんばかりに大地にはゴンが作った大穴を超えるクレーターが出来上がっていた。クレーターから少し離れた森の中に隠れたゴン達はそれを見て呆然とするしかなかった。

 

「体重軽くしてこれかよ……」

 

 ミルキは攻撃の瞬間に能力を操作してモントゥトゥユピーの体重を減少させていたのだ。前述した通り体重と破壊力は密接している。その体重を出来る限り減らしてなおこの威力だ。通常時の体重ならばこの数段上の威力になっていただろうと想像するとゾッとするしかないミルキだった。

 

「ば、化け物め……!」

 

 クラピカはクレーターと、あのゴンの一撃を受けて未だ健在なモントゥトゥユピーを見てそう呟く。

 一体どうやったらこの化け物を倒すことが出来るというのか? その明晰な頭脳を必死に回転させながら様々な手段を模索する。

 

 だが――

 

 ――ゴンもカイトも既にオーラを殆ど使い果たしている。これ以上の戦闘は困難だろう――

 ――キルアの【神速/カンムル】も決定打には成らない。ああも肉体を変化させる化物だ。急所を攻撃しても殺しきれるとは限らん――

 ――ミルキの能力にも限界はある。これ以上重くすることは難しく、出来たとしても奴の動きが多少鈍る程度――

 ――レオリオも限界だ。多少は回復しているようだが、それでも傷は重すぎる。まともに動くことも出来まい――

 ――くそっ! 私の鎖で勝負が決まっていたら! 唯一通じる【束縛する中指の鎖/チェーンジェイル】は脆すぎて容易く壊されるだろう――

 

 手詰まりか。誰もがそう考えた。

 手札の大半を消費し、残っているのはほんの僅か。

 だというのに敵は未だピンピンしているのだ。

 

 確かにダメージは与えている。確実に消耗している。

 だが、こちらのダメージと消耗はそれ以上なのだ。

 

「おれが、食い止める。……その間に、逃げろ」

 

 カイトが力なく刀を構えてそう告げる。

 ここに至ってはもはや負け戦だ。ならば犠牲は少ない方がいいに決まっている。

 そう思っての自己犠牲だったが、ゴン達は誰もがその場から動こうとはしなかった。

 

 逃げる? そうすれば命は助かるだろう。カイトが時間を稼いでくれたならば、そしてこの森を利用すれば手負いの仲間を連れて逃げることは可能だろう。

 だがそれはアイシャを見捨てるという結果に繋がる。もしあの敵が王の援護に向かいでもすれば……。

 王の言葉を信じるなら、王の命令を忠実に守るのなら、モントゥトゥユピーは王の援護はしないのだろう。

 だが王が敗北しかけたならばそれも確かではない。王と護衛軍を同時に相手にして1人で勝てるわけがない。

 

 逃げればアイシャは確実に死ぬ。

 それを許せるような者はゴン達の中にはいなかった。

 

「逃げない……絶対に、ここでこいつを倒す!」

 

 ゴンがなけなしの体力を振り絞って立ち上がる。

 

「当たり前だ。こんな木偶の坊とっとと倒してアイシャを助けに行くぞ」

 

 キルアが最後の切り札である【神速/カンムル】を何時でも使用できるよう心構えをする。

 

「相手も消耗している。ならば勝機はないわけではない」

 

 クラピカは頭で考えて出た結果を切り捨て、全てを投げ打ってでも倒す覚悟を決める。

 

「お姫様を置いて逃げるなんて締まり悪すぎんだよ」

 

 ミルキも叩き込まれた暗殺の掟を無視して圧倒的強者に立ち向かう。

 

「お前ら……死んでも知らんぞ」

 

 たった1人で絶望の権化と立ち向かっている仲間を思うと、弱気になんてなれるわけがなかった。

 

 

 

 ゴン達が覚悟を決めた直後、クレーターにいるモントゥトゥユピーはその姿を元の状態に戻していた。それと同時にモントゥトゥユピーは冷静さを取り戻していた。

 

 激しい怒りを糧に放たれた一撃は大きな破壊を生み、同時に快感を伴っていた。

 そして急速な体積の減少はモントゥトゥユピーに強い喪失感を伴わせた。

 それは激情にかられたモントゥトゥユピーに冷静さを取り戻す要因となっていた。

 

 そしてそれは己の力の使い道を理解する切っ掛けとなってしまった。

 怒りを溜め込み肉体とオーラを増幅する能力。それを冷静に利用する。

 冷静に怒りを溜めるという矛盾。それを可能とするのは滅私の奉公だ。

 己の全ては王の為にある。その精神が、矛盾を越えてモントゥトゥユピーの力となったのだ。

 

「ちょこまかと逃げやがってクズどもがぁっ! 逃げずに向かって来やがれぇーー!!」

 

 能力を利用する為に偽りの怒りをわめき散らす。

 偽りなれど言葉にして行動することで確かな怒りも蓄積されていく。

 その怒りを冷静に管理しコントロールすることが出来れば、己はより王に貢献出来るようになるだろう。

 

 それは敵を打ち倒すという結果に繋がる。

 モントゥトゥユピーはこうして怒り狂う様を見せればゴン達が攻撃をしてくると理解していた。

 ここまで自身がやられたのは冷静さを失った時が殆どだ。そしてあの怒りに爆発した自分を見た奴らのことだ。同じことをすればその隙を突いて来るに決まっている。

 

 そのモントゥトゥユピーの考えは、ゴン達に取って致命的なまでに正しかった。

 

「あいつ……まだ怒りに囚われているのか」

 

 モントゥトゥユピーの叫びが辺りに響き渡る。それは当然ゴン達にも届いていた。

 

「好機だ」

「ああ。あの攻撃の直前、膨張した瞬間を狙えば……」

「あれだけの攻撃だ。オーラの消費も激しいだろう」

「あとはヒット&アウェイか。分が悪すぎるぜ」

「でも、やるしかないよね」

 

 覚悟を決めて怒りを振りまくモントゥトゥユピーに対し、決死の特攻を仕掛けようとする。

 その怒りが偽りと気付かずに……。

 

「ま、待て」

 

 だが、そんなゴン達に制止の声が掛かった。

 その声の主はレオリオだ。重傷を負ったレオリオが、そのボロボロの体で再び大地に立ち上がっていたのだ。

 

「レオリオ! 休んでいた方がいいよ!」

「ああ、流石にお前は無理だ。傷が重すぎる」

 

 レオリオもこの特攻に参加すると思ったのだろう。

 ゴンとキルアがそれを押しとどめるよう説得する。

 

「正直、今のお前は役立たずだ。今の内に【高速飛行能力/ルーラ】で帰った方がいい」

 

 ミルキの言葉は決して責めているのではない、それは優しさから来る言葉だ。

 親友とも言えるようになったレオリオに死んでほしくない。そして出来ればキメラアントの脅威を多くの人に伝えてほしい。

 そんな想いが籠められた言葉だ。

 

「ば、ばーか。オレが一番あいつを倒すのに貢献出来るってんだよ……」

 

 力なくもそう言って笑うレオリオにゴン達が怪訝な顔をする。

 強がりかと思うも、レオリオが持つ能力を思い出してゴンが叫んだ。

 

「あ! 【閃華烈光拳/マホイミ】!」

 

 そう、レオリオの切り札である【閃華烈光拳/マホイミ】。

 細胞を崩壊させるという、生物であれば防御は不可能な絶対攻撃だ。

 

「確かにあれなら……」

「あ、ああ。頭に叩き込んでやりゃ……イチコロだぜ。だ、だからオレを……オレを無事にあいつに、たどり着かせてくれ!」

 

 口から血を出しながらも力強く宣言する。膝はガクガクと震え、立っているのもやっとだろう。既に【仙光気/リホイミ】は使用していない。【閃華烈光拳/マホイミ】の為にオーラを温存しているのだろう。それだけオーラを消耗しているということだ。

 だが、その瞳に籠められた覚悟は全員に伝わっていた。

 

「……分かった。なら、絶対にお前を連れてってやる。あの化け物には指一本触れさせないぜ。その代わり、絶対にぶちかませよ」

「任せろ!」

 

 レオリオの覚悟を受け取ったキルアの言葉に、レオリオが全力で応えた。

 

「皆、作戦変更だ。オレ1人であいつを食い止める」

「キルア?」

「これは賭けだ。全てのチップをレオリオに賭けるぜ」

 

 ここが全ての使いどころだとキルアは確信した。【閃華烈光拳/マホイミ】を当てる為に全てを賭ける。それが1番勝率が高い道だと確信したのだ。

 

「皆はレオリオが攻撃した後に合わせて攻撃してくれ」

「……よし、キルアの作戦で行こう」

「いいのか?」

 

 カイトの確認の言葉に、クラピカだけでなくゴン達全員が頷いた。

 

「キルアとレオリオなら絶対にやってくれるよカイト」

「オレ達はその後押しをするだけさ」

「レオリオは私が運ぼう、1人では走るのも辛いだろう」

「わりぃな……」

 

 どうやらゴン達の中ではこの作戦で決定しているようだ。仲間同士、友達同士で信頼しあっているのだろう。誰もが失敗を考えずに自身に出来る最善を尽くそうとしていた。

 それを見てカイトは羨ましいと素直に思った。これ程の仲間はそうは見つからないだろうと。

 

「よし、ならさっさと行くぞ。どうやら奴さんも待ちくたびれているようだしな」

 

 未だにクレーターの中からは破壊と怒号が響いていた。まるで触れるもの全てを壊し、目に映るもの全てを憎むような怒りの咆哮にすら聞こえる。

 だが、今さらそのようなことで臆するような者はこの場にはいなかった。

 

 キルアを筆頭に全員がクレーターの端に立ち、眼下にて暴れ狂うモントゥトゥユピーを見下ろす。

 

「カスどもが! ようやく姿を現しやがったか!!」

 

 ようやく獲物がやって来たことに内心で嘲笑するが、それをおくびにも出さずにモントゥトゥユピーは怒る振りをする。

 

「群れなきゃ何も出来ない雑魚が手間ばかり取らせやがって! 殺す!! てめぇら全員ぶち殺してやるっ!!!」

 

 モントゥトゥユピーは激情を冷静にコントロールしながら怒りを溜めていく。

 出来る。自分ならこの能力をコントロールすることが出来る! そう強く思うことで本当に自身の新たな力を自在に操れるようになりつつあった。

 

「はっ。お前にゃ無理だ木偶の坊」

 

 キルアのその一言が合図となった。

 モントゥトゥユピーはこれを切っ掛けに怒りに我を忘れた振りをして膨張を開始しようとした。相手もそれを見越して攻撃をしてくるだろうとモントゥトゥユピーは確信している。

 膨張による一瞬の隙を突くくらいは出来る実力の持ち主達だと敵であるゴン達を完全に認めていたのだ。

 

 その瞬間を狙い、膨張をコントロールして元の肉体へと戻り逆にカウンターを叩き込む。どれだけ巧く連携を取れようと、どれだけ自分を翻弄出来ようと、脆弱な肉体を誤魔化すことは出来はしない。分かたれた触腕ではなく、この太い腕で殴りつければ確実に殺せるだろう。

 この雑魚どもを蹴散らして、新たに得たこの能力を有効に利用しこれからも王の敵を排除する。それが己に出来る唯一にして最大の貢献なのだ。

 

 だが……モントゥトゥユピーが夢見るような最高の未来は、訪れることはなかった。

 

「ッ?!」

 

 膨張しようとしていたモントゥトゥユピーの肉体は突如としてその動きを止めた。

 それはモントゥトゥユピーが膨張をコントロールした――為ではない。膨張する前にモントゥトゥユピーの肉体が硬直した為だった。

 

 ――な、なにが!?――

 

 気付けばモントゥトゥユピーの眼前にはキルアの姿があった。

 何時の間に? そう驚く暇もなく、更なる硬直と衝撃がモントゥトゥユピーを襲う。

 

「ガッ!? ギッ!!」

 

 またも反応する間もなく攻撃を食らった。いや違う。モントゥトゥユピーが行動を開始しようとした瞬間に攻撃を受けているのだ。

 

 これこそキルアの【神速/カンムル】の1つ、【疾風迅雷】の能力である。

 敵の害意を示すオーラの揺らぎに反応し、予めプログラムした攻撃が発動する。

 脳の命令を省いて反射で動くことを可能とするこの能力により限界を超えた速度で繰り出される攻撃は、容易にモントゥトゥユピーの動きを凌駕した。

 

 どれだけ足掻こうとも、どれだけ殺意を高めようとも、全ての動きに機先を取られる。純粋な実力では確実に勝っている、だというのにこうして苦戦を強いられている。モントゥトゥユピーは今ここで完全に理解した。これが念、これが人間だと。

 

 そして、まともに動くこともままならぬモントゥトゥユピーに、同じくまともに動くことも出来ずクラピカの力を借りてようやく近付いたレオリオが、最凶の一撃を放った。

 

「喰らえや! 【閃華烈光拳/マホイミ】!!」

 

 レオリオを抱えたままクラピカが跳び上がり、モントゥトゥユピーの頭部へと近付く。キルアにより動きを止められていたモントゥトゥユピーにそれを止めることなど出来ず、レオリオ渾身の【閃華烈光拳/マホイミ】は頭部を見事に打ち抜いた。

 

「ぐぬ!?」

 

 頭部を殴られたモントゥトゥユピーは衝撃に僅かにぐらつくも、予想を遥かに下回る威力の低さに困惑していた。この状況で放つ攻撃がこの程度なのか、と。

 ……だが、その困惑は更なる困惑によって上書きされることになった。

 

「あぁ? お、おご、あぁぁぁっ?!」

 

 殴られた頭部を中心に感じたこともない痛みが広がっていく。目眩に吐き気も催し、視界もおぼつかない。足もふらつき真っ直ぐに立つことも困難だ。

 何故? どうしてこんなダメージを?

 

 ――いや、そんなことよりもこいつ等を早く殺さねば――

 

 不可解なダメージを疑問に思うも、それよりも迫る敵を倒す方が先決だ。そう思うも体は言うことを聞きはしなかった。

 それもそのはずだ。レオリオの【閃華烈光拳/マホイミ】は細胞を破壊する念能力だ。

 かつてのレオリオの【閃華烈光拳/マホイミ】だと触れた部分にしか影響は与えなかった。だが修行により成長したレオリオの【閃華烈光拳/マホイミ】は触れた表面だけでなく内部にもその威力を発揮するようになっていた。

 もちろん表面に比べれば威力は落ちるが、脳という非常にデリケートな箇所だと大きな効果を発揮するだろう。

 

 つまり今のモントゥトゥユピーは脳を直接攻撃されたに等しい状態なのだ。

 そんなモントゥトゥユピーがまともに動くことが出来ないのは当然だろう。むしろまだ生きていることにその生命力の高さを窺えるというものだ。

 

 既に瀕死とも言えるダメージを負ったモントゥトゥユピー。だが、だからといってそれで攻撃を止めるゴン達ではなかった。

 

「これで!」

『終われぇぇっ!』

 

 立つこともままならず膝をついたモントゥトゥユピーに、ゴン、キルア、ミルキ、カイトが集中攻撃をする。全員が弱ったであろう頭部のみを狙い今出来うる全力の一撃を叩き込む。

 

「があぁぁぁぁっ!!?」

 

 細胞が崩れた頭部にそのような攻撃を叩き込まれて無事でいられるはずもなく……モントゥトゥユピーは完全に大地へと沈み込んだ。

 

 ――馬鹿な……オレが……こんな雑魚どもに――

 

 どいつもこいつも、1人1人の強さは大したことはなかった。

 だというのにそれぞれが協力して、工夫して、様々な方法で力を補うことで圧倒的な力の差を覆したのだ。

 今のモントゥトゥユピーには様々な感情が駆け巡っていた。

 王の役に立てなかった己の不甲斐なさ、王への申し訳なさ、人間などに殺られた悔しさ。そして……弱っちい人間の癖に己を打倒したゴン達への――

 

「す、げぇな……お、おまえ……ら………………」

 

 死に行くモントゥトゥユピーの口から出た最期の言葉は、恨みでも悔みでもなく……己を打倒した敵への賞賛の言葉だった。

 

 




カイトの刀はオリ設定です。

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