どうしてこうなった?   作:とんぱ

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第十二話

 しばらく走っていると大きな建物のある場所についた。他の受験生たちもいる。間に合ったか。

 

「良かった。間に合ったみたいだね」

「どうやらそのようだな」

「さて。ここビスカ森林公園が2次試験会場となる。俺の試験はこれで終わりだが、しばらく様子は見させてもらうぜ。俺の試験を突破した奴らがどこまでいけるか興味があるしな」

 

 トンパさんはどうやら1次試験が終わった後も試験を見守るようだ。意外と面倒見のいい人なんだろうか?

 

「う、ぐ、いてて、あれ? 俺はなんでこんな……?」

 

 あ、レオリオさんが目を覚ました! 良かった、このまま2次試験が始まったらどうしようかと思っていたよ。

 

「大丈夫ですかレオリオさん?」

「あ? あれ、あんたは……なんで俺はねーちゃんに背負われてるんだ!? い、いてて、か、顔が痛い?」

 

 あ~。取り敢えずレオリオさんを降ろしてから事情を説明しよう。

 

 

 

「なるほど。この傷はそういうことか」

「すいませんでした……」

「あ~、気にすんなよ。あんたも俺を助けようとしてくれてたんだろ?」

「それはそうですが……」

「結果的に助けてもらってるんだ。ここまで連れて来てくれてるしな。最初の借りもあるし、こっちが礼を言わなきゃいけないくらいだ。ありがとうな」

 

 ……怪我をさせた私を気遣ってくれるなんて……レオリオさんは本当にいい人だな……。くぅ。こういう人にはぜひともハンターになってもらいたいものだ。

 

「わ、私の名前はアイシャです。あの、レオリオさん! 絶対ハンター試験合格しましょう!」

「お、おう。アイシャだな。お互い頑張ろうぜ」

「はい!」

 

 いやあ、いい人に出会えたものだ。もしかしたら転生後初めての友達になってくれるかもしれない。ゴンもいい子だし。キルアは小生意気だけど。クラピカさんも仲間思いのいい人だし。ハンター試験は出会いの場かもしれない。受けてよかったハンター試験。

 

 

 

 さて、さっきから猛獣のうなり声のような音があの建物から聞こえてくる。なんだこの音は? 2次試験は本日正午に始まるみたいだけど……もうすぐだな。

 あ、扉が開いた……山の様な大男と髪型のおかしい露出狂の美女がいた……。もしかしてこの音はあの男の人のお腹の音か? ありえん。

 

 

 

 2次試験は料理試験か。一応1人暮らしは長かったから、多少は料理ぐらい作れるけど。でも複雑な料理は無理。懐石とか高級レストランで出るような料理は全然分からない。

 私に出来るのは極一般的な家庭料理が精々だ。

 

「オレのメニューは豚の丸焼き!! オレの大好物」

 

 ……複雑、ではないのかな? いやでも、豚の丸焼きって、作るだけなら簡単だけど、美味しく作るのって難しいんじゃないか?

 

「この森林公園に生息する豚なら種類は自由。それじゃ、2次試験スタート!!」

 

 まあいいや。取り敢えず豚を捕まえてから考えよう。

 

 

 

 豚や~い。どこですか~? あ、豚いた………豚、だよね? どうみても3m以上の大きさなんだけど……。

 

 まいっか、豚に違いはあるまい。突進してきた豚に対して当たる直前に回避。通り過ぎようとしている豚の側面に一撃、豚昏倒。あっさり捕獲。所詮は豚よ。悔しかったら飛べる様になって出直して来い。

 

 あとは焼くだけなんだけど……。おいしい豚の焼き方なんて知らないし、もういいか。どうせ他の受験生たちも知らないだろう。普通に焼こうっと。

 

 

 

「あ~食った食った。もーおなかいっぱい!」

 

 ……豚の丸焼き70頭完食? 良かった。私は大食いと呼ばれる領域には至ってなかった様だ……。あれが真の大食い……! 美食ハンター恐るべし!

 いや、もしかしたら念能力だったりしてね。たくさんの食事を食べたいが為に胃の容量を増やす能力とか。はは、あながち間違いじゃないかもしれない。念能力は決して戦闘のみを目的として作るものじゃないからな。

 

 

 

「2次試験後半。あたしのメニューは……スシよ!!」

 

 スシか。ジャポン発祥の料理だ。元日本人の私には馴染み深い料理だが、この世界ではジャポンは辺境の島国扱いなのでスシも世界的に見て全然広まっていない。……美味しいのに。

 

「ふふん。大分困ってるわね。ま、知らないのもムリないわ。小さな島国の民族料理だからね」

 

 アンタ遠まわしにジャポン馬鹿にしてるのか? 私の第二の故郷にして我が敬愛する師・リュウゼンの眠る地だぞ。ケンカ売ってんなら買うぞ?

 

「スシはスシでもニギリズシしか認めないわよ!! それじゃスタートよ!! あたしが満腹になった時点で試験は終了!! その間に何コ作ってきてもいいわよ!!」

 

 これってスシの事を知ってる人にはすごい有利じゃないか? 何を求めている試験なんだろうか。どうしよう。作ったら合格になるのか? 作っても美味しくないと不合格なのか?

 

 ……いいや。作ろう。それで合格するもよし。不合格になるもよし。後は流れに任せよう。あ、そうだ。どうせならレオリオさんたちにもスシの事を教えよう。他人に教えちゃ駄目とは言われてないしね。

 

 

 

「(レオリオさん、クラピカさん、こっち来て下さい)」

「あ? アイシャじゃねーか。どうしたんだ?」

「(静かにしてくださいね。私、スシがどんなのか知ってるんです)」

「な!? マジかもががが……!」

「(静かにしろこの馬鹿リオが! 他の受験生に気付かれたらどうする!)」

「(わ、わりい……て誰が馬鹿リオだこらぁ!)」

「(二人とも器用ですね。小声で怒鳴るなんて。とにかく、寿司について教えるので外で待っててください。私はゴンとキルアにも声掛けてきますから)」

『(わかった)』

 

 ゴンたちを連れて早く外に行こう。ここにいるとヒソカの殺気に当てられそうだ。

 

 

 

「ここなら誰もいませんね」

「スシ知ってるって本当かよあんた」

「あんたではなくてアイシャです。生意気言ってると教えませんよ」

 

 キルアは本当に生意気だな。ゴンの爪の垢を飲ませてやりたいくらいだ。

 

「いいですか。寿司とは……」

 

――少女説明中――

 

「というものです。分かりましたか?」

「なるほど。文献で読んだことがあったが、確かにアイシャの説明の通りだったな」

「よおし! これで2次試験も合格だぜ!」

 

 そう上手くいかない可能性の方が高そうだけどね。

 

「スシを美味しく作るのは素人ではまず無理だと思います。私も食べた事は何度もありますが、実際に作るのは初めてですし。知ってるからといって合格出来るとは限りませんよ?」

「それでもスシのことを知ってるのと知らないのとじゃ大違いだよ。ありがとうアイシャ、オレたちにも教えてくれて!」 

 

 おお、眩しい笑顔だ。良いってことよ。その笑顔で報われる思いだ。

 

「ま、礼は言っとくよ」

 

 このがきんちょはまっことどげんかせんといかんね。

 

 

 

 さて、材料も手に入れたし、早速作ってみようかな。ん? なんか騒がしいな。

 

「メシを一口サイズの長方形に握ってその上にワサビと魚の切り身をのせるだけのお手軽料理だろーが!! こんなもん誰が作ったって味に大差ねーーーべ!?」

 

 ……説明口調でわざわざ他の受験生に聞こえるように言ってくれて本当にありがとう忍者よ。おかげでこそこそしていた私の努力がパ~になりましたよ……。あ、みんな外に魚採りに行ったし。

 

「ざけんなてめー鮨をマトモに握れるようになるには10年の修行が必要だって言われてんだ!! キサマら素人がいくらカタチだけマネたって天と地ほど味は違うんだよボゲ!!」

 

 それが分かってるなら味で判断しないでよ……。どれだけの受験生がそのレベルに達していると思っているんだ。いるわけないだろ?

 

「さあ、次の挑戦者いらっしゃい!!」

「次はオレだぜ!」

「あ~、あんたも見た目はそれっぽく作ってるし。もー、ハゲのせいで作り方がバレちゃったじゃないの!! こうなったら味で審査するしかないわね」

 

 初めからそのつもりじゃなかった事にびっくりです。レオリオさん、がんばれ!

 

「ダメね。お酢がキツすぎ! 食えたもんじゃないわ!」

「ちょっ!」

 

 やっぱり無理か……。1流の味を知っている人を初心者が満足させられるわけがないよね……。

 

「これもダメ! 握りが遅い! ネタが温まっては美味しい鮨は出来ないわ。やり直し!」

「何だよそれ! んなこと知るかよ!?」

 

 私も今知ったよキルア。だからこっち睨むな。私は悪くない。

 

「シャリの形が悪い! 地紙形かせめて船底形に握りなさい!!」

 

 私も撃沈。地紙形ってなんですか? おいしいの?

 

「切り方が……形が……ネタが……」

 

 

 

「ワリ!! おなかいっぱいになっちった」

 

 第二次試験後半メンチさんのメニュー合格者なし!!

 

 

 

 いやこれ無理でしょ。素人に要求するレベルじゃないよ。

 うわっ! ヒソカの殺気が一段と膨れ上がった。今すぐにでもメンチさんを攻撃しそうな感じだ……。メンチさんも殺気に気付いているのかピリピリしてるな。まさに一触即発だ。

 

 あ、賞金首ハンター志望って人がメンチさんに殴りかかった。今のメンチさんを刺激するなんて自殺志願者か? 止めようかと思ったけどブハラさんが割って入ってくれたのでやめておいた。結構な怪我をしたみたいだけど、あれくらいで済んだなら御の字だろう。

 

「賞金首ハンター? 笑わせるわ!! たかが美食ハンターごときの一撃でのされちゃって」

 

 まあ、念能力者と非念能力者の差以前に身体能力で劣っていましたからね、あの賞金首ハンター志望の人。ブラックリストハンターになりたいなら、今回のをいい教訓だったと思って本腰入れて修行すればいいと思う。

 

「武芸なんてハンターやってたら嫌でも身につくのよ。あたしが知りたいのは未知のものに挑戦する気概なのよ!!」

 

 途中から味の審査に変わっていました。まあ忍者の人のせいかもしれないけどさ。

 

『それにしても、合格者0はちと厳しすぎやせんか?』

 

 こ、この声はまさか!!

 上空にはハンター協会のマークの入った飛行船。その飛行船から一人の老人が飛び降りてきた! 周りの人はあんな高さから飛び降りてどうして無事なのか驚愕してるけど、私は別の意味で驚いている。

 

 おお! ネテロ、ネテロじゃないか! かつての我が生涯の好敵手(とも)よ!!

 元気そうでなによりだ。オーラの流れを見るに、最後に見たときよりもさらにオーラの流れが静かに、かつ流麗になっているな……。私の伝えた最後の言葉“研鑚を怠るな”をしっかりと受け止めてくれているみたいだ……嬉しいな。

 今すぐこの喜びを言葉にしてネテロに伝えたい。伝えたいが、“私がリュウショウです”なんて言って信じるはずもないし……。

 

 

 

 私が葛藤している間に2次試験が別の試験に変わったみたいだ。

 飛行船に乗って山に行く。なんでもゆで卵を作るのが課題らしい。いきなり難度が下がったな。これもネテロのおかげか。さすがネテロ!

 

 山に到着。目の前には深い谷がある。マフタツ山……その名の通り二つに分かれている山だった。この山に生息するクモワシの卵をとってゆで卵を作れば試験合格。

 

「あーよかった」

「こーゆーのを待ってたんだよね」

「走るのやら民族料理よりよっぽど早くてわかりやすいぜ」

「そうですね。これなら合格できそうです」

 

 最初からこっちにしてれば良かったのに……あ、でもそれだとネテロには会えなかったのか。メンチさんよくやった!

 

 これで第二次試験も合格! クモワシの卵はとってもおいしかったです。

 

 

 

 第2次試験後半メンチのメニュー合格者43名

 

 

 

 

 

 2次試験が終わるとまたも飛行船に乗り込んだ。次の目的地はこの飛行船で行くらしい。

 明日の朝8時頃に到着する予定とビーンズが教えてくれた。それまでは自由時間らしい。なにしよっかな? ゴンとキルアは飛行船の中を探検するみたいだ。

 特に疲れてないから私も飛行船の中を見物しようかな。飛行船に乗るのは3回目だけど、2回目はさっきマフタツ山に行くのに乗っただけだし、1回目なんて赤ん坊の時に乗せられて流星街に落とされただけだしね。

 まともに乗るのはこれが初めてだ。色々見て廻ろう。……ヒソカからも離れられるしね。

 

「それじゃ私も暇なので飛行船探検に行こうと思います」

「お前もか……ゴンといいキルアといい、元気な奴らだ……」

「そうだな……私はゆっくり休みたいものだ。おそろしく長い1日だった……」

「俺もとにかくぐっすり寝てーぜ……て言うかお前も探検って歳じゃねーだろーに……」

「……私、13歳ですよ」

『え?』

「……どうせそんな反応が返ってくるだろうと思ってましたよ……」

 

 成長が早かったものだから、流星街を出て以来一度も年齢どおりに見られたことがない……。

 ……まあ、成長が遅いよりはマシなのかな?

 

 

 

 おお~夜景が綺麗だ。絶景かな絶景かな。こんな景色は中々観れるもんじゃないな~。飛行船には嫌な思い出しかなかったけど、これはいい思い出になった。いつか個人で飛行船を手に入れて世界中を廻るのはどうだろうか?

 ……すごくいいかもしれない。飛行船っていくらだろう? 今の貯金で足りるかな?

 

 ん? あれは……ゴンとキルアと、ネテロ? 3人でどこに行くんだろう? なにか面白そうなことが起こりそうな予感。付いていこう!

 

「ゴン、キルア、ネテロ……会長」

 

 あやうくネテロを呼び捨てにするところだった。今の私はネテロとは何の面識もないのだ……。悲しいけどね。

 

「あれ、アイシャ。どうしたの?」

「あんたか。何の用? 今忙しいんだけど」

「ふむ……(チチでけーな)」

 

 なんかネテロの視線が胸に集中している気がする……。

 

「いえ。3人で歩いていたのでなにかおもし……どうしたのかな、と思いまして」

「ほっほっほ。なに、今からゲームをしようと思ってな。なんならお嬢ちゃんも参加するかね? ワシに勝てたらハンターの資格をやるぞ」

 

 なんと! ネテロに勝ったらハンターライセンスが貰えるとな!?

 戦闘なら難しいだろうが、ゲームならルール次第では勝ちの目は多いだろう……これに勝てばもうハンター試験を受けなくていい。つまり変態から早く離れる事が出来る!

 

「やります!」

「うむ了解じゃ。では3人ともこっちじゃ」

 

 

 

 ちょっとした広さのホールに着いた。ネテロはどこからかボールを持ってきていた。あのボールを使ってゲームをするのだろうか?

 

「この船が次の目的地につくまでの間にこの球をワシから奪えば勝ちじゃ。そっちはどんな攻撃も自由! ワシの方は手を出さん」

 

 ボールを取るだけ? 良かった簡単だ。前世の技もこの体にだいぶ馴染んだけど、さすがにネテロ相手に勝てるかと言われたら少し厳しかったかもしれない。けど、ボールを取るだけなら大丈夫だ。

 そうだ。どうせだったら最初の内は技術を使わず身体能力だけで挑んでみよう。ネテロも本気は出さないみたいだし、今の私の身体能力でどこまで通用するか確認できるいいチャンスだ。

 

「ただ取るだけでいいんだね? じゃ、オレから行くよ」

「御自由に」

 

 うわ。キルア怒ってるな。当然か、こっちを舐めてるみたいな条件だもんね。

 ん? キルアのあの歩法! あれは、風間流奥義・柳葉揺らし!? ……いや違う。柳葉揺らしとはまた少し違う歩法だ。しかしどちらにしてもあれほどの動きをあの歳で身に付けてるなんて!?

 すさまじい才能と努力によるものだとしても、この歳でこれ程とは末恐ろしい……私が前世で柳葉揺らしを覚えることが出来たのは60過ぎくらいだったぞ。とんでもないな……。

 

 それでもネテロには通じていないか。あの歩法から攻撃に転じる瞬間の意が消しきれていないし。才能はあるけどさすがに経験が足りないな。これで勝ててたらあんなに苦労はしなかったよ。

 でもキルアならいつかはネテロよりも高みにいけるかもしれない。あれほどの才能を磨き続ければいつかは……。

 

 キルアがいったんゴンと交代した。さて、ゴンはどのようにしてボールを取ろうとするかな?

 

「行くぞ!!」

 

 真正面から突っ込んだ……それはいくらなんでも……あ、ジャンプした……そして天井に頭ぶつけた……。

 

「ってえ~~~っ!!」

「ジャンプ力がすげーのはわかったからちゃんと加減してとべよゴン!!」

「そうですよ。せっかく会長が油断してたのに」

 

 今ネテロのやつ完全に油断していた。もしかしたらボール取れてたかもしれないのに……。てゆーかネテロめ。完全にこっちを舐めてるな。いくらなんでもあの程度のフェイントに一瞬とはいえ引っかかるなんて。しかも右手と左足を使っていないし。

 

「次は私の番ですね。会長さん、よろしくお願いしますね」

「ほっほっほ。いつでもいいぞい」

 

 よし。私の身体能力はどこまでネテロに通じるかな?

 

「ふっ!」

 

 全力でダッシュ! とにかくボール目掛けて動く! 避けられてもただひたすらにボールを追う! フェイントも何も入れずにただ真正面から行く!

 しかし……。

 

「ふむ。お嬢ちゃんもなかなか。しかしそんな単調な動きではのう」

 

 やはりネテロには通じないか。まだまだ純粋な身体能力ではネテロには劣るな。くそっ、オーラを使ってやろうかな?

 

 

 

 最終的に3人がかりで挑むがボールは奪えない。こうなったら技術を使うしか……。

 お、ゴンの一撃がネテロのアゴにヒット! まさか靴で蹴りの間合いを伸ばすとは! ナイスです! さらにキルアの追撃が炸裂。今がチャンス!

 

「チャンス!!」

「なんの」

 

 キルアがボールを取ろうとするもボールを蹴る事でそれを防ぐネテロ。だけどこっちの攻撃は終わっていない!

 

「喰らえ!」

「ふおっ」

 

 体勢を崩したネテロにさらに蹴りを叩き込む。これでネテロはボールから離れた!

 

「今です!」

「もらったァーーー!!」

 

 よし! 取った!

 

「ふん」

 

 おい! ネテロの足にオーラが!

 一瞬の内に加速してゴンとキルアを追い抜きボールを奪うネテロ……オーラ使うなよ大人気ない。

 

「努力賞、といったとこじゃな」

 

 昔から負けず嫌いだったなコイツは。一般人相手にゲームで念を使うかこら。

 

 キルアがギブアップした。どうやらネテロが右手と左足をほとんど使ってないことに気付いたみたいだ。

 

「行こうぜゴン」

「あ、オレもうちょっとやってく」

「私もまだやります」

 

 ……私には行こうぜと言ってくれないのか……寂しくなんかないぞ!

 

 キルアが去った後はまたもボール取りゲームが再開した。もっとも、ゴンはボールではなくネテロに右手を使わせるのが目的になったみたいだけど。……そのワリには不意をついてボールを狙っていたけどね。

 

「お嬢ちゃんはボールを取りに来ないのかね?」

「私は少し休憩中です。それにゴンの目的も変わっていますし、休憩がてらゴンが目標達成出来るか見学させてもらいます。ゴン、頑張ってくださいね」

「うん!」

 

 元気でよろしい。お姉さんは少し休みます。ちょっと疲れた。……うわ、汗でびしょびしょだよ。気持ち悪いなぁ。シャワー浴びてこようかな?

 

「すいません会長さん」

「ん? どうしたんじゃ?」

「いえ、少し汗をかいたのでシャワーを浴びて着替えてきたいのですが、かまいませんか?」

「ひょっ!?」

「スキあり!」

 

 あ、一瞬ネテロに隙が出来た。その隙を逃がさずゴンがボールを奪おうとしたけど、残念。1歩届かずか。でもなんでネテロに隙が出来たのかな? 急に話しかけた所為か?

 

「危ない危ない。全く、今のは狙ったのかの?」

「はい?」

「(天然かのう? いい谷間じゃったわい)別に構わんが、早めに帰ってくるんじゃぞ」

「ありがとうございます!」

 

 いやあ良かった。どうせまた汗かくかもしれないけど、このままでいるのも嫌だしね。着替えも持ってきて正解だったな。さすがに試験中は我慢するけど、機会がある時は別だよね。

 

 

 

 ふうさっぱりした。さて、ゴンは頑張ってるかな?

 

「お待たせしました。ゴン、調子はどうですか?」

「……」

 

 ……返事がない。すごい集中力だ。私が声を掛けたのに気付いていない。ただネテロだけを追っている。この子もすごい才能の持ち主だ。今はキルアの方が抜き出ているけど、才能という点ではキルアにも劣っていない。成長すればきっとかつての私などよりもずっと高い領域に至れるだろう。二人ともそれほどの才能の持ち主だ。

 ……少し羨ましいな。

 

 

 

 私が帰ってきて3時間後。とうとうゴンがネテロに右手を使わせることが出来た。最初の目的とは変わってるけど、目標達成出来て満足したゴンはそのまま寝付いてしまった。おめでとうゴン。ゆっくり休んでね。

 

「さて、お嬢ちゃんもまだ挑戦するかの?」

「もちろんです。ここからが本番ですよ」

「ほほぅ。そりゃ楽しみじゃわい」

 

 さて、勝ちにいかせてもらいますか。

 無造作に歩いてネテロの前まで行く。思ったとおりネテロはこちらが行動に移るまでは何もしない。

 ふ、油断大敵だぞ。ゆくぞネテロ! 風間流歩法の奥義:柳葉揺らし!

 

「!?」

 

 いきなりの柳葉揺らしに驚き隙を作るネテロ。すかさず死角、背後に回り込む! すぐに反応するネテロ。だが、時すでに遅い! 研鑚は怠らなかった様だが慢心が過ぎたなネテロよ!

 振り向こうとするネテロの腕を掴み柔! 宙に半回転するネテロ! そのままがら空きのわき腹に浸透掌を叩き込む! 安心しろネテロ、三日寝込むくらいに抑えてやるわ!(目的を忘れている)

 喰らえ!!

 

 ……この時の私はどうかしていた。きっと久しぶりのネテロとの戦いに昔の血が騒いだのだろう。思わず多量の闘気をネテロに叩きつけてしまった。そのおかげで……。

 

 

 

 

 

 

「さて、お嬢ちゃんもまだ挑戦するかの?」

「もちろんです。ここからが本番ですよ」

「ほほぅ。そりゃ楽しみじゃわい」

 

 ふむ。この娘もまだ諦めぬか。今までの動きをみてもスジはいいが、まだまだ経験不足といったところじゃの。

 これからの修行次第では大化けするかものう。今期の新人はまっこと豊作じゃな。

 

 ふむ。ただ無造作にワシの前まで歩いてきた。なにか策でもあるのか? 今までは特にフェイントなども使っておらんかったな。いったいどういうつもりじゃ?

 

「!?」

 

 こ、これは! 肢曲!? いや違う! これは風間流の柳葉揺らし!!

 かつての我が友リュウショウが好んで使っておった歩法の奥義! それをこの娘が使うじゃと!? リュウショウでさえ使えるようになったのは齢六十を超えてからと言っておった奥義を!

 い、いかん! 背後を取られた! ボールが……ぬおっ! 柔を使いおった! いや柳葉揺らしが使えるのじゃ、風間流の技が使えて当然か。しかし、これではボールが取られてしまうのう。どうしよう。まさか本当に取られるとは思わんかったわい……てちょっと待て!

 なんでワシに攻撃しようとしてんの!? ボールは!? しかもこの攻撃、これもリュウショウの得意技の1つ浸透掌ではないか!?

 外部破壊ではなく内部破壊を目的とした技! 以前これを喰らった時は3日はメシが食えなかったわい! タマ(ボール)はタマ(ボール)でもワシのタマ(命)を獲る気か!?

 むぅ! オーラは発していないが分かる! この娘から溢れ出る闘気が!! これはまさにリュウショウの……!

 

 

 

【百式観音】!!!

 

 

 

 やっちまったわい! 思わず百式観音を使ってしまった!!

 い、いやあの闘気を受けてリュウショウとの戦いを思い出してしまって……つい……。飛行船の壁に叩きつけられたお嬢ちゃん……ピクリとも動かん……ヤッチャッタ?

 

 prrrrr……prrrrr……。

 

 ! で、電話か……。

 

「う、うむ。ワシじゃが……い、いや、今の衝撃は、うむ、ちとこちらで不手際があってな。……うむ、大丈夫じゃ。飛行に問題はないのじゃな? ……そうか。少し頼みたいのじゃが、かなりゆーっくり飛んでくれんか。……うむ、目的地に到着するのが遅れても構わん。では頼んだぞ」

 

 ふう、とりあえずはこれでよし。

 

 ……さて、どうしよう?

 

「殺す気かぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぐほぁぁぁっ!?」

 

 ぐおおおお!? いきなり背中に衝撃が! なんじゃ!?

 

「い、いたいけな受験生になんて事をするんですか!? 一瞬死ぬかと思いましたよ!!」

「い、生きておったのか!?」

 

 おお、生きておったとは! そういえば体から流れ出るオーラは消えてなかったのう。ワシとしたことが動揺して見過ごしておったわい。

 いや良かった良かった……待て、なんで生きとるんじゃこの娘?

 あの一撃を受けて、いくら鍛えているとはいえ常人が無事でおるとは思えん。並みの念能力者でさえ耐えられぬ一撃のはず。

 

「オヌシ、どうやって今のを防いだのじゃ?」

「どうやってって、それはもちろんね……企業秘密です」

 

 どこの企業じゃ!

 間違いない。この娘、念能力者じゃ。この娘の体から流れでるオーラは一切の澱みもない。それは非念能力者ではあり得ない現象じゃ。

 いかに念が使えなくとも無意識の内に多少はオーラの流れも変わるもんじゃ。それがこの娘にはない。つまりはオーラを制御しているというほかあり得んわけじゃ!

 とするとこの娘は何かしらの念により今の一撃を防いだことになるのか……。

 

「お嬢ちゃん、オヌシ使えるじゃろ?」

「はて、何のことですか?」

 

 しらばっくれようという気か。

 

「いやさすがにその言い逃れは……」

「いたたたた! うう、全身がぼろぼろです……このままでは次の試験もままならないので休ませてもらいます! それでは!」

 

 ぬお! 逃げおった!

 追いかけようにもあやつを傷つけたのはワシ。あんな言い方をされては追いかけて問い詰めるわけにもいかぬ……。

 

 しかし、あれほどの風間流の体術……百式観音を防ぐほどの念能力……。

 まるでリュウショウの生まれ変わりの様な娘よな。それにあの技、浸透掌は風間流でも危険な技の一つゆえリュウショウも一番弟子たるリィーナにしか伝授していないはず……。

 リィーナが教えたのか? あとでリィーナに確認してみるとしよう。

 

 ……はて、生まれ変わり? どこかで聞いたことがあるような?

 

 ……あ、そういやワシ手を出してしもうたからゲームは反則負けになるんじゃ……。

 

 出したのは手じゃなくて念じゃし、気付いとらんようじゃったし、だまっとこ。

 

 

 

 

 思わずネテロから逃走してしまった。能力者ってばれちゃったかな?

 しかし、一瞬意識が飛んでいたよ……とっさの防御が間に合わなかったら死んでいたかもしれない……。ネテロのやつめ! 普通百式観音を使うか!?

 ……いや、まあ私も思わず浸透掌を使おうとしてしまったけどさ……。そこは、その、若気の至りというやつだな、うん。 

 

 う~ん。痛いけど、特に骨とかに異常はないか……堅による防御と身体の脱力による衝撃吸収防御が間に合わなければこんなものじゃすまなかったな。

 おのれネテロめ! いつかこの痛みを倍にして返してやるからな!




このネテロは原作よりも多少強くなってます。

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