どうしてこうなった?   作:とんぱ

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第五十六話

 ほう。新たなパーティが挑戦に来たようだな。

 以前に16名のパーティが挑戦してから1週間は経ったが、メンバーはどのように変わったかな?

 あの時のパーティメンバーは殆どがオレが出る幕もないレベルの奴らだったが、その中でも5人だけは別格だったからな。

 途中から彼らはわざと勝負に負けていたから、その内彼等が中核となって挑戦しに来ると思っていたぜ。

 

 ゲームマスターとして、イベントキャラを演じつつここでプレイヤーを待っているが、ここまで辿り着けた奴は今までいなかったからな。

 暇で暇で仕方なかったんだ。今回は楽しませてくれよ。オレの出番が回ってくると期待してるぜ。

 

 灯台に入って来た15人のプレイヤー、いや、16人か。

 15人でいいと前回で分かっているだろうに、1人多いのはたまたまか?

 パーティを組んだチームが合計して16人になっただけ……というのはないな。

 明らかにあの16人の内の4人は格が低い。まともなプレイも出来ていない雑魚だろう。人数合わせに雇ったのは明白。ならば他に理由があるはず……。

 

 残り12人の戦闘レベルは申し分ないな。

 正直その全員と勝負をしたいくらいだ。残念ながら人数上の関係で出来ないがね。

 奴らが7勝した状況でオレの出番が来ても、残っているのが5人とクズでは興ざめだな。少々予定と違うが、雑魚を除き残り8人になったらオレが出るとしよう。

 

「また来たのか。懲りない連中だな。前にも言ったがオレ達をこの街から追い出したければオレ達に勝つんだな。互いに15人ずつ代表を出して戦う。1人1勝で、先に8勝した方が勝ちだ」

「そのことで1つ質問があります」

「ん? なんだ?」

「私は“同行/アカンパニー”で来た15人の中に入っていません。このソウフラビで合流したプレイヤーですが……。私はこの勝負に参加することが出来ますか?」

 

 ……なるほど。それで人数が1人多かったのか。

 初めから“同行/アカンパニー”で来れば良かったのにな。いや、ソウフラビにたまたま来ていたソロプレイヤーか?

 

「残念だがそれは無理だな。オレ達と戦う資格があるのは同じパーティの仲間だけだ。そうでない者は本来ここに入ることすら許されない」

 

 本当に残念だ。この少女の戦闘力はかなりのものだろうに。

 ……いや待て。そもそも“同行/アカンパニー”で一緒に来たパーティ以外はここに入れないようプログラムされているんだぞ? どうしてこの少女はそれを無視してここまで来られたのだ?

 グリードアイランドのシステムに不備が出たのか? それならシステムを担っている奴から連絡が来るはずだが……?

 

「おい。お前はどうしてここまで入ることが出来た? 15人以上のプレイヤーが“同行/アカンパニー”でソウフラビに来ない限りこの灯台に入ることは出来ないようになっているんだがな」

「……企業秘密です」

 

 どこの企業だ。

 恐らく念能力か。複数の念能力者が制約と誓約に膨大な神字まで籠めて作ったシステムだったんだが、どこかに抜け道があったか。スペルカードを防ぐ能力者が現れたとも聞くし、原因を調べさせて対処しないといけないな。

 それにしても、オレに言わなければバレなかったというのに正直なことだ。黙っていてくれればオレとしても嬉しかったのだが、知ってしまえばルールには従わなければならない。もちろんゲームマスターであるオレ自身もな。

 

「もう一度言うが、残念だがお前は参加不能だ。本来ならこの場から出て行ってもらうところだが、特別に見学なら許してやるぜ」

「……そうですか。ありがとうございます……」

 

 オレの答えに落ち込んだのか、少女は仲間に激励の声を掛けて壁際で座り込んだ。……少々可哀想だが、これもルールだ。

 

「では改めて勝負を始めるとしよう。まず、最初の勝負はボクシングがテーマだ!」

 

 

 

 そうして開始した勝負だが……やはり結果は見えていたな。

 12人、いや、少女が減ったから11人か。その誰もがオレ達のメンバーの実力を凌駕している。誰が相手でどんなテーマだろうとも勝ち目は薄いな。

 

 既に3連敗だ。これ以上は残り人数が少なくなって雑魚プレイヤーが混ざってしまう。その前に勝負を切り上げるか。

 

「なるほど。中々強いな。いいだろう、次はオレが相手になろう」

「ふむ。海賊の頭がこのような序盤で出てくるとはな」

「おし。それじゃコイツの相手はオレがするぜ」

「駄目だよ! レイザーとはオレが戦うんだから!」

「ちょっと待て2人とも。私もこの勝負は引くことは出来ないのだよ」

 

 ふ、人気者だな。まあ悪い気はしないが、どの連中もオレに勝つ気が満々だな。負けず嫌いは結構だが、相手は良く見た方がいいぜ?

 

「皆さん落ち着きなさい。彼の相手は私がいたします」

「えー、そんなこと言わないでよリィーナさん!」

「あんだけ煽られたらこちとら引けないんだよ。オレでもあいつに勝てるって教えてやるぜ」

「そういうことだ。今回は私たちの誰かに戦わせてもらいたいな」

「……ふぅ。致し方ありませんね。私も彼と戦ってみたかったのですが……」

 

 ……何か勝手に話が進んでいるな。安心しろ。全員と戦ってやるさ。

 

「ゴン、クラピカ、不公平のないようジャンケンで決めようぜ」

「いいよ!」

「ふっ。グリードアイランドに入って来た時のことを忘れたのかキルア?」

「るせ! 今度は負けねーぞ!」

 

 ……ん? 今確かにゴンと……。

 あの少年の名前か? ゴン……あの少年の見た目と年齢……まさか!?

 

「ジャンケン――」

「――待て。少し聞きたいことがある」

「ポ――って、何だよおっさん」

「おっさ……いや、それはどうでもいい。そこの少年、ゴンと言ったか? お前のファミリーネームはもしかしてフリークスか?」

「え? そうだけど。なんで知ってるの?」

 

 やはりそうか。あれからそんなにも年月が経っていたんだな。

 ジンの息子がこんなに立派になってここまで来るとは……。ジン、お前の言ったことは本当だったぞ。

 

「ふふふ……」

「!?」

 

 歓喜と共にオーラを練り上げる。

 これだけの興奮は久しいな。楽しませてくれよゴン!

 

「お前が来たら手加減するな……と言われているぜ。お前の親父にな」

「ジンを知っているの!?」

「ああ。オレはジンと一緒にグリードアイランドを作り出したゲームマスターの1人だからな」

「じゃあジンもここに――」

「――おいおい、お前たちはここに何しに来たんだ? そういう話をしたいんなら、オレ達に勝ってからするんだな」

 

 今必要なのは語り合うことなんかじゃないだろ?

 さあ、お前の力を見せてみろ!

 

「……キルア、クラピカ!」

「ああ、分かったよ。今回はお前に譲るよ」

「そうだな。父親に関することなら仕方あるまい」

「ああ、勘違いしているようだが、オレと戦うのは1人だけじゃないぜ」

「え? どういう――」

 

 ゴンが言葉を言い切る前にオレの念能力を発動する。オレの周りに8体の悪魔が現れる。念で創り出したこの悪魔がオレのコマだ。1体は審判用だがな。

 

「オレのテーマは8人ずつで戦うドッジボールだ! 8人メンバーを選べ。こっちはもう決まっているからな」

「ちょ、待てよ! 8人で戦うって、勝敗はどう決めるんだよ!?」

「だから勝った方に8勝入るのさ。1人1勝、簡単な計算だろ?」

 

 そう。これこそがこのイベントの本当の勝負だ。

 オレ以外の海賊を倒して7勝したところで、オレが出て8勝すればオレ達の勝利となる。どう足掻こうとオレを倒すしかこのイベントに勝利する方法はないのさ。

 

「……なら、こっちの8人も決まっているわね」

「ええ。彼らをこの勝負に出すわけには行きませんからね」

 

 だろうな。あんな連中がノコノコと参戦したところですぐに死ぬのがオチだ。全く。覚悟も何もない連中がこんなゲームに参加するなんてな。

 まあいい。そんなことよりも今はこの勝負を楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 

「それでは試合を開始します。審判を務めますNo.0です。よろしく」

 

 こうしてレイザーとの勝負、ドッジボールが開始された。

 ゴンチームの外野にはレオリオ。レイザーチームの外野にはNo.1の悪魔が配置された。

 審判のスローインがゲーム開始の合図となるが、レイザーチームのジャンパーはボールを取ろうとはせずにゴンチームのジャンパーであるキルアは邪魔されずにボールを自陣エリアへと送り込んだ。

 

「先手はくれてやるよ」

 

 それは余裕の表し……ではなく、自身の有利な勝負に持ち込んだが故の最初で最後のハンデだった。これ以降はレイザーも一切のハンデを与えるつもりもなく、ゴン達と全力で戦う所存であった。

 

「後悔するなよ」

 

 ゴンチームで先手を取ったのはミルキだ。

 ボールにオーラを籠め、助走を付けながら狙いを定め、レイザーチームに投げつける。勢いの付いたボールはそのままミルキの狙い通りNo.2の悪魔にヒットする。これでNo.2はアウトとなり、外野へと移動した。

 しかもボールはゴンチーム側の外野に落ちたので、ボールはそのままゴンチームの物になった。

 

「ナイスミルキ! もいっちょかましてやれ!」

 

 外野にいるレオリオがミルキに向かってボールをパスする。

 レオリオの言う通り、ミルキはこのまま続けてボールを投げるつもりだった。

 最初にNo.2という数字が書かれている悪魔を狙ったのは、それがレイザーチームの内野にいる悪魔で1番数字が小さい悪魔だったからだ。

 レイザーが創り出した悪魔にはそれぞれ数字が書かれてあり、またその大きさもそれぞれ異なっていた。ミルキはこれを悪魔ごとに強さが違うのではと考えた。だから最初に狙ったのは1番小さな数字の悪魔で、次に狙うのは1番大きな悪魔、つまりNo.7を攻撃するつもりだった。

 先ほどと同じ威力のボールを受け止められたら、悪魔は大きさや数字により強さが変わるということであり、逆にそれでアウトを取ることが出来たら、強さが変わろうともどうということはないわけだ。

 ミルキの頭脳が輝いていた。流石はゾルディック家でも屈指の頭脳と技術を有する逸材であった。

 

「ミルキ! 頑張ってくださいね!」

「喰らえレイザー!!」

 

 先程よりも遥かに威力を籠められたボールがレイザーに向かって飛んでいく。

 ゼノ=ゾルディック曰く、ミルキは頭がいいが馬鹿なのが玉に傷だ、と。アイシャの声援を受けたミルキは先程までの作戦など次元の彼方へとすっ飛ばしたのだ。

 

「おっと危ない」

「ギシャ!!」

 

 だがレイザーに向かったそのボールは、No.3の悪魔がカバーすることで弾かれてしまった。もちろんNo.3はアウトになる。ボールは残念ながらレイザーチームの陣地に落ちてしまったが。

 そんなことよりもミルキは、いや、ゴンチームの誰もが今の悪魔の行動を訝しんだ。

 

「……どういうつもりだ? どうしてわざわざボールに当たりに行った?」

 

 そう、今のはただNo.3がレイザーを庇ったのではない。わざとNo.3がレイザーに向かうボールに当たりに行ったのだ。受け取る素振りも見せないその不自然さを見逃すような者はゴンチームには誰1人としていなかった。

 

「なに。中々いいボールだったんでな。つい守ってもらってしまったんだよ」

「……上等だ。舐めた真似するなら痛い目に合わせてやるぜ?」

「舐める? 冗談言うなよ。こっちも結構本気だぜ」

 

 レイザーの言う通り、レイザーにゴン達を舐めているつもりはない。実際にミルキのボールはレイザーはともかく、No.3では受け止めることが出来ない威力を出していた。

 それにレイザーは最初から2体の悪魔を外野へと送るつもりだったのだ。そう、これからの攻撃の為に。

 

「さて、今度はこちらから行かせてもらうぞ!」

 

 そう言ってレイザーは外野にいる悪魔に向かって超高速のパスを送る。それを悪魔は速度を落とさずに次の悪魔へとパスを送り、また次の悪魔がその次の悪魔へと、その悪魔がレイザーへとパスを繋げる。

 超高速のパスはゴンチームを囲んで目まぐるしく動き続け、ゴン達にボールの行方を読ませないようにする。

 

「は、速い!」

 

 突然の高速パスに動揺している隙を突いて外野の悪魔、No.3がカストロへとボールを投げる。

 

「ぬっ! 舐めるなよ! 【邪王炎殺虎咬拳】!!」

 

 だがカストロはその速度に反応していた! 超高速のパスに惑わされることなく、動きを読み切り、その速度に負けない程の速度で能力を発動したのだ!

 かつて天空闘技場でヒソカと戦った時とは明らかに能力発動の速度が上昇していた。リィーナの下で修行を続けていた成果が現れているのだ。

 そうして強化系でも類い希なる威力を誇る【邪王炎殺虎咬拳】によってカストロを狙っていたボールは破裂して木っ端微塵になった上で焼却され燃えカスも残らず消滅した。

 レイザーがオーラを籠めたボールは、外野の悪魔を経由することでその威力を格段に落とすが、それでも並の念能力者を一撃で打ち倒す威力を誇る。

 その威力のボールを一瞬で破壊し尽くす【邪王炎殺虎咬拳】の破壊力はまさに計り知れないものなのだろう。カストロの実力の高さが示された一撃であった!

 

「カストロ選手アウト!! 外野へ移動です!」

「……ぬぅ」

「ボール壊すなよアホかテメェ!」

「すまん、つい……」

「ボールを破壊してはなりません。そもそも受け止めていないのでアウトです」

 

 キルアと審判の突っ込みは当たり前だった。

 これはドッジボールである。ボールを受け止めずに破壊していいわけがない。カストロはリィーナの呆れた眼を見てすごすごと外野へと移動して行った。

 

「ボールが破壊されたのはゴンチームの内野なのでゴンチームの内野ボールとして試合を再開します!」

「よし! 次こそはレイザーをぶっ飛ばすぜ」

「落ち着けミルキ。審判、バックは最後に内野に残った者がアウトとなった瞬間に宣言しても有効か?」

「内野の人数が0になった瞬間負けとなりますので、最後に内野に残った選手がバックを宣言しても無効となります。ただし、最後の1人がアウトになったのと同時に外野の選手がバックを宣言して内野に戻るのは有効です」

「了解した。ミルキ、狙いは分かっているな」

「ちっ、分かったよ」

 

 バックを宣言した外野の選手は内野に戻ることが出来る。だがこれは試合中に一度しか使用出来ない。なので、ゴン達はレイザーをアウトにするのは最後にした方がいいと判断したのだ。途中でレイザーをアウトに取れたとしても、バックで戻って来られたら苦労も水の泡だ。強者を相手に2度も戦うような苦労を買って出る必要はないのだ。

 

「おい兄貴、アレを使うのは最後でいいだろ」

「ああ、もちろんだぜ」

 

 ミルキはキルアの言いたいことをすぐに察する。自身も同じ考えをしていたからだ。

 そうしてミルキは助走を付けて今度こそNo.7の悪魔へとボールを投げつける。勢いの付いたボールは一直線にNo.7へと飛んで行く。

 だが、ボールが当たる前にNo.7の隣りにいたNo.5がNo.7と合体をした。

 

「はあ?」

 

 合体して1体となった悪魔の数字はNo.12へと変化していた。その数字の通り、5と7が足された結果だろう。そして体もそれに合わせて大きくなったNo.12はミルキの投げたボールを安々と受け止めた。これにはミルキも唖然である。

 

「ちょっ!? あれ有りかよ!!」

「有りです」

「ふざけんなよ! 合体が有りなら分裂もアリってことかよ!?」

「ハイ。ただし規定人数をオーバーするのは駄目ですから」

 

 最初から説明しとけと言いたいキルアであった。

 

「よせよキル。相手の作戦勝ちだ。それに、合体なんて男のロマンじゃないか。中々分かっているなあのレイザーって奴は」

 

 どうやらミルキが唖然としていたのは合体におけるロマンとやらが理由であったようだ。何故か見学しているアイシャがミルキの意見に何度も頷いていた。どうやら彼女に取っても合体とはロマンであるらしい。

 

「お前らを相手にするにはこいつだけでは心もとないな」

 

 そう言ってレイザーは残っていたNo.4とNo.6を合体させ、No.10の悪魔を作り出す。これでレイザーチームの選手は3体まで減ったが、その戦力は増える結果となる。ゴン達のような強者を相手にして弱い悪魔が数体いるよりも、強い悪魔1体の方が役に立つのは当然だろう。

 

「さぁ……再び攻守交代だな」

「これでまたあいつから球を取り戻さなきゃ駄目だね」

「なんとしてもあの球を止めるぞ」

 

 ボールを持つレイザーを睨みつけ、ゴン達は堅で防御を固める。

 ゴン達の堅を見たレイザーは驚愕し、そして感嘆した。

 

 ――何というオーラ! いや、それだけではない、身体を覆う堅の滑らかさと来たら……!――

 

 ゴンの、その年齢には似つかわしくないその力強いオーラを見てレイザーはゴンがジンの息子だと再確認する。周りの仲間もゴンに負けず劣らずのオーラを放っている。

 いいハンターの周りには人が自然と集まってくる。ジンもそうだったと今のゴンを見てレイザーは過去のジンを思い出す。

 

「どうした! 来いよレイザー!」

「……そうだったな。ふ、堅が出来るのなら死ぬことはないだろう。……行くぞ! ゴン!!」

「来い!!」

 

 ゴンのその叫びを皮切りに、レイザーはゴンに向かって剛速球を投げつける。

 それは、ミルキの投げるボールとは根本的に何もかもが違っていた。

 ボールを投げる時の身体の使い方、全身のバネ、タイミング、バランス……そればかりではない。全身を覆うオーラも、ボールに籠めたオーラも、ありとあらゆる全てがミルキを遥かに凌駕していた。

 特別な物ではない、普通のボールから死という不吉な単語を彷彿させる程のイメージを叩き出す。それがレイザーの実力だ。

 だが、ゴンはその殺人的な剛速球を見ても怯むことなく真っ向からぶつかり合った。

 

 足に攻防力30、腹部に10、両腕に60という割合でオーラを割り当て、レイザーのボールを受け止めるゴン。

 余計な能力を覚えていないほぼ完全なる強化系による身体強化により、ゴンの身体能力は弟子クラスでは誰よりも高いレベルに到達していた。

 ゴンはまるで高速で打ち出されたボウリングのボールを受け止めたかのような錯覚を覚える。だが、意地でもボールを離すことなくコートを踏みしめながら後方へと吹き飛ばされていった。

 

「ぐぅ!」

 

 ゴンはレイザーのボールの威力に押されコートを削りながらも耐えるが、内野から足を踏み出してしまう。

 だが、受け止め切った。外野に出てしまったのでルール上アウトになってしまうが、ゴンは受け止め切ったのだ、あのレイザーの剛速球を。

 真っ向から勝負してしまった為に、ゴンの手は傷だらけになり、腹部にもかなりのダメージを負ってしまう。恐らく内臓も痛めただろう。それでも五体満足でレイザーのボールを受け止めたことに変わりはない。

 次は完全に止める! そう決意し、アウトになったゴンはさらに気力を充実させていた。

 

「おい、大丈夫かゴン?」

「バックの宣言、オレがするから」

「あ、駄目だな。こうなったら話を聞かないぜ」

「いいんじゃない? ゴンのやりたいようにやらせてあげなさいな」

「そうだな。とにかく、今のままでは内野に戻って来たとしてもレイザーのボールを受け止めるなんて不可能だろう。アウトになったことだし、外野でレオリオに回復してもらえ」

 

 そうしてゴンは意気揚々と外野へと移動する。

 レイザーの強さを体感しても、その意思は折れることはなくそれどころかますます高まっていく。レイザーはそんなゴンを見て背筋にゾクリと来るものを感じていた。

 

 

 

 ゴンが外野へと移動し、決意を新たにするが、依然としてボールはレイザーチームの物。どうにかして捕球をしなければ一方的にやられていくだけだ。

 キルアは今の自分ではボールを避けることは出来ても捕球することは出来ないと判断する。いくら【神速/カンムル】で反射速度を高めていても、あれだけの威力のボールを受け止めるには力不足なのだ。

 

 クラピカも自身に出来ることを考えていた。

 直接受け止める……【絶対時間/エンペラータイム】を発動してもゴンの二の舞がいいところだとクラピカは判断する。いくらクラピカが【絶対時間/エンペラータイム】で強化系の能力の威力と精度を100%まで発揮出来たとしても、強化系としてのレベルはゴンよりも下だ。

 あのレイザーは明らかに今のクラピカよりも格上。そんな強敵を相手に真っ向からの勝負で勝てるとはクラピカも考えてはいない。

 鎖を具現化して威力を逸らす……だが恐らく逸したところでレイザー側の外野に逸らすのが精一杯だろう。

 鎖で敵を攻撃する……隠で鎖を消して上手く攻撃を成功させれば……だが、直接敵に念能力で攻撃をしてもいいのだろうか?

 

「審判、質問だ。選手に対して念能力で攻撃をした場合はどうなる?」

「それが直接念能力による攻撃で選手にダメージを与えた場合はその選手は失格となります。ただし、ボールを介しての能力ならば有効です。また、直接攻撃しない場合ならば選手への念能力は有効となります。今レオリオ選手がゴン選手に対して治療の念能力を掛けているのもオーケーとなります」

 

 どうやらクラピカの能力でレイザーを無力化するというのは可能と言えば可能らしい。上手くいけばこの勝負は簡単に決するだろう。だが……。

 クラピカはレオリオの治療を受けているゴンを見つめる。……その瞳から感じる強い意志を見て、クラピカはフッと息を1つ吐き、顔に笑みを浮かべた。

 

 ――たまには能力に頼らずに戦うのもいいだろう――

 

 クラピカは今のゴンを見て、とてもではないがレイザーを無力化するという方法を取る気はなくなってしまった。まあ、そもそもレイザー相手に隠による奇襲が成功する確率は非常に低かっただろうが。

 

「さて、と。次は……誰かな!?」

 

 レイザーチームの投手はまたもレイザー本人。オーバースローではなく、サイドスローからの剛速球を放つ。

 ボールの狙いはキルアだ。キルアはその威力を見てまともに受け止めるのは無理だと判断し回避を試みようとする。

 だが、直前になってボールの回転に気付く。明らかにボールの回転が通常の回転とは異なっていた。そう、まるで野球の変化球のような――

 

「避けろ!」

 

 キルアは回転とは逆方向に身を沈めながら自身の左隣にいたクラピカとミルキに危険を知らせる。

 そしてその言葉が示す通り、ボールは突如として軌道を変えてクラピカへと迫った。

 自身に向かってくるボールをクラピカは咄嗟に避けることに成功するが、クラピカの横にいたミルキはクラピカの身体が死角となって急に現れたボールに反応しきることが出来なかった。

 咄嗟にオーラを集中させ衝撃に備えるミルキ。せめてボールを自陣の内野内に落としてやろうと身構えるが――

 

 ――【貴婦人の手袋/ブラックローズ&ホワイトローズシャーリンググローブ】――

 

「なに!?」

 

 ミルキにボールが当たる瞬間、ミルキの後ろにいたリィーナがその両手でボールを掴み取った。

 手を前に出した不安定な状態でボールを掴んだリィーナは、その身体ごと回転することでボールの勢いを殺していく。そして回転が止まった時には何事もなく立つリィーナの姿があった。

 

 ――馬鹿な。あの程度でオレのボールの威力を殺しただと?――

 

 それはレイザーから見ても不可解な現象だった。

 確かにリィーナのした技術ならばボールの勢いを削ぐことになるだろう。だが、レイザーのボールの威力はあの程度で殺されるものではなかった。

 もしレイザーがリィーナと同じことをしたとしても、ボールの勢いに押され手が弾かれるか回転しながら吹き飛ばされるかのどちらかになるだろう。

 だがリィーナはただ1回転しただけで、完全にボールの勢いはおろか、その威力までも殺したのだ。

 正面からならばレイザーでも威力を殺すことが出来る。だが、今のリィーナの態勢からボールを掴み取り威力を殺すことはレイザーであっても不可能だろうと思われた。

 

 レイザーは知る由もないが、これはリィーナの念能力【貴婦人の手袋/ブラックローズ&ホワイトローズシャーリンググローブ】の効果による結果だ。

 ボールを掴んだ瞬間に能力を発動し、ボールを覆っていたオーラを吸収する。オーラがなくなったボールは勢いはともかくその威力を殆ど失うこととなる。

 あとはボールの勢いを殺す為に回転するだけだ。単純だが、リィーナの顕在オーラがレイザーがボールに籠めたオーラを上回っていないと起こりえない結果である。僅かでも顕在オーラが低ければボールを掴んだまま吹き飛ばされていただろう。

 

 ボールを掴んだリィーナは、さてどうしたものかと悩んでいた。

 そもそもリィーナの技術とドッジボールは相性が悪いのだ。いや、レイザーがどのような威力のボールを投げようとも、全て無傷で防ぐ自信はあった。

 だが、ボールを受け止められるかとなれば話は別だ。受け流す、逸らす、力の流れを変える。このどれもが受け止めるという結果には繋がらない。力の流れを変えて威力を増してレイザーに返すことは出来るが、それが避けられたらアウトになるのはリィーナだ。

 ではまともに、ゴンのように真正面から受け止めればいいのではないか? 普通はそう考えるだろう。事実リィーナはそれが出来るだろうと確信していた。

 

 ――でもそれは風間流の戦い方ではございません――

 

 敵の攻撃を真正面から受け止めるなど、風間流の現最高責任者である自分がする行為ではないとリィーナは本気で思っていた。

 紛うことなき馬鹿であった。風間流馬鹿である。恐らくアイシャよりも風間流に対する想いが強いだろう。アイシャは状況によっては風間流以外の行動を取ることなどいくらでもあるのだから。

 

「助かったぜリィーナさん」

「お気になさらず。さあ、そろそろいいでしょうゴンさん?」

「オッス! バック!」

 

 リィーナに言われ、ゴンがバックを宣言して内野に戻ってくる。身体の傷は完全に癒えていた。

 リィーナは戻ってきたゴンにボールを渡して後方へと下がる。攻撃は完全にゴンや他の者に任せるつもりだった。ボールを投げて攻撃するのもリィーナの不得意とすることだからだ。具現化系を得意とするリィーナは放出系が苦手だ。出来ないわけではないが、その威力はかなり落ちるだろう。あのレイザーに通用する威力になるとは思えなかった。

 それならレイザーと決着を着けたがっているゴンに任せた方がまだいいだろうとリィーナは判断した。

 

「さてどうする? こっちのボールになったはいいが、あのNo.10とNo.12、特に12の方は倒すのは少々きついぞ」

「ああ、オレのボールを難なく受け止めやがった。レイザーはもっと上だと思うと底が知れないな」

「大丈夫、オレに考えがあるから。キルア、ボールを持ってそこに立って」

「? ああ」

「腰を落としてしっかりボールを持ってね」

 

 ――なるほど!――

 

 ゴンの考えをチームの全員が理解する。

 ゴンは己の必殺技、【ジャンケン】の構えを取り、オーラを練り上げて右拳のみに集中させていく。

 キルアはそれを見て【神速/カンムル】を発動する。ゴンのこれからやろうとする行為に備えて反射速度を高めているのだ。

 

「最初はグー!!」

 

 その一言と共にゴンのオーラが跳ね上がる!

 それは制約によるもの。構えを取り、言葉を発するという戦闘中に置いて隙だらけの行為。全身のオーラを拳1つに集めるという防御を捨てた行動をしているのにそんな隙だらけの行為を取ることは、まさに命懸けのリスク。それがゴンの【ジャンケン】の威力を底上げしていた。

 そしてこの1年近くの修行により、ゴンのオーラはプロハンターの中堅クラスすら凌駕していた。そのオーラを全て籠めた一撃を、ボールに向けて放った。

 

「ジャンケン!! グー!!!」

 

 ゴンがボールに拳を当てた瞬間に、キルアはオーラの攻防力移動を行い手をオーラでガードする。さらにそこから神速の反射速度でボールから手を離し、ボールの威力を殺さずに自身の手にも威力が伝わらないようにする。

 もしボールを持ったままで、オーラによる防御をしなかったとしたら、キルアの両手はボールの威力によってボロボロになっただろう。

 かと言って常に両手をオーラで守っていれば、そのオーラによりゴンのパンチ力を殺してしまい、ボールにパワーが伝わらなくなってしまう。

 それを防ぐ為のオーラの高速移動術だ。厳しい修行をこなしたキルアはこの高難度の技術を成し遂げるレベルまで成長していたのだ。

 

 そして全く威力を削がれることのなかったボールは、レイザーの投げたボールの威力すら凌駕する勢いでNo.12へと直撃した。

 No.12は捕球はおろか一瞬でも耐えることすら出来ずにそのまま外野へと吹き飛ばされていく。ミルキの放ったボールを軽々と受け止めた悪魔の中でも1番の大物を容易く仕留めたことに周囲から感嘆の声が漏れる。

 

「よっしゃ! あのデカブツをぶっ飛ばしたぜ!」

「やっぱりあの攻撃力は異常だな」

「ああ。戦闘中は毎回冷や冷やさせられるからな」

「当たった瞬間戦闘終了だからな」

「オレからすれば皆の方が凄いんだけどなぁ……」

 

 ゴンの修行中の戦績はレオリオの次に低い。そんなゴンからすればキルア達の言うことは納得が行かないことなのだ。

 だが考えてみてほしい。ゴンの【ジャンケン】は当たれば死ぬかもしれないのだ。これは比喩でも何でもない、純然たる事実だ。

 そんな技を振り回されれば否が応でも警戒してしまう。その為ゴンと全力で戦う時は全員命懸けなのだった。

 しかも戦う度にゴンは【ジャンケン】の使いどころやタイミングを改善してくるのだ。次はまともに当てられるかもしれない。そう思うと僅かな油断すら出来ない。

 弟子クラスの誰も――【神速/カンムル】発動中のキルア除く――がゴンとの戦闘が1番神経をすり減らすと答えるだろう。

 

「末恐ろしいな……」

 

 ゴン達が仲間内で嬉々としている一方で、レイザーは改めてゴンの資質に畏怖していた。この年齢で、とは何度も思っていたが、それでも尚そう思わざるを得ない一撃だったのだ。あれがこれからさらに成長していくかと思うとレイザーは冷や汗が止まらない思いだった。

 だが、だからといって負けを認めたわけではない。先はともかく、今は強いのはレイザーだ。ならば先達として実力の差を見せつけてやろう。

 

 そうしてレイザーは創り出した悪魔たちを全てオーラに戻して吸収する。悪魔がどれほどいようとも今のゴン達に対抗することは出来ないだろう。ならばオーラを全て集めて自身を強化した方が遥かにマシだと判断したのだ。

 

「……これが!」

「ああ、レイザーの……本気か!」

「なるほどな……ゲームマスターというだけのことはある」

 

 既にスポーツの勝負を終え、殺人ドッジボールを見学していたゲンスルー達もレイザーの実力の高さに唸る。

 まともに戦えば自分たちでも勝てないかもしれない。ゴン達を遥かに上回る戦闘経験を持つゲンスルー達にもそう思わせる実力をレイザーは有していた。

 

「大丈夫です。きっと皆が勝ちます!」

 

 どのスポーツにも参戦出来ず見学することしか出来なかったアイシャは、最初からゴン達の勝利を信じていた。例えレイザーがどれほどの実力だろうと、ゴン達が協力すればきっと打ち倒せるだろうと。

 

 ボールはゴンチームの外野に転がったのでゴンチームはそのまま攻撃を続行することが出来る。だが、レイザーは先程までとは比べ物にならない程のオーラを放っている。全力のレイザー相手にゴンの一撃が通じるかどうか。

 

 ゴンはドッジボールのルールを気兼ねなく使用し、ゆっくりと集中して全力の練にてオーラを練り上げる!

 

「最初はグー! ジャン! ケン! グーッ!!!」

 

 ゴンもまた先程の一撃よりもなお凄まじい威力の拳をボールに叩き込む。

 その一撃によるボールはレイザーがまともに捕球すればその威力によってエリア外、つまりはゴンチームの外野まで押し出されてしまう程だった。

 それほどの威力のボールを、レイザーは捕球――ではなく、バレーのレシーブの要領で両腕で受け止める。ボールが両腕に触れた瞬間に、体ごと腕を引くことで威力を殺し、ボールを上空へと弾き飛ばしたのだ。

 

「……すっげぇ!」

 

 これにはゴンも、そしてその場の誰もが素直に称賛する。

 レイザーがしたことは刹那の狂いも許されないタイミングを要求される。それをあの威力のボールを相手にやってのけたのだ。

 レイザーはそのまま後方へと下がった後に、上空に弾かれたボールを難なく――ではなく、慌ててジャンプして捕球する。

 

「くっ、弾かれてしまったか」

「危ない危ない。今のは焦ったぜ。オレがアウトになったらバックは出来ないんでね」

 

 空中に浮かんでいたボールをクラピカが鎖にて自陣に手繰り寄せようとしていたのだ。それに気付いたレイザーは鎖に向かってオーラを放ち弾くことで時間を稼ぎ、すぐに捕球したというわけだ。

 今のでアウトを取られてしまうと、レイザーの内野内には誰もいなくなるばかりか、バックで戻ってくるメンバーも1人もいないのだ。レイザーがアウトになった瞬間に勝敗は決してしまうのである。

 

「来るぜ!」

「次こそがレイザーの本当の全力だ」

「どうする? どうやって止める?」

「……リィーナ殿は?」

「私は貴方がたがアウトになるまでは手を出さないことにいたしましょう。その方が貴方もスッキリするでしょう、ゴンさん?」

「オス! ありがとうございますリィーナさん!」

 

 リィーナの心意気に気合を入れて応えるゴン。

 

「あたしもそうするわさ。本当は手を出したいんだけど、ここは苦汁を飲んであんた達に任せるわよ!」

「お前はサボりたいだけだろ。何もしてねーじゃねーか」

 

 ビスケのものぐさに突っ込みを入れて応えるキルア。

 

「だがどうする? 今の私たちでは自力で捕球することは難しいぞ」

「大丈夫だよ。自力で無理なら皆でやればきっと止められる!」

「皆でって……どうやるんだよ?」

「うん、あのね――」

 

 ゴンが考えた作戦を説明する間、レイザーは攻撃をせずに待っていた。

 別に審判にタイムを要求すれば数分程度の時間を取ることは出来たのでこれくらいはいいだろうと思ってだ。そして、彼らがどのような方法で自分の攻撃を攻略するかを楽しみにしていたからでもある。

 

「良し! やろう!」

『おう!!』

「相談は終わったか? それじゃ……行くぞ!!」

 

 レイザーはボールを天高く放り投げ、それを跳躍して全力で叩きつけようとする。それはまるでバレーのスパイクに酷似していた。

 全ての顕在オーラを籠めて、ボールをゴンに向けて打ち出す!

 

 かたやゴン達はそれを待ち構えていた。

 ゴンを正面に、その後ろにキルア、キルアの後ろにミルキと、3人が重なって1つとなりレイザーの最大の一撃を受け止めようとする。

 クラピカは具現化した鎖を構えてゴンのすぐ傍で待機していた。いったい何をしようとしているのか。

 

 ゴンがその両手に全てのオーラを集中する。レイザーの最初のボールを受け止めた時とは違い、これでは例え捕球出来たとしてもまともに踏ん張ることも出来ずに吹き飛ばされていくだろう。

 それを防ぐのがキルアだ。2人の間にはさまれ、クッションと踏ん張りの2役を1人で担ったのだ。クッションに必要な身体に集めるオーラの攻防力、踏ん張りに必要な足に集めるオーラの攻防力。この2つを何対何で振り分けるか、誤差1%以下の精度でそれを見抜き完璧にこなしたのだ。

 そしてミルキはその2人がそれでもボールの勢いに負けて吹き飛ばされた場合の保険だ。自身の体を重くして重しとなったのだ。

 クラピカはゴンがボールを取りこぼさないよう、捕球の瞬間にゴンとボールを鎖で巻きつけた。さらにそこから後ろの2人にも鎖を巻きつけることで衝撃を一体にして緩和する。

 

 そして……ゴン達は内野ギリギリの位置まで押されながらも、レイザーの最大の一撃を受け止めきった。

 

「おおぉー! やるじゃねーかお前ら! くっそー、オレも内野で戦いたいぜ!」

「ああ、あの時馬鹿なことをしなければ良かったよ」

 

 外野にいるレオリオとカストロはゴン達の奮闘を見て興奮する。

 そしてレイザーもゴン達の奮闘に脱帽していた。4人がかりとはいえ、あのような方法で自分の最大の一撃を止められるとは思ってもいなかったのだ。

 だが同時に攻略法も思いついた。合体する前に攻撃を叩き込めばいいのだ。機はゴン達の攻撃の直後だ。その瞬間ならば合体する暇もないだろう。

 ゴンの放つボールはまともに受ければレイザーでも踏ん張りきれずにエリア外に出てしまう。なのでレイザーはレシーブによってゴン達にカウンターを叩き込むつもりだった。

 レシーブといえば先程のように上空にボールを弾くことだろう。だが、それは弾いた角度が上空だっただけのことだ。レイザーならばレシーブの方向をゴン達に向けて弾き返すことも可能だ。もちろんそれはゴン達が避けてしまえばレイザーのアウトとなる。だが、ゴン達がボールに当たって捕球が出来なければその限りではない。

 そしてレイザーはゴンが弾き返したボールを避けて勝ちを取るような奴ではないと確信していた。

 

「それじゃ、行くよキルア!」

「ああ! (……兄貴)」

「(任せろ)」

 

 ゴンがボールを殴る前にキルアはミルキに向かって合図を送る。

 それにミルキも応えた。言われずともここが勝負どころだからだ。

 

「すー、はー」

 

 深呼吸を行い、今までよりも深く集中する。

 そして体内でオーラを練り上げ、それを一気に体外に……放出する。

 

 ――練!――

 

「……あのガキはバケモンだな」

「ああ、これだから強化系馬鹿は嫌いだぜ」

「ゴンはオレ達とは違う意味でブッ壊れているからな。ストッパーがないといつか痛い目にあうぜあいつは」

 

 今までで最大のオーラを練り上げたゴンを見てゲンスルー達も思わず悪態を吐いた。ここ1番という時に、修行中でも見たことのないオーラを練り上げたのだ。それは今この瞬間にも成長しているということ。

 それほどの才能を見せつけられたゲンスルー達がそう言ってしまうのは嫉妬もあるのだろう。それは武術家としての誇りがあるからでもあった。

 

「ま、大丈夫だろ。あいつ等がいれば上手くストッパーになるさ」

「……そうだな」

「それよりも意外だなゲン。長くいてあのガキどもに情が移ったか?」

「けっ、冗談言うなよ。オレは5年以上あの雑魚どもと付き合ってたんだぜ? そんなオレがたかだか数ヶ月であんなガキ共に絆されるかよ」

 

 口ではそう言っているが、内心はそうではないだろうと隣で話を聞いていたアイシャは思った。何だかんだで今の彼らはゴン達に多少ではあるが心を開いている。ゴンの裏表のない性格と、ゴンに惹かれて集まった仲間達に囲まれたゲンスルー達もまた、ゴン達の影響を受けたのだ。

 まあ、リィーナという彼らにとって不倶戴天の敵がいるからこそ、そうではない存在のゴン達に対して少なからず情が湧きやすかったというのもあるだろうが。

 

「行くぞレイザー!! さい、しょは……グー!」

 

 まるで音を立てているかのような幻聴を伴う程のオーラが拳1つに集まっていく。その計り知れない威力の拳を、ボールを持つキルアを信じて余計なことは何も考えずボールに向けて打ち込んだ。

 

「ジャン!! ケン!!! グー!!!!」

 

 予想以上の威力。レイザーをしてそう思わせる程のボールが唸りを上げてレイザーへと突き進む。だが、予想以上も予想外ではなかった。どれほどの威力だろうとそれがボールならば相手に弾き返すことが出来る。

 これが念弾や、ボールとは違う材質では無理だっただろうが、ボールという柔らかく弾力のある物体ならば威力をそのままに跳ね返すことが出来る技量をレイザーは持っていた。

 

 そう、予想以上はレイザーに取っては予想の範疇だった。

 だが……レイザーにとって本当の予想外はボールの威力ではなかった。

 

 ――なっ!?――

 

 受け止めた瞬間に感じたのは有り得ない程の重さ。レイザーのボールを受け止めた時、ゴンはまるでボウリングのボールを受け止めたように錯覚したが、それは実際にそうであったのではなくレイザーのボールの威力がそう感じさせただけだ。

 だがこのボールは違う。本当にボールそのものの重さが増しているのだ。それもボウリングのそれよりもずっと重くなっていた。

 

 それだけではない。それだけならばレイザーはレシーブによってボールの威力を殺せていたかもしれない。

 ボールの重さに不意を打たれた故にまともにゴン達に向かって打ち返すことは出来なくても、先程と同じように上空に打ち上げることなら出来た可能性はあっただろう。

 だがそれはボールを覆う微量の電撃によって阻止されてしまう。ボールが体に触れた瞬間に重さと一緒に電撃も味わい、一瞬だが体が硬直してしまったのだ。

 

 刹那のタイミングのズレすら許されないレシーブによるボールの反射は、そのタイミングをずらされた為に成功することはなかった。

 

「ぐおおおおおぉぉっ!?」

 

 レイザーはそのままボールの威力に押されて吹き飛んでいく。

 あまりの威力にコートから足も離れた為、踏ん張りを利かすことも出来ずにエリア外を越え、さらに後ろの壁に叩きつけられたことでようやく止まることが出来た。

 ボールはレイザーの腕に弾かれて天高くまで吹き飛び天井に埋まりこんでいた。これでは落ちてくることはないだろう。

 僅かな静寂が場を支配し、そして審判の告げる言葉を聞いて歓声が上がった。

 

「レイザー選手アウト! よってこの試合! ゴンチームの勝利です!!」

 

 

 

 

 

 

「よっしゃー!!」

「やったぜ!」

 

 ……試合が終わった。ゴン達の勝ちだ。ゴン達は歓声を上げて喜んでいる。

 レイザーという格上の存在をスポーツという枠組みの上でとはいえ撃破したのだから喜びもひとしおだろう。

 私も嬉しい。皆の成長が再確認出来たしね。最後は皆のコンビネーションによる勝利だというのも嬉しさの一因だ。

 そして寂しい。何もしないままイベントが終わってしまった。全ての試合をただ見てるだけしか出来なかった。

 参加出来ていたらきっと皆と一緒にもっと喜べただろうになぁ。

 

「負けたよ。約束通りオレ達は街を出て行く」

 

 あ、レイザーさんが壁から出てきた。

 結構大丈夫そうだな。あの威力のボールを受けても大したダメージにはなってないようだ。やっぱりまともに戦えばゴン達では厳しい相手だったな。スポーツというルールのある試合で良かった。

 

 レイザーさんはそのままゴンと2人で離れて話をしている。ジン=フリークスについてらしい。やっぱりここにいるんだろうか? 気になるけど、私が聞いていい話でもないだろう。

 

「お疲れ様でした皆さん。キルアもミルキもクラピカも凄かったですよ」

「オレだってゴンの治療とかしてたぜアイシャ!」

「はい。レオリオさんのおかげでゴンも全力を出せましたから」

「まあレオリオが内野にいても役には立てなかっただろうけどな」

「んだとキルア!」

「まあまあ落ち着いてレオリオさん」

 

 けど今回はレオリオさんは最初から外野にいて正解だったと思う。

 回復とか内野にいてもやる暇は中々ないだろうし、正直攻撃力でこの場の誰よりも劣るレオリオさんでは確かに活躍するのは難しかっただろう。

 雑魚はともかく、あのレイザーに通用する球を投げることは出来ないだろうし、レイザーの球を受け止めるのも難しい。レオリオさんの念能力【閃華烈光拳/マホイミ】は直接対象に触れないと効果を発揮しないから、ドッジボールではレオリオさんは不利なのだ。

 

「世の中強い奴は多いな。アレは親父でも割に合わない仕事になるぜ」

「それはゾルディックにとって最大の賛辞だろうな。自分が受けたくはないが」

「違いない」

 

 そう言って笑い合うミルキとクラピカ。それは笑い話にならない気がする……。

 

「なあ、もう勝負は終わったんだろ?」

「だったらもうオレ達は必要ないだろ? 早く“離脱/リーブ”をくれよ!」

「報酬をくれないなんて言わないよな?」

「落ち着いて下さい。報酬は必ず払います。ですが、一応“一坪の海岸線”が手に入るのを確認してからです」

「ならいいけど……」

「本当だろうな?」

 

 リィーナが人数合わせに雇ったプレイヤーを宥めているな。

 早く帰りたいのは分かる。想像していたよりも危険なゲームだったんだろうな。でもそれは正直想像力が足りない、そうでなくても覚悟が足りなすぎる。

 念能力者なら同じ念能力によって作られたゲームがどれだけ危険かは考えつくだろうに。報酬か何かに釣られて来たんだろうけど、これを教訓にうまい話には裏があると思えるようになるといいな。

 

 

 

 ゴンとレイザーさんの話も終わり、イベントも進んで無事“一坪の海岸線”を入手することは出来た。人数合わせのプレイヤー達に“離脱/リーブ”を約束通り渡す。彼らは嬉々としてゲームの外へと戻っていった。もう来ることはないだろう。

 

「これでようやく攻略が進むな」

「ああ、後はこれを交渉材料にしてハメ組と“大天使の息吹”を交換しよう」

「後はツェズゲラだな。奴が独占している“浮遊石”と“身代わりの鎧”、そして“一坪の海岸線”と同じSSランクの“一坪の密林”。この3枚は交渉で手に入れるかカードで奪うしかないわけだが……」

「交渉いたしましょう。ツェズゲラさんとは一応面識もございますし、交渉する余地はあるでしょう」

「……そうですね。今のオレ達ならツェズゲラも交渉に乗る可能性はあります」

 

 今のオレ達、つまり指定ポケットカード所有種数85枚の私たちなら、ということだろう。あまりに多くのカードを持っていれば、ツェズゲラさんも交渉を渋るかもしれないからな。もしそれでカードが全て集まりでもしたら彼らがクリアすることは出来なくなるのだから。

 つまりこれが上手く行けばゲンスルーさんの作戦は成功したということだ。スペルカードを上手く使うなゲンスルーさんは。流石はあのハメ技を考えただけはある。

 

「“浮遊石”と“身代わりの鎧”にはランクは落ちるが“闇のヒスイ”と“奇運アレキサンドライト”で交渉に臨もう。“一坪の密林”は“一坪の海岸線”だ。これには文句も言うまい。後は交渉次第だな」

「独占していた“闇のヒスイ”を私たち以外の者に渡すとハメ組の攻撃で奪われる可能性がありますから、ここからはスピード勝負ですね」

「だったらツェズゲラよりも先にハガクシ組とトクハロネ組に交渉した方がいいんじゃないか?」

「そうだな。この2組のゲイン待ちカードは持ってはいるが、ゲインを待っている間にツェズゲラがハメ組にカードを奪われたら面倒だ」

「良し、それじゃ今後の方針も決まったな」

「もうすぐクリアか」

「うー、何だかドキドキしてきたよ!」

 

 勝負が決まる前に勝ったと思うのは駄目だけど、私もドキドキしてきた。最初はクリアなんて無理だと思っていたけど、本当にクリア出来そうになるなんて。

 さあ、最後の勝負を仕掛けるとするか!

 

 


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