どうしてこうなった?   作:とんぱ

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第二十話

 飛行船に乗ること3日、空港からさらに汽車で移動し、ようやく伝説の暗殺一家ゾルディック家があるデントラ地区へと到着した。

 ここから見える死火山、ククルーマウンテンの麓にその道では有名な正門・試しの門がある。ここまで来ればあとは麓に向かって道なりに進むだけだ。道中観光バスが出ているらしいが時間が惜しい。走った方が早い。

 

 この3日、気が気ではなかったんだ。さすがに空中をオーラで移動出来るとはいえ飛行船で3日かかる距離を移動し続けることは出来ない。そもそもあれは瞬間的にオーラを放出する事でその場からブーストダッシュしているのであって、飛行している訳ではないからな。

 とにかく、飛行船で移動している間は待つことしか出来なかった。仕方ないのでしばらく入院してなまった体をほぐしていたけど。……もしかしたら全力を出す必要があるかもしれないからな。

 

 

 

 ククルーマウンテンに向かう道を道沿いに走り続けると、やがて巨大な門が見えてきた。これが試しの門か。この門の先は全てゾルディック家の敷地というわけだ。

 門の横に小さな小屋があるな。中には人もいるみたいだけどあのおじさん、守衛さんか何かか?

 

 ……それはなさそうだ。こう言っては何だがそこまでの実力者ではない。あのゾルディックの門を守るともなればそれなりの実力者を置くだろう。

 どうやら私に気付いたみたいだ。ちょうどいい、この人ならゴン達の事を知っているかもしれない。話を聞いてみよう。

 

「あ~、キミ、こんな所で何をしているんだい? ここは危ないから帰った方が……ああ、確かあと1時間くらいで観光バスが来るから、それに乗って帰りなさい」

 

 ……優しい人だな。こんな場所にいる得体のしれない者を心配してくれるなんて。

 でも、そういうわけにはいかないんだ。

 

「すいません。少しお聞きしたいのですが、今から3週間ほど前にここに……3人ほどのプロハンターが来ませんでしたか?」

「ん? ああ、ゴン君達か。うん、確かに来ていたよ」

 

 やっぱり来ていたのか。もしかしたら考え直したとかを期待していたけど。

 まあ、来てないって言われても納得していなかったかもしれないが。

 

「彼らはまだゾルディック家にいるのですか?」

「……お嬢さん、お名前は?」

 

 名前? なぜ名前を確認するんだろう?

 

「アイシャといいますが……」

 

 名前を知る事で発動条件を満たす念能力もあるだろうが……まあいい。恐らくこの人は念能力者ではない。仮に念能力者だったとしても、この条件で発動するタイプの能力は私の【ボス属性】で無効化できる物が多いはず。

 名前を知るだけが条件では効果も低いものにしかならない、教えても問題はないだろう。

 

「――! そうですか、あなたが……失礼しました。少々お待ちください」

 

 へ? なんでいきなり敬語になるの? しかも私のことを知っている様子。いったいどういうことなの? 疑問に思う私を置いて小屋の中に入っていくおじさん。

 何やら電話をしているようだけど……。

 

「お待たせしました。中で旦那様方がお待ちになっております」

「――は? 何を言っているのですか? それよりも先程の質問に答えてもらえませんか?」

「申し訳ありません。私の口からは何も話すことは出来ません……そう、言いつけられておりますので」

 

 そう言いながら悲しそうに顔をしかめるおじさん。この人はゾルディックに雇われている身だろう。雇い主、しかもゾルディック家の命令に逆らえるわけがない。

 

 とにかく、3人の事を知りたければ中に入ってこい、と。

 私のことを知っていたのも、恐らくゴン達から聞き出した情報……くっ! もしかしたらひどい拷問でも受けたのかもしれない!

 あの3人がそう簡単に人を売るとは思えない! 相手は暗殺一家だ、有り得ない話じゃない。……もしそうだとしたら――!

 

「分かりました。中に入ればいいのですね」

「申し訳ありません。ただ今屋敷の執事の方がこちらに迎えに来ていますので、少々お待ちを」

「いいえ、それには及びません」

 

 扉の前に立ち、全身にオーラを籠めて強化する。門に手を当て、ゆっくりと門を押す。

 ゾルディックよ。もしゴン達がひどい責め苦を負うていたならば、もし、その生命が失われていたならば――!

 相応の代償を払ってもらうぞ!

 

 ゆっくりと、だが確実に門が開いていく。後ろから息を飲む音が門が開く音に混じって微かに聞こえる。

 それも当然だろう。門を開く力が強ければ強い程、それに応じて大きい扉が開く作りだったはず。目の前で私のような少女が全ての門を開いているのだ。驚いて当然の事だろう。

 

「な、なんと……」

「時間が惜しいので、こちらから出向きます。それでは失礼しますね」

「あ……そ、そうだ、山に向かって道なりに進んで下さい! そうすればお屋敷に辿り着くはずです!」

 

 その言葉に頷きを以て返し、私は山に向かって歩き出した。

 

 

 

 ……視られている。試しの門を越えてから感じる僅かな、本当に僅かな視線。

 私でも気付きにくい程の絶、何という気殺。この隠行はネテロにすら匹敵するかもしれない。さすがはゾルディックか。伝説の暗殺一家の名に恥じないなこれは。

 

 仕掛けては……来ない、か。隙を窺っているのか? どうやら見に徹しているようだ。このまま仕掛けてくるまで無視してもいいけど、この実力だと恐らくゾルディックの一族に連なる者だろう。

 だったらこの人に話を聞いた方が早いか。ゾルディック家の人ならばゴン達のことを知っているはずだ。

 素直に話すとは思えないが、何もしないよりはマシだ。質問に答えてくれたならそれに越したことはない。

 相手が初めから私と敵対するつもりなら仕方ない。その時は全力で戦うまでだ。

 円で確認したところ周囲1㎞に他の人はいない様だ。もし敵対した場合は多対1になる前に出来うる限り人数は減らした方がいい、か。

 

 ……私への監視が弛んだ! 今が好機!

 

 

 

 

 

 

 3日前、ネテロのジジイから電話があった。何でも近々アイシャという少女がこの家を訪問するらしい。

 その少女を丁重にもてなせと来たもんだ。あの電話での口振りからするとその少女はキルを連れて出て行った3人組と親しいようじゃ。その3人に危害を加えていたらゾルディック家が多大な被害を被っていたやもしれんとのこと。

 

 あのジジイがワシらの力を過小評価するとは思えん。つまりその少女はワシらをも上回る程の実力者――の庇護下にあるということ。

 恐らくはジジイ本人。確かにあのジジイは強い。奴のオーラの流れから次の一手を読むことはワシにも出来んし、【百式観音】に至っては避けることも不可能。

 あれとまともにやり合うくらいならシルバが言うとった旅団とやらとやり合った方が千倍マシじゃろうな。

 

 アイシャとやらを傷つけたらネテロがワシらと敵対する。そう受け取った方が納得のいく話じゃが、ネテロの話を解釈するにそれはしっくりこない。どちらかというなら、その3人を傷つけられて激怒したアイシャがワシらを害する、と解釈した方が妥当な話し方じゃった。

 つまりその少女はワシらを害する程の実力を持っているということ……それが正しければネテロにも匹敵する可能性もあるということじゃ。

 少女というからには相応に若いだろうに、そのような実力を持っているとは思えんな、普通は。

 ……見た目だけで実はネテロより年上とかじゃねぇのかそれ?

 

 とりあえず家族・執事を含めたゾルディックの敷地内に居る者にはアイシャという少女が来た場合は丁重にもてなせと通達はしておいたが。

 あのジジイがあれほど念を押して言うほどの相手じゃ。警戒しておいて損はないだろう。相手がワシらを害するつもりで来るなら話は別じゃが、無駄に敵を増やすつもりもないわい。下手するとあのジジイを敵に回す可能性もある。

 それにネテロがそこまで言うほどの少女に興味がないと言ったら嘘になるしの。

 

 

 

 そろそろ件の少女が訪問する頃じゃろう。パドキア共和国に入国する船の名簿にアイシャという名が載っているかミルに調べさせたところ、本日入国の飛行船にその名を確認したようじゃ。

 ここでアイシャとやらが来るのを待ってもいいが……やはり気になるな。どれ、門の近くで潜み、どれほどのモノか観察させてもらうとするか。

 

 ほう、大したものじゃ。見たところオーラで強化してるわけでもないのに7の門まで開きおったぞ? 確かに見た目は少女。年齢は10代半ばから後半といったところか。もっとも、念能力者に見た目の年齢なんぞ有って無いような物だがな。

 穿たずに見ればキルより少し年上の少女。それがオーラで体を強化することなく試しの門を7まで開けるのは正直感嘆するわい。

 

 どうやらネテロのじじいが言ってたのはこの少女がワシらを害するに十分の実力を持っている、という可能性の方が高くなってきたの。力があるというだけでワシらよりも強いとまでは思わんが、身に纏う雰囲気が常人のそれじゃないわい。見に来て正解だったわ。

 ……いや、オーラを纏ってないところを見るに、もしかしたらネテロ秘蔵の弟子なのかもしれんの。これから念能力を修めるとしたら、確かに大成はしそうな才を持っておりそうじゃしの。

 

 ふむ、山に向かって進むか。ミケを見ても動じぬし、肝も据わっているようじゃの。

 目的も果たしたし、ワシは先に屋敷の方に戻るとするか。後は執事共があの少女を案内するじゃろう。

 

 そうしてワシは少女から視線を、意識を外した。

 

 ――瞬間、背後を取られた。

 

「動かないでください。少しでも動けば……」

 

 まさかあの一瞬の隙に背後を取られるとは、な。

 いや、そもそもワシに気付いておったことが驚きじゃ。家業が家業ゆえに気配を消すのは得意なんじゃがな。

 この程度の脅しに屈するつもりはないが、気になるのは少女がワシの背に掌を当てていること。その状態でこの脅し。刃物を当てるなり、どこぞの関節を取るなりするなら分かるが、ただ掌を当てているだけ。

 つまりこの態勢からワシの命を脅かす程の一撃を繰り出せるという事。念か、それとも体術か、はたまた両方かは分からぬが、そう考えた方が妥当じゃろう。

 

「……」

「聞きたいことがあります。素直に答えてくれたら命は奪いません」

 

 ふむ。思考に集中して動かなかったワシを先程の脅しに肯定したと判断したか。

 まあよい。そもそももてなすつもりの客人を監視していた負い目もあるし、聞きたい事とはあの3人組の事じゃろう。隠しておく必要もない。

 

 しかし、ワシの気配を察知し、そしてワシに気付かれぬうちに背後をとる。

 これで見た目通りの年齢ならば末恐ろしいとしか言えんな。

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした!!」

 

 私は現在誠心誠意心を籠めて平謝りしている。

 あの後、縮地を使い老人の背後を取って話を聞いたところ、ゴン達はすでにキルアを連れてさっさと出て行ったとの答えを聞いた。老人のオーラ、そして眼を見ても嘘を言っている様子はなく、ゼブロさん(守衛ではなく掃除夫らしい)に聞いてみたところ、口止めされていたから言えなかった、と謝られた。

 

 老人はともかく、ゼブロさんはオーラの動きで言っている事が嘘か本当かの変化が分かりやすい。恐らく本当のことしか言っていないはず。

 感情の動きはオーラに出やすいんだよね。熟練者なら話は別だけど。細かな感情は分からないけど、動揺した時の揺らぎならわかる。

 

 つまり私のしたことは、客人として招いてくれるはずの家に案内が来る前に乗り込み、その不法侵入者を監視していた家人を武力で脅した、となる。

 ……犯罪者じゃないか!

 

 うう、どうしてこんな事に。

 

「まあ、気にする事はないて。暗殺者のくせに背後を取られるワシが悪い」

 

 ……そういや暗殺一家だったな。確かに強いのだろうけど、意外と人間味があるというか、あんまりそんなイメージが湧かないな。今もこうして私の事を許してくれているし。暗殺者ってからにはもっと殺伐とした雰囲気があるものかと。

 

「不思議そうじゃの」

「え? ああ、その、暗殺者だったら侵入者紛いのことをした私を殺すんじゃないかな、と」

 

 ……かなり失礼な事を聞いている気がする。

 

「ワシらは仕事で殺しをやっておるんでな。無駄な殺生は御免じゃわい。それにおぬしは客人だしな」

 

 仕事で殺し……か。分からないな。どうしてそんなに忌避感もなく人を殺せるんだろう……?

 私には無理だ。戦いの果てに相手を死に至らしめるのなら武術家として許容出来るかもしれないけど……。私が初めからこの世界で生まれ育っていたら理解出来たんだろうか?

 

 ……いや、やめよう。こんなこと考えても意味のないことだ。

 私は殺人とは縁の少ない平和な環境で育ち、この人達は殺人が隣り合わせの環境で育った。彼らの気持ちが理解出来ないのは当然のことだ。

 

 それよりも、どうして私がここに来る事が分かってたんだろう? 客人として招かれる理由が分からない。

 

「……疑問なんですが、どうして私が客人なんですか? ゴン達やキルアから私のことを聞いたとしても、もてなされる理由が分からないのですが?」

 

 私が来るのが分かっていたのはおかしい。ゴン達は私がどこにいるか知らないはずだし。私がゴン達がここに向かったのを知ったのをゴン達が知るのもおかしいだろう。

 

「ん? 聞いとらんのか? ネテロのジジイがおぬしがここに来る事を伝えてきおったのだが」

 

 ……それで、か。あいつめ、ゴン達が無事なのを知っていたな? それでいて私には伝えず、ゾルディック家には私をもてなすよう伝えた、と。

 ふ、ふふふ。初めから私に話しておけばゾルディック家に来る必要もなかったものを! おのれネテロ、この借りは必ず返させてもらうからな。

 

「まあ良い。そろそろ執事共が到着する頃じゃが、ちょうど良い。ワシが屋敷まで案内してやろう」

 

 えっと、ゴン達が無事と分かったらこんな危険地帯からさっさと出て行きたいのだけど……先程の事もあるし、わざわざもてなしの用意もしてくれてる様だし、断るのも失礼か。

 

「分かりました。よろしくお願いしますね」

「……ふむ、暗殺一家に招かれて動じずついてくる。本当に肝が据わっとるの」

 

 いえ、軽い興奮から覚めたら結構内心ビクビクですよ?

 

 

 

 と、いうわけで現在私はゾルディックさんの家に招かれています。

 いやはやなんとも広大な土地をお持ちで。屋敷に着くまでどれほど移動したやら。途中で見かけた大きな家が屋敷かと思ったら執事用の住まいとのこと。

 笑っちゃうくらい金持ちだね。悪い事をすると金が集まるというのは本当なんだろうか?

 

 そうして移動すること30分、ようやく屋敷に到着した。歩いて、ではなく、そこそこの速度で走って30分。何だそれは? どんだけ広いんだこの庭は。下手すれば小さな国くらい入るんじゃないか?

 

 そしてなにより……でかい! これと比べると執事用の住まいが小屋と呼べるほどの大きさだよこれは。屋敷なんて呼んだら罰が当たりそうだ。お屋敷様だねお屋敷様。

 

「着いたぞ。遠慮せんと入るといい」

「……では、お邪魔します」

 

 老人についていくと何人もの執事風の……というより執事なんだろう人達を見かけた。通り過ぎる私達に対して皆一様に頭を下げていたが、どの人も私の一挙手一投足をさりげなく、そして細かに監視していた。

 さすがはゾルディック家の執事という事か、動きやしぐさ1つとってもどの人もかなりの使い手だ。

 私が老人に対して僅かでも敵意を見せたなら即座に自身の命を賭してでも私に立ち向かうだろうことは容易く予想できる。

 

「ここでしばし待っておれ。今飲み物を用意させる」

 

 そうして案内された客間だけど、意外と落ち着いた雰囲気の部屋だった。

 もっと、こう、なんていうか、煌びやかな調度品や美術品に囲まれた豪奢な部屋かと思ってた。まあこっちの方が私は好きだけど。あまり派手なのは好きじゃない。

 でも使われている家具は一級品なんだろう。椅子の座り心地が半端ない。

 ひとしきり座り心地を堪能していると女性の執事が飲み物を持って来てくれた。この匂いは紅茶かな?

 

「心配せんでも毒は入っとらんよ。おぬしのにはな」

「いや、あなたのには入ってるんですか?」

 

 言葉の意味を深読みするとそういうことになるんだけど?

 

「うむ、ワシらゾルディックは飲食物に毒を混ぜるのが習慣でな」

「……想像以上の家ですねここは」

 

 念能力者の最大の弱点、毒を克服してるとか。弱点あるのこの人達?

 私も毒に対する抵抗力を強くしておこうかな? 念能力による毒は【ボス属性】で防げても、通常の毒はそうはいかないしね。念能力者だから多少は抵抗力もあるだろうけど、それにも限度があるからなぁ。

 

「暗殺者が毒殺されるとか洒落にならんじゃろ」

「そういうものですか?」

「そういうもんじゃ。……そう言えば自己紹介がまだじゃったな。ワシの名前はゼノ=ゾルディック。キルアの祖父じゃ」

「ああ、そう言えばそうでしたね。失礼しました、私の名前はアイシャ。姓はありません。キルアとはハンター試験で知り合った仲です」

 

 お母さんの姓……正確にはお父さんの姓を使うわけにはいかない。お母さんの旧姓は知らないし、姓がなくとも不便はないしね。

 

「ふむ……アイシャよ。おぬしあのジジイとどういう関係じゃ?」

「……ネテロのことですか?」

 

 正直に話していい物か少し悩んだけど、言われたくない事ならネテロが釘を刺しておくだろうし、別に私は知られたところで問題はない。

 

「強敵と書いて友と呼ぶ。好敵手と言ってもいいですね。そんな関係ですネテロとは」

「……本気で言っておるようじゃな」

 

 その言葉に頷きを以て肯定の意を示す。ネテロも私の事をそう思ってくれているはずだ。

 

「オヌシ、本当に見た目通りの年齢か?」

「……何歳ぐらいに見えます?」

 

 見た目通りの年齢で見られたことは殆どないけど、恐らくゼノさんが言っている意味は見た目よりも遥かに年上なんじゃないか? ということだろう。

 まあそう思うのは当然だな。この歳であのネテロと渡り合えると言っているのだから。普通は信じられないはずだ。

 

「そうじゃのう。17、8といったところか。見た目はな」

「残念、見た目通りの年齢ではないんですよ」

「やはりそ――」

「――13です」

「……は?」

「ですから、私は今13歳、今年で14歳になります。少し早熟でして、実年齢よりも上に見られるんですよね」

 

 おお、唖然としている。あのゾルディックの人間がこんな顔をしているのを見られるのはかなりのレアではないだろうか。

 

「嘘では……ない、か。いや、末恐ろしいという言葉すら当てはまらんな」

 

 まあ前世の経験丸ごと持って来てますから。でもさすがにそこまで話すつもりはない。これを話すのはあの3人くらいだ。

 話をして喉が渇いたな。冷めない内に紅茶を頂こう。毒が入ってないのは本当だろう。

 

「頂きますね。……あ、美味しいですねこれ」

 

 私は紅茶よりもコーヒー派なんだけど、これは美味しい。こんな美味しい紅茶を飲んだのは初めてだ。コーヒーよりも先にこの紅茶を飲んだら紅茶派になっていたかもしれない。

 ……ん? 人の気配か、誰か来た様だな。

 

「それは何よりじゃ。……どうやら家の者が来たようじゃな」

「邪魔するぞ親父」

 

 そうして部屋に入って来たのは2m近い身長に鍛え抜かれ引き締まった筋肉を持つ1人の男性。キルアに似た髪の色に、猫科を思わせる様な風貌。キルアを小生意気な猫とするならこの人は獰猛な獅子といったところか。

 

「シルバか……紹介するぞアイシャ。現ゾルディック家当主シルバ=ゾルディックじゃ。キルアの父でもある。シルバ、こやつはアイシャ。話していた通り大事な客人じゃ。丁重にな」

「分かっている。……シルバ=ゾルディックだ。キルが世話になったようだな」

「初めまして、アイシャといいます。こちらこそキルア君にはお世話になりまして」

 

 いや、お世話されたわけではないけど、社交辞令というやつだな。

 ……暗殺一家と社交というのもすごい話だ。

 

「ふむ……なるほどな」

 

 上から下まで全身を一瞥された後になんか納得された。お眼鏡に適ったとみていいのかな?

 しかし、この人強いな。私が今まで見てきた中でも十指に入るだろう。もちろんゼノさんもその中に入っている。ゾルディックに来て一気に私の中の強さランキングが変動したよ。恐ろしい家だよホントに。

 

「キルから話は聞いている。……楽しそうにお前たちのことを話していた。あのようなキルを見るのは初めてだ。礼を言う」

「……いえ、私もキルアと一緒にいて楽しかったですから」

 

 そうか、キルアが私たちの事を楽しそうに……嬉しい事を言ってくれるじゃないか!

 うーん、早く再会してこう、なんか頭を撫でてやりたい気分だ。生意気な弟が出来たらあんな感じなのかもしれない。

 

「外も暗くなっている。今日は泊まっていくといい。夕飯時に他の家族を紹介しよう」

「え、いや、そこまでお世話になるわけには……」

「気にするでない。シルバが他人を夕飯に誘うなんざ初めてのことなんじゃ。遠慮すると勿体ないぞ?」

「一言余計だ親父」

 

 それはそうだろう。この人が和気藹々と人を食事に誘う様子なんか一厘たりとも想像出来ないよ私は。

 まあ、ここまで言われて断るのも失礼かなぁ。私って押しに弱い気がする。

 

「では、お言葉に甘えさせてもらいます」

「そうか。なら客室まで案内させよう」

 

 ゾルディック家で一泊か。どうしてこうなったのやら……。

 

 

 

 

 

 

「……どう見た?」

「自然体でいながら一切の隙が見当たらなかった。相当に場慣れもしているな」

 

 オレ達の家にいながらあそこまで自然体でいられる。相応の修羅場を潜っているだろう。

 

「親父こそどう見た」

「念を見ん限りには断定できぬが……敵対せんで正解じゃろうな。むろんやらなければならない時はヤルが、むやみに敵対したい相手ではないな」

 

 親父もそう見るか。あの歳でオレ達にそう思わせる使い手か。いないことはないが、中々見ないのも事実だな。幻影旅団の1人を殺した時に相対したあの男もその1人だ。

 

「茶目っ気を出して気配を消して様子見しとったら、油断した隙に背後を取られてしまったからのぉ」

「……老いたか親父?」

「わしゃ生涯現役じゃ!」

 

 それは分かっている。親父が老いたのではなく、アイシャの実力のなせる業だろう。見たところキルアよりも年上。それでも10代後半、念能力者というのを含めて多く見ても20代といったところか。

 そのような若さでこの領域。才能の言葉だけで片付けていいモノではないな。

 

「驚くなよ? あやつ、あれで13歳じゃとよ」

 

 ……信じがたいな。キルアとさして変わらん歳か。話を聞くにハンター協会会長の庇護下にある様子。秘蔵の弟子なのかもしれんな。

 

「念も含めて実力を見てみたいものだ」

「試しの門も7まで開けおったしのう」

 

 ……そういう事は早く言え。肉体も鍛えこんでいる。念に頼り切ってはいないということか。

 

「未だ纏をしている様子はなかったが、念は使えるようじゃな」

「ああ、オーラに一切の澱みがなかった。念も知らずにそのようなことが出来るなら天性の演技屋だろうよ」

 

 心の底まで偽らなければそのようなことは有りえない。念に目覚めてない人間でも感情によってオーラが僅かなりとも動くものだ。アイシャのオーラは垂れ流しとはいえ、常に一定に保たれていた。念の心得があると見ていいだろう。

 

「それにネテロのことを好敵手と言っておった。恐らく幾度となくやり合っているじゃろうな」

「……親父の話は半分に聞いておかないとな」

「ワシが言ったのではなくアイシャが言った事じゃわい」

 

 弟子ではないのか? オレは戦った事はないが、アイザック=ネテロは確かマハ爺とやり合って唯一生存している人間。親父の話を聞くに恐らく世界最強の念能力者の1人に数えられるだろう。

 それを好敵手扱い、か。

 

「……やり合って勝てるか親父?」

「……さて、な。勝てぬ、とは言えんよ。じゃが――」

「勝てる、とも言えんか」

 

 アレの暗殺依頼が来たとしたら――割に合わない仕事になるな。

 

「手段を選ばなんだら付け入る隙はあるが……」

「性格、か」

 

 まだ僅かしか接していないが恐らくアレは親しい人間を見捨てることは出来まい。キルやその友達の為にここに乗り込んで来たことがそれを示唆している。

 そういった情を突けば暗殺は不可能ではないだろう。

 だが――

 

「そしたら絶対ネテロのじじいが出張ってくるぞ? アレとは出来る限り敵対しとうはないな」

「……」

 

 やはりそうか。

 まあいい。アイシャの暗殺依頼が来た訳でもない。

 初めから殺す事を前提に話を進める必要もないだろう。

 

 ……だが、敵対した時の事を考えておくに越したことはないな。

 

「アレを嫁というのは……」

「無理だろうな。敵対した者を殺す事は出来るかもしれないが、仕事で人殺しは許容出来ないタイプだろう」

「……じゃな。ワシが家業の話をしたら僅かだが表情が曇ったしな。味方に引き込めるならそれに越した事はないのじゃが」

 

 アレをゾルディックに引き込むことはまず無理だろう。

 まあいい。相容れないならば無理に入れても仕方がない。わざわざ内に不和の芽を入れる必要はない。

 

「無駄に敵愾心を煽らなければ大丈夫だろう」

「ま、それが一番か。ちとつまらんがな」

「オレ達は暗殺者であって武術家ではない」

「お前に言われんでもわかっとる。誰がお前を育てたと思っているんじゃ」

 

 そう、オレ達は暗殺者だ。武を競い合う武術家ではない。強くあるのはいいことだが、それをひけらかす必要はなく、またむやみに敵を作る必要もない。

 

 ……だが、つまらないと言った親父の言葉に賛同している自分がいるのも確かだった。

 

「旦那様!」

 

 慌ただしく部屋に入ってくる執事――ヒシタか。

 騒々しいな、何事だ?

 

「何だ?」

「そ、それが、奥様が凄い剣幕でお客様の所へ……」

 

 ……それは少しまずいな。

 

 

 

 

 

 

「こちらでしばしお休みください。夕食の用意が整い次第お呼びいたします」

「ありがとうございます」

 

 そうして客室に案内されたんだけど……客間の時も思ったけど、ゾルディックにお客専用の部屋とかあったんだな。

 使用頻度が極端に少ない気がする。部屋に塵や埃はないから定期的に掃除されているみたいだけど、意外と使われているのか? ここにそんなに客人が来るとは思えないけど。

 

 さて、夕食まで待つのはいいけど、それまで何をしていよう?

 部屋の中には大きなベッド・立派なクローゼット・立派な花瓶に綺麗な花・高価そうな絵画・トイレにバスルームまで完備されていた。でもTVとか本はないから暇を潰す事は出来ない。クローゼットの中は……当たり前だけど空っぽか。

 さて、どうしたものか。

 

 ん? 誰か近づいてきている。夕食の用意が出来たのかな?

 ……いや、この気配からは怒気を感じる。穏やかではないな。

 今更相手が敵対してくるとは思いにくいが、場所が場所だけに私も自然と臨戦態勢に入る。

 

 そして勢いよく扉が開き、1人の女性が入室して来た。

 

「あなたね! 私のキルを誑かした女狐は!!」

 

 ……は? いやいや、何だこの人は?

 見た目はシックな黒いドレスに身を包み、顔は口周り以外に包帯を巻いてその上に何かゴテゴテしたゴーグルを着けている。そんなよく分からない女性が勢いよく部屋に入って来るなり凄まじい剣幕で怒鳴り散らして来た……。

 

「え?」

「ああ! あなたのせいで私の可愛いキルは家を飛び出してしまって……! どう責任取ってくれるの!?」

 

 いや、貴方の息子……でいいのか? キルア君は自分の意志でここを飛び出したのでは? 私が会ったのは家を飛び出した後ですよ?

 

 そう、反論したが――

 

「おだまりなさい! せっかくイルがキルを連れて戻って来てくれたのに、あんな凡夫共と一緒にまた外へ!」

 

 凡夫ってゴン達の事か? ひどい言われようだな。

 

「あなたがその身体でキルを誑かしたんでしょう!? そうに決まっているわこの雌犬!!」

「雌!? いや、誑かすだなんて」

 

 ひどい言われようは私の方だったようだ……生まれてこの方雌犬なんて呼ばれたのは初めてだよ。

 

「お養父様やシルバさんにあなたを客人として丁重に扱えと言われましたからあなたに危害を加える事はしません。が……」

 

 が? わざわざ一拍置いて次の言葉を強調するキルアママ。

 

「今後もしキルに色目を使う様な事があるならば、ゾルディックの全勢力を掛けてでもあなたを暗殺します! 分かりましたね!?」

「えっと、はい、言われなくても色目なんて使いませんよ……」

「まあ!? キルにそんなに魅力がないって言うの!? なんて失礼な小娘!」

 

 じゃあなんて言えばいいんだ? そもそもこっちは貴方の何倍も生きてるよ。

 

「とにかく、先程の私の言葉をよく覚えておく事です」

 

 そう言い残して入って来た時と変わらぬ勢いで部屋から出て行った……。

 

 ……つ、疲れた。なんだったんだあの人は? あれがキルアの母親か……。

 以前、キルアが私に母親を交換しない? と冗談で言った事があったけど……アレを見るに半分以上本気で言ってたかもしれない。確かに相手にするのは疲れるな……でも、息子を愛しているのは間違いがないようだ。愛し方に問題はあるかもしれないけど、その点だけはとても好感が持てた。

 かと言って積極的に関わり合いになりたくはないけどね。ああ、さっさとここから出ていきたい……。

 

 

 

 

 

 

 何だよ、大事な客人が来るから家族全員でそいつと一緒に食事をするって。別に家族で食べるのはいいけど、見も知らずの人間と一緒に食事するなんて面倒にも程がある。

 大体うちに客人が来ること自体滅多にないのに、その上一緒に食事を摂るなんて初めてじゃないか?

 

 何か3日くらい前に親父が客が来るとか言ってたけど、興味ないから聞き流してたよ。客なんて依頼だけで十分なのにさ。わざわざ家にまで来るなんてどんな馬鹿だよ?

 

 あ~、早くゲームの続きしたいなぁ。まだ作っていないフィギュアだってあるのにさ。さっさと食い終わって部屋に帰りたいよ。

 

 そうして食卓で不機嫌さを隠さずに待っていると、爺ちゃんと親父に連れられてママとカルトもやって来た。

 

「全く、キキョウには困ったものだ」

「ああ、あなたごめんなさい。でもキルを取られると思ったらつい……」

 

 何かあったのか? ママが親父に注意されるなんて。

 いや、よくある事か。

 

「おお、ミル待たせたな。もうすぐ食事の用意も出来るじゃろ」

「別にいいけど。客人ってどんな奴なのさ?」

「ん? ふむ。……それは見てのお楽しみにしておくとしよう」

 

 何だよそれ。ふん、面白くない。大体待たせるくらいならギリギリまで部屋に居ても良かったじゃないか。予定通りに物事が進まないのってイライラするんだよな。

 

「そろそろ時間だな。ゴトー、客人を案内しろ」

「畏まりました」

 

 やっとか。こんな面倒事さっさと終わらせて部屋に帰ってゲームをしよう。

 

 

 

 そうしてゴトーに連れられて客人とやらが入ってきた。

 全く、お前のせいでオレがどんだけ迷惑したか分かっ、てんの、か……。

 

「よく来たなアイシャ。先程はキキョウが迷惑を掛けた。改めて紹介しよう、オレの妻キキョウだ」

「フン……謝る気はありませんよ」

「……こっちが次男のミルキ。長男のイルミは今は不在だ。そしてこれが――」

 

 親父が何か言ってるけどオレの耳には全然届いていなかった……。

 そんな事よりオレは眼の前の人間に意識を奪われていた……。

 

 スラリとした身体に大きな胸。お尻も程よく張っており、腰もキュッと括れ、大きな胸を強調するかのようだ。

 見た目はオレとさして変わらないくらいか? 容姿も整っている。あんなオッパイをしているとは思えない程可愛い。

 眼はぱっちりとしており、眉の形すらもオレ好みだ。口と鼻のバランスもいい。

 胸も、眼も、バストも、眉も、乳も、口も、胸部も、鼻も、おっぱいも、腰も、母性の象徴も、尻も、そして胸も、全部ツボに嵌った……。

 いつの間にかオレは左腕を上下に動かしていた。よく分からないけどなんかしっくりくる。おっぱいおっぱい!

 

「えっと、アイシャといいます。よろしくお願いしますね」

 

 ん? 何時からここは天上の調べが聞こえる様になったんだ? ああ、あの娘の声か。それなら当然か。そうか、名前はアイシャって言うのか。……アイシャ=ゾルディック。……悪くないなおい。

 

 ああ、どうしてこんな可愛い子がこんな場所にいるんだ? そもそも3次元にこんな可愛い子がいていいのかいや良くない。

 そうだ。きっとこれはオレの妄想が生み出した幻覚だ。そうだそうに違いない。最近ギャルゲーや美少女フィギュアばかり作っていたからこんな幻覚を見るんだ。

 

 ふう。そう考えると惜しいな。この天使がオレの妄想の産物だったなんて……これを忘れないように記憶して後で等身大フィギュアを作ろう。

 そうだ。どうせだから触ってみよう。感触はないだろうけど、幻覚ならいつか消えてしまう。そうなる前に触ってイメージだけでも味わっておこう。

 そうしてまともな思考も覚束ないままアイシャに向かって歩いていく。

 

「えっと、どうかしましたか?」

 

 疑問そうな表情で顔を傾げてこちらを窺うアイシャ。やべぇ、オレの妄想はオレを萌え死させる気か?

 だがオレは負けない。幻覚に負けてなるものか。オレにはこの天使のフィギュアを作り上げる使命があるんだ!

 

 そしてオレは幻覚に向かって手を伸ばし、胸を触った――

 と思ったら避けられていた。

 もう一度伸ばす。だが避けられる。また伸ばす。避けられる。

 

 ……オレの妄想の癖にどうして避けるんだ!?

 

「ミル、何をしている?」

 

 底冷えするかの様な親父の声。え? やばい、これは本気で怒りかけてる……?

 え、ちょっと待て? これは幻覚じゃないのか? 冷静になった頭でもう一度目の前を見てみる。

 

「あの、何でしょうか?」

「うわぁぁっ! ほ、本物!?」

「はい? いや、偽物なつもりはないですけど」

 

 え!? オレの妄想の産物じゃなかったの!? じゃあなんでこんなオレ好みの美少女がこんな場所にいるんだよ! ゾルディックだぞここは!

 

「ミルキ、どういうつもりだ……?」

 

 やばいやばいやばいやばいやばい! 親父の客になんてことをしようとしたんだオレは! 親父に殺される! その前に謝らなくちゃ! 明らかに胸を触ろうとしてて、謝って許してもらえるとは思えないけど、何もしないと本当にやばい!

 

「ご、ごめん! そ、その、か、可愛かったから、つい!」

 

 どんな言い訳をしているんだオレは!? 可愛かったから胸を触ろうとしましたって変態か!

 

「……すまないなアイシャ。この非礼は詫びよう。ミルキには相応の罰を与えておく」

 

 ……終わった。殺されはしないだろうけど、かなりひどい目に遭う事は確定だ……。

 

「いえ、その、少しビックリしましたけど、気にしてないから大丈夫ですよ」

 

 女神がいる……何だこの生き物は? やっぱりオレの妄想が具現化したんじゃないのか? そうかこれはオレが作り出した念じゅ……駄目だ、これ以上暴走したら確実に親父に殺される。

 

「そうか、それは助かる……ミル、もう一度謝ってきちんと挨拶をしろ」

「あ、ああ! さ、さっきはごめん、気が動転してたんだ……オレの名前はミルキ、その、よろしく」

「よろしくお願いします。先程のはもういいですよ。気にしてませんから」

 

 笑顔で優しくそう言ってくれるアイシャ……ああ、なんていい子なんだ。

 駄目だ、完全にやられた。オレはアイシャに、惚れた。

 

 

 

 

 

 

 紆余曲折あったけど、ようやく晩餐が始まった。ミルキさんの行動には吃驚したけど、まあ男だったらそういう欲求もあるんだろう。私も元男だ、少しは分かるさ。

 ……今の私は女性に性的欲求が湧かないけどね、まことに残念ながら! かと言って男性に対しても性的欲求は湧かないんだが。

 まあそういうわけでミルキさんの気持ちも分からんでもないし、実際に触られたわけでもないので許してあげた。私もそういうやりたい盛りの気持ちというものを原動力に今を頑張って生きている所もあるからな。勿論母さんの教えもあるけど。

 “童貞を捨てる”“幸せになる”両方やらなくっちゃあならないってのがTS転生者の辛いところだな。覚悟はいいか? 私は出来てる。

 

 ……意味不明なことを考えてないで食事を楽しもう。

 

 食事の内容は中華風……と言ってもこの世界に中国なんてないけど、似たような食文化の国の食事なんだろう。

 箸もあり、食べやすく、味も抜群! いやぁ、食事は白米が一番だね!

 

「すいません、おかわりいいですか?」

「うむ、遠慮する事はない。よく食べるといい」

 

 ゼノさんが優しく許可してくれる。この人本当に暗殺者? 普通に優しいおじいちゃんに見えるよ。

 

「……よく食べるな」

 

 う! やっぱり6杯目のおかわりはそっと出すべきだったか……? シルバさんに突っ込まれてしまった。

 でも本当に美味しいんだよなぁ。外の食事なんて比べ物にならない。1流レストランよりも美味しいんじゃないか? 1流レストランで食事したことないけど。

 

「す、すいません。少し図々しかったですね……」

「いや、そうではない。暗殺者の家で出た物がよくそんなに食べられるな、と思っただけだ。毒が入っているとは考えなかったのか?」

 

 ああ、そういう意味か。おかわりのし過ぎを突っ込まれたわけではないのね。

 

「それは心配していませんね」

「……なに?」

「ゼノさんと一緒にお茶を飲んだ時に確信しました。あなた達は殺すと決めたらそのような回りくどい事をせず殺しに来るでしょう。もちろん毒殺を手段の1つとしない訳ではないでしょうが」

「ふむ。ワシが毒を入れてないと言ったのはこの食事で油断させるための嘘じゃったかもしれんぞ?」

「ゼノさんは……シルバさんもですが、そのような嘘を言う人には見えませんでしたから」

 

 私なりにオーラを見て判断した結果だけど。この人達の性格だとわざわざ嘘や騙しをしてまで暗殺をするとは思えなかった。……キキョウさんは別だけど。

 

「見た目だけで人を判断すると痛い目に遭うぞ?」

「その時は私が未熟だっただけです」

 

 常在戦場を常とする武術家が毒殺されたら、それは未熟だっただけの話だ。その時は自分の不甲斐無さを嘆きながら死ぬだけのこと。

 

「やべぇ、益々いい……」

「え? 今何か?」

「い、いや、オレもおかわりを、てな!」

 

 何だ。何かぼそぼそ言ったかと思えばミルキさんもおかわりか。

 

「本当に肝が据わっとる奴じゃ。……まだ食べるなら遠慮するでないぞ?」

「いいんですか? ではおかわりを!」

「……ミルキより食うとりゃせんか?」

「……エネルギーは動いて発散しているようだな」

「……食い意地が張って! ますますキルには似合わないわ! ……でもミルになら」

「……オレの大食いが目立たない……いい」

「……ボクもおかわり」

 

 お、カルトちゃんもおかわりか。どんどん食べてどんどん大きくなるといい。将来はきっと美人さんになるだろうな。男の子に言うセリフじゃないから言わないけどね。

 こうして意外と楽しい晩餐はあっという間に過ぎていった。ご飯美味しかったです。







おっぱいおっぱい( ゚∀゚)o彡°

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